第35話夢の歌姫が導く時

 

 ルリアが夢のなかで、優しく歌っていた。歌い終わると、ルリアは、メロウに言った。「大丈夫よ。皆、あなたの事が好きよ。考え方が違うだけ、人はそれぞれの立場で、いろいろな対応をするものよ。一番大切なことはあなたが何がしたいのか、どう生きたいかよ。心配しないで」

「ルリア様、私は、親不孝なことをしようとしているのでしょうか?父を悲しませたくないのに……」

「それを言うなら、私も親不孝をしたわ。ボナルド国に嫁いで、二度と帰らなかった。でも、両親はゆるしてくれたの。ルリアの幸せのためだものって。話あって、わかってもらえた。だから、心置きなく、行くことができた。メロウ、人はね、昔から、同じようなことを繰り返して、生きてきたのよ。

若さって、挑戦できる、可能性の季節よ。成功する保証はないけど、やらないで後悔したくないなら、やるという選択をして。まずは、そこから始まるの」

ルリアが優しく笑ってくれた。

 メロウは兄たちや、三人も求婚王子たちが自分のために動いてくれているのだ、自分も頑張らねばと、メロウの言葉をかみしめた。

ルリアは夢の中で、『きっと必ず帰るから』を歌ってくれた。



「お兄さん、いらしゃい、久しぶりね。もう、皆集まっているわよ」玄関で兄を迎えたエミナは、にっこり笑って兄の訪問を喜んだ。

「エミナ、元気そうでよかった。半年ぶりだな。皆、集まっているのか?メロウの事聞いたか?困ったことになった」

帽子を取り、白髪交じりの髪をさっとひとなでしたフロウトは、ため息をついた。

「ええ、兄さん、迎えの船が二十日後に着くそうよ」

「二十日?早いな。どうしたもんかな」

 エミナに案内されて、フロウトが図書室に入ると、六人の子供たちがそろっていた。

「お父さん」メロウが椅子から立ち上がり、父に走り寄り、ぎゅっと抱きついた。メロウは末っ子なので、甘えん坊だ。

「メロウ、大丈夫か?ボナルド国に招待されたって?」フロウトがメロウを抱きしめた。

「はい、ルリア様の生誕百五十年の祝賀会だそうです」

 兄たちが二人を見ていた。

「お父さん、とりあえず座ってください。あまり時間がないので、急遽、皆に集まってもらったんです。メロウが、招待されたこと、どうしましょうか?」ミオリが言った

フロウトは椅子に座り、隣のミオリに、「困ったことになったな、ミオリ、どうしてもだめだ。メロウを行かせるせるわけにはいかない」

「どうしますか?」

「家に連れて帰ろうと思う」

父の言葉に、兄弟たちは『やっぱりな』と思ったが黙っておたがいの顔を見合わせていた。

「お父さん、やっぱり、連れて帰って、メロウを世間から隠し、メローディアとしての人生をおくらせることにするんですか?」

「ああ、そうだな、いずれ卒業したらそうする予定だったんだし、少し早くなっただけだ。ま、しかたないだろう」

 南の領で、父と暮らしている、ソルたちから父の考えを聞いていたが、いざ、父の口から聞くと、苦い思いが胸に沸いた。


「ねえ、食事の準備ができたの。広間の方に移りましょう」とエミナが声をかけた。

 皆で、ぞろぞろ、広場まで移動した。メロウが父に話しかけて、笑っていた。

広間には、長いテーブルが二つ並んで、それぞれ、向かい合って椅子が八脚づつならんでいる。

テーブルには、白いレースのテーブルクロスがかけられていて、美味いそうな料理が並べられていた。

「さあ、お兄さん。はここに座ってね」とエミナが席を指定した。

 フロウトが座ると、その隣に、メロウが座った。

「今日は、お客様がいらしているのよ」とエミナが言った。

家族だけの集まりだと、思っていた、フロウトは、えっ、と顔をしかめた。

兄弟たちが全員座ると、エミナが広間のドアを開けて、客人を招き入れた。

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