第43話地下八階層
地下八階層、横浜ダンジョン最前線で俺は呆然と立ち尽くしていた。
もう二か月ダンジョンアタックをしていなかった。最初は夏目も一緒に渋谷や代官山に出かけてくれて楽しかった。だが一週間、二週間と経つうちに家で永遠ゴロゴロする日々に、夏目が空き出していることが分かった、なにせ俺も飽き飽きしていたからだ。
俺に付き合う必要はないよ。ダンジョンに行ってきな。
最初夏目は俺を気遣い行こうとしなかったが、銀太郎さんや金デビを使い少し無理に背中を押しダンジョンアタックに行かせた。
夏目は渋々だったがダンジョンアタックに行き、イキイキした生活を取り戻した。
俺は、夏目すら失いこの糞袋のような生活の中、確実に精神を腐らせて行っていたのだろう。
その腐った体の中にたまったメタンガスが今日噴出した。
そう言うことだろう。
頭を抱え跪く。
「あー!! やっちゃったー!!」
おろおろ骸骨たちが俺の背中や頭を撫で落ち着かせようとしてくれるが、それどころではない。
目立ちたくない目立ちたくないと言い続け、その結果がこれだ。
地下五階層からこっち、どれほどの探索者が俺と骸骨たちの乱痴気騒ぎを目撃したのだろう?
ツンが手を手刀にしてクイクイと動かし、いつでもいけまっせッとアピールする。
全員消すか?
まずはそこでこっちをのぞき見している金ピカな金版鎧のおじさんから。
「おいおいおいおい! 殺気を向けるなションベンちびっちまうだろうが!」
最前線のアタックをしていたのだろう金デビ最高権力者瓜実金太氏が両手に持っていたバカデカい突撃槍二本を捨て手を上げる。
「どうしちまったんだ? お前さん目立ちたくなかったんじゃないのかよ?」
両手を上げ掌をこちらに向けながら歩いてくる瓜実氏。
「代わり映えのしない毎日にうんざりして、頭が真っ白になり気がついたら……」
「万引きで捕まった主婦みたいな言い訳すんなよ、とりあえず、こっち来い」
俺は心配そうに肩を抱いてくれる瓜実氏に連れられ、金デビが築いた最前線基地に連れられてこられた。
「とりあえず座れ、これでも飲め」
土嚢でできた防壁の中、大きなテントでパイプ椅子に座らせられ、あったかいお茶を手渡される。
「いつから潜ってるんだ?」
「多分、今日の午前中くらいです」
「おい! まだ昼飯時でもねえぞ!? どんな速度でここまで駆け下りてきたんだよ!!」
「最速で行けるとこまで行こうかと……」
「最速とかって話じゃねーぞ! まったくよ~、それで、これからどうすんだ?」
「どうしましょう?」
瓜実氏が難しい顔になる。
「とりあえずここまでは松山の御前とその子飼いは来てないが、帰り道は確実に姿みられて、めんどくさいことになるぞ?」
「このまま、ここに潜むしかないでしょうか?」
「いや俺たちはいいんだが、お前さんここの生活だってさほど面白くねーぞ? 飽きて暴れ出されたら俺たちが死んじまう、我慢できるか?」
「我慢はできます、頭が真っ白になるまでは……」
「それ我慢できてねーから!!」
「もう、松山勢、全員消しながら上がろうかな?」
「やめろや! 松山と横浜が全面戦争になるだろうが!!」
溜息をつく瓜実氏。
「ちょっと誰か!」
瓜実氏に呼ばれたオレンジ色のド派手なプロテクターをつけた真緑の髪色をしたド派手なニンジンみたいな男の人が、うすって返事しながらテントに入ってくる。
「おうフクか、すまねえが上まで行って銀太郎と一緒にいる夏目って嬢ちゃんをここまで連れてきてくんねえか?」
「銀太郎のところは希来里さんがいるんすよね? 俺あの人こわくて」
「ビビってんじゃねーぞゴラ! あんまグダグダ言ってっと希来里と添い遂げさせるぞコノ野郎!!」
「うすっ! 今すぐ行ってきます!」
フクさんが残像を残して高速でテントを出ていく。
