第38話公表する時
北部、中部、南部の領主とその息子たち、シーナ家のメロウとその父と兄弟たち、エミナと夫が、新聞記者のナグを呼んで、話し合いを持った。
ナグが、三つの領の領主から、話があるから来てほしいと、呼び出され,リューガ邸に来た。
何の話があると言うのだろう、今更、十八年前の記事の事で、文句を言われるなんてことがあるだろうか?と、考えた。
「いらっしゃい、待っていたのよ」とエミナが出迎えた。
音楽室に案内された。小さな音楽会が開けるように作られた部屋だった。
「新聞記者のナグ氏がいらしゃいました」
部屋のなかにいた皆の目が一斉に彼に向いた。
「やあ、ナグ、来てくれて嬉しいよ、急に呼び出したりして悪かったね」とアグナルがナグに近寄って、「さあ、こちらに来てうちの子たちに会ってくれないか、今、求婚式が終わったばかりなんだよ」
(求婚式?うちの子たち?あの、求婚王子たちが、十八年たった今、新しい求婚相手をみつけたんだろうか?)
「ナグ,紹介しよう、ギルディ、グオン、アラオル、そして、メロウだ。大きくなっただろう」
四人がこの人が、ナグか?という顔で、笑顔で、「はじめまして」と言った。
ナグが恐縮した様子で、頭を下げた。
目の前に十八年前に記事にした求婚王子たちと、まだ、生まれていなかったメロウが、成人した姿で立っていた。
「ナグ、今日、この三人は,シーナ メロウさんに求婚したんだ」
「えっ?」ナグが首をかしげた。
「メロウはね、女性だよ」
「えっ、ええーっ」ナグは真っ青になった。事の重大さに気づいたからだ。
「今日は、求婚式を終えたお祝いなのよ」とエミナが言った。
ナグは部屋の中をぐるりと見渡してみた、丸いテーブルが三つ置かれていた。飲み物やお菓子や果物が乗せられていた。その周りに若者が集まり談笑していた。
メロウの兄や従弟たちだった。
「君の書いた記事が、思わぬ反響を呼んで、国中で、女の子が生まれたら、誰の花嫁になるのかって、話題になり、アラオルだ、グオンだ、ギルディだって、言い合いになったり、賭けをする者まで出て。メロウの父親が、家の家系は女の子はあまり生まれない家系だから、大丈夫だろうって、思っていたら、生まれたのは女の子だった。こんな状況で、女の子が生まれたって言ったら、この子たちが大人になるまで、この状態が続くんじゃないかと、心配して、男の子が生まれたと言ってしまった。おかげで、三人の求婚王子と幻の姫と言われる事にはなったが、騒ぎは収まっていったんだ」アグナルがナグにオレンジジユースを渡した。
「十八年たって、この子たちは成人した。もう、真実を発表しても、大丈夫だろうという事で、発表することにしたんだよ。どうしてかと言うとね、この三人が、どうしてもメロウに求婚したいと言ったからなんだよ。運命の仕業としか思えないんだ。大学で会い、仲間になり、絆ができた。ある日、メロウが女性だと知った。そんな四人が真実の前で自分たちに向きあって、三人はやっぱり求婚したいと思った。。その気持ちをメロウは分かってくれた。求婚すると決めたんだ。そして、やっと、今日叶ったんだよ」
「……そうだったんですね」
「ナグ、このことを、君に記事にしてもらいたい」とギランドが言った。
「……それは、私に事態を収拾させようということなんですか?あの記事を書いた私に」
「そうじゃないんだ。君に関係者の一人として、協力してほしいということなんだよ」とオルドが言った。
「十八年前の事を知っている人に頼みたいんだよ」
「僕らからもお願いします。メロウは、ルリア様の生誕百五十年のお祝いにボナルド国から、招待されているんです。僕らはメロウに求婚して、世間に求婚中だと発表してから、行かせたい。約束で縛るつもりはありませんが、僕らと張り合う覚悟の無い奴は近寄せたくないんで」とアラオルが言った。
アグナルは、息子の顔を見て、敵にしたくない奴だなと思った。わが子ではあるが、きつい奴だ。それほど、好きということか。
メロウが笑って、「私も、三人の求婚王子たちと、ちゃんと向き合うつもりです。ナグさん、おねがいします」
「分かりました、ただ、確認しておきたいんですが、記事が出て、十八年前のような、騒ぎになるかもしれません。それでもいいんですね」
その場にいた全員がうなずいた。
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