第1章閑話1 緋色の反乱(Scarlet Revolt)

〔スイース大陸南東部 コルリス・ブリックス公国国境から1.5km - 黒い十字架団管轄”統一革命の勝利”第3人民矯正場〕

〈ブリックス公国ギルド正規ハンター : クラスG キレフ・トルシア - 人間(行方不明)〉


私が依頼の為に逗留していたコルリス帝国国境の町、プロテリアが突如謎の組織 ―― 黒い十字架団の支配下に入り約2年、私達プロテリアに居た生存者は収容所に入れられ日々重労働を強いられていた。

既に元々プロテリアで暮らしていた生存者の約半数が過労死し、私はギリギリの状態を保ちつつ何とか生きていた。

銃やロングソードなどを持った目出し帽の男数人が周りで私含む過労気味の元住民が新しい倉庫を建設するのを監視しており、更に複数人の目出し帽の男達が収容所の中心部に立っている塔から私達を見ていた。

すると、木の建材を持った痩せこけた男が音を立てて倒れ、近くに居た何人かの男女がその男を介抱しようとした、が。

「なんだァ貴様ら、何してる。」

すぐ近くに居た目出し帽の男がそれを止め、持っていた銃を背中に掛けながらそう言うと、こちらに向かってきた。

「起きねェかこのロバ野郎ォ!!」

目出し帽の男はそう言い、その男に鞭を振るった。

「うぐぁっ・・・・。」

「お止め下さいまし。」

すると、40代であろう女がそう目出し帽の男に言った。

「その者はあまり食べておりません、このままだと死んでしまいます。」

「何ッだとこのアマァ!! お前もこうしてやる!!」

更に目出し帽の男は男を庇った女に鞭を振るった、


バシッ


「アガッ・・・・。」

「他の者はこいつらを片付けて作業を続けろ。」

目出し帽の男はそう言い残すと立ち去って行った。



〔深夜 - 人民仮眠所にて〕


私は疲労で寝ようとしていたが、結局寒さが起因してか寝れないでいた。

目を閉じながら私はボロボロの毛布にくるまっていた。

すると、木のドアが金切り声を上げて開き冷たい風が入ってきた。

閉まったドアの前には人影が立っており、気づいた時には既に私の寝ていた場所の前に立っていた。

「立て、付いて来い。」

目出し帽の男だった、

私はボロボロになった寝巻きを羽織り目出し帽の男と共に外に出た、外へと出て男は私を川へと続く下水道が繋がる排水施設の裏手に誘導した。

「こんな風に呼び立ててしまって申し訳ない、この方法しか無かった物でな。」

目出し帽の男は口調が変わり、人が変わった様な話話し方となり男は目出し帽を取った。

「はい・・・・?」

「俺は黒い十字架団なんぞの組織員ではないしカルトな趣味も持ち合わせはないんでな、その体格からしてあんた元は冒険者だろ?」

「え、ええ・・・・クラスGハンターよ・・・・。」

「そうか、リスクを冒してでも助けた甲斐があった。」

そう言うと目出し帽の男 ―― もとい顔の平坦な男はにっ、と笑った。

「”りすく”・・・?」

「気にするな、

奴さんらに見つかる前に説明するからまずこれに着替えろ、その身形みなりじゃすぐバレるだろうからな。」

「は・・・はい、分かりました・・・・。」

私は少々混乱していたが、彼はそんな私に介することなく服を手渡して来た。異形の服装だったがいざ着てみると動き易いものだった。

「着たみたいだな、次にこの背嚢と鞄だ。

背嚢にはとりあえず3日間分の食料や飲料、そのちっこい鞄には状況に応じて使える服装やアイテムが入っている。」

「は、はい。」

「あと、これは拾い物だが自衛用ぐらいには使えるだろう。」

そう言うと、背嚢と小型の鞄。そして小奇麗な鞘に収められたショートソードを手渡して来た。

「背嚢と鞄は防水だから心配するな、・・・・あと、これを。」

更に彼は灰色の巾着袋を投げ渡してきた。

「これは・・・・?」

「この下水道の終端から川へと出る、そこに筏が置いてあるからそれで川をひたすらくだれ。そうすると国境を越えてブリックス公国に出れる、国境から暫く行った川岸に俺の仲間が待機してるはずだからそれの中身を見せろ・・・・仲間が救助してくれるはずだ。」

「わ・・・・分かりました、

それより貴方は?」

「加藤だ。」

「カトー?」

「さっさと行った行った、ブギーマンに喰われんぞ。」

彼 ―― カトーはそう言うと排水施設の縦蓋を開け、行くように促した。

「ありがとう。」

私は施設の中に入り、蓋を閉める前にそう言い残した。

「死ぬなよ。」

男は、そう返した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


〔ユーレイン連邦海軍 特殊作戦コマンドSOC”グレイシャークG2A中隊” 加藤・旭 伍長〕


俺は助けた元冒険者を見送り、排水施設を後にした。

「あんな事を言うキャラじゃないんだがな・・・・、まあ良いか。

こちらゴースト、ミッションスタート。」

〈アシスタント、ラジャ。グットラック〉

無線でそう報告すると、国境付近で作戦行動中の仲間がそう答えた。

「さぁーてと、ショータイムと参りますか。」

そう自分に言い聞かせ、ホルスターからモーゼルC96ブルームハンドルを取り出し、更にサプレッサーを取り付けた。

丁度歩いてる先には窓から光が漏れている建物が見え、バレない様に窓の背後まで近づくと中から笑い声などが聞こえてきた。

「兵舎か。」

構えていたC96をアイテムボックスの中へと置き、代わりに中から今回の為だけにスキルで調達しカスタムしておいたSIG MCX スピアー 自動小銃を取り出し窓から斉射した。


