第5話ふ、ふえた!?
最初のゴブリンから数十体のゴブリンをツンは屠った。
全て一撃、出会ったゴブリンは血飛沫になり消え去った。
その間俺はツンに手を握られ移動し、戦闘後は抱きしめられ、やさしく頭をなでられた。
ツン強すぎ、そして過保護すぎだろう。
祖母のような甘やかしと狂戦士のような暴力とのギャップに頭がくらくらする。
ゴブリンたちは殺され消える時、魔石を残す。
これを拾うのが俺の役目だ。いやこれしか仕事がないと言ったほうが正しいくらいツンは強かった。
そして二時間ほどたち、そろそろ帰ろうかと思っていたころに、頭の中でファンファーレが響く。
驚いていると、目の前に「1/2」の文字が浮かぶ。
ツンを見上げると、コクリとツンが頷く。
これが噂にきくレベルアップだろう。
この世界にはレベルアップがある。トップランカーなら十を超え、そこそこのベテラン探索者でも五ぐらいはあるだろう。
レベルアップすると身体能力が飛躍的に上がる。
レベル一の者が二になるだけでパワーリフティングの三種目合計一トンを超える力を持つようになると言われている。まあ俺は「筋力強化」や「腕力強化」を持っていないのでそこまでの出力は出ないだろうが。
頭に浮かんでいる「1/2」の文字。
病院で最初にツンを出した時、頭に浮かんだのは「1/1」、もう一体出せるようになるのか? ツンのような戦力を?
俺はもう一度ツンを見ると、ツンはもう一度頷き返す。
「伽藍堂、入り口を開け」
ツンと俺の間の空間が陽炎のように揺らめき、そこからツンと同じ二百五十センチくらいの身長をした骸骨がぬるりと現れた。
頭の中に浮かんでいた数字が「2/2」に変わり消えた。
新しい骸骨は俺の前で軽く腰を曲げ、ゆっくりと俺を抱きしめ、頭をなでる。
おばあちゃん二号の爆誕である。
ツンも負けじと俺に近づきバックハグから頭をなでる。
俺はダンジョンの中、巨大な骸骨二体が飽きるまで猫かわいがりされた。
◇◇◇◇
前衛のツン、後衛のウメ。
二体の骸骨に挟まれ俺はダンジョンを進んでいく。
ツンはウメが後衛についたことにより安心したのか、俺と手をつなぐことをやめ、戦闘に集中するようになった。
ウメとは二体目の骸骨で、なんとなくおばあちゃん成分が強いこいつらには、おばあちゃんぽい名前を付けてしまう。
ツンの右手には実家から持ってきた鉄の棒が握られ、ウメの右手には俺が腰に差していたコンバットナイフが握られている。
ツンが倒したゴブリンから出る魔石を、ウメが通り掛けに拾っていく。
もう魔石すら拾わせてもらえなくなった俺は、ただ歩くことしかできない無能だ。
俺たちは今、人目を避けダンジョンの端を攫うように移動している、と思う。ツンがぐんぐん先に進んでしまうので、はっきり言って、もう俺じゃ帰り道すら分からない。
「ツン、そろそろ帰ろう」
声をかけるとツンは頷き、進行方向を変える。
どうやらツンには帰り道が分かっているようで心の中で安堵のため息を吐く。
ツンについてぐんぐん進んでいると、ダンジョンの曲がり角の向こうから人の声がきこえる。
「ツン、ウメ」
俺が二人に声をかけると、すっと二人は陽炎の中に消えていった。
手の内はできるだけ見せたくない。
俺は一人になりそのまま進むと、曲がり角の向こうには十人以上の集団がいた。
皆三十代から四十代の歴戦の探索者たち、鎧は汚れ、手に持っている武器はデカく、常人では持ち上げることもできそうにないくらいだ。
荷車を集団の中央に配置し、皆で守るように移動している。
荷台はブルーシートで囲われているが、こんもり盛り上がり、きっとダンジョンアタックの帰りなのだろう、集団の誰もが少し疲れた顔をしていた。
探索者たちは軽く俺を見ると、危険がないと判断したのだろう、無視して歩みを止めなかった。
俺は止まり、この集団をやり過ごすと、少し離れた距離でこの集団のあとを追う。そう、ツンに隠れてもらったはいいが、俺は帰り道が分からない。この集団についていく以外地上に出るすべがない。
前を行く集団のケツがやっと見えるくらいの距離を取り、あとを追い進んでいく。
さっき見た探索者たちはどのくらいのランクなのだろうか?
この横浜ダンジョンは八階層まで攻略されているらしいが、彼らはその最深部まで進むような実力者なのだろうか?
なんとなくだが、ツンひとりで壊滅させられるような気がするのだが。
そんなことを考えながら後を追い、一階への階段にたどりつき、今日のダンジョンアタックを無事終えた。
ダンジョン入り口の施設でメッセンジャーバッグから魔石を、カウンターにある換金器の銀色のトレーの上に出す。
ゴブリンから出た百個弱の魔石をガラガラとトレーに流し込むと、機械からピーとレーザーが出て全体をスキャニングし、横からレシートのような紙が出てきて、これを有人カウンターにもっていけば現金にしてくれる。
紙を見ると「375、000円」と書かれていて、今日一日でこの金額、二千万はちょろいなと確信する。
ツンとウメがいなければ、詰んでいたわけだが。
もらった現金を無理やり半分に折り畳みケツポケットに突っ込む。
更衣室で着替え、家に帰らず、中古武器屋をのぞく。
ツンは鉄の棒があるが、ウメには武器がない。俺の持っていたコンバットナイフじゃその実力を発揮することはできないだろう。
剣、少なくともツンが持っている鉄の棒くらい頑丈でリーチのある鈍器が必要だ。
中古武器屋の中で剣を見るが、なんとなくウメやツンが使うには華奢なような気がする。すぐ壊しそうだ。
頑丈そうでデカい鈍器や剣は三十万ちょっとじゃ手が出ないほど高かった。
あきらめて家に帰ることにする。
こうして俺の初めててのダンジョンアタックは、俺が何もしないうちに、ツンとウメの手により成功したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます