第40話南蛮御前



 巨大馬の骸骨は鬣と尾が青白いのでアオジロ。

 姫騎士の骸骨は金髪と花冠がハワイっぽいのでアロハ。

 



 ウメが一撃で燃える大女を殺してから、地下三階から階段を上がってくる敵はいない。


 俺は姫が作ってくれた黒石の玉座に座り、その前に足を折り座り込んだアオジロの鼻先を撫でながらいつ切り上げようか考える。


 お腹もすいてきたし。


 さっきまで地下三階層に続く階段を睨みつけていたウメと姫も、もう全く階段を見ておらず、姫が丸テーブルと椅子を出し、そこでアロハを含めた三人で何やら黒い布に刺繍を始めている。


 もうこれは撤収でいいのではないだろうか?


『夏目、そっちはまだ敵が出る?』


『いや、さっぱりじゃ』


『そろそろ撤収しようか』


『そうじゃな、どうするツン? うんうん、ツンも撤収でいいみたいじゃ』


 無線で夏目に相談すると、ツンも撤収の意思らしいので撤収することにする。ツンがこの手のことで間違いを犯すことはない。


「よし、撤収だ」


 俺がそう言うと、アオジロが立ちあがり、アロハがアオジロの跨り、俺を引き上げアロハの前に乗せ優しく腰に手を回し安定させてくれる。


 アオジロデカ! 鞍に跨って見る景色が高すぎて怖い。


 ふわふわ浮く姫としっかり歩くウメに先導されダンジョン内をカッポラカッポラしているとタロとシロジロ、サキュとドラ、ハナ、そして夏目とツンが合流しダンジョ

ン出口へ進む。


「ほえーお馬さんデカいのじゃ」


 ツンに抱かれた夏目がアオジロを見上げる。


 俺が夏目に向かい手を伸ばすと、ツンが夏目を抱え上げてくれて、アロハがツンから夏目を受け取り俺の前に座らせてくれる。


 カッポラカッポラ、振動がないようにゆっくり進んでくれるアオジロ。それでもこのコンパスなので進みは速く、すぐに地下一階層に上がる階段まで到着する。


 階段を上がり、希来里さんに無線で報告。


『タカシと夏目、地下二階層の殲滅を終了し、地下一階層に戻ってきました』


『こっちはまだ終わってないわ、あんたらはダンジョン出口に向かい敵を殲滅しなさい』


 希来里さんの残業指令で殲滅作業のおかわりとなったが、まあサクッといきましょう。早くご飯が食べたい。


「タロ、シロジロ、ハナ残党狩りだ、追い込んできてくれ」


 俺がそう言うと、スッと動き出してくれるタロとシロジロ、俺の頭を一撫でしてか

ら動き出すハナ。


「ツンとデッカイ蜘蛛をたおしたのじゃ! そしたらレベルが上がったのじゃ!」


 夏目に楽しかったダンジョンアタックの思い出をきかせてもらっているうちに百いくかいかないかくらいの敵がタロとシロジロ、ハナに追い立てられこちらに走ってくる。


「アロハ、力を示して」


 俺がそう言うとアロハは俺の腰から左手を放し、優雅にその腕を振った。


 アロハに腕全体から金色の粉が噴き出て、敵の頭上に降り注ぐ、一瞬敵全体が動きを止め、敵全員の目が真っ赤に光り、お互いを殺し合い出した。


 ゴブリンは棍棒やナイフでお互いの急所を傷つけあい、黒い狼は喉笛に食らいつき合い、オークは剣で大猿を突き刺し、大猿は亀の首を甲羅から引き抜き、一つ目の巨人は殺し合っている者たち全てを踏みつけていった。




 まさに地獄絵図。まさに蟲毒。




 お互いを殺し合い食らい合い、最後に残った大猿一匹が仁王立ちし、自分の首を両手で持ちグルンと百八十度ひねり絶命した。


「ほへーすごいのじゃ、しかし、あれはラスキルになるのじゃ? レベルは上がるのじゃ?」


 た、たしかに。

 ラスキルをお互いで取り合っちゃってるもんね敵たちが。


 その辺どうなんだろうとアロハの顔を見ると、アワアワオロオロ凄い焦った雰囲気が伝わる。


 うん、よくわかんないよな、俺だって分からんし。


 とりあえず、この技禁止の方向でお願いしますアロハ。


 俺がそう言うとがっくりアロハが肩を落とした。


 それから俺たちは地下一階層を舐めるように端から回っていき、ダンジョンの敵を殺していく。


 敵を見つけるとアオジロが巨大な蹄で踏みつぶし、アロハが突撃槍の先でちょんと首を取ます。


 やはりデカいは正義だ。デカいだけで強い。


 夏目も今日は二回のレベルアップをしたのでアオジロの上で静かにしていてくれる。


 一時間ほど敵を殺すためにうろついたが、そろそろ敵も見なくなってきたので希来里さんに、


『そろそろいいんじゃないですか?』


 と、無線で連絡すると、


『そうね、撤収して』


 と、お許しが出た。


 ダンジョンに入ってから四時間弱は経っているんじゃないのか? 