ププププププププププププッ


MCX スピアーの.300 AAC弾は無慈悲にも無防備な組織団員達を喰い破り無惨な姿へと変えていった、俺は警戒を解くことはなくほぼ無音で窓から侵入した。

今ではむくろになった彼らは食事をしていたらしく、床には倒れた家具と共に食物が散乱していた。

そんな中で骸の一つが骨付き肉を持っているのに気づいた俺は、その手から肉を取り上げ明後日の方向へと投げると骸が微かに動いた。

その骸は生きていた。

「肉なんか食ってんじゃねーよ。」

そう言った俺は片手でMCX スピアーをその男の脳天に撃ち込み、名も知らぬその骸の生を終わらせた。

その骸はびくりと動くと、血を流し正式に骸と化した。

俺は手当たり次第に生き残っている者らに止めを刺し、周りを見渡した。

すると組織団員らが持っていたであろうボルトアクション式小銃やロングソードと共に、刀が立て掛けてあった。

「日本刀か・・・・、まさかこの世界でまた見るとは。」

その刀の柄と鞘は限りなく白く、金属細工で”奇刀任禅”と書かれてあった。

「”それ”に手を触れるでない、うつけが。」

手に取ろうとした時、後ろで声がした。

振り向くと俺の後ろには背に何本も矢を受けた武士が立っていた、その武士は血まみれで件の刀 ―― ”奇刀任禅”を携えていた。

「手にすれば、貴様も私のようなうつけになるぞ。」

「そんなん知るか。」

俺はそれを一蹴し、その刀を手にした。

すると、ドクンと鼓動の様な物を刀に感じ更に冷や汗を掻いた。

「刀に生が宿るってか。」

そう呟きつつも刀をアイテムボックスへとしまった。

更にブービートラップとしてベースボール ―― M67破砕手榴弾をワイヤーに繋ぎ目立たない位置に設置し兵舎を後にした。

兵舎を後にして周りを探索していると、建物と建物の間に歩いている人影を見つけた。

こちらに向けて移動してるであろう、歩哨の兵士だった。

俺は建物の陰に隠れ無音で兵士の後ろにつきコンバットナイフを首元にやりこう言った、

「動くな、武器を捨てろ。」

兵士はぴたりと止まり、持っていたボルトアクション式小銃とホルスターに収まれていたリボルバーを丸ごと放り投げた。

「両手を頭に乗せ、こちらを向け。」

首元のコンバットナイフを離すとMCX スピアーを構え、そう指示した。

兵士は両手を頭に乗せこちらを向いたがその体格はやせ細り、悄気ており兵士のそれではなかった。

「どうか殺さないでください・・・・。」

その兵士はそう俺に懇願した。

「その前に質問に答えろ、この施設の責任者は何処だ?」

「あれですか・・・・、あのクソッタレのろくでなしの所長はあそこに居ます。」

兵士はそう言うと顔を歪め、サーチライトが蠢く塔を指さした。

「そうか。」

「・・・・あなたは小官の事をただの敵兵だと思われている。」

「何?」

「小官もここに収容されている民間人らと同じ捕虜、あと数週間もすれば自分らも収容されている民間人と同じようになります。我々も兵隊でも、囚われの兵隊であります。」

「・・・・・そうか、そうなのか・・・・。」

「・・・・・・はい。」

「・・・・分かった、貴官も復讐したいだろうが。武器を持ちついて来い。」

「ありがとうございます。」

「だがこれだけは忘れるな、貴官はあくまで俺からみれば”敵兵”だ・・・・・完全に信じている訳ではない。貴官の今後の行動如何では・・・・、いいな?」

「はっ。」

その兵士はそう言い、俺に敬礼した。

俺はそれに答礼し、その場から移動した。


〔数分後〕

「それで貴官、名は?」

俺は辺りを移動しながらそう尋ねた。

「エービッヒ・ジャン・スチェッキン、守備隊 第1番隊隊長に任ぜられております。」

「スチェッキンか、いい名前だな。」

「ありがとうございます。」

「だが1カ所忘れているぞ。」

「はっ?」

「スチェッキン、お前はここの守備隊の隊長だったんだ。しかし俺に組した以上、貴官も今は立派な反乱分子だ。」

「はい。」

「スチェッキン、貴官の携行している”それ”。使い易いのか?」

話を変え、俺はスチェッキンがホルスターに挿しているリボルバーに注目しそう告げた。

「いえ、軍用ではありますが粗悪品でいつ暴発するか分からないので・・・・正直使っていて恐怖を感じます。」

「そうか・・・・スチェッキン、貴官元はどこに所属していた?」

「・・・・・旧ベルカ帝国陸軍大学校卒、旧スハルト民国防衛隊所属。」

「・・・・亡国の兵か、自動拳銃に関してどの程度知っている?」

「撃鉄を射撃毎に引き起こさず弾倉分撃ち出すことが可能な拳銃と・・・・、帝国陸軍学校に居た際に学んだ程度ですが。」

「ならよろしい、これをやろう。」

俺は幻想魔法で旧ソ連製 APSマシンピストルとそのマガジン複数本を現出させ、スチェッキンに投げ渡した。

「これは・・・?」

「マシンピストル、機関拳銃だ。

しかも貴官の名と全くもって同じの。」

「機関拳銃、でありますか・・・・。」

「トリガーを引けば引いた分だけ射撃できる代物だ、短機関銃の小型版といった所か。

その粗悪品よりかはよっぽどマシだろう。」

「そう・・・・ですか、ならありがたく使わさせていただきます。」

「ああ。」

「そう言えば貴方の名は・・・・。」

「カトー、人はそう呼ぶ。」

「それではカトーさん、ここです。どうぞ。」

スチェッキンは改まりそう言った。

「ここは?」

「小官の、第1番隊の兵舎です。」

中に入ると何十人のも兵士達がハンモックの上で寝ており、数人が薄暗い灯の下で煙草を吸っていた。

「戻りましたか隊長・・・・、そちらは?」

兵士の一人が煙草を床で揉み消すとそう尋ねてきた。

「ああ兵曹長、こちらはカトーさんだ。」

「よろしく。」

俺がそう言うと、その兵士は好奇な目で

「じ・・・・、自分はブルサ・カチン兵長であります。守備隊第1番隊第1小隊隊長に任ぜられております!!」

「そうか、元の所属は?」

「隊長・・・・。」

「もういいんだ、言っても。」

「!!・・・・旧スハルト民国防衛隊所属であります。」

「かつての部下だったか、スチェッキン。」

「はっ・・・・。」

「彼と、今起きている隊員に”あの”話をしてやってくれ。その方が分かりやすいだろ。」

「了解しました。」

「??・・・・、話って何ですか?」

カチン兵長がそう興味深そうに尋ねていると、周りで話を聞いていた数人の兵士が集まってきた。

「兵長も含め全員、現時刻をもって黒い十字架団親衛隊麾下守備隊から逸脱し本来の所属に戻る!!」

「まさか・・・ここから!!」

「そうだ、我々第1番隊は金輪際誰にも縛られることは無い。」

「!!そうなんですか、それじゃあ!!!!」

「待て、兵長。」

興奮して急ぎ大声で知らせようとしていたカチンをスチェッキンが止めた。

「カトーさん、お願いします。」

「しかし隊長」

「兵長、この人は戦争の天才だ。私も無音で殺される所だった、つまりそういうことだ。」

「は・・・・、はっ!」

温厚そうな顔だったスチェッキンが厳し目にそう言うと、カチンは閉口した。

「ありがとう、まずスチェッキン・・・・ここの全体地図と何か書く物を。」

「はっ、只今。」

「カチン兵長、ここには小隊いくつある?」

「ここ第1番隊含めて5つあります、はい。」

「なら残りの小隊の隊長を起こして来てくれないか、静かにな。」

「分かりました。」

カチンはそう頷くと物音一つ立てずに兵舎から出た、

「ここは隠密にクーデターと行こうじゃないか。」


〔再び数分後〕

しばらくしてスチェッキンが羊皮紙の地図と鉛筆、カチンが数人の兵士を連れて戻って来た。

「カトーさん、第2から第5番隊の隊長を連れてきました。」

「そうか。」

第2番隊、第3番、第4番と第5番隊の隊長にそれぞれ話を聞いていくと、スチェッキンやカチンと同じ様にかつて存在し消失した国家に属していた兵士が大半だった。

「それでは・・・・・、スチェッキン。確かこの塔にこの施設の指揮官がいるんだったな?」

俺は地図の真ん中を差しそう尋ねた、

「はい。」

「つまりこの塔が司令部という事でいいんだな?」

「いえ、塔の殆どは司令部連中の居住区でその横が司令陣になってます。」

「そうか、んで問題は司令部側の戦力だな。」

「ええ・・・・。」「そうですね。」

「カトー・・・・、殿で宜しいか?」

すると第5番隊の小隊長が尋ねてきた。

「どうしました?」

「司令部側の戦力としては帝都から派遣されてきている黒い十字架団親衛隊20名、親衛隊子飼いの武装奴隷が10名、帝国軍先遣隊10名、更に1個砲兵小隊と2個トラクター分隊、あとは最近魔法を専門職にしている人員が追加されています。」

「そうか・・・・、砲兵小隊の詳細は。」

「37mm砲4門、装甲目標用の12.7mm M125/7 対トラクター砲2丁、75mm砲2門と操作人員が16名であります。」

「私からも少しいいですか?」

その説明の横から第3番隊の隊長が手を上げてきた、

「どうぞ。」

「この施設の北方、10kmに帝都から直接派遣されてきた1個歩兵中隊と工兵小隊が駐屯するアルザドル陸軍基地が存在し、更に周辺には砲兵が105mm砲や75mm砲を備え付けてある・・・・。」

「アルザドル基地か・・・・、あれの存在はかなり厄介ですね。」

相槌を打つようにスチェッキンがそう言い、頭を掻いた。

「あれ何とかしないと後々厄介な事に・・・・。」

カチンもそう嘆いた、

「どうします、カトーさん?」

「・・・・分かった、スチェッキン。

第1番隊、第2番隊、第3番、第4番隊と第5番隊を射撃技術の優秀な順に隊員を再編してくれ。カチンは幻想魔法が使える兵士だけで部隊を臨時編成、終わり次第報告してくれ。」

「はい。」「分かりました。」

「残りの部隊長は残ってもらいます、第5番隊の・・・・名前は」

「デーバス・ブリュックナー、旧アイギナ王国軍属であります。」

「そうかデーバス、武器庫はどこだ? 各部隊長に説明をしておきたい。」

「こちらです、カトー殿。」

俺はデーバスと他の部隊長と共に第1番隊の武器庫へ向かった、武器庫 ―― 手動連発式小銃や回転式拳銃、それらの弾薬などが積んである空間に歩き着くと、そばに放置してあった小銃を手に取り開口一番こう言い放った

「さて、貴官らが普段使っているであろうこの小銃。効率性や運用上の観点から今回は使用しません、がその代わりにこれらを使って貰います。」

そう言い、幻想魔法でツァスタバ M70B3とAK-105 アサルトライフルを現出させた。

「「「「「おぉぉ~!」」」」」

「これはツァスタバ M70B3、使用方法は側面の安全装置を解除しコッキングレバーを引けばすぐに射撃可能で方式はセミオート、フルオート。

そしてこっちはAK-105、使用方法はツァスタバとほとんど同じですが弾種が別なので気を付けてください。質問は?」

「「「「「・・・・・。」」」」」

「ない、か・・・・。

第3番隊の隊長、名前は?」

「ンマ・ジャガジャイヤ、元ウスリタン王国軍属であります! カトー殿」

「おっ、おう・・・・

ジャガジャイヤ、これらとその弾薬を幻想魔法が使える隊員かカチンに回してくれ。」

「了解であります!」

俺が両方のマガジンキャッチを外しそれぞれを第3番隊の隊長 ―― ジャガジャイヤに投げそう令すると、彼は走り去っていった。

「あとは分隊火器だが・・・・ ―― 」


〔数十分後〕

残ったデーバス含む部隊長たちにRPK、M67破片手榴弾、スターライトスコープノクトビジョン、SVDドラグノフとM79 グレネードランチャーの手解きをし。デーバスにジャガジャイヤに続いて人員編成分錬成せよと指示し武器庫エリアを出た、

すでに周りでは静寂の中総員起こしがかかっており、中にはすでにM70B3やAK-105を肩に担いだり携行したりしている兵士も居た。

俺は地図を確認し周りに指示を出していたスチェッキンに声をかけた、

「順調か?」

「はい、分隊毎に無線機も準備させましたし貴方が罠を仕掛けたという場所も侵入するなと訓示しました、しかし・・・・。」

「心配か?」

「まあ、はい・・・・。」

「・・・・スチェッキン、心配するな。お前の信じて止まない正義、そしてその理念通り動けば何とかなる。」

「は、はぁ・・・・。」

「こういうのを見ると俺も昔を思い出すな。」

「・・・・はあ。」

「悪い、少し言い過ぎたか。」

確かにこの世界に降り立った時を思い出した節が自分の中にあった、

「・・・・・。」

「準備はどの程度終わってるか?」

「あと2、30分といった所でしょうか。」

「了解した、全て完了したら教えてくれ。」

俺はそう言い、兵舎の一角に寄りかかり肩に掛けていたSIG MCX スピアーをポーチにしまい代りに使い慣れたH&K HK416A5 14.5"モデルを取り出しサプレッサー、M26 MASS、そしてAimPoint ホロサイトを取り付け、マガジンを挿しチャージングハンドルを引き初弾を装填した。更にマガジンをいくつか幻想魔法で現出させるとマガジンポーチに入れ、FASTヘルメット セントリーをポーチから取り出すと同じく取り出してあったAN/PVS-15をそれに取り付けた。


