第2話 蓑亀号
潜水艦・
次に取るべき行動は
「推進装置と、過剰に負荷をかけた
状況を纏めた
「ここは本艦は緊急修理をすべきです。
確認された化けフカも、情報の無い新種と思われます。万全を期するべきです」
「捕まったレイは持つのか?」
艦長の問いに別の船員が答える。
「レイからの信号は途絶えていません。また潜航艇の装甲は頑丈ですので、時間の
ただ現在の化けフカの速度を換算しますと、本艦の索敵外に出る可能性があります」
「索敵外に出てしまうと、どこに向かったか判らなくなるか――」
艦長には考えるときにパタパタと扇を開閉する癖があるようだ。船員の報告に対して思案しているのだろう。
「しかし、レイがやってくるなんて予定があったか?」
ふと、艦長が口にした。
その言葉に、副長と話していた船員は顔をあわせると、バツの悪そうな顔になった。
「実は……ミツヒメ様が乗っておられます」
副長は遠慮しがちにそう言った。
「また、あの御仁か! 勝手に行動して、じゃじゃ馬にも程が過ぎる!」
艦長は悪態をついたが、海彦はその名前を聞き逃がさなかった。
先程まで彼等が何を話しているのか理解し難かったが、ようは人魚の彼女、ミツヒメをいかに助けるか。
それを話し合っていることが、頭の中で判ってきた。だが、和邇号は先程の化けダコとの一戦で力が出ない。副長はそれを修理してから万全にすべし、と提案している。しかし、そこの船員は、それではどこに化けフカが移動するのか判らなくなるという。
つまり、彼女を助けることが難しいということになる。
――どうすべきか……とはいっても、俺には何も出来ない。
海彦はこの潜水艦に乗ったばかりで、何か出来ることなど無い。ただ救助者で、客人なだけだ。何かあってか、彼に会いたいというミツヒメのところに連れて行かれるだけの身だ。
――ここで話しあってるだけでは、彼女の救出はどんどん遅れるのではないか。
そうは思っても、何か意見を言えるわけでもなく……ただやりきれない怒りだけが、こみ上げてくる。口出しも出来ない。グッと握りこぶしを強く握るだけだ。
「――意見があります!」
海彦の様子を見ていたのか、
「口出しは無用だ!」
副長が注意する。海彦には判らないが、山彦の身分はこの艦の中では低い。食堂での態度からして、通常は艦長に意見を言える立場ではないのだろう。
「良い。いってみろ!」
しかし、艦長はそれを許可した。一呼吸置いて山彦は、
「ミノを先行させてはいかがでしょうか。
化けフカよりも、ミノの方が速力は上です。化けフカに逃げられないように接触し、その間にワニを修理。完了次第、ミノを追尾すればいかがでしょうか。
レイからの信号はミノを中継すれば、信号受信距離は倍になると思われます」
艦長はパタパタと扇を開閉しながら、山彦の話に耳を傾けていたまま何も言わない。だが、副長が口を開いた。
「なるほど。その手があるな……よく考えた!」
無表情の副長の微笑んだような気がしたが、一瞬だったようだ。
「ヤマの提案でいかがでしょう。ミノにはもしものために、自走機雷を装備させます」
艦長の扇が閉じた。
「あい解った。副長、すぐに修理の開始とミノの出発を用意せよ」
「承知!」
「――それからヤマ。その
※※※
海彦は一晩過ごした部屋に連れてこられた。
自分でも判っているが部外者だ。この艦のことも解らないし、船員が操作している車輪ひとつとてもどう操作するのかさえ解らない。だが、捕らわれた潜水艇・霊亀号の中に、ミツヒメがいることに動揺していることを察しられたのだろう。
何かしでかすかもしれない……そう思ったのに違いない。だから、部屋に軟禁するという手段を執られた。
「お前が行っても何も役に立たない」
山彦も釘を刺してきた。
「でも……」
とはいっても、上手くは説明できないが海彦は、いても立ってもいられない。
――せめて近くまで行きたい!
口にはしなかったが、それは前に艦長に釘を刺されたことに繋がる。
惚れたか、と――
海彦自身、自分の思っていることがよく解らなかった。年頃の女の子を見るのも、惚れることも初めての経験だ。もっとも、人魚の歳が自分が想像しているのと……人と変わらなければの話だが。山彦は命令でここに連れてきたが、彼の様子からして何を考えているのか薄々感じているのかもしれない。
ふと、
「――俺はミノの作業員だ。これから副長と共に出発しなければならない」
そういうと、上着を脱ぎだした。
「貴様と俺は顔が似ている。服を変えれば判らないだろう」
「でも、俺には何も操作できない」
「黙って、皆の後ろに立っていればいい。俺も実際はそれほど解るわけではない。雑用係みたいなものだ。
行きたいんだろ?」
山彦の問いかけに海彦は大きくうなずくと、着ているものを山彦と交換し始めた。
「急げ、時間が無い。後部格納庫の場所は判るな」
※※※
海彦は朝にヤマに案内された艦内を何とかたどって、後部格納庫に到達した。
すでに副長とミノの乗組員らしい船員達が整列している。
「ヤマ遅いぞ!」
並べと、副長が顎で指図した。
海彦は慌てて指された場所へ、並ぶ船員に交じった。大入道の保安長も含め全員で5名。
副長は並ぶ船員の顔を見回したが、山彦を称している海彦の顔を一瞬見ると、目をそらした。
――バレたか!?
一瞬、ひやりとしたが、副長は相変わらずの能面顔のまま。
「全員搭乗!」
と、声をかけて潜航艇・蓑亀号に乗り込む。船員達も順々に乗り込み、海彦が最後に入ると、入り口が閉じられた。
「格納庫内注水開始」
海水が格納庫に入ってくるのが音で判った。
「機関始動」
「固定解除」
出発は戻ってきたときとは手順は逆らしい。
グラリと舟が水上に浮かぶ感覚がしてきた。
『格納庫、開閉します』
後方から大きなものが動く音がしてきた。それに併せてミノを覆う格納庫の屋根や天井が動き、外部に出る隙間が空いてくる。
「後進微速」
副長の指示が復唱されると、後方から海水をかき回す音が聞こえてくる。
そして、ゆっくりとミノは後ろに下がり始めた。
しばらく後退をしていると、最前列右側で操作している船員が報告を上げる。
「
「では、化けフカの追撃にはいる。
「承知!」
振動と共にゆっくりと後退する速度が落ちると、今度は前進しながら水中に潜っていく。
「取り舵一杯!」
水中に潜ると、化けフカの行き先……潜水艇・霊亀号からの信号に向かって突き進むことになる。
「ミノの形状では水上を走るよりも、水中に潜った方が効率がいい」
副長は海彦に向かって説明し始めた。
「覚えておくように、海彦」
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