第37話ガネーシャー!!


 富士氷穴ダンジョンから出てきている敵は、今のところ基本ゴブリンだ。


 ツンと夏目、タロとシロジロ、ハナがサクサクサーチ&デストロイしていく。


 たまに黒い狼が出るが、ウチのパーティーでは問題ない。


 俺と夏目、銀太郎さんのパーティー、希来里さんが元いた最前線組が一人一人別れ扇型に広がり徐々に富士氷穴ダンジョンに向かい進行しながら範囲を狭めていく。討ち漏らしがないようにゆっくり範囲を狭め、最終的に富士氷穴ダンジョン入り口前をキリングフィールドにする作戦のようだ。


 星持ち四人よる共同作戦とことだが、一人は希来里さん、二人目は新宿に俺と夏目を置き去りにした三賢会の真っ白なお姉さん。三人目はダンジョン内の管理や換金所の管理をしている国の機関の人らしい。最後の一人は知らん。


 希来里さんが無線でほかの星持ちと連携し、それぞれの手駒がダンジョンから溢れた敵を殺しながら追い込んでいく。


 俺は最後尾でコンパウンドボウを持ったウメに守られ歩く。


 ダンジョン外でも歩くだけ、これはダンジョンウォーカーを超えアースウォーカーである。


 もう歩くのも嫌だと走ろうとしたらウメに止められ優しく頭を撫でられ諭された。





「大物出たぞ!」


 栗鼠崎さんの声がした方向を見ると栗鼠崎さんが遠くで牛鬼と一騎打ちを強いられていた。


 助けに行こうかとすると、ウメがサッと矢をたがえ放つ。


 サクッと頭を矢で貫かれた牛鬼が倒れ、栗鼠崎さんが手を上げお礼と安否確認をする。


 そんな感じで順調にキリングゾーンまで俺らは敵を追い詰める。


 富士氷穴ダンジョンの入り口前にはダンジョンから溢れ出てくる敵と追い込まれた敵により大渋滞だ。


「クソが! あたしら以外が遅すぎる!」


 ゆるくダンジョン入り口前を囲む俺ら。


 ここで俺らが強く敵を推すと、今から追い込んでくるほかの星持ち方向に敵が溢れ、迷惑をかけることになるので、今いる敵を逃がさないように、移動しないようにゆるく囲む。


 体高三メートルはある見たこともない大きな亀が数匹見える。


「銀太郎さん、あの亀なんですか?」


「あー私も見たことないので、このダンジョンの固有種ですかね?」


「強いんですかね?」


「あの体だから、弱くはないと思いますよ」


 ウメが矢をたがえ、亀に向かい放つ。


 ウメが放った矢は硬そうな亀の甲羅を貫き、体内に消える。


 ビクッと一瞬痙攣した亀は、脱力し、そのまま動かなくなった。


「そんな強そうじゃないっすね」


「いやー、それはどうかとー」


 やはり飛び武器は最高だ。


 ウメに頼んで体のデカい敵を次々射殺してもらう。


 全体を殺すときに邪魔になるからね。


「タカシ! どんどんヤれ! 仕事が楽になる!」


 責任者希来里さんも認めてくれているので、ガンガンウメに殺してもらう。


 そんな中。


「道を開けろ!!」


 知らない声が響き、敵の塊が五頭の象に追い立てられキリングゾーンに飛び込んでくる。


 ダンジョンの敵たちがお互いに体をぶつけ合い阿鼻叫喚。


 モッシュを繰り返すダンジョンの敵に五頭の象が圧し掛かり、圧殺していく。


「おいやめろ! 敵が逃げる!」


 希来里さんがそう叫ぶと、


「そんなこと知るか! 遅れてる能無しのせいだろうが!!」


 と、自分が遅れてきたことを棚に上げて、象の頭の上にのる固そうなおじさんが叫ぶ。


 真っ赤な具足鎧を着たおじさん。

 手には長槍を持ち、象の頭の上に跨っている。


 よく見るとおじさんが跨っている象以外の四頭にはそれぞれ大きな鞍がついており、それぞれ二、三人の人が乗り長槍で敵を突いている。


 あのおじさんが星持ちなのかな?


 希来里さんと言い象おじさんと言いなぜ防具が真っ赤なのか? そんなに目立ちたいか? それとも星持ちは真っ赤な防具って決まりでもあるのか? センスが悪いだけか?