〔更に20分後〕

「カトーさん、終わりました。」

そう声を掛けられる頃には各部隊は編成を完遂しており、目を見張った。

「そうか、全員居るか?」

「はっ、新編第1番隊、第2番隊、第3番、第4番隊、第5番隊 ―― 合計75名編成完結しております。」

スチェッキンはそう言った。

「そうか、なら只今から諸君に本作戦内容を説明する。

まず、この兵舎を離脱し付近の全兵舎を掃討。従順を望む者以外は抵抗するものすべて排除せよ、この任は第2番隊に任せる。

第3番隊は1個砲兵小隊と2個トラクター分隊の兵舎に向かい制圧または説得させ第2番隊に合流、この際持ち帰る事が出来そうにない砲火器は破棄してくれ。

第4番隊はここに収容されている民間人の保護と避難、終わり次第第3番隊と合流せよ。

第1番隊は俺と共に司令部の制圧を行う、中枢以外を制圧してくれ。あとは第5番隊、君らは各部隊の後方支援に回ってくれ。各自状況報告を怠らないように。

全ての制圧が終わったら民間人の救助、司令部連中の尋問を行い排水施設付近の出入り口を破壊・離脱した後にこの施設を爆破する、質問は?」

俺のブリーフィングに誰も口を挟もうとはしなかった、

「よろしい、新編第1番隊、第2番隊、第3番、第4番隊、第5番隊の部隊長。前に出ろ。」

「「「「「はっ。」」」」」

「部隊長の証だ、受け取れ。」

俺は前に出てきた部隊長らにそう言うと、M45A1 CQBPとそのマガジンをそれぞれ渡していった。

「あの、どう使えば・・・・?」

「時間が無い、自分で覚えろ。」

第2番隊の隊長がそう聞くに、俺はそう冷たく告げ一蹴した。

「日の出までにすべて片を付けるぞ、各部隊散会せよ!!」

俺はそう指示し、背中から第1番隊が付いてくるのを確認すると無線でこう告げた。

「状況開始、各員の武運を祈る。」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


〔ユーレイン連邦海軍 特殊作戦コマンドSOC”グレイシャークG2A中隊” 加藤・旭 伍長 〕

兵舎を新編第1番隊と共に他の隊から離脱した俺は、まず未だ周りをサーチライトが蠢く塔 ―― 司令部建造物の方へと向かった。

途中、周囲の偵察を行う為 木造のバラック小屋の屋根上に登った。AN/PVS-15の緑ががったその風景は塔を映し出していた、

「さて、見てみるか。」

ポーチから双眼鏡を取り出し塔を見てみると、塔のテラスに何人かの歩哨が立っていた。

「第5番隊、・・・・デーバス聞こえるか?」

〈はい。〉

「塔の上に複数名の歩哨を確認してる、支援する際は気を付けろ。」

〈了解しました。〉

俺は第5番隊隊長 ―― デーバスにそう報告すると、双眼鏡を下げメインアームのHK416A5を構えて塔の一番下部に居る歩哨に照準を定めた。


プッ


照点が合わさった刹那、俺はセミオートで1発撃った。かすれた銃声が耳を通り空薬莢がコロコロと音を立てて落ちた、5.56x45mm NATOボール弾はその名も無き歩哨の頭部を撃ち抜き命のくびきから解放された。

「よし、ヘッドショットか。」

俺は匍匐後進をして屋根を降り、戦闘偵察を終えた。



〔新編第2番隊 部隊長 アンドレ・フラー兵曹(旧グルカ王国軍属)〕

〈第3俘虜矯正場 — 軍用品庫周辺〉

今まで持たされていた旧式のケリントンライフル物干し竿を捨て、新たに配給されたM70B3を携え新編第2番隊を率い親衛隊が屯している軍用品庫へと向かっていた。

「しかし兵曹、こんな即興な作戦上手く行くんですかね?」

「おい、私語は慎め・・・・作戦行動中だぞ。」

「はっ。」

「兵曹殿・・・・、こんな戦力であの精鋭、親衛隊に勝つことが出来るんでしょうか。」

副小隊長で昔からの部下 ―― ボロヤ・カッシーニ兵長がM79とあの男が呼称していた中折れ式擲弾筒を持ちながらそう尋ねてきた。

「やってみるしかないだろ兵長、それしか選択肢が無いのだから。」

そう返答していると丁度目標の目の前に着いた、

「目標に着いた、部隊停止。」

そう告げると他の部隊員は停止した。

「総攻撃を行う、散開。」

我々は散開し、軍用庫の一つを取り囲む様に分かれると各々が携行している物を構えた。

「M79 直射用意、窓に向けて撃て。」

そう言うと横に居た兵長を含む数人がM79に配給された擲弾を装填し軍用庫の窓に向け撃った、


ポン ポンポンポンポン、 ―――― ドドン


軍用庫の窓からは風呂に入ってるにしては多量すぎる煙と共に一挙に火の手が上がり、そして我々はM70B3やAK-105を構え一斉射撃を加えた。


ドドドドドド タタタタタ ドドタタタドン


丁度軍用庫が蜂の巣になった所で、俺はこう下令した。

「射撃やめ、周囲の制圧を行うぞ。」

「「「「「「「「「了解!!!!」」」」」」」」」

我々は他の軍用庫を制圧する為に移動を始めた。



〈第3俘虜矯正場 — 大型車両庫付近〉

〔新編第3番隊 部隊長 ンマ・ジャガジャイヤ兵曹(元ウスリタン王国軍属)〕


ドドドォ タタタタン  ドタンタン ドンタタタ


「2番隊の連中、いよいよおっぱじめやがりました。」

横に居る副隊長のベイガル・ダックルナー兵長が対トラクター戦用の障害物に身を潜めながらそう言った、

「ああ、そうだな。」

「こっちもそろそろ始めませんかね、隊長。」

「敵が見えない状況で始めてもしょうがないと思うが。」

「ま、それもそうですね。」

〈こちら第5番隊、ジャガジャイヤ兵曹聞こえますか?〉

すると新編第5番隊の隊員から無線が入った、

「どうした?」

〈カトーさんが塔及び司令陣の歩哨を片付 ―― いや無力化した、そちらもそろそろ始めてくれ。〉

「分かった。

だそうだ兵長、全員移動するぞ。」

「はいはい、分かりましたよ。」

「「「「「「「「はっ。」」」」」」」」

我々はそれぞれM70B3やAK-105、ケリントンライフル物干し竿を持って立ち上がり 大型車両庫を検索し始めた。


〈第3俘虜矯正場 — 武装奴隷宿舎付近の道〉

〔新編第2番隊 部隊長 アンドレ・フラー兵曹(旧グルカ王国軍属)〕

我々は軍用品庫周辺を制圧し終えると丁度大型車両庫を検索し従順を示した砲兵隊の人員24名、無傷の東諸国仕様な武装装甲トラクター1両、歩兵トラクター2両とその乗員と整備員、友好的に降伏した親衛隊2名を味方に付けた第3番隊と合流し、途上で砲兵隊が保有していた砲火器を破壊しつつ親衛隊子飼いの武装奴隷達の制圧を行っていた。

奴ら ―― 武装奴隷と騒ぎを聞きつけやってきた帝国軍先遣隊はどこぞの親衛隊よりもしぶとく、寝泊りしていたであろう宿舎や障害物を盾に抵抗を続けていた、

一方我々はトラクターから取り外した対装甲兵器土嚢を停車させてある武装装甲トラクターや歩兵トラクターの周りに積み上げそこにまたトラクターから取り外した車載機銃を土嚢に設置し簡易ながら機銃陣地を形成しており。トラクターの後方では手隙の部隊員や砲兵隊、車両の乗員が負傷者の応急処置や弾薬分配、そして鹵獲し今でも残存した物資を守備していた。

しかしながらトラクターに搭載されていた弾薬、砲兵隊から拝借もとい鹵獲した弾薬や手持ちの物は総数の半分を使い果たし、備蓄燃料もあと僅かとなった今、目の前で立てこもっている武装奴隷と帝国軍先遣隊の制圧もしくは無力化が急務となっている今。何十発もの擲弾が撃ち込まれた宿舎から立ち上がる炎がぼんやりと夜闇を照らしつつ、双方から撃ち出されている銃弾が行き交っていた。

俺は手持ちの弾薬が無くなったM70B3の代わりに物資の中に紛れていたケリントンライフル物干し竿を一時的に拝借し、また全体指揮を行う為に歩兵トラクターの車内に居た。


「奴さんらこんな状態じゃあそこで永遠に籠城してるぞ!!」

同じく車内で俺の補佐をしていた第3番隊副隊長のベイガル兵長がそう怒鳴っていた。

「トラクターを前進させ早急に制圧させることを具申しますが。」

兵長と相槌を打つようにカッシーニがそう尋ねた、

「・・・・分かった、負傷者達を後方の2両に分乗させてから下げさせろ。」

「はっ、了解しました。」

カッシーニはそう頷くとハッチを開け激戦続く外へと出て行った。

暫くした後俺は全体指揮を一時的にベイガル兵長に任せると、ケリントンライフル物干し竿を持ち外へと出た。

後方ではすでに負傷者が歩兵トラクターへと分乗を開始しており、簡易的に設営されていた機銃陣地からも機銃が外されており前進の用意を進めていた。

そして俺は歩兵トラクターに置いてあったAK-105を拝借すると同じ場所にケリントンライフル物干し竿を置き、麾下部隊を確認しに行った。


〔暫くした後〕

負傷者全員が後方に後退し終え、そして残存人員が全員配置に付いた所で俺は無線を介して以前立て籠もりが続いている宿舎を制圧すべく前進を指示した。

「前進用意、前へ。」


ヴォン ドダダダダダ ――


そんなエンジンの排気音と共に歩兵トラクターと随伴している武装装甲トラクターともう1両の歩兵トラクターがゆっくりとだが前進を始め、


タタタタタタタタ タタタタタタタタ


歩兵トラクターの機銃手が車載のVz-156 5.6mm機関銃で前面に攻撃を加えつつ、後方から残存人員が盾にするように宿舎へと前進しつつあった。


〔新編第3番隊 部隊長 ンマ・ジャガジャイヤ兵曹(元ウスリタン王国軍属)〕

「おい、あいつ等突っ込んで来るぞ!!」

トラクター3両が前を押し出しつつ前進する中、ベイガル兵長が叫んだその先には今まで宿舎で立て籠もっていた武装奴隷と帝国軍先遣隊が雄たけびを出し銃剣突撃をしてきたのだった。

