第11話 エルーシアの一日(後)

11-2 エルーシアの一日(後)



トントントン 「エルーシアです」

「おおー。エルーシアちゃん。入っても良いぞ」


わたしは、お父様の声に応え、執務室に入りました。

「お父様。ただ今かえりました」

「お帰りエルーシアちゃん」

執務室には、執事長? 家宰? 宰相? よくわからないけれど、領地の経営を助けてくれる人と数人の紳士さんがいました。

書類は机の上に積み上がっていることはありませんでした。


「お父様…… 「エルーシアちゃん。今、誰を呼んだのかな?」

お父様は、わたしのよび声にかぶせるように声をあげました。

わたしは、公爵令嬢なのですから、お父様の部下の前では、正式な名称をした方が良いのでは ――って思いました。

 お父様は、わたしに『お父さん』と呼ぶように促したのですが、それをスルーして

「お父様や、ここにいる大人の男性は、嫌なことがあった時に、どんな息抜きをしますか?」


「え?」

「なんと?」

「こ、子供にはまだ「こらっ!」

お父様が、何かを言おうとした若者の言葉を止めました。


「ここまで、順調に経済が良くなってきていますが、生産性第一主義というか働いて稼ぐことばかりに考えていました」


「そうだね。奇跡の一日から領民はエルーシアちゃんを旗印にして、生活を豊かにしようと数年頑張っているね」

「貴族のみなさまが、パーティーを開催して自分たちの豊かさ表現したり、自分よりも下の身分の者をいびることによって自尊心を維持したり、ストレスを発散していますが、領民達はどのようにして、気分転換しているのかな?」


「エルーシアちゃん。貴族はそんなに意地悪な者ばかりじゃないぞ。 ――きっと」

お父様とその部下達は目を泳がせています。

「お父さん。どうやら心当たりがあるようですが…… どうやって気分転換をしているのでしょうか?」

再び質問をぶつけました。


「そ、そうだな~。男は、飲みに行く。剣を振るなど体を動かす。馬を爆走させるかな……」


「じゃあ。女性や子供は?」


「そうだな……  食べるとか、子育て中の人は、子供を誰かに預けて、買い物に行くとか。 私の奥さんとその妹と妹の娘は、魔法をぶっ放すことだな」


「お父さんは、ずいぶんとお転婆な女性と仲が良いのですね」

「いや、仲がいいと言うよりも、嫁と嫁の妹と姪っ子なのだがな。

この間新しい街でとんでもない事をしてくれて大騒ぎだったのだよ――」

(ヤバイヤバイ、このお話しは最終的には、わたしが怒られるパターン。

ここは話しを元に戻そう)

そう考えて話しを戻します。

「一日のお仕事が終わって、お酒、お食事、甘味や飲み物が楽しめるところが必要なのかな?」


「うーん。それだけでは、駄目かな」


「じゃあ。お酒・食事・甘味やドリンクは、基本にして、歌を歌えるところ、踊れるところ、公衆浴場で食事が出来るところ。

公衆浴場では、大浴場だけでなく、色々な湯船や家族だけで入浴出来てマッサージがあって、入浴後お食事や飲み物をゆっくり大人も楽しめるところ」


「大人、楽しめるところ…… ゲフッ」

何かを呟く若い役人を、お父様が思いっきり頭を叩いていました。


「エルーシアちゃん。今後、領民達の収入が上がったら、そのお金を使うところが必要という事だね」


「お父さん。お金を使うところが必要なことが先に来るのではなく、一生懸命働いて自分のご褒美が出来るところが必要と思うの。

その結果、税収が増えるようになれば良いのです」


「本当にエルーシアちゃんは十歳なのかな? 我が娘ながら頭が良すぎる。

これもフレイヤ様の夢を見たのかな?」


「いいえ。今回は小等学校の職員達が疲弊しているように見えたのです。

きっと仕事ばかりで息をつくことがないのかな? ――って思ったの」


「さすが、エルーシアちゃん。

実際に働いている大人達をみて、疑問に思ったのだね」


「そうだよ。 王都であったけれど、演劇や歌を楽しむ歌劇場や演劇場も、ベルティンなど、ある程度人口がある所は必要だと思うのよ。

安価な紙が生産出来るようになり、印刷技術が出来たら、出版出来るようになるので、本を読む人が多くなると思います」


「本か。確かに今は私でもすぐに手が出ないほど高いな。

紙が安価になって、多くの本が出版されるとどの様なことになるのかな?」


叔父様達はお父様の問いに「あーでもない」「こーでもない」と話し合っています。

わたしはそれを邪魔するように

「多くの人に情報を伝えることが出来るようになるわ」

「「「「情報?」」」」

「そうです。ベルティンブルグ領内の識字率は高くなってきています。

文字を読める者が多くなっているのです。

それを利用して、国内や領地内の出来事をお知らせする事が出来ます。

そして、その情報を領主であるお父様は、お知らせを利用して領民の思想をコントロールできるようになります」


「そ、そんな事ができるのか?」

「すでに、酒場を利用して情報コントロールをしています。

その情報コントロールの人数が多くなり、速く結果をだせるようになります」

「え、エルーシアちゃんは、意外と怖いことを口にするな」


「公爵令嬢ですから、全てが善だけで成り立たないことは知っているよ~」

わたしは、踵を返してドアノブに手をかけました。

「あ! 最後に大人の男性が楽しむ所は、家賃を高くして、許可制にしてね」

わたしは悪い顔を作り、そう言い残し、ファリカを探しに行くのでした。

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