ep.35 月と違い星は欠けない? 確かにそうだね。


『そのくらい、うに分かっていた。

 耐え忍ぶこと。人の生は"我慢と妥協"の連続であることを』


……だけど、君なんだよ。

他でもない君が、俺を手掛けたのだから。

だから———



「…………」


だからも、ナニも、クソもない。

レオくんは激怒した。

こうして今日も、レオくんは激怒していた。———というだけの話である。


それこそ時を遡らせ、回想するに……。


『……レオくん、もしかして何か良からぬコト企んでない?』


あの頃から、今日も"今"とておいどんの熱い思いには、まるで気づいてくれないのに。なんで"こういう未来事"に関してだけ、こうも目敏いんだ?

このちまいのは……。


『? 何の話?? 君相手にまさか、俺がいつ……』

『そう……』


なら、いいんだけど……(´•ω•`)


いくら策や計画を企てたところで倒れる、練ったところで未だ成功の狼煙を上げた試しがない。

寧ろ、その都度心身ともに苦渋を強いられ、アケチ的反逆思想を持つ危険人物SSRとしてワカラセられる、『開発』される。


(君のせいで、俺は"こんな体"になってしまった……)


というのに、ヤツの方は。


……なので、とどのつまり。

少なくとも旦那側からすれば、取り留めのないことを駄弁りながら、脚を(※健全・合法的に)絡めた昨晩、19時ちょい過ぎのこと———


『食後の堕落ほど不味いものはない』


これはこれで平常運転、まるで癖のように口先で「今寝っ転がると太っちゃう、であろうと、太っちゃうから」と言いながらも……結局、お腹いっぱいになると眠そうな顔をして、目がしょぼしょぼし出す。


『今晩も、とても美味びみでした』

『これは、また……っ、何とも勿体なきお言葉。姫の御口に合ったようで、何よりです』

『シェフにもお伝えしてくださる? 何時も美味しいご飯、ありがとうございます。って……ウッ、』

『? 如何なされました??』

『い、いえ、何も。お構いなく』


何時もの事ですので。

ただ、その、ヒ、ヒメ……ッ!!

例え傍からどう見えていようと、これでもアタイ…中身は……。


『ですのに。本当に幼かった、"あの頃"ならいざ知らず、にもなって、余りにも……』


どう足搔き、抗えど一抜けできない運命ポジなのか。ここまで至ったところで、行く先々での姫呼びは確定なのですね。


夢小説検索。


名前入力。


姫宮姫乃。


ニックネーム:『ヒメちゃん』


い、古の夢女……っ!!


『ああ、いけません』


これ以上考えては現地の方々、何より読者の皆様に、皮の内にめし世代がバレて仕舞います……。


ヒメだけに。


『ですから、スゥ————ッ』


…………スン( ˙-˙ )


昨晩もそうだが、身内判定されれば、割とよく見ることとなる。

綺麗なお姉さんやきゃわうぃー女の子、使用人等の前では辛うじて雪国じもとの姫、"公女として"の体面を守ろうとするものの……守れているとは限らない。


時折り、それも基本で、アストライヤ産の御顔が ( ‘ᾥ’ ) この世の苦痛を象るかのように歪む。


『ひーめ、ひめ。好き好き大好き、ひめ、ひめっ♪』


あとは、ゴロゴロ大好き。

三('ω')三( ε: )三(.ω.)三( :3 )三('ω')三( ε: )三(.ω.)三( :3 )三 ⇒|自室 するや、付き合いの薄い余所には分かり辛いが、表情豊かだし、実は大変明快な体をお持ちである。


『わくわく、わくわく。今日はナニ創ろうかしらねぇ……』


そして、恐らく本人無意識からの"まろび出"だろうが……北の地にして血筋、先祖代々に渡るアストライヤから全吸収。若しくは、ブン取ったと地元では専ら評判、とりまに跨る芸術細胞の無駄遣いもしている、おいどんの嫁閣下。


(かの公爵邸の末っ子であり、うちのちまいのよ……)


両家公認しているかはともかく、幼い頃から基本誰かにだっこされているか、膝の上に乗っけられているか、よく"人の上"でナニカシラしている。

そんな幼き日々の名残からなのか、昔から嫁が自分の上でころころ、ごろごろするたび、レオくんは「辛抱たまらん」の情に茹でられ、浸されるも……。


『今イイところなの、我慢』

『いい子だから、我慢して』

『……結局、人生も人性も我慢してこそ、なんだから』


だから、どんなに気持ちくつらくても、となる、飛ぶ寸前まで耐え忍ぶ。

極楽に赴き、更なる聖地が見たければ、妨害イクイクするの、我慢ちて('ω')!


