3話 交渉成立だ
私はあの後事務所に通されなぜか…。
なぜか私はお茶を啜っていた。
「あの、私の依頼は……?」
私が不思議そうに質問すると彼はきょとんとした顔をして固まった。
私は何かおかしいことを言ったのだろうか?
そんなことを考えていると彼は湯呑を置きながら少しため息をついた。
私がなぜため息をつかれているのかと思っていると彼が口を開いた。
「まだまともな自己紹介もしてないだろ?それに報酬についての話も何も終わってない。そういう話はしっかりとしないとね」
そう言いながらまた湯呑を持ってお茶を啜り出した。横ではおせんべいを片手に無邪気にコハクちゃんがお茶を啜っている。
私はあと数時間もしないうちに呪いで死ぬというのにこんな呑気でやる気に感じられない2人を見ていると少し苛立ってしまった。
「なら早く話を進めましょうよ!時間もあまりないんでしょ!?」
私は声を荒げると彼はあきれたようにため息をついた。
「……じゃあ払えるの?70万」
7、70万?え、そんなに高いの?
「ど、どうして70万なんですか!?詳しく説明してください!」
「詳しくって言われてもな……。まず、俺は怪異や霊体がらみの探偵だ。霊体がらみのお祓いは10万から、怪異がらみは30万から本来なら依頼を受けている」
「じゃあ70万ってどういうことなのよ?」
「…怪異がらみは命を落とす可能性があるということが一つ。そしてあんたが送ってきた依頼書に目を通したが親友の知己の捜索と救出も含まれているよな?」
そういうと彼は白いファイルを机の上に放るようにして見せてきた。
「つまり調査と怪異を撃退するための依頼料が70万ってことなのね」
「あぁ、そういうことだ」
そういうと彼はまた湯呑を口元に近づけお茶を啜る。
まさかこんなに高額になるなんて思ってもいなかった私はそのまま黙り込んでしまった。
バイトも先月辞めたばかりだ、どうしたら…。
嫌な静寂が部屋に漂う。
すると彼が咳払いをして「まぁ……」と含みのある口ぶりで頭を掻いていた。
「俺も君のような大学生に払える額だとは思っていない。そこで一つ提案なんだが…。」
提案?いったいどんな提案なのだろう?ただどんな提案であれろくな提案ではないだろう。
「提案とは?」
「…ここで働かないか?」
……私は今聞き間違いをしたのではないだろうか?
「誰が?」
「高橋君が」
「どこで?」
「ここで」
想定していたどんな提案より最悪だ。
「嫌ですよ!?」
「君の目は本物だ。この仕事にとても向いていると思ってたんだよ」
この人もしかして最初から私を勧誘するために高額な依頼料を請求しているのではないだろうか?
「もしかしてこのために高額な依頼料にしたんじゃないでしょうね?」
「いや、それは正規の額だよ?まぁ、今から他の払い屋に所に行ってもいいとは思うけど多分そいつらじゃどうにもならないよ?」
そういうとせんべいを豪快に頬張った。頬にカスを付けながら食べる姿はまるで子供だ。
「俺は君が普通に生活するためのチャンスを与えているんだよ?」
彼は何を言っているのだろう。今までも普通に生きてきた。ただほかの人よりお化けを見るというだけだ。
「私は今でも普通に生きていけてます!余計なお世話です」
「……じゃあ、このカードに何が描かれているのか聞いてもいいかな?」
そういうと内ポケットから一枚のカードを取り出した。鮮やかな柄が描かれている裏側をこちらに見せながら彼が言葉を続ける。
「このカードに描かれているものをただ俺に言葉で説明してくれたらいい。俺の見当違いならその時は今回の依頼料はタダでいい」
彼はそういいながらカードをヒラヒラを仰ぐ。
だがここで私が今のままでも普通に生活できると証明できればいいのだこんな簡単なことはない。
「わかりました。あなたの見当違いということを証明します」
「それじゃ、はい」
彼は笑顔でカードこちらに向けた。たかがカードでそんな動揺する……わけ…。
次の瞬間、私は悲鳴を上げていた。カードの表は真っ黒でその真ん中には目玉がありギョロギョロとしたかと思うと私の事が見えているかの様に私の方を向いて止まったのだ。
「な、なんなんですかそれは!?」
私が体を強張らせながら聞くと彼は笑いながらカードをしまった。
「やはり君も見えているようだね。その様子じゃ、今まで以上に霊体を見ることになるだろうし怪異も見えるだろう」
「ど、どうしてそんな…」
「今回、君を呪った怪異はかなり強力な力をもっているんだ。その力に当てられたってところだろうな」
「そんな…。どうにかならないんですか?」
「ここまではっきりと発現していると元に戻すことはできないだろう。例え君から見えなくなったとしても怪異は君を認識している。今回のような出来事に巻き込まれることは避けられないだろうな」
「そ、そんな……」
これからあんな化け物たちを相手にしながら生きていかないといけないの?
今回のような出来事に巻き込まれていたら命がいくつあっても足りる訳がない。
私が肩を落としていると彼が「そこでだ」と話し始めた。
「ここで働かないか?」
彼は何を言っているのだろう?ここで働く?誰が?私が?