「突っ込んでくるとか聞いてねぇぞ! 総員近接戦用意、何でもいいからあいつらを止めろ。」

「分かってますよ隊長!」

俺ら第3番隊含む残った連中はM70B3やAK-105に銃剣を付け応戦を始め、前進を止めた。

「突撃! 突撃! 帝国の為に死ねぃ!!」 「黒い十字架団に栄光を!!」


ドン ドン ドン

タタタタタタタタ タタタタタタタタン


歩兵トラクターや武装装甲トラクターが37mm榴弾や車載機銃で応戦を始める中、我々も蛮勇とも言うべきその突撃に対する攻撃を始めた。


タタタタン タタタタン タ タ タ タァー


ターン、タタタタン


ポン、ポン、ポン ドドドン


それぞれ自前のケリントンライフル物干し竿、M70B3やAK-105、はたまたSVDと呼ばれる高性能狙撃銃やM79という名の擲弾発射機を用い接近して肉弾戦を仕掛けて来ている武装奴隷や銃撃しつつじりじりと前進してきている帝国軍先遣隊を物理的に粉みじんして行った。


「挽肉になりたいのか、これでも喰らっとけ!」 ポン、―― ドン

「これで蜂の巣だ!」 タタ、タタタタン


「どんだけ残ってんだよ連中は!?」 タン タン タン

俺は俺でそう愚痴りつつも弾切れとなったAK-105の代わりにカトーから直々にもらったM45A1という自動拳銃を丁度戦斧を兜割りの勢いで振り下ろして来た武装奴隷に向け零距離で撃ち込んだ。


――― どのぐらいかは知らないが、暫くすると宿舎側からの抵抗も止み奮戦の甲斐もあってか敵は降伏した3人の帝国軍兵卒を除き殲滅された。

残った残存兵員の中には第2次大陸戦争中に各々の国に尽くしていた物も居たが大半は戦争末期を現状を知らず後方に配置されていた者やそもそも軍属ではない者もおり、殆どが実戦闘 ―― 初めて銃を撃ち人を殺めた者だった。

最後の銃声が止み周りを見渡すとそれぞれ興奮が収まらず座り込む者、疲れ果て立ち上がれない者や負傷した者で部隊はばらばらとなっていた。

「終わりましたね、隊長。」

横で停車していた歩兵トラクターにもたれ、副官のベイガル兵長がそう呟いた。

「これで終わりだと良いのだがな・・・・。」

「・・・・さて、負傷者を介抱しに行きますか隊長。」

兵長が持っていたM70B3を杖代わりに使いつつ立ち上がるとそう告げた、

「ああ・・・・、それもそうだな」

俺は兵長と2人で周りに散らばる負傷者を見に行った。


〈第3俘虜矯正場 — 司令部周辺〉

〔新編第1番隊 部隊長 タッシナ・ジェールン兵曹〕

何処に潜んでいるかさえ不明な第5番隊に援護されつつも我々1番隊はカトー氏と共にこの収容所の司令部へと浸透しつつあった、司令部内部は薄暗く所々血痕や首元から大量に血を流した歩哨や関係者が何人も倒れていた。

「一体どうなって・・・・。」

俺は銃床を一旦折りたたんだAK-105を構えつつ、そう呟いた。

「・・・・地下だ。」

誰かがそう静かに言い、声が聞こえた方向を見てみるとカトー氏が居た。

「カトー氏。」

「この下の地下室が怪しい、何かがあるだろうから第1番隊で制圧をお願いしたい。」

「はい、それは了解しましたが・・・・カトー氏はどうされますのん?」

「この階から上まで全て制圧を行う、地下の制圧が終わったら来い。」

「はっ。」

カトー氏はそう告げると足音も立てず足早に去って行った。


〔ユーレイン連邦海軍 特殊作戦コマンドSOC”グレイシャークG2A中隊” 加藤・旭 伍長 〕

俺の援護兼司令部周辺の制圧を任せている第1番隊の部隊長に地下の掃討を任せ、俺はいままで着こんでいた戦闘服の光学迷彩ステルスの電源を入れ無音で建造物の階を上がっていった。司令部建造物の内部は螺旋階段になっており携行している H&K HK416A5を構えつつ上へと登って行った、すると螺旋階段とは別に分岐してドアがあり俺はそのドアを慎重に開けると内部へと侵入していった。

ドアの内部は殆どが白のタイルが敷き詰めてあり一見すると昔の学校でよく見かけた便所そのものだった、が完全にそれとは言い難く内部はいくつもの区画で分かれていた。

その区画の一つから物音がした、そう ―― かつて聞き覚えがあり忌むべき音。

男女が発する喧噪だが、この場所に似合わぬそれだ。

「やめ、いやいやいやいやぁぁぁーっん・・・・。」


"そう?ありがとう!お兄ちゃん。"  "離してくれ、雅子。"

"すまない雅子、行かなきゃならない。"  "行かないで・・・・ここにいて・・・・。"


「昔とはいえ思い出すな・・・・。」

そう呟き俺はHK416A5を背中にかけステルスの電源を切り代りにC96を持つとその響いた音のする方向へと駆けドアを蹴破ると、ドアの向こう側では小太りの男が10代の例の魔法使いと思しき蒼い目の少女をナニしようとしていた。

目の前で発生している凶行に対し俺は無我夢中でC96を撃った、


パン パン パン パン パン


5発を男の急所に撃ち込むと空の9mmパラベラム弾の空薬莢が音を立ててタイルに転がった。

「貴さ・・・・。」

男は全てを叫ぶ前に吐血し倒れた、そして俺は冷たい視線をその骸にやると蹴り飛ばし少女へと駆け寄った。

「大丈夫か?」

「・・・・は・・・はい。」

その蒼いまなこを持ち、茶髪ロングの少女は小さく呟いた。

「服、持ってるか。」

「はい・・・・。」

「そうか、君の裸も良いが今は服を着ててくれ。」

そう告げると地べたに横たわっていた華奢な体が起き近くにあった脱がされた服を着始め俺はその光景を見ないためそっぽを向いていた、背中から服が擦れる音やベルトの音などが聞こえてきたが特に気にしない事にしていた。

「あの・・・・。」

振り向くとそこには古めかしいドイツ軍服風味の制服に武骨で現代的なデザインのプロテクターを手足に装着し首筋には青い入れ墨の様な何かが刻まれた先ほどの少女が立っていた。

「ああ・・・・、大丈夫そうだな。」

「さっきはありがとうございました、助けてくれて。」

「あ、ああ・・・・。

自己紹介がまだだったな、俺はカトー・・・・人はそう呼んでいる。」

「私はリーシャ・マーキュレ、年は19で帝国の魔術師ギルドに所属してるわ。ここの司令部から直接個人依頼で防衛を任されてたけどさっきのに襲われてたわ。」

「そうか・・・・、それではリーシャと呼ばせてもらおうか。」

俺はそう言って彼女の白い手袋で包まれた細い手を握り返した。

「ええ、よろしくカトーさん。」

彼女もそう返すと握った手に力が入った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


〔第3人民矯正場 新任副司令 ロストフ・ルントシュタイン中佐〕

〈司令部内部〉

何故私はこんな事になって・・・・いや、これは己の正義感と私の部下。そしてここに無実の罪で囚われている人間全てを救い出すためにやった事だ、私は直属の上司に拳銃を向けているが己の通す道が通るのであるのならば、自分は死んでも構わない・・・・。

私の部下がそれを許すかは別だが・・・・。


〔夕刻 — 司令部施設にて〕

反乱扇動の罪で更迭された前任者 ―― リーチ・ウィザム元大佐の代わりに帝都の陸軍本部勤めだった私が着任し到着したのが今日の昼過ぎだったが、一緒に帝都から付いてきた古巣の部下達の事もあり最終的に時間が空いたのが夕方になってからだった。

