第36話それぞれの思い

「あっ、アグナル様」フロウトが驚きの声を上げた。

三人の求婚王子たちとその父親たちが入って来た。客人たちは反対側の席に着いた。

ギラントがフロウトと向かい合って座った。

 メロウの兄たちは、この計画を知っていたが、各自、驚いたような態度をとった。

 四男のイルドは少し気の弱いところがあったので、知ってはいても、実際に目の前に、三人の求婚王子と三つの領の領主が現れたので、顔がひきつってしまった。

「驚かせて悪かったね、フロウト。実は、メロウが、ボナルド国に招待された件で、君と、君の子供たちと食事でもしながら、話たいと思っていてね、君が休暇願を出したとき、メロウに会いに首都に行くんだなと思ってね、エミナ様に相談して、協力してもらったんだ。たまたま、若者たちの音楽会に来ていた、オルドとギラントにそのことを話したら、自分たちも参加したいということになってね。私は、今回のこと、とてもうれしく思っているんだよ、ボナルド国から招待されているなんて、光栄なことじゃないか。」アグナルが、にっこり笑い、フロウトにうなずいてみせた。

「せっかくだから、息子たちも同席したいと言い出してね、メロウは、うちの息子たちと同じ社会見学同好会に入って、仲良く活動しているんだよ」とギラントが笑った。

「メロウが入学した時に、三人で誘ったんだって。子供たちが、仲良くしてくれて、私は、とても嬉しいんだよ」とオルド。

 以外な展開に驚き、ひきつった笑顔を浮かべたフロウトは、主人であるアグナルの言葉に複雑な気持ちをいだいた、(この、シーナ家の事を気にかけてくれるなんて、何という有難いご配慮だろうか。この、心優しい主人に対して、私がしていることは……だが今更ひけない、このまま、突っ走るしかないのだ)

 フロウトは、苦しい心の内を、笑顔で隠した。「メロウにとても良くしてくださって、ありがとうございます、アラオル様、ギルディ様、グオン様」

「もう、メロウはぼくらの仲間ですよ。とても、仲良く活動しています」とグオンが言った。

 美しい横顔にサラサラの長い髪が良く似合う、グオンがにこやかに笑った。

黙ってにっこり笑うと、品の良い、美しさが際立ち、王子様感が強めになる。

(これで、妙な言動さえしなけりゃな、惜しいよな)グオンの横顔を見ながらギルディは思った。(でも、素のグオンが好きだ。泣いたり、笑ったり、すねたり、毒舌だったり、面白いやつだ)

「社会見学同好会の大事な仲間です」アラオルが父の隣で爽やかに笑った。

 アグナルが、「美味しそうな料理がならんでいるね、いただこうか、あとで、ゆっくり、話そう」と機嫌良く言った。和やかな、雰囲気で食事がはじまった。魚の塩煮、豚肉と根野菜の煮物、鳥のから揚げ、果物の盛り合わせ、美味しそうなご馳走がならんでいた。「フロウト、君は、この魚が好きだったよね、私が、今朝市場で買ってきて、エミナ様に頼んだんだ、これを使ってくれるようにね」

「ありがとうございます。私の為に、市場へ?」「うん、朝の市場は、良いぞ、活気がある」

 感激している、父を見て、ミオリはさすがアグナル様、臣下の心を掴むのが上手いと思った。



「メロウ、頑張ってくれるね」アグナルが、メロウをみつめ

た。

「はい、頑張ります」

「メロウの他に、口笛楽団の方にも招待がきているんだよ。大学の口笛部にもね。そこで、我が南からも、何人か行ってもらう。ソル君、君にも行ってもらおう。学園からは、院から、ラナン君、君も。あと、カナリア組とヒヨコ組に行ってもらおう。」いきなり名前を呼ばれたソルとラナンは、緊張して、ひきつった顔で「はい」と大きな声で返事をした。「フロウトも兄たちがついて行くなら、安心だろう?」

「はい、それはもう」

 

 アグナルは、下膳をしている、リューガ家の使用人にそっと耳打ちして「例のものをそろそろ出してもらおうかな」と言った。

「はい」と言って、使用人が部屋から出て行った。

しばらくして、エミナと使用人がお酒とコップを載せたお盆を持って部屋に入ってきた。

「我が家の自慢の古酒だよ、皆で乾杯しようじゃないか」とアグナルが言った。

 フロウトは、この古酒をアグナルが大事にしていて、特別な時にしか出さない事を知っていた。

 まだ、酒の飲めない、大学生以外の前に古酒の入ったコップが置かれた。

「メロウたちは、ジュースね」とエミナが笑った。

 三人の求婚王子たちも笑ってジュースのコップを手にした。

「それでは、我々の健康と、今回のメロウがボナルド国から招待を受けての旅が順調にいきますように!乾杯!」アグナルが大声で言った。

「乾杯」とコップを高く捧げて一同が口々に叫んだ。


「うちの息子たちの社会見学同好会に今年から、メロウが入って活動の幅が広がったと、とても有意義に活動していると、グオンがよく話してくれるんだよ」とオルドが古酒のコップを手にしながら、言った。

「うちの息子たちは、メロウと仲が良くてね、メロウが、ボナルド国に行っている間離れるのが寂しいと言っている。たった、二か月余りのことじゃないかと言ったんだが、若い子にとって、二か月は長いんだな。若い時期というのは、あっという間に終わってしまう、私たちの時もそうだった。楽しくて、賑やかで、大変な事も多かったが、過ぎてしまうと、すべてが懐かしい」とギラントが言った。

