第2話 島からの救出
目を覚ましてみれば、何か変わっている……なんて甘い考えも浮かんだが、そんなに甘くはなかった。
周りが明るくなっているし、目の前の焚き火も消えかかっているではないか。
慌てて木を
――これからどうするか。
いつまでもこの島にいるわけにはいかない。海岸から見回しても水平線ばかりで、別の島さえ見えない。
結局、食料はあの海鳥ぐらいだろう。だが、いつまであの海鳥がいるか分からない。飲み水も見つけたくぼ地ぐらいだ。雨が降らなければ、喉を潤すことはできない。
火だってくべる流木は限られている。
何か他に使えるものはないか……と、懐に手を突っ込んでみだが、小刀と火打ち石以外には、あの彼女からもらった青い石しかなかった。
――お守りだとは言っていたが。
今は何も役に立たないだろう。日光にあてたところで、青く透き通っているだけだ。
――とにかく、生き残るために努力しよう。
ひょっとしたら、どこかの船が通りかかるかもしれない。
それがいつになるのかわからないが、やるだけのことはやって生き残るつもりだ。
まずは、流木の回収。集められるだけ集めて、濡れない場所に保管しておかねば、雨が降って使えなくなっては困る。
出来れば、海岸でも火を焚きたい。もしかしたら通りかかった船が、上がる煙を見つけてくれるかもしれない。
※※※
2日経って、3日経って、7日間、1ヶ月……それから、どれだけ経っただろうか。
日を数えるのが馬鹿らしくなってきた。
心配していた水不足や食糧不足、燃料不足にはならなかった。定期的に土砂降りのような雨が降る。それに併せて波も高くなり、どこからともなく流木が流れ着いた。ただ雨が降ったと思ったら、すぐに晴れ、強い直射日光が皮膚を焼く。
最初に捕らえた海鳥は子育てを始め、遂にはどこかへ飛んで行ってしまった。だが、入れ替わるように別の海鳥が現れた。どうやらここは渡り鳥の繁殖地だったようだ。
「――今日も通らなかった」
何もない沖を見ながら、海彦は呟いた。
1日にやることは、食料などの確保が終わってしまえば……海か、彼女のくれた青い石をどちらか眺めているぐらいだろうか。
今日の村では、異国の黒船が沖をうろついていると、聞いたことがあったし、見たこともあった。漁に出たときに、黒く禍々しい煙を上げながら海を走るのを目撃している。だが、ここでは一向に通らない。
それにあれ以来、人と話していないものだから、言葉が忘れるのでは? と心配してしまったこともある。忘れないように、最初は独り言を大声で話していた。どうせ誰も聞いていないが、ズッと独り言を言っていると、なんとなく馬鹿らしくなってきた。
今は呟く程度だ。
「このまま死ぬまで、ここで過ごすのか」
島からの脱出も考えた。
筏を造るしかないが、そんないい材料もない。そうと思っていれば、流木も選りすぐっていたかもしれないが、かなり燃してしまった。
「また、今日も終わりか」
何度目かの夕日が水平線の彼方へ沈もうとしている。その夕日に紛れて、黒い一本の影が伸びていた。
「――どうせクジラだろう」
このあたりの海には、クジラがやってくるのも何度も見た。その1匹であろうと、彼は考えた。だが、その一筋の影は不思議と日が沈むまで見えていた。
※※※
日が暮れて海彦は寝床にしている岩陰に帰った。
「――今日は鳥が騒がしいな」
不思議と海鳥達が騒いでいるようにも聞こえる。鳴き声が岩場に響いて、なかなか寝付けない。
しかし、ふと聞き慣れない音がその中に混じっていた。
金属がこすれ合うような音。記憶をたどれば……。
水をかき分ける音、砂を踏みしめる音、それが突然止まった。蓋が開く音が聞こえてくる。
そして、何人かの足音が聞こえてきた。
海彦は寝ていられない。チラチラと光の筋のような者が見える。提灯にしても、
――人が来た!
いても立ってもいられず飛び上がった。待ち焦がれた人だ。しかも、記憶が正しければ、あの音は村で聞いた
その時、飛び上がった海彦に光の筋が照らし出され、目がくらむ。その光の筋を当てた者も、突然、彼が現れたので驚いたようだった。
「あっ! 副長。発見しました!」
それに合わせるように、いくつもの光の筋が海彦を照らし出した。
「この男だけか?」
姿は光がまぶしくて見えないが、声は副長と呼ばれていた男の声がした。
「島を捜索中です」
「よし、ともかく彼を収容しよう」
と、言った途端、海彦の脇を誰かが掴んだ。そのまま担ぎ上げるように運ばれる。その先には、薄らとあの蓑亀号の姿が見えた。あの時と同じで脇の部分が空いており、赤い光が漏れていた。
そして、放り込まれるように蓑亀号の中に押し込まれた。
自分を運んできた男の顔は分からなかった。中は冷たい。全体が気ではなく金属で出来ているようだ。だが、床はザラリとして岩場のような感じもする。
「毛布はいるか?」
顔は薄暗くてよく見ないが、どこかで聞いたことがある声だ。そう、兄である
「モウフ?」
聞いたことのない言葉に海彦は混乱した。だが、その男はどこからか布団のようなものを持ってきて彼にかける。
「これが毛布だ」
暖かい。寝るときは、冬でもムシロを巻くぐらいしかなかったが、こんな布団なんて初めてだ。
「ありがとう。兄貴――」
声は紛れもなく兄の声だ。だから、海彦はそう礼を言ったが、
「ん? 誰のことだだ?」
相手は不思議そうな声で応えると、どこかに行ってしまった。
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