第36話富士氷穴ダンジョン




 希来里さんがヘリコプターに乗り飛び去って行った。



 金デビ唯一の星持ち、星一つの希来里さんが星持ち緊急招集のお迎えが来て、凄くいやそうな顔をしていたが素直にヘリに乗っていた。


 あの傲慢で不遜でめんどくさい希来里さんが文句を言い、威嚇し、悪態はつくがヘリに乗ったのだ。あの希来里さんが。


 きっと星持ち緊急招集は拒否不能なのだろう。


 良かった、星持ちなんてならないで。


 家族旅行の途中に呼び出しなんて絶対にいやだ。


 取り残された俺たちはヘリ着陸でぶっ飛んだものを軽くかたし、バーベキューを続ける。


 栗鼠崎さんと夏目と豊川さんが三人でグデングデンになるまで痛飲し、猿を騙したクラゲみたくグニャングニャンになった栗鼠崎さんと豊川さんを客間の布団に投げ捨て、むにゃむにゃしている夏目を抱いて眠った。






◇◇◇◇






 翌朝、二日酔い三人はぺしょぺしょだが母親が作ってくれたおかゆを食べ、父親が作ってくれたレッドアイを飲んで少し回復し、今日は温泉に行くぞ!と元気を取り戻していたところに俺のウィルコムが鳴る。



 液晶には「希来里さん」の文字。



 全然出たくないのだが、きっと俺が無視すると夏目にかかって来るに決まっているので電話に出る。


『あんたと夏目を富士氷穴ダンジョンの特別防衛隊に推薦したから喜びなさい』


『いやです』


『無理、そこにいるリスとお豊も連れてきて。横浜から銀太も呼んだから』


 そう言うと返事もきかず電話が切られる。


 夏目が少し血の気が戻った顔で心配そうに俺の顔を覗き込む。


「どうしたのじゃ?」


「希来里さんに全員呼び出された、旅行は終わりだ」






◇◇◇◇






 迎えの車に乗り込んだ俺と夏目、豊川さんと栗鼠崎さんは一路富士山を目指す。


 父親と母親には、帰ってくるかもしれないが、帰ってこないかもしれないので、予定通り三泊してもいいし、先に帰ってもいいと言い残し、護衛兼父親の楽しみとしてジロをおいてきた。