『だって男の人……というか、いつの世であろうと、被虐体質Subというのは、そういう"生き物セッテイ"なんでしょ……??』


郷に入ったからには、郷に従います。


『故に、大丈夫』


今生の研修に加え、言わば前世から履修している分野ですので。


『その辺り(恐らくこの世界・次元の誰より)よーく理解しておりますとも。ですから、ご安心を』

『ダメだ。(少なくとも身を以て知っている、こちらからすれば)こういうコトに関する君の加減……大丈夫や安心してくれ発言は、塵程も信用できない』

『ワッ? 何故Why not……!?』

『いや、だって……』


趣味や読書に没頭すると周りが見えなくなる。


『君のそう言うところも、可愛いけど……』


そもそもの話。

せめて俺を視界に入れてから、言葉のドッジボールしようぜ?

完全に勘違いしてやがるし。もしかしなくても、誰も訂正しないのをイイ事に、勘違いし続けていやがります……(੭ ᐕ))??


おいどん、これでもオメェの番であり、正妻でもあって。


(今や両家公認……)


しているかは、主に嫁の実家方面が、正直未だ微妙なラインだけれども。

……ただ、まぁ、今や旦那でもある。


(だのに、)


そんなレオくんからすれば、そう言いかけること、はや数年が経った。


———けれど、然し。


いくら"世の現実"を教えようとするも、向こうの(本人からすれば、詐欺でしかない)学習能力をかんがみて、進言したが最後、自身のアバンテージを大いに失うと確信している……旦那は口を噤み、沈黙を守ることにした。


ナニより、より。稀代の旦那面ことレオくんからすれば、この様にことあるごと嫁の口から出てくる「履修」二文字の方を、問題視していたりする。


出会い当初から、これまで、こう……とりあえず自身が把握している、知り得る限り『男の患者』は俺だけのハズ。

だのに、そのワードを耳にするたび、自分の中に搭載されている"浮気ジャッジ"が反応するのだから、致し方ありません……。


「…………」


だからこそ。

と言っては何だが……ナニもクソもない、今日この頃。

例え見方によってはほぼ自業自得であろうと、昨晩の末、レオくんは激怒したし、今も激おこ。


今よりずっと幼き日より、見守ってきた。愛らしくも、憎たらしい姿に欲情すること、此度の新婚以前から三桁は優に越えている。


———だのに、愛しているから。

こうも、純然たる Big Love を抱いているが故に。


『あ、あら、まぁ……』


随分ご立派な凶器ぱおんですこと……(´•ω•`)


……こんなにも日々をにとどめ、『我慢』『妥協』して差し上げているのに。あの暴虐にして邪知ばかり働く、傍若無人なる嫁ときたら。


『ああ、なるほど』



理解力ありーの、度胸もあーる。

ただ、いくら"この世の人知を超えた"器を持って生まれてこようと。


(一部事象に対し、心が余りにもちまい。あのアマ、ほんと覚えてろよ……)


方やピンピンしているに違いない。のに、こちとら二日酔いである。

つまり昨晩の末、その理由・経緯はともあれ、旦那はまごう事なき二日酔いに犯されているからして……。


ヨメの真心、酒が飲めないってゆんですか。あれだけ散々好きだの、愛してるだの言っておきながら!』

『自分が水タイプの酒豪だからって、り、理不尽過ぎる……』


チーン!


