第7話 知りたいことはたくさん。
「で、聞きたいことはたくさんあるんだけど…多すぎて何から聞こうか…」
ここはどこなのか、エビネは何者なのか、そもそもそれ以前にこの世界について…とかとか、私には知らないことが多すぎて、もはやどうすればいいのか……。
「そうしましたら、まずはこの”世界”についてお話ししましょう。マスターは”転生者”様でいらっしゃいますから、知らない事がほとんどだと思いますので。」
「まあ、そうだね。焦っても仕方がないし、ゆっくり順番に聞いていくことにするね。よろしくね、エビネ。」
そう言って自分の頬を軽く叩き、気合を入れる。ちょっと眠いけど、もう少しだけ頑張ろう。
そう思っていたのだけれど…。
「かしこまりました。…そうですね、まずは地理的な話をしましょう。この世界には主に5つの大陸が存在しています。その内2つはそれぞれの魔王を呼ばれる存在が統治している魔族領となっており、多くの魔族と呼ばれる者たちが暮らしております。残りの3つは、そのほとんどが人族が支配し、住んでいる大陸となっており、マスターのいるこの第1大陸もそのうちの一つですね。ところで、魔族というのは、ゴブリンやオークからはじまり、人魚といったものから、吸血鬼まで、その多くの種族の総称として使われています。まあ分かりやすく言うと、人間が、人間以外の種族をまとめて魔族と呼んでいるということですね。ああ、それと魔族とは別に魔物と呼ばれる存在がいますが、これらは似ているようで全く異なります。魔物はこの世界に満ちている魔力に共鳴して産まれる存在で、そのほとんどが知性を持たず、人間、魔族の両者に疎まれる存在ですね。魔物が産まれる原理は後程説明するとして、次は………」
「……………」
「……………マスター、起きてます?」
「………………はっ!え、お、おお起きてるよ!」
「では私がどこまで説明したか覚えていますか?」
すいません、めちゃくちゃ寝てました。ただ、私から聞いた以上、馬鹿正直に「聞いてませんでした!」なんて言えるわけもなく…
「え、えっと……あ、あれだよね、地理的な話だよね?」
「そうですね。」
「……………」
「……………」
「……………すいませんでした。」
私が覚えていたのは、エビネが話し始めてからの序盤の序盤、ごまかせるわけもなかった。私は彼女からの無言の圧力に耐えられなくなり、早々に頭を下げた。
「ご、ごめんね、私から聞いたのに、その…寝ちゃってて」
「…………いえ、マスターはまだ転生して間もないのでしょうし、精神的にも肉体的にも疲労がかなり溜まっているであろうことは、容易に推察可能ですので、寝てしまうのも致し方ありません。お気になさらないでください。」
エビネはなんていい子なんだ。早々に寝てしまった私はますます申し訳ないことをしたと一人反省する。
……まあ、正直言うと確かにめちゃくちゃ疲れていたし、今までの生活から考えると、今の状態は私にしてはめちゃくちゃ頑張っていると言えたりもするのだけれど。
「マスターに一つ提案があるのですが……よろしければ、この世界の常識ともいえる知識については、私の力でマスターの脳内に直接インプットさせることが可能ですが、いかがいたしましょうか。」
「え、なに、そんなことまでできるの?」
「可能です。そうすれば、ある程度の知識はすぐに……」
「それでいこう!それでお願い!」
エビネからの提案に、私は速攻で食いついた。元々、まあまあ面倒くさがりな性格であることは自覚があるし、知識をまとめて短時間で得られるこの提案は、私にとって魅力的である他なかった。
「食いつきがすごいですね……。分かりました。そうしましたら、目を閉じてください。3、2、1のカウントで始めますので、準備しておいてくださいね。」
そう言うと、エビネの纏う光が急激に明るくなった。…エビネが光を纏っているのか、光が本体なのか……まあ、どっちでもいいか。
私は言われた通り、目を閉じて……そういえば、最後の方に”準備して”って言っていたような気がしたけど、なんの準備だろう。
「…それではいきますね。3、2、1、0!」
瞬間、不思議な感覚が私の頭を支配した。なるほど、知識を直接脳に入れるっていうのは、こういう感覚なのね。
と、呑気に思っていたのもつかの間。
「痛たたたたたた!待って、めちゃくちゃ痛いんですけどお!頭割れちゃう!」
私の脳内へ知識が濁流のように流れてきたと思ったら、一瞬で頭を締め付けるような激痛に思わず大声で叫んでしまった。
「だから言ったではないですか、準備しておいてくださいねと。」
「そういうこと!?それなら最初からそう言ってよお!」
「伝えようと思ったのですが、マスターの食いつきが思ったよりも良かったものですから。あと、目覚ましにもなるかなと。」
「やっぱりさっき寝てたの怒ってたの!?さっきはごめんなさい!痛い痛い!!」
やっぱりエビネ怒ってたのね!?エビネはいい子だと感動していたあの時間を返して欲しい!
***
「うう、まだ頭がズキズキする……」
「あの、マスター、申し訳ありませんでした。流石にそこまでの痛みを引き起こすものだとは思っていなくて……」
エビネの声色からは、動揺と私への申し訳なさがひしひしと伝わってくる。まあ、それもしょうがないのかもしれない。
なんたって今の私は、あまりの痛さから床に突っ伏しているからね。おまけに涙で顔はぐしゃぐしゃだし。あれは本当に痛かった。そんなマスターの威厳ゼロの様子の私を見て、エビネはさすがにやりすぎたと思ったのか、頻りに私に謝罪をしてきていた。
やっぱりエビネは優しい子だったみたいだ。一瞬、もしかしてサディスティックな趣味が…って勘ぐってしまったけれど、違ったらしい。あの頭痛はエビネ本人も意図して引き起こしていたわけではなく、頭痛が起こること自体は知っていたけれど、これほど強いものであるとは思っていなかったみたいだった。
「…いいんだよ、元はと言えば私が寝てたのが悪いんだし。」
「ですが……」
「まあまあ、今はもう痛みはだいぶ引いたし、知識も得られたし、結果的にはよかったんだから気にしないで。ありがとね、エビネ。」
先ほど濁流のように流れ込んできた知識は、確かに私の頭の中に入っているのは分かるのだけれど、まだまだ散在している感覚で、整理に時間がかかりそう。エビネによると、一度しっかり寝れば、定着させることが出来るみたい。
激痛だったとはいえ、これほどの知識を一気にインプットさせてくれたエビネには感謝しかない。
「ところでさ、この知識のインプットって、他の人は平気だったの?私が弱いだけだったのかな。」
「どうなんでしょうか。私は今までこの魔法を人に使ったことがないので……。ちょっとした好奇心はありましたが。」
「ええ…やっぱり私の扱いが雑な気がするよ……。」
不幸体質少女の異世界転生!! @kokowa
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