 迎えのワンボックスの社内の雰囲気は最悪で、栗鼠崎さんも豊川さんもブンむくれている。


 いやいやむくれたいのはこっちですよ、あんたんとこのパーティーメンバーの命令でこうなってるんでしょ。


 夏目は手の中で護身用の小型ダガーナイフを弄んでいる。


 夏目も楽しい旅行を潰されて苛立ちを感じているようだ。


「装備はどうするんですか?」


「現地で揃えてもらうことになります」


 コーディネーターらしきおじさんがそう言うので、装備を取りには帰れないらしい。栗鼠崎さんと豊川さんの装備は銀太郎さんが持ってきてくれるだろうが。


 数時間車に乗り、ついたのは西湖の近くに立てられた自衛隊の野営地、大きなテントの中に案内されると、そこにはフル装備の銀太郎さんがいた。


「タカシさん! 今回はすいません!」


 走り寄ってきてくれて謝ってくれる。


 自分だっていきなり呼び出されただろうに、本当にい人だ。


「栗鼠崎さんと豊川さんは装備を持ってきています。金デビで押さえたテントがあるんで、そこで着替えてきてください」


 さすがパーティーリーダーにはたてつけない二人がしぶしぶ着替えるためテントを出ていく。


 テントの中に残った俺はハーフパンツにノースリーブにビーサン。夏目もハーフパンツにタンクトップにビーサンだ。


 フル装備の銀太郎さんや軍服姿の兵隊さんが激しく出入りしているこの天幕の中で浮くだけ浮いている。


「なんで呼ばれたんですか俺たち?」


「姉さんの助っ人ですね。ウチのパーティーと最前線の元々姉さんがいたパーティ

ー、それにタカシさんと夏目さんが金デビの戦力です」


 銀太郎さんが天幕の中へ中へ案内してくれる。


 大きな地図がホワイトボードに貼ってある場所に到着する。


「日本には五つダンジョンがあり、メジャーダンジョンが二つ、それ以外のダンジョンが三つです。

 この富士氷穴ダンジョンは利便性や敵の魔石排出率、魔石の質などからあまり採算性がないダンジョンとして知られています。

 今回、このダンジョン内で敵が大量発生し、溢れることとなりました。

 日本国内にいる六人の星持ちの中、四人が参加し対処に当たります。

 私たちは招集された星持ちの瓜実希来里に召集された形ですね」


 銀太郎さんが地図の中にある富士氷穴ダンジョンを指さしながら説明してくれる。


 地図の上には四個の星印が書かれており、それが中心のダンジョンを囲むように配置されている。


「希来里さんはどれですか?」


「この一番左の星です」


 現在地から一番離れた星が希来里さんらしい。


「敵はダンジョンからもう溢れています。星持ちたちが殺し切らないと森にあふれ、被害が出ます。どうか、お力を貸してください」


 頭を下げる銀太郎さん。


 まあ、ここまで来ちゃったし。


 断っても帰る足ないしね。



 

 俺と夏目は自衛隊がつかっているタイツのような防護服を借り、着替える。


 その上に金デビが持ってきてくれたスポーツギアのハーフパンツとフーデイー、頭

には自衛隊がつけているヘルメットを借りる。銀太郎さんとおそろいのチェーンメイルを着込む俺と夏目。夏目は自衛隊から手ごろそうなスコップを借り、砥石で先を研いでいく。


 俺はコンバットナイフと九ミリ拳銃を一丁借り受け、それをコンバットベルトに通す。


 靴は編み上げのブーツで、いつもより動きにくい。


 今回はM500も夏目のコルトパイソンもない。この九ミリ拳銃がどこまでダンジョンの敵に通用するか分からないという不安がある。


 飛び武器が欲しいと兵装庫を見学させてもらうとコンパウンドボウがあった。


 これいいんじゃない? 手に持ってみると探索者用らしく激重で俺じゃ引くこともできなそうだ。


 こりゃ不採用と返そうとすると、ウメが伽藍堂から出てきて手に持ち、楽々引く。


「ウメ、これ気に入った?」


 俺がそうきくと、コクコクと頷くウメ。


 ウメがいいならこれももらっていくことにする。

 


 タロとシロジロの荷鞍に備品を詰めるだけ詰め、はぐれたとき用に背嚢を借りそこにも自分たちで生き残るための備品を詰める。


 通信機器の使い方をレクチャーされ、栗鼠崎さんと豊川さんとも合流し、出発となる。


 ジープに乗り込む俺と夏目、運転席は銀太郎さんで助手席は豊川さん、栗鼠崎さんは俺たちと同じく後部座席だ。


 タロとシロジロがジープに先行し、樹海の中を行けるところまでジープで移動する。


 タロとシロジロが足を止め、俺たちは車を降りここから徒歩になる。


「ツン、ウメ」


 二体の骸骨が現れる。


 先頭はタロとシロジロ、その後ろにツンに片手抱きされた夏目、銀太郎さんのパーティーときて最後尾は俺とウメだ。


 ウメはコンパウンドボウをいたく気にったらしく、黒いダンジョン鉱物のチェーンを襷に体に巻き、手に弓を持っている。


「そろそろのはずです」


 銀太郎さんがGPSの端末を操作しながらそう言うと、目の前に見たことない男女が現れる。


「お久しぶりです、岡さん、東子さん、姉さんはいますか?」


 黒光りする金版鎧を着て、手にダンビラを持ったおそろいの装備の男女は岡さんと東子さんと言うらしい。


 銀太郎さんの口ぶりから、希来里さんの元パーティーメンバーだろう。


 そう言えばパーティー内に二組カップルができたと言っていたからこの二人も付き合っているのかもしれない。


 無口な岡さんと東子さんに案内され希来里さんが守る最前線基地につく。


 塹壕が掘られ、シートが天井に貼られている。


 掘られた塹壕の中に堀出せなかったのか大きな岩が鎮座し、その上に真っ赤なプロテクターを着込んでバカデカい斧を持った希来里さんが本当に不機嫌そうに座っていた。


「今二人斥候に出してる。帰ってきたら紹介するわ」


 今ここに希来里さんしかいないってことは、元々いたパーティーメンバーは五人で、二組カップルができたってことか…。



 

つらかったろうな、希来里さん。

 

 初めて希来里さんに同情した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る