第39話富士氷穴ダンジョン地下二階層




 やっちまった。


 目の前に土下座するように失神している鬼龍院さん。


 いきなり土下座するように膝を突き、三柱目とか言い出すから、思わず、


「ツン、助けて」


 とつぶやいたら、ツンが腕だけ出して超高速手刀で鬼龍院さんの首筋をトンと叩きスッと消えた。


 今いるのは俺と失神した鬼龍院さんと俺の精神的動揺を察知したハナが俺を四本腕で抱きしめ精神安定をはかってくれている。


 隠さねば、この俺の暴挙の証、失神した鬼龍院さんを。


「ハナ、埋めるしかないかな?」


 ハナは優しく俺の頭を撫で、四本の腕で勢いよく穴を掘りだす。


「まてまてまてまて!!」


 希来里さんが走ってきて失神している鬼龍院さんを抱きすくめ、俺とハナの前に体をねじ込む。


「どしたのじゃ!どしたのじゃ!どしたのじゃ!どしたのじゃ!」


 夏目も走ってきて俺と希来里さんの間に体をねじ込む。


「このバカ鬼龍院を埋めようとしてたんだぞ! 生き埋めだぞ!」


 ちらっと俺の顔を見る夏目。


「ちょっとした手違いです」


「手違いなのじゃ」


「手違いで生き埋めにすんなよ!!」


「タカシここは謝るのじゃ」


「すいませんでした希来里さん」


「すいませんじゃすまないわよ! どおすんの! こっから強行ダンジョンアタックするのに星持ちを二人も戦闘不能にして!!」


 二人? ああ、象大好きおじさんと鬼龍院さん、確かに二人だわ。


 でもしょうがなくない? 俺だって完璧な人間じゃないのだ。うるさければ手も出るし動揺すれば手だって出る。


「手を出し過ぎなのよ!!」


 俺より七百倍手が出るのが早い希来里さんに言われても。


「あたしは人見てやってるから!! ティーピーオー! 分かる!? 今はやっちゃいけないときでしょが!!」


 人見て手を出すとか、最低だと思います。


「あんたら星持ち二人分は働いてもらうからな!! クソが!!」


 ブリブリ怒りながら鬼龍院さんをお姫様抱っこした希来里さんがいってしまった。


「ごめんな夏目、ハードワークになるかも」


「大丈夫じゃ!」


 夏目はにこにこハナの手についた土を手拭いで拭いてくれる。


「そもそも、これが原因じゃろう?」


 夏目は漆黒に真っ白な星三つがえがかれている短冊をひらひらさせる。


 夏目が回収してくれていたらしい。


「サキュ、お願いするのじゃ」


 夏目に頼まれたサキュメイドが伽藍堂から出てきて、夏目から短冊を受け取りボッと一瞬で跡形もなく燃やす。


「人が嫌がることをするほうがいけないのじゃ、いい気味じゃ」


 夏目が俺を慰めてくれる。



 俺は夏目に抱き着き、ハナが俺を夏目ごと抱きしめてくれた。






◇◇◇◇





 

 二時間ほどたち、銀太郎さんがダンジョン内部を確認。ダンジョンの入り口を塞いでいた肉塊は粗方ダンジョンに吸収されて中に入れるようだとのこと。


「魔女はダンジョン入り口で外に出ようとする敵を排除。それ以外で動ける人間はあたしと一階層を殲滅。タカシと夏目は二階層におり、二階層を殲滅、分かったわね」


 ギロンと俺を睨む希来里さん。


 俺が鬼龍院さんを失神させたことにより配置が変更になったらしい。


 さすがに外に星持ちを配置しないわけにはいかないし、希来里さんだって初対面の象の乗務員さんや鬼龍院さんの手駒を使うなら、より難易度が低い地下一階層のほうがいい。


 仕方ない、自分で蒔いた種なので、頷くことにしよう。


「ちょっと、その方たちで地下二階層、大丈夫ですの?」


 そう真っ白お姉さんが質問すると、


「こいつらがここで死ぬタマか!」


 と、信頼を吐き捨てる希来里さん。


 希来里さんは真っ白お姉さんの抗議を無視し、突入の指示を出す。



 

 真っ白お姉さんをダンジョン入り口に一人残し、ダンジョン内部に入る。


 先頭は俺たち、もう希来里さんは全部めんどくさいことは俺たちにやらせる所存だ。俺もあえてそれに文句は言わない。


 希来里さんブチギレてて怖いから。


 ダンジョンを二十メートルほど進むと、確かに肉塊は粗方ダンジョンに吸収され姿を消していた。その奥から感じる無数のダンジョンの敵の気配。


 さあどうしたものかと考えているとポンと俺の肩を叩くウメ。何か妙案があるのだろうか?