 なんて考えているうちに象の集団がダンジョン入り口前に躍り出て、キリングフィールドが荒れて、溢れ出る敵を押さえつけるために戦闘が激化する。


 荒れた戦場にダンジョンから体長五メートル級の一つ目の巨人が躍り出て象の一頭を弾き飛ばす。


「クソが! スキル「象召喚」ガネーシャ!!」


 おじさんがそう叫ぶと、おじさんの前方の空間からこちらも体長五メートル級の二足歩行で肌が真っ黒な像の怪物が出現し、一つ目の巨人とガップリ四つになる。


 力は互角、押したり引いたり。


 その足元にいる敵たちがより暴れ出し、より戦場が荒れる。


 あのおっさんと象軍団が死ぬのが一番事態の収拾に近そうだけど、味方っぽいのでほっておく。


 よくきく、優秀な敵より無能な味方のほうが厄介だって言葉を地でいくその姿勢に、本当に帰りたくなってくる。


「早すぎですわ!!」


 そこに真っ白お姉さんが魔女よろしく真っ黒なローブと人の頭の三倍はある紫色の水晶玉が先についた杖を振りかざし現れる。


 真っ白お姉さんは単独行らしい。

 友達いなそうだもんね。


 真っ白お姉さんが追い込んできたダンジョンの敵も合流し、モッシュはより激しくなる。


「タロ、シロジロ、全体のカバーを頼む」


 俺がそう言うとハナがタロとシロジロの穴を埋めるように動き、タロとシロジロがいったん戦線離脱、後方に回り包囲網が破られそうな箇所のカバーに向かう。


「滅しなさい!!」


 真っ白お姉さんがダンジョン入り口前に押し込んでいる敵の集団に中央に大きな雷を落とす。


「俺ごと殺す気か!!」


 真っ赤な具足を着込んで象に乗ったおじさんが、文句を言う。


「うるさいですわ!! 滅しなさい!!」




 もう一回極大雷が放たれ、多くの敵を殺し、四頭の象と乗組員を行動不能にした。




「ハナ! 助けてあげて!」


 ハナがキリングフィールド中に滑り込み、象から落ちた乗組員を救い出す。


「サキュ! ドラ! ハナの穴をお願い!」


 サキュメイドとドラメイドが伽藍堂から飛び出し、ハナが抜けた包囲網の穴入り、両手を前に突き出す。


 二人の掌から炎が噴き出し、近づく敵を消し炭にする。


 ハナに救出された象の乗組員は十ニ人、みな落下のダメージとその後敵に蹂躙され重傷だ。


「タカシさん! 私とチェンジしてください!」


 銀太郎さんが叫ぶ。


「姫! すまないけど前線に出てくれるか?」


 俺の前の空間が陽炎のように歪み、姫が優雅に登場する。


 銀太郎さんの目の前にいる敵が、地面から生えた黒い槍に貫かれる。


「ありがとうございます!」


 銀太郎さんが俺の横まで下がってくると、重症な像の乗組員たちに向かい手をかざす。


「ヒール」


 銀太郎さんの掌が光り、つらそうにしていた怪我人たちの表情が落ち着く。


「私、回復魔法もちなんですよ」


 いい男でさわやか、エリート探索者で実家が太い上に回復魔法持ちとか、姉が最悪なだけで最高じゃないですか銀太郎さん!!


 まあ姉が最低が、全ての長所を曇らせてしまうのだが。



 パラパラパラ。



 軽機関銃の発砲音がして、最後の星持ちが現れる。


「遅れた、すまない」


 黒い詰襟の制服を着た二十人程度の集団。


 みなおそろいの制服の上からおそろいの黒いプロテクターを着て、手には軽機関銃、腰には日本刀。


 統率が取れた集団が追い込んだ最後の敵の一団がダンジョン前の集団と合流する。


 このまま押し込めばいいらしいが、中央で象に乗った赤い具足鎧のおじさんと、一つ目巨人とがっぷり四つで、そろそろ水入りしてやれよと思えるほど疲労困憊感が出ているに二足歩行の黒い象が邪魔だ。


「ウメ、あの巨人、殺せる?」


 俺がそう言うと、ウメが二本矢を放ち、


 一つ目の巨人と黒い象の頭が吹き飛んだ。


「ガネーシャー!!」


 おじさんが叫ぶ。


 そう言えば、巨人と言ったがどっちの巨人か言わなかったわ、いいや、どっちもうざかったし。


「希来里さん、真っ赤な象おじさん下げてください」


「おら! さっさと下がれ象フェチ野郎が!!」


 希来里さんがそう叫ぶが、


「ガネーシャー!! なんで!! 誰が!!」


 と、泣きながら慟哭している。


「チッ!」


 希来里さんが舌打ちすると真っ赤なプロテクターがはじけ飛び、身長三百五十センチはあるネコ科最大の猛獣種ライガーの獣人となり体を丸めジャンプ。


 象の頭に跨るおじさんの首根っこを咥え、象の頭からジャンプ、俺の横に着地する。


 ペッとおじさんを吐き捨てると、人型に戻り、


「お前いらねーだろ」


 と、俺のチェーンメイルを剥ぎ、弾け飛んだ真っ赤なプロテクターがわりに着込む。


「ガネッ! ガネーシャー!」


 泣き崩れているおじさんがうるさいなぁと思っていると、ウメが高速の手刀で首筋を打ち失神させる。


「それじゃ押し込みましょうか」


 俺がそう言うと、希来里さんと銀太郎さんが俺を引いた目で見ている。


「え?」


「いや、悪いとか、思ってないんですね……」

「さすがにあたしも、引くっていうか……」


「え? 俺、何かしました?」


「いやそれでいいと思うなら、もうそれでいいです」

「あたしももう、何も言いたくないわ」


 希来里さんと銀太郎さんがよく分からないことを言うので、もう早く終わりにしたい。


「姫、ダンジョン内に敵を全員押し込んで」


 俺がおねがいすると、姫はフンスと胸を張り、地面を扇子の先で一撫で、俺の腰の高さくらいに、敵を囲むように黒い大きな輪が出現する。


 姫が扇子をパチンと閉じると、その輪が一気に収縮、力ないダンジョンの敵は体が両断され、背が高かったり耐久性があるダンジョンの敵は輪に捕えられ一塊になっていく。


 一塊になった敵はそのままダンジョンの入り口に吸い込まれるように押し込まれ、いや、ダンジョンの入り口が姫が作った肉団子より小さかったらしく、多くの敵が入り口の淵で挽肉になったが、それは些細なことだからまあいいのだ。



 とりあえず敵は全部ダンジョンの中に帰した。



 ああ、スッキリした。

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