第10話 宗教と法律




 新しい街で、火の柱が次々に現われメリアが双子とその妹の子供を叱った翌日になりました。

今日も学校が休みなので、わたしは、お母様と、ヘルマお姉ちゃんと教会で打ち合わせです。


「女神… 聖女…… じゃなくて、公爵令嬢エルーシア様とお付き添いのお二方よくいらして下さいました」

馬車を降りるわたしを迎えてくれたのは、ヴァン神教の教皇代行のハラグと枢機卿になったイザナが出迎えてくれました。

「お二人ともお元気のようでなによりです。

シャウセン教(ヴァン神教の改宗する前)より嫌がらせなどはありませんか?」

「ご配慮ありがとうございます。

今のところ嫌がらせなどはございませんが、あの奇跡の一日の事で問い合わせが今でも多く、頭を抱えています」

「領民の危機だったとはいえ、エルーシアちゃん… いいえ、ヘルヴェル様も自重をせずに聖属性魔法と、フレイヤ様との関係をおおっぴらに表に出し過ぎでしたからね」

お母様とヘルマお姉ちゃんは、わたしを睨み付けます。

いい事をしたのに、その目は理不尽です。


「それでは、応接室でお話しをいたしましょう。

それでは、案内します」


ハラグは、わたし達に笑顔で先導するため、歩き出しました。

行き先は、応接室なのでしょう。


「エルーシア様。それで私達にご相談があるとの事ですが、どの様な事なのでしょうか?」

ソファーに腰を下ろすといきなり本題を聞き出すハラグ。


(回りくどくなくて助かるわ)


「本日、お母様とヘルマ様と一緒に来たのは、教会の皆様にご相談するためです」

わたしの発言にお母様達は、顔を見合わせています。

「小等学校へ数日通ったのですが、学校は知識の習得ばかりで、人間社会で生活するにおいて、人間として大事なことが学べていなと思ったのです。」


「それはどの様なことなのでしょう?」


「それはですねハラグ。

道徳心と愛が抜けていることが第一。

そして道徳心と愛を身につける為には、法律の整備が必要だと思うのです」


「さて、エルーシア様。道徳心とはどの様な事なのでしょうか?」


「そうですね。

先ずは道徳ですが、“道”と“徳”にわけることが出来ます。

道とは、人が従うべき決めごと。

徳とは、人が従うべき決め事が出来る状態にすること。

道徳心とは、道徳を守る心。善悪を判断して“善”つまりいい事を行おうとする心のことね。

道徳心と何事にも感謝すること、人や動物達を愛する心。

この二つの教育が必要とおもったの。

それで、ハラグ達神職者の方が教会で行っている説教を、教育の一環として授業を行い、子供達に相手を思いやる気持ち等、人間的な善の心を教えて欲しいの」


「なるほど。教会で説教をわかりやすくかみ砕いた話しを、小等学校などでするのですね」


「さすが、ハラグね。理解が早くて助かるわ」


「それで我が領地で課題になるのが、道徳の“徳” の部分。

“人が従うべき決め事”の指針を決めて、ベルティンブルグ公爵家とヴァン神教が導く事を出来る状態を作り上げることなのよ」


「エルーシア様。貴女様は本当に十歳なのですか?

その思想はどこから出てくるのですか?」


「それはねハラグ」


「「女神フレイヤ様が夢に出て、教えてくれたの」」

――と何故かお母様とヘルマお姉ちゃんに言われてしまいました。

教皇代行のハラグと枢機卿のイザナが目をまん丸にしています。

わたしは、頬をかきながら

「二年生や三年生はわからないけれども、一年生の中には社会的ルールがわかっていなくて、自分が使った物なのに自分で片付ける事なく、乱雑にしたままにする子がいて、女神様に相談したのよ」


「そのような事は大人でも多々ありますね」


「そうです。

ベルティンブルグ領の税収があがり、自衛団などの見回りの強化をして治安を維持していますが、監視や圧力だけで治安を維持するのは難しいと思うのです。

それに、教会の教えも、国が違えば宗教も違います」


「たしかに、ガイスト王国では、女神様を信仰しているのでなく、精霊様を信仰していますね」


「新しい街を作るこのベルティンブルグ領には、この先多くの移民が引っ越してくるわ」


「それで、道徳心を幼い頃から植え付けるのですね」


「そうです。それに合わせて法律に関することも道徳に入れ込んで授業が出来るようにしたいのです」

わたしは、お母様とヘルマお姉ちゃんに視線を移しました。

「道徳に関しては、神職者の皆様とお母様で。

法律に関しては、ヘルマお姉ちゃん夫婦にお願いをしたいのです。

ギャロン叔父様は、王都の文官で法令専門でしたわよね」


「え?エルーシアちゃんそんな事も知っていたの?」


「お姉ちゃんが、貴族科と法律立法科で学んでいることを知っています」


「…… 」

黙り込んでしまったヘルマお姉ちゃん。


「そこで、お姉ちゃん夫婦だけでは、人数が足りませんからお姉ちゃんの学友をベルティンブルグ領にスカウトしてください。

条件面については、お祖父様とお父様の相談してください。

あと、わたしからお祖父様やお祖母様の伝手で良い人がいないか聞いておきます」




この時からヘルマお姉ちゃんの忙しい日々がはじまるのでした。

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