「ああ、楽しかった」アグナルとオルドが笑った。

「十八年前、まだ、赤ちゃんだった四人が今、こうして、成長してここにいる」アグナルは、隣に座っているアラオルに笑いかけた。

「はい、僕らは、大学で、とても楽しく、有意義にすごしているんですよ」とアラオルがにっこり笑った。

「十八年前はどうなることかと思ったが、今となっては、もう、過去の事だしね」

「はい、メロウがたいへん良くしていただいているようで、恐縮です」

とフロウト。

「うん、終わったことではあるが、もし仮に、仮の話なんだが……もし、メロウが、女の子として生まれてきていたら、今頃、嫁に行く適齢だったんじゃないかな?」とギラントが古酒を飲みながら言った。

「あっ、そうですね」

「いや、実はね、ギルディに怒られてね。、順番を間違えてる、求婚するなら、生まれてからにすべきだったってね。男の子が生まれるか、女の子が生まれるか分からない、そんな時期に求婚するなんて、当人たちに何の配慮もしていない、言い出しっぺの父さんが悪いってね。いや、まいった」

「当然ですよ、な、皆?」

アラオルとグオンがうなずいた。

「そこで、もし仮に、仮になんだが、メロウが女の子として生まれてきていたら、今なら求婚を受けてもらえるのかな?」

「仮の話ですか、もちろんいいですよ」

三人の求婚王子たちは、互いの顔を見合わせた。「僕ら三人は、誰が選ばれても、それを受け入れます。絶対にその事で仲たがいしません。」と、アラオルが言った。

「私たち、親も、それを受け入れる。私たちは、領主である前に、一人の父親だ、求婚する子の親としてそれが望まぬものであったとしても、受け入れるよ。絶対仲たがいしないと誓うよ」とアグナルが言った。

「私も、どんな結果も受け止めるつもりだ」オルドもうなずきながら言った。

「フロウト、君は南の領の領民だ、もし、仮にメロウが他の領主の息子を選んでも、君と、君の家族ははその事を気にすることはしなくていい。私も、息子もそんな器の小さい男じゃない。メロウの選択を受け入れるよ、祝福させてもらう。もし、その事で、君や君の家族に嫌がらせする者がいたら、アグナルのところに来いと言ってやる、私が祝福しているのだから」

「フロウトさん、もし、十八年前のような騒ぎが起きても、僕らは成人している、あのころとはちがいます。メロウは僕たちが守ります。家族、仲間で、お互いを支え合える、大丈夫です」

 アラオルの言葉にうなづいて、フロウトは新ためて、十八年たったのだなと思っていた。

「どうだ、フロウトこの子たちも成長しただろう?このこたちの言うとうり、十八年前のような騒ぎが起きても大丈夫だ。守ってあげなきゃいけない子供じゃない。メロウは良い夫を得て幸せになれる。まだ、ここが心配だという事があったら言ってくれ、解決できるようにしよう、どうだろう?」

「ありがとうございます」

「君は、メロウの父親として、メロウの幸せを優先するね?」「はい」

「本当だね、メロウの幸せを第一に考えるね?」

「はい」

 アラオルが、ギルディとグオンの顔を見て目で合図をした。

二人がうなずいた。

「フロウトさん、仮にという事で、今、話していましたが、実は、僕らは、メロウの秘密の事を知っています」

フロウトは、えっと言って、固まった。メロウはぎゅっと手を握りしめて唇をかんだ。

「メロウが女性だと知っています、僕らは、貴方の、心配を全部取り払って、メロウに求婚したいのです」

 フロウトは目だけ動かして、メロウを見た。うつむきがちで、青い顔をしているメロウの目に涙が浮かんでいた。他の兄弟たちは静かになりゆきを見守っていた。

「フロウト大丈夫かい、私は君を苦しめたくないんだ。メロウの事私に話してほしかった。君は、私たち三人の揉め事の種になりたくなかった。求婚王子の中にアラオルがいる、私への忠誠心から、苦しんだんだね、メロウが生まれた時、男だといってしまったんだね。」アグナルは、フロウトの手を握った。

「アグナル様」びくっと体を震わせたフロウトは、「怒っていないのですか?私は、貴方に嘘をついていたのです。メロウの事を、私は……」

「お父さん、ごめんなさい、でも自体は動き出してしまった、もう止められないんです」「メロウお前は……」

「メロウが悪いんじゃない、裏切ったんじゃない。しかたなかったんだ」とラナンが絞り出すような声で言った。

「メロウと、アラオル様たち三人が、舟に乗っていたとき、メロウが海に落ちたんだ、三人が助けてくれた、でも、胸に巻いていた晒がはだけて、水にぬれた服がすけて女性だとわかってしまったって。メロウは悪くないんだ」

「メロウが海に?メロウは泳げない、私が泳ぎを禁じた……ああ、」フロウトが泣いてしまった。

「メロウごめんよ、助かってよかった」「お父さんごめんなさい」二人が手をとりあって泣いてしまった。

 それを見たグオンがもらい泣きしていた。

「ありがとうございます、メロウを助けていただいて、アラオル様、グオン様ギルディ様」とフロウトが涙ながらに言った。

「守れていなかったんだな、メロウ悪かった。お前に辛い思いをさせて。私の判断が悪かったのだな」

「フロウトは心が優しすぎたんだ。どうか、自分を責めないでほしい。私たちが、力になるよ、頼ってくれていい」

「アグナル様、はい、ありがとうございます。私が今までしてきたこと、謝らせてくださいアラオルン様、ギルディ様、グオン様、三人にはひどいことをしてしまいました。許してください」

頭を下げた、フロウトにグオンが、「頭を上げてください、ぼくらは怒っていません。ぼくらは、メロウに求婚したいだけなんです。求婚王子なんで」

 静かにうなずいたフロウトはメロウに言った「メロウ、おまえがいいなら、おとうさんはいいよ」






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