私は食堂で夕食を食す前に司令部がどんな様子かと気になり、副官のフランツ・ヒンキ大尉を共に連れ周辺の見回りをしていた。

司令部内は特に忙しい様子も散見されず、兵士や司令部兵員などが歩き回っていた。

「中佐殿。」

そう声を掛けられ後ろを振り向くと、小太りで眼鏡をかけた士官が立っていた。

「何だね。」

「小官は司令部直属のオガル・ヤキンコフ大尉、司令部防衛の任を任されております。丁度赴任してきた中佐殿の話を聞き参上した次第であります。」

「そうか・・・・、ここでも私は名が知られているか・・・・。」

「ご謙遜を、前の大戦では幾多の無謀と呼ばれた作戦を成功させ今では”作戦の元締め”と呼ばれている中佐殿ではありませんか。」

「そうか・・・・。」

「そうでありますよ中佐殿、それでは後ほど。」

そのオガルとかいう大尉はそう言うと敬礼し走り去っていった。

「”作戦の元締め”か・・・・、部下を守ろうとしただけなんだがな。」

「中佐。」

すると横で目を細めてオガルと私の会話を神妙そうに見ていたヒンキ大尉が口を開けた、

「どうした、大尉。」

「あのオガルとかいう大尉、怪しく見えるであります。」

「どういう事だ?」

「匂いませんでしたか、あの大尉の制服。」

「・・・・まあ、言われてみれば確かにそうだな。」

「大尉はもしかして・・・・」

「ここのどこかで某のナニをしてるという事か」

「・・・・はい、言いずらいですが。」

「・・・・いい見識だ、大尉。

今は頭の隅に置いておこう、着任早々だしな。」

「はっ、感謝の極み。」

そんな事を周りに聞こえない程度の小声で会話していると、建物の窓側で高踵靴を履いた軍服姿の少女が煙管キセルで刻みタバコを服していた。

「大尉、少し頼む。」

私は大尉にそう告げると、その軍服姿の少女へと向かって歩いて行った。

「・・・・一人で、寂しくは無いか?」

「そうね・・・・、慣れっこよ。

貴方は?」

私がそう告げると彼女は煙草の煙を窓の外に吐き、その蒼く大きな目をこちらにやると緋色の唇を開けこう言った。

「私には私を慕う部下達が居る。」

「そう・・・・、私にはそんなもの無いわ。」

「見るからに魔術師ギルドの魔術師といった所か?」

「・・・・もう昔の事はあまり思い出せない、私が一体何処の誰であったのかさえも。

何十年何百年と戦闘魔法士をして来た・・・・・、国に頼まれて。」

「・・・・・そうか。」

「私には3個軍団級の力があると、ミチューリンさんとの約束だからと国のお偉いさんは言って私を雇い続けた、だけど私には仲間と言えるものは無かった。」

「・・・・・煙管といい高踵靴といい、大丈夫なのか?」

「私もしたくてこんな物を吸ったり履いたりしてる訳ではないわ・・・・・しきたりよ、私の家だった物の。」

彼女は再び煙管を口にやると、ぽつぽつとそうなじるように告げた。

「そうか、また話が出来ると良いな。」

「あなたは?」

「ここの副司令だ、もっとも・・・・・新任だがな。」

私は彼女にそう言うと、待たせていた大尉の元へと向かった。


〔数十分後 ― 司令部地下士官食堂にて〕

あの後、私は大尉と共に士官用食堂へと向かった。すでに私の部下達はすでに食事を始めており、他にオガル大尉や他の士官達も居た。

私は大尉と共に人が少ない席を陣取り、主食のパンを野菜スープを添えて食し始めていた。

「そこの席、よろしいか?」

すると無精髭を生やした長髪の士官が夕食が盛られたプレートを持ちそう私に尋ねてきた。

「ああ、良いとも。」

私がそう返答するとその士官は頷き空いていた席 ―― 丁度私の正面に座り、パンをちぎり口に運んだ。

「貴官、名は?」

「はっ、自分はフローレンス・マグナ准尉 帝国陸軍諜報部付調査官です。そしてあなたはロストフ・ルントシュタイン中佐、本日付けでこちらに赴任してき筈。」

「諜報部か、流石の情報収集能力だ。准尉」

「ありがとうございます。」

彼は焼いた骨付き鶏肉をほおばりながらそう言った。

「見た所、その態度・・・・降格されたのか?」

「流石は”作戦の元締め”、分かりますか?」

「ああ。

しかし何故だ准尉、諜報部付ならエリートコース・・・・佐官待遇になっていない筈だが。」

「・・・・聞きますか、理由を?」

「勿論だ、着任早々だがこの施設は色々とあり過ぎる・・・・解決せねばならん。」

「分かりました中佐・・・・、貴方の前任者 ―― リーチ・ウィザム元大佐の事はご存じですか?」

「資料で見た程度なら、確か・・・・反乱扇動の罪で更迭されたのだったか。」

「ええ、”表向き”はそうなっています。」

「”表向き”だと?」

「はい、リーチ元大佐はこの人民矯正場について知り過ぎて消されたんです。」

「・・・・・どういう事だ。」

「大佐は元々私と同じ陸軍諜報部出身で、色々の伝手を使いここに関する情報を収集していました・・・・・。収容者に対する暴力、犯罪組織との癒着、収容者を慰安婦として軍で利用、他にもあります。私は大佐の協力者として、友人として交友していました・・・・なので収集した情報は全て小官に教えてもらいました。」

「そうだったのか・・・・。」

小声で淡々と喋るマグナ准尉を尻目に私は唖然とした顔で水を飲み、私の横に居た大尉は言葉では形容できない表情をしていた。

「例えば・・・・あそこに居るオガル大尉、中佐はどう思われますか?」

「あ、ああ・・・・勤勉そうに見えるが。」

「あの大尉は騙しの達人、しかもここの収容者を私物化しています。」

「・・・・話を続けて。」

「ウィザム元大佐と小官はそれら収集済みの情報を帝都への報告書にする為に行動を開始していました、しかしそれを察知したオガル大尉と司令はぐるで大佐を逮捕しました。

その後は中佐も知っての通り更迭、現在は地下牢に軟禁されています。」

「・・・・情報は?」

「今は小官が。」

「そうか。」

「・・・・・少尉だったオガルは特進して大尉に、元大佐の内通者は即刻全てが異動となりました。」

「准尉、私は貴官が何故降格されたか尋ねただけなのだが。」

「大佐が更迭された後、私は行動を引き継ぎ遂行しようと試みようと思いましたが司令は少佐だった私を准尉に降格させ諜報部付調査官に異動になりました。」

「少佐、だったか。

私は貴官を権限の下で補佐官として起用しようと思っているのだが。」

「・・・・考えておきましょう。

いやはや長々と独り言を・・・・、申し訳ないです。」

「癖ならしょうがない、マグナ准尉。」

私はすっかり冷めてしまったスープを飲み始めた。


〔3時間後 — 司令部上階副司令室〕

あの後マグナ准尉とは別れ、ヒンキ大尉を連れ自室 ―― 副司令の私に割り当てられた副司令室 ―― へと戻った。

室内は未だ開封されていない荷物類がどかどかと置かれていた。

「中佐殿」

最初に口を開けたのは大尉だった、

「どうした少尉?」

「我々、これからどうするのですか・・・・。」

「・・・・・。」

「少佐、いや・・・・”隊長”。」

「私はもう中佐だぞ、軍曹。」

「分かっております・・・・・。」

再び場は静寂となり。

「・・・・少尉、頼まれ事を一つ良いか?」

「何でも。」

「総員に小火器の携行を命じる、即刻だ。」

「はっ・・・・、しかし中佐殿。そんなことをすれば・・・・」

「覚悟の上だ、私は前任者と同じ運命を辿るだろう。

だがヒンキ、これだけは伝えておく。これはあの時・・・・ヴェータサスで起きた”あれ”よりも、属していたベルガ帝国陸軍が解体され我らが栄えあるコルリス帝国に忠誠を誓ったあの時と同じ気持ちだ。」

「・・・・。」

「クーデターだ。」

私は既に開いた荷からホルスターに丁重にしまわれたコルベ ジブラルタル回転式拳銃とばらの弾薬を渡した。

「これは・・・・、中佐殿の愛用の。」

「お前・・・・前から欲しがってただろ、ヒンキ少尉。」

「はっ・・・、はっ!」

少尉は代りに今まで携行していた回転式拳銃を私に渡すと敬礼し、

「私に何かあったら貴官が要だ、頼むぞ・・・・軍曹。」

「はっ、ルントシュタイン隊長。」

ドアを開け去った。


〔更に数十分後 ―― 司令部指揮所〕

私は覚悟を決め私の居る階の更に上 ―― 司令部指揮所へと階段で歩みを進めていた、上へ上へと昇りつつも思考を止めず15分もかけ指揮所の鉄扉を潜った。

指揮所内では第3人民矯正場の長 ―― 司令のアドリ・ラスキ少将が麾下指揮官であるオガル大尉やその取り巻き数人らが直接指揮を行っていた。だがその周りでは私の命令通り小火器を隠密携行した私の部下が数人、すでに待機していた。

「来たか、ルントシュタイン中佐。」

私が入ると否や敬礼すると少将はぼそりと発した、

「はっ、本日付で第3人民矯正場副司令として着任いたしました・・・お見知りおきを閣下。」

「そう固くなるな中佐、はるばる帝都からこんな辺境まで申し訳ない事をしたな。」

「いえ、閣下からの労い痛み入ります。」

「私もな、貴官の事を非常に尊敬しているのだよ・・・・前の大戦では幾多のも難解な作戦を覆し今の帝都方面では”作戦の元締め”と呼ばれているみたいじゃないか、中佐。」

「前の大戦では幸運に恵まれ過ぎました、部下に恵まれていなければ小官の様な若輩者・・・今頃戦死していましたよ閣下。」

「はは、貴官のその幸運も技能の内だ。前線でしかできない事だ、過小評価する物でもなかろう。」

「恐縮です。」

ここから暫く静寂と微かに作業音が空間を覆った、


「しかし中佐、」

だがその静寂はラスキ少将の言葉で破られた

「はっ?」

「貴官には中佐の前任者の様にはなって欲しくないと私は思う。」

「はっ・・・・。」

「ウィザム大佐・・・・はは、今は元大佐か。

彼は知り過ぎたのだ、ここの内情をな。」

「・・・・・元大佐でありますか。」

「そうだ、だが知っているのは私と大尉・・・・そして君だけになるがね。」

「・・・・はっ。」

「まあその内君も理解できるようになるだろう、勉強したまえ。」

そう少将に言われると同時に部下に目配りをやると自動拳銃を抜き少将に向け、

「何の真似だ中佐、」

少将はバツの悪い口調でそう言った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


〔第3人民矯正場 新任副司令 ロストフ・ルントシュタイン中佐〕

〈司令部指揮所〉

「何の真似だ中佐、」

少将はバツの悪い口調でそう言いつつ、手を挙げた。

「中将閣下、初対面で非常に申し訳ないのですがあなた方が共謀して人間以下の行いをしている事を知ってしまった。

ゲンガー、中将"閣下"と大尉"殿"の武装解除を行ってくれ。」

「了解です中佐」

そう下令するといつの間に周辺の人員を拘束していた部下の一人が中将から拳銃と短剣、大尉から回転式拳銃を取り武装解除を行った。

「貴様らっ!! 忠義心を何処いずこにやったか!!」

すると拳銃と短剣を奪い取られタガが外れた様子のラスキ少将が私に向かってそう怒鳴ったが、

「忠義心を素で語るな腐れ外道。」

そう返すしかなかった。


〔ユーレイン連邦海軍 特殊作戦コマンドSOC”グレイシャークG2A中隊” 加藤・旭 伍長 〕

俺は帝国魔術師ギルドのリーシャと共に区画から出ると時より上から聞こえてくる物音や喧噪に耳を欹てつつ螺旋階段を上がっていた、

「カトーさん、」

するとリーシャが恥ずかしそうに俺を突っつき。

「どうした?」

「私を助けてくれる前に・・・・、ヤーパナの剣を見てない?」

「ヤーパナ・・・・?