 ウメが矢をたがえず弓を引く。


 そうすると本来弓の矢がある場所に光が集まり出し、強く発光し出す。


 うわーきれーなどと思っていたら弦から手を放すウメ。極太のレーザービームがウメの弓から放たれ無数にいたダンジョンの敵を光で包み、消滅させた。


 なに、ウメ魔法もいける口なの?


 まあいい、先陣は切った。


「タロとシロジロは先行、ツンと夏目とハナはそれに続いて、俺とウメはその後ろ、最後尾は姫とメイドさんたちで行こう」


 俺がそう言うとの骨犬たちが駆け出し、ツンが夏目を片手抱きし動き出し、ハナは俺を抱きしめてから移動を始め、俺が歩き出すとウメが背後を守るようにぴったり寄り添ってくれて。その後ろを姫とメイドさんたちがふわふわ浮いてついてくる。



 ダンジョンアタック開始だ。



 俺はダンジョンウォーカーなので進行スピードは俺の歩幅にあわされる。


 成人男子の歩行速度で進むダンジョンアタック。


 別に速くもなければ遅くもないだろう。


 直進の道はさっきのウメビームで生きている敵はいない。


 姫とメイドさんたちが転がっている魔石を拾い俺の背嚢に入れてくれるが、すぐいっぱいになりそうだ。


「姫、魔石は捨てよう。ここのダンジョンは魔石の質が悪いらしいし、いっぱいあっても持って帰れなそうだからね」


 姫は手に持っていた魔石をじっと見て、ポイと捨てた。


 聞き分けがいい姫かわいい。


 俺たちの後ろをついてくる希来里さんたちは、枝分かれする道があるごとに散っていく。


 最初にいなくなったのは希来里さんと元パーティーメンバーのカップル一組。


 そこから四、五人ずつ消えていき、一時間後地下二階に下りる階段を発見した時には栗鼠崎さんとキツネ耳の豊川さんだけしか残っていなかった。


「気合入れろや夏目」


「がんばるのじゃ!」


 栗鼠崎さんと夏目は仲良さそうに拳をぶつけ合う。


「さっきのすごかったね~」


 豊川さんがにまにま俺に言ってくる。


「さっきの?」


「レーザービーム~」


 ああ、ウメビームね、俺もびっくりした。


「あんなの、星持ちしかできないよ~」


 むむ、もう一人失神させねばならないのか? 俺に緊張が走ると、豊川さんがにまにましながら、


「大丈夫めぐみんお口はかたいから~」


 と、言った。


 全てがゆるゆるそうな、いただかれ少女めぐみん三十うん歳。まったく信用ができない言葉である。


「おい恵! 行くぞ!」


 栗鼠崎さんにせかされ、は~いと気の抜けた返事をしながらキツネの形をした三体の狐火を出しこちらに手を振り胡散臭い笑顔を浮かべながら走っていく豊川さん。


 さすが元最前線探索者、技が多彩だ。

 

