Re:仁志君【3部作4】

崔 梨遙(再)

1話完結:2800字

 僕が恋人の未唯(みい)と愛を育んでいると、久しぶりに仁志君から電話があった。ちなみに、未唯と出会ったのは名古屋でのナンパだった。ナンパということで出会いは軽いと感じられるかもしれないが、僕と未唯は真面目に付き合っていた。未唯をナンパした時は仁志君もいた。仁志君は電話で僕に言った。


「もう1回、ナンパに付き合ってほしい」


僕は正直に未唯に話した。


「仁志君が、またナンパに付き合ってほしいって言うねんけど」

「行くの?」

「僕が行ったら嫌かな、やっぱり?」

「そりゃあ、いい気はしないわよ、崔君も一緒にナンパするんでしょ?」

「いや、僕は仁志君をサポートするだけやで。未唯がいてくれるんやから、僕には彼女をつくる必要は無いやろ?」

「崔君、本当に他の女性に惹かれない? 口説かない?」

「未唯に惹かれてるから、他の女性に惹かれることも無いし、口説くこともないで。あくまでも、仁志君の盛り上げ役やから」

「わかった、それなら行ってもいい」

「ええの?」

「黙って行けばいいのに、私の許可を取ろうとするところとか、信用できるから」

「おおきに。まあ、僕は仁志君が成功しようと失敗しようと、どっちでもええけど」



「崔、今日は頼むで」

「うん、僕には未唯がいるから、邪魔はせえへんよ」


 土曜日、集合は11時だった。まずは、ランチに誘いたいところだ。いつもの調子で声をかけまくる仁志君。僕は注意した。


「今回は、美人かカワイイ女性を狙ってるんやろ? ちゃんと選んで声をかけなアカンで」

「あ、そやな。ところで、他に俺に足りないものって何かな?」

「ファッションセンス」

「ファッションセンス?」

「今回はファッションにも気を遣えって言うたやろ。なんで、学生時代から着てる年季の入った茶色のハーフコートやねん。おい、服を買いにいくで」

「俺、コーディネート出来へん」

「店員さん、このマネキンさんが着てる服、全部お願いします」


 仁志君はカジュアルな印象なので、カジュアルでセンスのいい服をえらんだ。マネキンが着ている服を全て買ったのでコーディネートもバッチリだ! 買った服を全てその場で着せて、着ていた服は紙袋に放り込んだ。


「大出費やわ」

「投資と思ったらええねん。それに、彼女が出来たらデート代も必要なんやから」


 着替えて、新鮮な気分になったのか、仁志君のトークが軽快になってきた。しばらくすると、仁志君が1人の女性に食い下がっていた。落とせそうで落とせなくて苦しんでいるらしい。ようやく、僕はサポートに入った。会話に割り込む。


「こいつ、仁志君って言うんやけど、今まで彼女が出来たことが無いねん。かわいそうやろ? かわいそうやと思わへん? かわいそうと思うやろ? ほな、ランチだけ付き合ってあげてや」

「あなたは?」

「ああ、仁志君の知人というか、保護者」

「保護者なんですか?」

「仁志君が悪のりしたらツッコむから、なあ、行こうや」



「仁志君、おもしろいねんで! 以前、1回だけ彼女が出来たんやで。夕食後のコーヒータイムでOKもらったんや。なあ、仁志」

「なんだ、彼女いたんだ」

「それが、帰りの車で信号待ちの度にキスしてたら、怖がられて10時には“ごめんなさい、やっぱりお付き合い出来ないです!”だってさ。キス魔になったから」

「2時間だけの交際?」

「そう、2時間! おもろいやろ。でも、大丈夫、もうキス魔にはならへんで。ちゃんと学習したからな」

「それなら、いいけど」

「どう? こんなにおもしろい仁志君と付き合ってみない? 彼は退屈させへんで。常に、天然で笑いを振りまくやつやねん」

「私、彼氏がいてるねん」

「そりゃあ、おるやろなぁ。それだけキレイやったら。こっちは、お姉さんが彼氏持ちだという前提で喋ってるねん」

「え! 別れろってこと」

「そういうこと。仁志君、こう見えても大企業の研究職で、年収も良いし将来も安定してるねんで。意外に優良物件なんや」

「えー! そういえば、私の彼氏、中小企業やから給料安いしなー!」

「恋愛にいいタイプと、結婚にいいタイプは違うねん」

「そういうあなたは?」

「仁志君とは違う会社やけど、まあ、大企業です」

「あなた、彼女は?」

「います、います、最愛の女性がいます。今日は、仁志君の援護に来ただけやから」


 僕がトイレに立つと、お姉さんが追いかけてきた。メモを渡された。“愛理、電話番号”。僕は、お姉さんの名前が愛理だと初めて知った。そのメモは財布の中にソッとしまった。


 トイレから戻ると、愛理と仁志君は盛り上がっていなかった。


「カラオケ行こう!」


 仁志君は、少々強引に愛理と僕をカラオケに連れて行った。仁志君の歌は上手くない。かといって下手でもない。1番盛り上がらないラインで続く。そこで、盛り上がらないカラオケが嫌になって、僕はアニソンに突入した。愛理は真面目に歌う。歌も上手い。愛理が歌うと、僕等も盛り上がった。


「今のラブソングは、もしかして仁志君のために?」

「違う、違う、仁志君はもういいから」



 カラオケを出たところで、ジュエリーショップがあった。


「仁志、愛理さんに何かプレゼントしたら? 出会った記念日ってことで」

「わかった」

「愛理さん、仁志君が何かプレゼントしてくれるってさ」

「え! どうして? 本当に?」

「出会った記念やからなぁ、ほな、2人で選びや」


 僕が未唯へのプレゼントを探していると、仁志君が声をかけてきた。


「もう、こっちのプレゼントは買い終わったで」

「僕も、決まったわ」



 翌日の日曜、なんとか仁志君は愛理とデートすることになった。


 去り際に聞いてみた。


「なんで、理香ちゃんじゃアカンの? 今までに仁志君が声をかけてた女性よりも、付き合いやすいと思うで」


 理香は、僕達が未唯と出会った時に未唯と一緒にいた女性だ。


「崔が沢村さんと付き合ってるのに、俺は理香ちゃんかぁ……って思ってしまうねん」


 沢村というのは未唯のことだ。


「ふーん、そういうことなんや」

「俺は明日、決めてみせるで!」

「うん、頑張ってね!」

「俺が愛理と付き合えたら、ダブルデートしようぜ」



 翌日の日曜は、僕と未唯もデートだった。


「はい、これ」

「何! これ? 女の子の電話番号じゃん」

「うん、昨日、もらった」

「電話した?」

「してへん」

「なんで私に見せるの?」

「え! 報告」

「破り捨てていい?」

「未唯がそうしたいなら、そうすればいい」


 紙片はビリビリになった。


「本当に電話してない?」

「してない。チェックする?」


 僕は自分の携帯を未唯に渡した。


「何の躊躇も無く携帯を渡せるってスゴイね」

「隠し事なんて、ないからなぁ」

「わかった、これからも崔君を信じるわ」

「はい、これ」

「何これ?」

「昨日、買った。ネックレス」

「うわー! かわいい! めっちゃ気に入った、でも、今日は何の記念日」

「一緒にいられたら、毎日が記念日やんか」



 で、肝心の仁志君だが、いまだに吉報は届いていない。







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