 疲れたし腹が減った。


「夏目、帰ろうか」


 俺がそう声をかけても返事がなく、顔を覗き込むとしっかり寝ていた。


 俺は寝ている夏目を落とさないように、しっかり抱きしめながら地上を目指した。







◇◇◇◇







 地上に出たら象好きおじさんがおきていて、しめやかに二足歩行の召喚獣、象のガネーシャの葬儀が行われていた。


 サッとあたりを見回すと鬼龍院さんも意識を取り戻しているようだがまだ全回復とはいかず黒い詰襟の制服を着た子飼いの仲間に介抱されている。


「希来里さん、もう撤収でいいですかね?」


 俺は鬼龍院さんが全回復して、まためんどくさいこと言い出す前に帰りたい。


「そうね、あたしも、これ以上あのカップル二組と一緒にいたら、殺してしまいそうだわ」


 自分の元いた最前線組のパーティー男女四人を視線だけで殺せる魔目のような眼力で睨みつける希来里さん。


 俺と希来里さんの希望が合致したので即撤収作業に入る。


 三賢会大好き真っ白お姉さんが、数日ここで経過観察をしろとうるさく希来里さん

に詰め寄るが、フル無視し俺と夏目を含めた希来里さん率いる金デビ部隊は足早に富士凍穴ダンジョンを後にするのだった。





 西湖ほとりに設置された自衛隊本部に帰還し、そこで装備品を返し、ウメが手放さなかったコンパウンドボウはしっかりギったが、それ以外の備品は返し、送迎のワンボックスに乗り込む。


 途中無理言ってセブンに寄ってもらい甘いものと乾きものと酒をしこたま買い込みワンボックスの中で山賊宴会の再公演を始める希来里さんと栗鼠崎さんとキツネ耳の豊川さん。夏目もアオジロの上で仮眠したら元気が出たらしくジャンボどら焼き片手に缶ビールをあおっている。


 帰り一緒に乗り込んだ銀太郎さんが、牢名主のような風格で胡坐を組みワインボトルをラッパ飲みする希来里さんの横で、感情を一切出さない無表情のままチップスの袋を開けたり、ちくわの袋を開けたり付き人のようにせっせと働いていた。


 俺は希来里さんに強奪され食べれなかったシュークリームを食べる。


 ワンボックスは進み、二時間ほどで、豊川さんが「たかさご」を舞い出したころに熱海の別荘に到着した。


「タカシくん!」


「夏目ちゃん!」


 心配だった父親と母親が俺と夏目を強く抱きしめてくれる。


「体は無事かい?」


「大丈夫、俺も夏目も」


「良かった」


 両親の場所が変わり、次は母親が俺を抱きしめ、父親が夏目を抱きしめる。


 夜遅くなったのにおきて待っていてくれ、その上温かい夕食を出してくれて、申し訳なさと、嬉しさが混ざり合い、鼻の奥がギュッとなるが我慢してご飯を食べる。





 山賊の宴会はとてつもなくうるさかったが、みな疲れていたのだろうすぐに最高潮に到達し、次々倒れるように、泥のような眠りに落ちていった。


 父親と母親を先に眠らせ、俺としらふの銀太郎さん二人でシンク前に立ち食器を洗う。


「姉たちがすいません」


「なんとかなりませんか?」


「私の力ではどうにも」


 なんて話をしながら後かたずけをして、全部終わるとサキュメイドとドラメイドがお茶を出してくれる。


 一休みのお茶をいただいていると銀太郎さんが、


「星持ち、隠し通すことは無理だと思いますよ」  


 と、言い出した。

「大島さんはダンジョン機関の人ですし、ほとんど失神していたので大丈夫だと思いますが、」


「大島さんて?」


「ああ、象の人です」


 最初に説明された星持ち四人は金デビ希来里さんと三賢会真っ白お姉さん、それとダンジョンの管理をする機関の人の三人とあとよく分からん人だった。


 完全に統率取れた感じの鬼龍院さんのところが機関の人かなと思っていたが、象大好きおじさんのほうだったんだ。国の機関も自由そうだな。


「鬼龍院さんは絶対ちょっかいかけてきますよ」


「え~」


「仕方ないですよあの人、御前の親衛隊ですから」


「御前?」


「そうです、日本に二つしかないメジャーダンジョンの一つ松山ダンジョンを支配する、世界に五人しかいないこの世の王、星二つの南蛮御前は絶対にタカシさんに無視しません。

 南蛮御前は才能ある人間を手元に置きたがる、人材コレクターですから」




 南蛮御前、なんておいしそうな名前なんだ。



 

 夜食にチキン南蛮御前が食べたくなってしまった。

 



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