チーン……。


正直、途中からの記憶がない。

何時もの事ながら、あのちまいのは、一体"どこから"あの様な知恵レシピを仕入れているのか? 今や我が故郷ホクブ最大の不思議と化している、ソレ。


(あのアマ、ほんと覚えてろよ……)


それこそまだ見ぬ。然し己からして、もしかすると最大・最悪の恋敵となり得るかもしれない馬の骨、例のアケチ並みの不思議レベルであった。


気づけば最悪にも程がある目覚めをキメてしまった新婚旦那、レオくんはガンガン響く頭を抑えながら、深呼吸を繰り返す。

此度の出頭に対し、嫁に会わせたくない野郎がいるから、あれだけ念入りに画策していたというのに……。


「あんの……」


馬鹿。


まどろみながらも昨晩、突如ヤケ酒(?)バーテンダーと化した誰かのせいで、全部パ―となった。

ただコレはコレで、ある意味毎度のことだから、旦那も旦那で未だりず、良くも悪くも慣れて仕舞っているが……。


「チッ、クソ……!」


害になり兼ねない人やモノは、前もって潰しておくスタイル。

普段あんなにのんびーり、ころころしているクセに、あの分からず屋!


「……帰ったら、話すまでもない」


どうせなだれ込む場所も、ヤルことも結局"お一つ"しかないのだから、これぞ真の無我の境地というモノなのだろう。


嫁関連の事態で、この男にしては実に珍しい。

そう先日とまるで同じことを考えながらも、今日ばかり、いくら激怒イライラを積もらせようと、レオくんはじっ、と馬車に座り込んでいた。


それこそ、思うに……。


(あのの体幹は昔から可笑しい、引きったところでこちらが負けうる。なら、俵抱きしてでも、連れていく。教会で署名させて、神前で誓いを立てさせてやる……)


何時にもなくぷりぷりしながら、あのちまいのを監禁して、大地とさよならバイバイ、ベッドに縛り付けてやる……やい。


これから宮殿に向かい、教会に行く人間が絶対していけない思想を巡らす。

レオくんの口から獣の吐息にしては冷たく、けれど、じっとり湿った生々しい溜息がこぼれた。


「………っ、」


先ほどからばかり立てる心臓から目を逸らし、窓の外に目をやれば、何時しか訪れていた黄昏たそがれ時。

呼吸すらままらない怒りや腐乱した情に、喉が鳴る。

夕方から夜に駆ける、『太陽』が沈んで暗くなり、星が見え始める美しい瞬間———時に、オオカミの口角は不自然に吊り上がった。



「あら、レオくん、あなた!」

「…?」


というのに……。


「ですから、どうも迎えが来たようなので、お暇させていただきます」

「あ、まっ、」

「それではまたの機会に、ごきげんよう」


引き留めようとする周囲を振り切り、満面の笑みで駆け寄られる。

今夜こそ嫁を孕ませるワカラセることしか考えていなかったレオくんの頭が、一瞬にして別の意味でイライラし始めたのは、言うまでもない。


「態々迎えに来てくれたの? 嬉しい」

「あ、ああ……」


??

………(੭ ᐕ))????


ただでさえ爆発寸前の時限爆弾と化していた頭に、より一層強い衝撃が加わり、360度回転。ことさらイライラ、オラオラおいどんと痛くなる。

自分ですら見たことのない装いを蝶の如く翻し、一仕事終えた顔をするも、まるでこの世の救い、オアシスを見つけた旅人かのよう。

自領・他領犇めくオジサンたちの合間から、自分を見つけて明らかに目尻の雰囲気が柔らかくおさなく緩んだ。


我が愛、アイして止まない嫁閣下に。


「つかれました。おうちかえる」


袖を小さく ぎゅっ♡ と掴まれる。

どちらから出たか分からない効果音、見開いた目が瞬けないとはまさにこのこと。

人前であろうと、目の前のちまいヤツのせいで、危うく変な声を出しかけた。


———この瞬間、急騰する己が熱量。


「……レオくん? レ、ッ!? きゃあぁっ!!」


ここからの記憶がない。後になって、旦那はそう語った。

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「我慢しないで、いっぱい甘えて」男女比ちょいバグな転生先で、みんな私と番になりたいらしい。 雪 牡丹 @yukibotan1999

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