あ、ああ・・・・一応"日本刀"なら拾ったが。」

俺はそう答えると少し冷や汗をかきつつアイテムボックスから潜入した際兵舎で拾った日本刀 ―― 奇刀任禅を取り出すと彼女に渡した。

「やっぱり、こっちに来た時に置き引きされちゃって困ってたのよ。」

「置き引きって・・・・、刀って置き引きされる物なのか。」

リーシャはそう言うと手慣れた風に刀を腰に据え直した。

「でもよく無事だったわね。」

「と言うと?」

「この剣、触れた時に何ともなかった?」

「あ、ああ・・・・鼓動の様な物が聞こえたような気がしたが、何かあるのか?」

「このヤーパナの剣は代々私の家に受け継がれてる古代武器で、家の掟でこの剣を持って死ななかった人間は私と眷属関係を結べるのよ。」

「え、そうか・・・・。」

そうなのか・・・・。

そんな風に彼女と駄弁っていると上の方から人の喧騒が聞こえて来た。

「いよいよだな。」「そうでありますな・・・・。」「中佐、本当に貴方という人は・・・・。」

俺はHK416A5の安全装置セーフティーロックを外し、臨戦態勢でリーシャと共に人の声がする上階へと上がり。通信室とみられる部屋の中で話し込んでいた数人にメインアームを向けてこう言い放った。

「両手を上げ、武器を捨てろ。」

「撃つな撃つな、我々もクーデターの一員だ。」

「証拠は?」

俺はHK416A5のトリガーに指をかけそう告げた、

「強いて言うなら、私自身と言うべきか。」

すると相手集団の中心格であろう男が、椅子に座り足組みしたままそう言った。

「あなたは・・・・。」

そしてその男を見たリーシャは呟き、

「久し振りだねお嬢さん。」

「ま、こういう事だ。」

「そうか・・・・、友軍か。」

俺はHK416A5のトリガーから指を外しそう言った。

「カトーさん。」

「どうした?」

煙管キセル吸っていい?」

「ああ・・・・、まあもうすぐ終わるだろうしな。」

「ありがとう。」

俺がそう言うと彼女は懐から煙管と巾着を取り出し、巾着の中に入っていたタバコの葉を火皿に詰めると火を付けて吸い始めた。

「それでだ、」

リーシャが一服しているのを横目に今まで着座していたままの男が立ち上がりそう俺に告げたのに対し、

「一応だが貴官の名前を聞いておこうか。」

「そっちから名乗るのが筋だと思うが?」

俺はメインアームを持ったまま冷静にそう返答した。

「それもそうかもしれんな・・・・、

コルリス帝国所属のリーチ・ウィザム元大佐だ。表向きには反乱扇動罪で更迭されたが、この通り軟禁されていた。

貴官の名は?」

「大佐殿でありましたか、これは失礼致しました。

小官はケルレナ・マルティス解放軍所属の加藤・旭伍長であります。」

「ケルレナ・マルティス解放軍か、聞かぬ名だが・・・・詮索は不要だな。

伍長、その身形・・・・異世界の民か?」

「え・・・・」

何でこの人知ってるんだよ。

「まあ深い話は後だな伍長・・・・、そっちは如何ほど持ってる?」

「今の所は75名で現在ここを含む全施設を制圧する作戦を遂行中です、そちらはいかがですか?」

「そうか、こちらはここに居る人員を含めると20名。

あの私の役職の後任君の隊員らを含めると27名程度になるか。」

「十分ですね、やはりここは共闘・・・・ですか。」

男 ―― もとい元大佐の後方で動揺している兵士らに目を配り、

「そちら側はいかがいたします、大佐殿?」

そう問うた。

「ふむ・・・・。」

そして元大佐は暫く沈黙し、

「言葉はこの際無粋だな・・・・是非とも貴官の博打に乗らせてもらおうか、伍長。

一切の指揮は君らにお任せする。」

そう言い放った。

「はっ、大佐殿。」


バタッ


俺が元大佐にそう伝えるのと同時に何かが倒れる音がし、振り向くと後ろで煙管をしていたリーシャが床面に倒れていた。

「大丈夫かリーシャ?」

「ieliN 'd loC ・・・大丈夫よ、ほっといて。」

彼女を介抱しようとした俺はそう言われ、後ずさった。

リーシャの眼色は今までの蒼から火の燃えるような深々とした紅に変色し緋色の唇は血液に似た赤紫色になっており、肩にかけて彫られた彼女の入れ墨は青炎のように滲み光っていた。

そして体躯は幼い未発達の華奢なのから成長した、豊満で筋肉張った魅力的な体になっていてその”彼女”は奇刀任禅を杖代わりにし立ち上がり再び持っていた煙管に火を着け直し吸い始めた。

「本当に、大丈夫なのか?」

リーシャのその依存に吸う喫煙を見た俺は再び、本気で尋ねた。

「心配性ねカトーさん”も”」

彼女は紫煙を吐くと仄かな笑みを見せそう答えると、

「久し振りにこの煙管キセル ―― いや、魔力促進剤を吸ったから少し立ち眩みがしたのよ。」

こう続けた。

「魔力促進剤だと?」

「ええ、私の力とこの剣との相性が良くなるのよ。ただ体がヘンになったり人間性が消えかかったりしちゃう副作用もあるけどそれはそれ、仕方ないわ。」

「そうか・・・・、でもいいのか? それで」

「いいの、家の掟だし。これも”お父様”が調合してくれた物だし、例えこれが体に良かろうが悪かろうがそれが結果的に私を魔導の高みに近づく事になるんだったら私は一向に構わないわ。」

リーシャは漆黒の髪をなびかせ、そう言うと再び煙管を吸い紫煙を吐いた。

「そう、か・・・・。」

「ホントーに心配性だねカトーさんは・・・

そんなに私の事が心配ならさっきのオ・レ・イ、させてあげよっか?」

更に彼女はその蕩けそうな目で俺を見つめ、最後にそんな甘ったるい声でそう囁いた。

「・・・・・。」

一体この状況で何をしようとしてるんだこの少女は。

「異世界の彼をそう虐めてやらないでくれたまえ、魔術師のお嬢さん。」

さっきからの茶番を外野から見ていた元大佐が、そうボソりと告げた。

「へへへ、分かったわ。

そろそろ行くの? カトー」

「ああ、煙管はその辺にしておいてくれ。」

俺がそう言うとリーシャは煙管の火皿にあった灰屑を落とし揉み消した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


〔第3人民矯正場 新任副司令 ロストフ・ルントシュタイン中佐〕

「忠義心、忠義心ですか・・・・それが存在しないのは少将の方でしょう!!!!」

私は少将の反論にそう大喝した。

指揮所に居た人間の中で私の部下以外は大半 ―― 少将の巾着袋共が狼狽し、一部は白け、そして冷ややかな目と共に何も言わず少将の方を見つめていた。

「ふ・・・・ふははははははぁ!! あくまで私がそうだったとしても私が大罪人だという証拠はあるのかね中佐?」

「この中であなたに賛同し味方する人間は居ません、少将”閣下”。」

まあ、少数の人間の反応が誰に取っても妥当な反応だろう。

「その通り。」

後方でそんな事を言う声がした、見てみるとマグナ准尉と高踵靴の少女そして異形の風貌をした人物と私の部下、と私の前任者であろう男が立っていた。

「あんたの言うとおりだ。」

「副司令、前!前っ!!」

近くに居た部下がそう叫ぶ、前を見ると少将は折り畳み式の短刀を持ち奇声を発しながら私に向かってきた。

「ほうわぁぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああああぁぁ!!!!!!」

奇怪な軍服を羽織った男に成り果てた少将の最後の足掻きとも言える行動を私はいつも通り避け、避けられたのをその体勢を支えきれずよろけている所をその足に向け撃った。


ダン ダン ダン ダン


「うがっ」

細く呻いた少将は手からその得物を滑り落とし、跪く様に倒れた。

「大丈夫ですかっ中佐殿!!」

准尉はそう慌てつつ私の方へ駆け寄って来た。

「ああ、私なら大丈夫だ。」

「それは良かった、そう言えば貴方に紹介したい人が・・・・。」

そう言うと准尉は私の前任者であろう男を引っ張って来た、

「自分はリーチ・ウィザム元大佐、お助け感謝する。

まあそう言っても現行の帝国軍法下では戦犯も同様ですがね。」

「貴官が、こちらこそと言わせてもらった方が・・・・。

切っ掛けを作っていただきありがとう。」

私はそう答えると男 ―― 元大佐と固い握手を交わした。



〔ユーレイン連邦海軍 特殊作戦コマンドSOC”グレイシャークG2A中隊” 加藤・旭 伍長〕

周りが一連の喧噪に対しざわついている中、俺は無線で第1番隊を呼んだ。

「1番隊、聞こえるか。」

〈ザーーーッ、はい聞こえます。〉

「司令部上層階の制圧は終わった、そちらはどうか。」

〈はっ、地下室で我々は無傷で男女含め9人を収容。俘虜4人を生け捕りにし、現在は全部隊と共に補給作業中です。〉

「そうか、我々ももうすぐ合流する。」

〈はっ、ブチッ。〉

無線を切り、俺は周りに向かってこう告げた。

「皆さん、私の部隊が全施設の安全を確保しました。合流しましょう。」

「反乱軍が存在するのか、ここに?」

他から”副司令”と呼ばれていた人物が私にそう尋ねてきた。

「はい、既に待機させてあります。」

「そうか・・・・、皆この男に従おうではないか。」

彼はそう周りに向かって告げた。

「リーシャ、行こうか。」

「ええ、そうねー」

「こんな所でふて腐らないでくれ。」

俺は横で出番が無いのに不満げでブーと頬を膨らませながら背中をつんつんして来ている彼女にそう言い、ドアへと向かった。



〔新編第4番隊 部隊長 エービッヒ・ジャン・スチェッキン軍曹(旧スハルト民国防衛隊所属)〕

〈司令部正面〉

自分は他の番隊隊長と共に補給作業や状況把握に勤しみながらカトーの合流を待っていた。

すると司令部の出入口ドアが盛大に開きカトーを先頭に司令部に居た者らがぞろぞろ出て来た、そして列の最後には2名の士官に抱えられながら足が血まみれのあのクソ司令が出て来たのには自分も周りに居た連中も吹き嘲笑の的と化していた。