「こ、ここで働くというのはどういうことですか?」
「簡単な話だ。ここで俺の助手として手を貸してほしい。払い屋を何人か助手として雇ったんだが何故か全員逃げだしてしまってな」
そういうとコハクちゃんが「全くじゃ」と憤りを露わにしていた。
「そのうちの一匹はわしの姿を見ただけで逃げ出しおって失礼にもほどがあるわ!」
こんなかわいい少女を見て逃げ出す?そんなことがあるのだろうか?
そう思いながら彼女を観察しているとさっきまでは見えていなかったものがあることに気が付いた。
狐の耳と尻尾が彼女は人のはずだ耳も尻尾もあるはずがない。
「こ、コハクちゃんそのカチューシャと尻尾いつの間につけたの?」
私が引きつりながら問いかけるとコハクちゃんは不思議そうな顔をしてきょとんとしてはっきりと言った。
「何を言っておるこの耳の尻尾もわしの自慢の本物じゃ。なんなら触ってみるか?今日は日向ごっこをしたからのぉ。尻尾のコンディションは最高じゃぞ?」
そう言いながらコハクちゃんはこちらに向けて尻尾を見せびらかす様にお尻を振っている。尻尾の付け根は見えないが動く様はまるで本物の様だ。その横ではヨルが頭を抱えている。
「あの、ヨルさん?これは一体……?」
「あぁ……?ああ、まずは自己紹介をしよう。俺は神蔵 ヨル。ここで怪異・霊体を専門に探偵をしている。まぁ探偵とは名ばかりで払い屋に近いことしているにすぎないがな。そしてこのガキんちょは……神蔵 コハク、見ての通り怪異だ」
「失礼な!わしはお稲荷様と崇め奉られていたこともあるぐらい高貴な
そういう少女は胸を張って威張ったように言ってみせた。
冥徒?とは何のことだがわからないが可愛い少女だということは分かった。ヨルは少し困ったように「これ以上話をややこしくするな」とあきれているようだった。
だがこの少女が怪異?本当なのだろうか?
私はまじまじとコハクちゃんのことを見つめていた。というより耳と尻尾から目が離せずにいた。モフモフ……。
それに気が付いたのかコハクちゃんはニヤッとしたかと思うと「触ってみるか?」と誘うように尻尾を振っていきた。
「す、少しだけ……」
私はそーっと尻尾に向かって手を伸ばしていた。
「おい、時間がないときお前が何してんだ」
ヨルの声に私ははっとして手を引っ込めた。
私の反応を見て呆れたようにため息をつきながらヨルは話をつづけた。
「怪異とは霊体が大量の生命エネルギーを取り込んだ際に稀に生まれる存在だ。怪異には二種類が存在する、自然に漂う生命エネルギーを長い月日取り込み生まれる冥徒とほかの霊体を喰らい大量の生命エネルギーを得ることで生まれる冥鬼だ。今回お前を呪ったのは冥鬼ということになるだろうな」
「なぜ断定できるんですか?」
「冥徒は呪いを使うことができないものが多いんだ。使えても神隠しぐらいだ、悪いがあるわけじゃないから大事になるもほとんどないぐらいの名。所説あるが神の使い、
説明している間も横で頷きながらエッヘンと言わんばかりに胸を張っているコハクちゃんが満足気な顔をしてこちらを見ている。
「聞いたか千夏!さぁ、わしを敬い奉れ!」
「調子に乗るな、明日からおやつ抜きするぞ?」
「おぬしこそ、来月からお小遣い半分にしてもいいないじゃぞ?」
お互いに小言を言いながらにらみ合っている。
ヨルがため息をついたかと思うと咳払いをしてこちらに向き直り改めて姿勢を正した。
「話は逸れたが今回の依頼料はここで働いてくれたらタダでいい。もちろん正規の給料も出す。何より怪異に対しての対処方法を僕の知る限りすべて教えよう」
「すべて?」
「あぁ、すべてだ。怪異にはいろんな奴が存在するしその分、対処方法は変わってくる。それらのすべてを教える、まぁ俺が知る限りだけだどな」
そういうと湯呑を口に運んだ。
私にとっても悪い話ではないことは間違いない。だがまだ実感がない。これは本当に現実なのだろうか?もしくは夢を見ているのだろうか。
「返事を聞きたい。どうする?君には選択肢があるようでないと思うが……」
私は深く息を吸い込み呼吸を整えヨルに向き直った。
これは私にとって賭けに等しい選択だ。この非日常のような空気に呑まれているのかもしれない。私が一番驚いているのだ。この胸の脈動を抑えることができない。
「ヨルさん、よろしくお願いします」
私は深々と頭を下げた。これから何が起こるのかわからないが彼らとならどうかなるような気がする。
「…交渉成立だ。高橋 千夏君」
顔を上げるとニヤッとしたヨルが立っていた
「では向かおう、さっさとこの仕事片付ける。時間も迫ってきているからな」
私は彼に言われるがままに事務所を後にした。前を歩く彼はどこか足取りが軽く機嫌がいいように感じる。
彼は振り返ると「そういえば高橋君、場所はどのあたりだい?」まるでおもちゃをもらったばかりの子供のような笑顔で問いかけてきた。
「は、はい。ここから30分ほどの距離にある手招きされると呪われるという噂のある廃ホテル、……大沼ホテルです」
喰らい屋 ヨル くまきち @kumakiti1123
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