「お前さんはあの嬢ちゃんがいないとかたなしだ。とりあえずここで嬢ちゃんを待ちな、嬢ちゃんが来てからその先は考えようや」
「すいません」
「それより、嬢ちゃんが来るまで、ちっと手伝ってくんねえか?」
瓜実氏は金歯を見せてにやりと笑った。
◇◇◇◇
斥候はジロとシロジロ、先頭にツンとハナとアオジロに乗ったアロハが並ぶ。
俺はサキュとドラに挟まれ、最後部にコンパウンドボウをもったウメ。
「それじゃ地下九階層に下りる階段までの道を確保する。敵は殲滅、殺せるだけ殺そう」
俺がそう言うと、ジロとシロジロが走り出す。
それに続き二メートルはある大鉈を肩に担いだツンを中心に、巨大な突撃槍を持ちアオジロに跨ったアロハと、四本の腕に二本の刃渡り二メートルの大太刀と牛鬼の金棒二本を持つハナが一列に並び進行していく。
俺が歩き出すとドラとサキュが俺を左右から挟んでふわりと浮き、ついてくる。
ウメはいつもと同じく俺の背後を守ってくれている。
いつもと違うのは俺の後ろに瓜実金太氏を先頭に十五人ほどの金デビの最前線部隊がついてきていることだ。
ジロとシロジロが斥候ついでにドラゴンを見つけ次第殺していく。
ドラゴンは八メートルほどの体高をもった四つ足の首が長いトカゲだ。
一軒家くらいの大きさがあるのだが、ジロもシロジロも首に噛みつきドラゴンが命を落とすまで放さない。
二頭の骨犬の間を抜けても、ツンとアロハとハナにミンチにされそこで終わりだ。
歩みを止めず、ドラゴンをミンチにしながら進む。
時たま金色のレーザーを口から吐き遠隔攻撃をする個体もいるが、メイドさんたちが掌を前に突き出し空間を歪め反らしてしまうので全く問題はない。
俺が歩くペースで進む骸骨の行進。
ダンジョンウォーカー復活の時である。
あれほど嫌だったダンジョンウォーキングも、今では俺にすごい自己承認と満足感を与えてくれる。
別に歩いているだけだが、もうそれでもいい。
あの暇に殺されそうだった日々に比べれば。
俺たちがウォーキングした後の道に金デビの探索者たちがドンドン片手で持てるくらいの黒い箱をまいていく。
瓜実氏いわく、あの四角い箱は魔道具で、一つ一つには大した威力はないが、大量にまくことによりダンジョンの敵が近寄らなくなるらしい。
ダンジョンのメインストリートはこの魔道具の力によってできているらしい。
さすが横浜ダンジョントップランカー金デビ総裁瓜実氏である。勉強になる。
一時間ほどダンジョンウォーキングすると、瓜実氏が、
「魔道具が切れた! いったん帰ろうや!」
と、後ろから声をかけてきたので俺は骸骨たちを止め帰ることにする。
金デビの前線基地に戻ると、温められた自衛隊戦闘糧食Ⅰ型赤飯の缶詰と魚の煮物の缶詰が出される。
ハナが放してくれないのでテントに入らず外でハナの下半身、蛇の骸骨部分に腰掛けハナに撫でられたり抱きしめられたりしながら食事をいただく。
俺の周りを骸骨たちが囲み、かいがいしくお茶を用意したり、体を撫でたり抱きしめたりしている。
サキュ、口ぐらい自分で拭けます。
ドラ、肩もみはいりません、歩いてしかいないから……。
ツン、金デビの人が興味津々でこっちを見てますが、手刀をクイクイしなくて大丈夫です。
ウメ、ん? どうしたの?
ウメがなぜか一人骸骨たちの輪から少し離れたところでジッとダンジョンの先を見つめていた。
サッとコンパウントボウを構えるウメ。
ビン。
浄する弓の音が響き、ダンジョンの虚空に向け光の矢を放った。
頭にファンファーレが響く。
え? レベルアップ?
ここまでどんだけドラゴンを殺しても上がらなかったレベルがいきなり上がった。
ウメ?
一体何を殺したんだ?
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