第5話 手を繋いで

 海の家も最終日。暑さは比較的マシで、俺達は呼び込みをしたり焼きそばやかき氷を作ったりしていた。

「はぁい、お兄さん。暇になったらあっちで遊ばない?」

「悪いですけど、俺アイツと付き合ってるんで」

 俺が横峯を親指で示すと、

「あ、そっちなのー? ざんね〜ん」

 と言って女の人は去っていった。横峯が目を丸くしている。

「なんでそんなこと言うんだよ」

「だって隠す必要なんてないじゃないか」

 すると横峯は片手で顔を覆ってぐーで殴ってきた。

「恥ずかしいから……」

「いいじゃんいいじゃん」

 とじゃれあっていると、後半シフトの人がやってきた。

「お疲れ! 裏で給料もらったらもう帰っていいってさ」

「お疲れ〜ありがとう」

 バックヤードで現金の入った封筒を受け取り、更衣室で着替える。最後なので海に入るのだ。ひとしきり遊んだ後、横峯の祖父母の家に帰った。たんまり魚介などのお土産を渡されて、帰路につく。帰り道、横峯の手を握った。横峯は最初は恥ずかしそうにしていたが、何も言わなかった。果てしない充足を感じながら、俺はまた来年も彼と一緒にいられたらいいと感じていた。一度きりの夏は、こうして終わった。

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ワン・タイム・サマー はる @mahunna

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