第40話ガントとの別れ
「メロウ、しばらくしたら、エミナ叔母様の家にうつろうか?それまでは、ここにいるといい、ここなら、外部の者は入ってこれない。あと、10日ほどで、ボナルド国からの船が迎えに来る。よく考えてみると、このタイミングで、公表したのは良かったよ。お前が帰ってくる頃には少し落ち着いていると思うし、何より、お前が、ボナルド国から、招待されたことが、良い、変化を生んでくれる。
伝説の歌姫として、今でも、皆の尊敬を集めているルリア様だ。そのルリア様にそっくりなメロウが、ボナルド国に招待されて、歌う、皆の歓心引くだろうからね」
朝の支度をしながら、ミオリが言った。
「ミオリ兄さん有難う、私は大丈夫。ギルディ先輩や、グオン先輩、アラオル先輩の方が心配です。皆に何か言われていないかな?」
「ああ、彼らは大丈夫。可愛い姫に求婚できて、浮かれているからね、たいがいのことは大丈夫だろう。心というモノは不思議なものだね、彼らはずっとほしかったものを手に入れたんだよ。頑張ったんだよ。こうなるってわかっていたのに公表したんだよ、お前のためさ、お前を歌姫にするためさ。今はきついだろう、メロウでも、この先の将来お前は自由に歌える。それが、彼らの愛だ」
「お兄さん私は、先輩たちに感謝しています。だから、求婚を受けたんです。でも選べない。いつか答えがでるのでしょうか?」
「今は誰も分からないよ。相思相愛になる時がきっとくるんだから、待つしかないな」「三人のうちの誰か……もし、三人のうちの誰かじゃなかったら、どうしよう」
メロウが、困って手のひらで頬をおさえた。
「それでも、三人は許してくれるよ」
「分かっています。分かっているから、困っているんです」
三人の求婚王子たちの笑顔が頭に浮かんだ、私は、彼らを、恋愛対象として、見ることが出来るだろうか?メロウの悩みは、世間の人々が思っている事と、重なる部分があった『メロウは、誰と、結婚するの?』と自分に聞いてみたい気がしたが、まだ、今は分からないとしか言えない……
海は青く、空も青く、木々は緑、光輝く夏の日、真っ赤な赤い花を髪にさして、ルリアが歌っていた。あの高台で、海風に吹かれて,『きっと必ず帰る帰るから』を歌っていた。長い髪が揺れて、美しいその立姿が、メロウの心をゆさぶった。
ルリアは歌い終わると、にっこり笑って、「メロウ、メロウ、歌って」と手を差し伸べて言った。
メロウが窓から外を見ていた時、少し離れた所に人影を見た。よく見てみるとガントだった。今、授業中じゃないのかなと、思いつつ、じっと見ていると、ガントは落ち着かない様子で、うろうろ歩きまわっていた。
メロウは、鍵を開けて、外へ出た。ガントに近ずいていった。
ガントはメロウに気ずいて、立ち止まった。
『おい、メロウ、お前、女だったんだってな」
「ガント先輩」
「馬鹿だ、馬鹿だって思っていたけど、これほど馬鹿だとはな」
ガントの目から涙がこぼれた。
「なんで、お前ばかり損しなくちゃいけないだ。本当に馬鹿だ」
「ガント先輩泣いているんですか?」
「誰が泣くか。お前が、あまりにも馬鹿だから、可哀そうでな、鼻水でちゃったし」
「言い訳が下手ですね、でも、ありがとうございます」
「なんだよ、ありがとうって」
「可哀そうって言ってくれて、私のために泣いてくれたお礼です」
「はっ、お前、ボナルド国に行くんだろ?帰ってきたら、三人の求婚王子たちのだれかと結婚するんだろう?しあわせになれよ」
「ガント先輩らしくないこと、言わないでください」
「「大学辞めるんだろ?もう俺に会えなくなるから、寂しいだろう?俺は,お前に会いたくなったら音楽堂に行くさ。ルリア様の絵に憎まれ口たたいてきてやる」
メロウが、クスっと笑って「やっぱり、かわいくないですね、先輩は。寂しいなら、寂しいって言えばいいじゃないですか」
「誰が寂しいって、いなくなってせいせいするわ」
「また会えますよ」
「俺なんかと会ったってな……」
「会いたいです。ガント先輩は、ガント先輩が自分で思っているよりいい人ですよ」
ガントがうつむいて涙をふいた。「お前は、お前が自分で思っているより、かわいいよ」
メロウがプット吹き出した。
ガントも「らしくないこと言っちゃったな」と照れて笑った。「がんばってこいよ。じゃあな」」そう言うととガントはくるりと、向きを変えて、走り去った。
その後ろ姿を見つめて、メロウが「さようなら」と小さくつぶやいた。
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