 ツンに片手抱きされたまま夏目が寄ってきて、


「お豊さんは大丈夫じゃ、きっとタカシの名前を出して風除けに使うぐらいじゃろう」


 いや、全然大丈夫じゃないんですけど。


 まあしゃあない。あんまりめんどくさくなったら、ツンに首筋をトンしてもらおう。


「それじゃあ、いこうか」


 俺たちは地下二階層に下りる階段に足を踏み入れた。







◇◇◇◇







 横浜ダンジョンなら地下二階層は黒い狼で、ここでも主力は黒い狼だが、下の階から上がって来ている多彩な敵がいる。


 牛鬼やオークも見たし、外にいたデッカイ亀も見た。


 サクサク殺して進んでいると途中夏目が、


「おひょー!」


 と、声を上げたのでレベルアップだろう。


 これで夏目のレベルは七。俺との差が二つもついてしまった。


 途中夏目が亀の首をあっさりスコップで割断していたので、レベル七でも少ないくらいには感じる。


 けっこう殺したはずなのにダンジョンの敵は一向に減る予感がしない。


 俺と夏目は協議し、ツンと夏目、タロとシロジロ、メイドさんたち、ハナはそれぞれに別れこのフロアの敵を殲滅することとする。


 俺は姫とウメに挟まれ、地下三階層に下りる階段の前に陣取り、下から上がってこようとするダンジョンの敵を殺しまくる。


 殺しまくると言っても、ハナが極太レーザーを放ち、姫が階段に黒い槍を生やす簡単なお仕事で、俺は姫が出してくれた真っ黒な石でできたバカデカい玉座としか言いようがない細かいデザインがビッシリ入った椅子に座り、ペットボトルのお茶を飲んでいるだけ。


 もうすでにダンジョンウォーカーですらない。座っちゃってるもん。


 ダラダラ敵を殲滅していたら無線で夏目から、


『むひょー!』


 と、言う声が入り、レベルアップしたらしい。


 夏目のレベルはこれで八。もう金デビ基準では最前線に出られるレベルまで来た。


 俺だってラスキル稼いでるはずなんだが? いや、俺が自分の手でラスキルを取ったことは一度もないが、伽藍堂の骸骨たちは夏目の数倍、数十倍はラスキルを取っているはずだ。


 敵の強さが釣り合わずレベルが上がらないのか?


 などと考えていたら、




 ミシ。




 空間が歪む音がする。


 地下三階層から何か来る。


 そう感じる。


 今まで感じたことがないくらいのプレッシャー、まるでダンジョンそのものが這い上がってくるような感覚。


 人が横に二十人は並んで下りられる階段の穴から、大量の炎が噴き出す。


 俺の元まで炎は届かないが熱気が届き、熱さを感じる。


 炎の中に巨大な腕が見える。


 細い毛むくじゃらの腕。


 大きな右手と左手が、階段の端と端をを掴み、巨大な体を引き出そうとする。


 腕の次に見えたのは角をはやした巨大な女の顔。


 目の上は腫れあがり、口の中に納まりきらなくなった牙が口から溢れ出ている。


 瞳孔は怒りと憎しみで金色に輝いている。


 あまりのデカさに俺が玉座から腰を浮かすと、ウメが俺の前に出て、弓を引く。




 ビン。




 破魔の音をさせながら放たれた光の矢が、炎に包まれた巨大な女の眉間に吸い込まれていく。


 スッと、女の眉間に消える光の矢。


 女の憎しみに輝く眼光が、グルンと白目になり、


 壁を掴んでいた手がビクンと一度痙攣をし、


 その巨大な体が力なく、ゆっくり地面に落ちていった。


 炎と共にダンジョンに吸収されていく大女。そして俺の頭の中にファンファーレが響く。


 頭の中に「9/11」の文字。


 レベルアップだ。


「伽藍堂、入り口を開け」


 俺がそう言うと、俺の間の前の空間が陽炎の揺れ、そこからまず巨大な蹄が出てくる。


 体高五メートルを超える巨大な馬の骸骨。鬣と尻尾には青白い毛が生えている。その馬の上にのる漆黒の金版鎧を着た骸骨騎士。漆黒の金版鎧と巨大な突撃槍はボロボロだが、兜をかぶっていない頭からはキラキラと太陽のように光る金髪がうねり、その上にのせられている花冠は七色の花が咲き誇っている。


 馬から降りた骸骨騎士は身長三メートルほどだろうか? ツンやウメより大きい。 突撃槍を持っていない左手を胸に当て、俺の前に片膝を突き首を垂れる。


 ウメが後ろから俺の右手をやさしく押し出すと、突撃槍を放し、両手で俺の右手を包み込み、手の甲にキスを落とす。



 うん、これは姫騎士だな。



 俺は姫騎士を手に入れた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る