「スチェッキン、状況はどうだ?」

カトーが自分の方に歩いて来るとこう言った。

「はい、総員75名の内4名が戦闘中に負傷し現在は手当てを行っています。

そして新たにトラクター3両、砲兵隊員24名、整備員9名、トラクター乗員16名と親衛隊2名、更に俘虜5人を生け捕りし男女9名を収容いたしました。」

「そうか、素晴らしい。」

「ありがとうございます」

「そう言えばスチェッキン、ちょいこっち良いか?」

自分は言われるままにカトーに同伴した。



〔ユーレイン連邦海軍 特殊作戦コマンドSOC”グレイシャークG2A中隊” 加藤・旭 伍長〕

俺はそう言い、さりげなく司令部建造物の裏手に回った。

「なんでしょうか?」

「ちょっくらこれを見せてやる。」

俺はそう言って幻想魔法でDAF YP-408 装輪装甲車を現出させた。

「おお! これは・・・・」

「スチェッキン、カチンを呼んで来てくれ。」

「はっ。」

スチェッキンがそう言い表に向かうのを確認し見計らいつつまた新しくYP-408を3台、BTR-60PAを4台現出させた。

「何ですかカトーさん、って何ですかこれはぁ!?」

スチェッキンに連れられやってきたカチンは驚きに任せそう言った。

「カチン、これの運転出来るか?」

「は、まあ昔にトラクターを少々運転した事はありますが・・・・

やれと言われればやりましょう。」

「そうか、なら頼む。

スチェッキン、各隊の指揮官にこれを下令してくれ。」

「はっ。」


〔数分後〕

各部隊が集まり、俺はこう話し始めた。

「これから残存物品および俘虜回収作戦の手筈を説明する、

まず第1番隊はトラクター整備員を載せ軍用庫へ向かいトラクター用整備器具の回収及び付近で擱座しているトラクターを自走可能な範囲での応急修理を行え、第2番隊は砲兵隊員を同じく軍用庫へ連れ残存する武器弾薬を可能な限り回収、第3番隊は食料の回収、第4番隊は俘虜の救助を行ってくれ、私含め第5番隊はここに残る人員を正門まで移動させる。ただし空の建物は火を放ってまで破壊してくれ、そして出来るだけ多くの生存者を連れて帰ってくることを切に願う」


「そして各員、これがここでの最後の仕事だ。せいぜい気張れや。」

そう締めるとこちらを見ていた兵士達が動き出し始めた。


〔また更に数十分後〕

あの後俺は残った人員とトラクターと共に正門へと向かった、正門は簡素な木製でおまけ程度に金網が張ってあり鍵もかかっていたが結局の所トラクターで突破することで両通行できるようになり門としての役目は終えていた。

俺はリーシャと共に全ての部隊の撤収を待っていた、そしてふと彼女にこう言った。

「リーシャ。」

「ん、何ぃ?」

「リーシャが持っている魔術で山や森を薙ぎ払う事って出来るか?」

「ええ、出来なくは無いわ。でも何で?」

「まあ、あれだ。

このまま彼らを連れてはい放浪しますよとはなる筈も無いからな、俺的にはこのまま”あそこ”に退避出来るまでの仮拠点ぐらいは欲しいと思ったまでだ。」

「仮拠点、ね。」

「近くの高所にでも登って良さそうな所を木だけさらっぴんにしてくれないか?」

「・・・・分かったわ。」

彼女はそう答えると立ち上がり近くに建っていた電柱にジャンプし飛び乗り、

「うーん・・・・、あそこかなぁ。」

その先端に立ち、そう呟いた。

「カトー、他の人たちを後ろに下げさせて。」

「あいよ。」

そう言われ、俺は一部始終を聞いていた周りの人間や車両を彼女が立っていた電柱から数メートル後方へと下がらせるように促し始めた。


「終わったぞリーシャ。」

しばらくし、下がらせた場所が隊員やその他の喧噪で騒いでいるのを気にせずに俺はそう伝えた。

「そう、じゃあ始めるわよ。」

彼女はそう言うと腰から提げていた巾着袋から錠剤の様な物を取り出すとそれを口に投げ入れ、そのまま日本刀 ―― 奇刀任禅を抜くとボソボソと呪文のようなものを唱え始めた。

「ieliN 'd loC われが想い敬い信じし天上てんじょうあるじ、神官よ我に力を与えたもうや・・・・。」

するとリーシャは抜刀しながら立っている電柱の先端が少しづつ明るくなっていき、挙句の果てには彼女自身が薄れて見える程眩い明るさになっていた。

「・・・・我が命を引換し天上の力、顕然せよ・・・・・ううっ・・・ああっあん神官様ぁぁああっーー!! Aaglov vehs'p iukkalremmus!!」

そう湿っぽく叫ぶと刹那、周りが昼の様な明るさとなり青色の光線がまっすぐ外の方へと飛んで行った。そして耳を塞ぐような高音、目を塞ぐような閃光に身体の自由を奪われた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



閃光と音が消えたかと思うと、あの見慣れた白い亜空間に身を置いていた。


「何年振りか、この空間を見るのは。」

「戦神の息子よ、久しいの。」


そして目の前には同じく見慣れた白い服を着たよぼよぼの老人が居た。

「久し振りだな爺さん。」

「馴れ馴れしいの、だがこの際それは構わぬ。

ここにいるという事はお主も遂にその命燃やし尽くしたか?」

「馬鹿言え、簡単にくたばってたまるかよ。

ていうか爺さんも神様なら俯瞰なり何でも出来んだろ、見てたんだろ・・・・この8年間?」

「ふぉっふぉっふぉっ・・・・、お主も少しは分って来たではないか。」

「爺さん、単刀直入に聞くがな。

あの少女が使ってる”あれ”は何だ? あんなの初めて見る物だぞ」

「ああ、あれかの・・・・・

あれは、””じゃ。」


「禁忌だと?」

禁忌、という早々出てくることが無いパワーワードに思わず柄にもなく二度聞きしてしまった。

「いや正確には完全な”禁忌”ではないが・・・・」

「どういう事だ爺さん」

俺は思わず老人に詰め寄った、

「遥かな大昔にとある研究熱心な若造が開発した高出力の魔法術式じゃよ、高威力が過ぎるが故、地上のパワーバランスの均衡を崩すじゃろうからわしが直接赴いて本人の記憶諸共一切合切”消去”した筈なんじゃがな・・・・。

まさか今になってその”禁忌”の片鱗を見る事になるとはな、我ながらお笑い者ぞよ。」

「高出力、ねぇ。」

「ミチューリンの若造めがもう何世代も前に死んでおろうに、ようも年月を越えて儂を引っ掻きおるとはな若いのに大した物よ。」

すると再び空間が光り輝き始めた、

「おっと、そろそろじゃな。」

「へっ、勝手に出て来て勝手に消えるんだな爺さん。」

「これに関しては仕方ないんじゃよ、なんせ”ことわり”なんじゃからな。」

「・・・・・。」

「あれじゃな、あの娘っ子・・・・気を付けないと大変不味いことになるから目を付けていた方が良いぞよ。」

「は?」

「魔法術式の副作用じゃよ、あのままだとあの娘っ子 ――――― としての理性が ―― してしまうんじゃよ。

まあ、 ―――――― を使わなければ ――― 」

「よく聞こえねぇぞ爺さん!!!」

空間が更なる高音と閃光で包まれる中俺は叫んだ、

「戦神の息子よ! スキルばっかり ――― 儂の与えた ―――― と使えい!」

最後にそう微かに老人が言うのが聞こえると再び身体の自由を奪われた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



少ししてその両方の障害は排除され半んば麻痺した手足を引き摺るように立ち上がった、すでに周りに居た中で数人は目覚めておりリーシャは俺をきょとんとした顔で見つめていた。

「だいじょーぶー、カトーさん?」

そう訊いてきた

「あ・・・・ああ、何が起こった。」

「並の力がないとこれには抗えずに倒れちゃうのよね、仕方ないけど。」

彼女は少し青白くなった自身の手指を遊びながらそう呟いた。

「その指・・・、人間に影響が ――― 」

「ないわ」

「本当に?」

「ええ、本当」

マジであの爺さんの言う通りじゃねぇか・・・・。

「カトーさん! あの閃光は一体・・・・。」

すると後ろに控えていたDAF YP-408の内1台の上部ハッチが乱雑に開かれスチェッキンが出てくるとそう言ってきた。

「スチェッキンか、彼女にあそこの森を適度に薙ぎ払ってもらっただけだ。」

「森を薙ぎ払ったって・・・・、何気に凄い事を簡単に言いますが戦術魔法か何かでも使ったんですかこのお嬢さん?」

「へへ、私一応魔術師ギルドにいるんだけど?」

そんなスチェッキンのとぼけた発言にリーシャはそう白けつつなじった。

「他の部隊とかの異常は?」

「いえ、状況把握の内には特にありません。

俘虜や生き残り等も全員無事です。」

「そうか・・・。長かったが、遂に終わったか。」

俺は装甲車やトラクターのハッチから外に出て新鮮な空気などを吸っている人員を眺望し呟いた。

「そうですね。」

「だがここからが問題だ、さて・・・ここからあの更地へどう運んだものか。」

「流石に人力では隔てた川を渡る事が・・・・。」


「まあ、だろうな。」

俺はそう言い、リーシャの方を向き。

「リーシャ、魔法で我々をあそこの山まで飛ばすことは出来ないか?」

「もー、無茶ぁ言ぃ過ぎぃだよーカトーさぁん。

まほーはぁ、べんりなどぉーぐぅ、じゃないよぉー?」

・・・・なんかおかしくなってないかこの魔法少女?

「一日でー、こんなにー、たいりょーの魔力マナをつかうとー、私も―つかれるしー、体力もこんなかんじに―、なくなっちゃうのー

カトーさぁんは、かぁーんたぁんにー、おぎなえるのだろぉーけぇどー、わたしにぃはぁむぅーりぃーよぉ。」

彼女は姿はそのまま、ふとかつての妹を思い出しそうな口調でそう言ってきた。

「それ本当に大丈夫なのか・・・?」

「わぁたぁしぃはぁ、こぉどぉもぉのぉころからぁ、こぉやぁってぇ、”おとぉさぁまぁ”がぁ、ちょうごぉうしぃてぇくれたぁ、”きゃんでぇー”をのぉんでぇたりぃ ―― 」


ゴクッ


リーシャは意識が飛びそうな蕩けた口調と表情で巾着袋をまさぐり再び錠剤の様な物を取り出すと口に放り込み、


「・・・・動物の心臓や生の血肉、人間の心臓や生の血肉を喰らってきたのよ、”家”の仕来りでね。」

表情は蕩けたまま、口調は正常に戻りそう続けた。

「・・・・そうなのかリーシャ。」

あの爺さんが言ってた”ミチューリンの若造”とかいうのが彼女が言う”お父様”に関係あるんだろうが・・・こりゃ非常に不味い状況だな、スチェッキンなんて恐怖で震えてるぞ。

「それで、正直な所・・・・どうなんだ?」

「え・・・ええ、喰らいたいわ。

カトーを喰らったらぁ、きっとぉお腹一杯に、カトーさんとぉひとぉーつにな・る・の・か・も・ねぇ、えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ・・・・・・。」

ただのメンヘラ魔法少女じゃねぇか、どうするんだよこれ。

にこりと笑みを浮かべた彼女の歯には、よくアニメで出てくる吸血鬼が持つのと同じ大型の犬歯が生えていた。

「・・・・。」

「私も身体の統制で一杯一杯でぇ、他にぃ何かぁをするのは無理ぃよ。」

「そうか・・・・、スチェッキン!!」

「は、はいっ!?」

「ちょっとこっち来い!」

俺は強引にスチェッキンを引っ張り、正門だった場所から距離を置いた開けた場所へと向かった。

「何ですかカトーさん!?」

「これを見せてやる」

俺はそう言うと新たに幻想魔法でOD色の旧ソ連製 Mi-10K 重輸送ヘリコプターを現出させた。

「うへぇ! 何ですかこれ ――」

「中入るぞ!」

またスチェッキンを引っ張ると側面ドアを開け、コックピットの内部へと侵入した。

コックピット内部の新品同然な計器類が目を彩らせてくれる中、さっきとは裏腹に真剣な顔でこう言い放った。

「もしあのお嬢さんリーシャが暴走したら・・・・、分かるな?

今までやって来た事が無に帰す、そこでだ。」

「これで人員を向こう岸の山まで輸送する、ですか?」

「その通りだ、俺はこいつを使って部隊や生き残り達をあの更地まで輸送する。

だがこいつはあくまでも1回につき70人、90人がせいぜいだ・・・・

スチェッキン、各番隊に荷物を纏める様にと・・・あと、再度状況把握及び人員の確認を徹底するように下令してくれ。

いいな?」

「こ、これで・・・・これでもし我々が死ぬような事があれば・・・・。」

「神様の奇跡をやらを祈れ。

ただ、死なせはしない・・・・・ほら、かかれ。」

俺がそう彼の背中を軽く叩くと、スチェッキンは外へと飛び出した。


〔数十分後〕

またしばらくし各番隊の隊長、他の俘虜や人員らが機内への搭乗を開始し、俺はコックピットへ向かいコパイ席にカチンを座らせ旧ソ連式の古臭い計器盤を確認していた。

「第1第2エンジン異常なし、アンチトルク緑灯・・・・よし。」

「あの・・・・。」

「頼むからなんにも触れるなよ、カチン。」

「は、はっ!」

「よし。」

俺は客室のスピーカーに繋がるマイクを取るとこう話し始めた、

「今から短時間だが空へと飛ぶ、しっかりこの光景を目に焼き付けておいてくれると嬉しい限りだ。」

そしてガラス越しに見えるスチェッキンに手信号で下がらせるように指示すると外で未だ待機してる者らが下がっていくのを見計らい、

「主機をコールドスタート、推奨回転数まで温めるぞ。」

そう言いながらエンジンのイグニッションスイッチを入れた、Mi-10Kが搭載するD-25VF ターボシャフトファンエンジン2基が甲高い起動音と共にその6500馬力もある応力をメインローターに伝えながら始動し始め、エンジンの振動が体に慣れ始めて来た所で俺はサイクリックピッチレバーを引き上げると機体諸共闇夜の空へと飛び出した。ふわりと空に浮かんだ機体はぎこちないながらもまるで浮き行燈の様だった。

旧式の計器と偶然にも付属していた旧ソ連製暗視装置を頼りに我々は正門だった場所から今では半ば更地と化した山へと向かった、そしてそこへはさして距離はなくすぐに暗視装置に映し出されヘリの高度を下げながら計器着陸態勢に入った。

暗視装置から見えるその山肌には未だ炭化し燻っている巨木や灰燼に帰した草木、更に黒く煤が付着した岩石などが辺りに散乱しており


ゴトン


ランディングギアが着地するとそれらに接触する音が機体に響いた。

「着陸成功、後部ドアを開ける。

各隊には仮拠点の設営を任せる。」

「はっ」

俺は横のカチンに目配りをしつつ再びマイクでそう発すると後部ドア用の開閉スイッチを入れ、開けられた後部ドアから人々が飛び出し終えるのを確認すると再び閉じまた飛び立った。


〔数時間後〕

地平線から朝日が漏れ光る頃にはほぼ全ての作業を終え俺とコパイをしてくれたカチン、俺の代わりに仮拠点の設営等を指揮を行ったスチェッキン、もといお嬢さんリーシャと将官であろう捕虜と成り下がった施設の指揮官がヘリパッド ―― 正門だった場所に残った。


「さて、と。」

俺は一息つきそう言い、

「どうする、このおっさん?」

「「「・・・・・・。」」」

口に猿轡が嵌められた施設の指揮官は無言ではあるが恨めしそうにこちらを見ており

「元司令・・・・、どうします?」

少々困惑そうにスチェッキンが呟いた。

あのお嬢さんリーシャの生贄としては丁度いいが・・・・、余計な捕虜は無用だからな。」

「しかし・・・・。」「そうで、ありますか・・・・。」

「生かしておく理由も存在しないしな、そして・・・・彼女がこのおっさんが犯した罪以上の苦しみをこの場で現実的に与える事が可能な唯一の人間だ。

それにだ、」

再び遠くで俺を見ながらニコニコしているリーシャを一瞥し、

「彼女は”その類の行動”には詳しい。」

そう付け加えた。

「そうですか。」

カチンは何かを達観したようにそう答え、

「まあ、かつてのベルカ帝国軍法でも死罪か無限獄卒に値しますし・・・・妥当かと。」

スチェッキンは改めて冷静にそう告げた。

お嬢さんリーシャに話を付けてくる」

「はっ」「お気を付けて」

俺は2人にそう言い、遠くの切り株で座りながら虚空を見ながらニコニコしているリーシャの方へ歩んでいった。

「リーシャ・・・・、まだ大丈夫か?」

「え、エえ・・・・ダ、大丈夫よ。」

そう答えた彼女の姿は数時間前と殆ど変わりないようにも見えたが、特徴的な瞳は変色した火の燃えるような深々とした紅から更に燃え滾る紅に変わっている上に彼女の入れ墨は元に戻っていたが手足が甲虫の様な甲殻になっており、更に細々とした身体的特徴がいつぞや見かけたことがある獣人族の様に変化へんげしていた。

そして彼女の手には血塗れの野鳥が掴まれており、鋭利な傷で喉の部分が正確に切り裂かれておりその長くなった舌でその哀れな野鳥の血肉を啜っていた。

「本当に大丈夫なのか・・・・?」

「こ・・・・こうでも、しな・・・・いと、わ、ワタシノリ・・・理性。き、キ、き、キ、消えてしまう、カ・・・から。」

「そ、そうか。」

俺は後ずさりたい衝動を我慢しつつそう言った。

「持ってきた捕虜の事だがな・・・・リーシャ、喰っていいぞ。」

「ほ、ホ、ほ、ホ、本当に!!! ありがとうカトーさん!!!」

リーシャは掴んでいた野鳥の骸を彼方に吹っ飛ばすと血塗れの手と顔を舐め、ラミアとなった目でこちらを一点見つめつつそう叫んだ。

「戻りたかったらこれで呼んでくれればすぐ駆けつけるから、言ってくれ。」

そんな彼女に俺はいつの間にか取り出した小型無線機を手渡しそう答え、

「い、イイワ・・・・ じ、ジ、じ、自分デ帰レルワ。」

「そうか、ならいいな。」

手渡した無線機を再び押し付けられたのを再び仕舞い、待機している2人の元へと戻った。

「あの・・・・。」

「拠点に戻るぞ」

「はっ!」

また困惑そうに尋ねてきたスチェッキンを尻目にカチンと共に、哀れで哀れなおっさんを放置しヘリの元へと急いだ。

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我が連邦、別世界に飛ばされる 阿部久城守谷 @abekjoumoria

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