第33話対決のとき

 エミナの家でメロウの兄弟たちが集まった。エミナの夫のリューガ ウオール主催の若者のための音楽会に出るために、首都にきてほしいとミオリが手紙を出した。

  音楽堂で実際に、若者たちの交流会が行われたのだ。

首都の女子大の学生も大勢参加していた。その夜、エミナが食事に招待するというかたちで、兄弟たちが集まったのだ。そこで、食事のあと、ミオリが大事な話があると、兄弟たちに改まって話はじめた。長兄のミオリの話を聞いていた三人の弟たちは話が進むにつれ、メロウの顔が落ち着いて見れなくなった。

 次男のソルは南の領の口笛楽団の団員だ。なめらかな口笛の演奏で楽団員の中でも人気があった。「メロウ、入学してたった半年で、こんなことに?この五年間、僕がずっと守ってきたのに、何があった?つらい思いをしたんだな」「ソル兄さん、ごめんなさい、上手くやれなくて、結局、こんなことになってしまって」メロウがつらそうに言った。

「だから、僕は、大学に行かせるのは嫌だったんだ」

「ソル、もう、いいんだ。メロウは一番いい道を選んだよ」

ソルがミオリに向いて、「メロウを、三人の求婚王子に近づけたらいけなかったんだ。あと、たった三年だったのに。三人の求婚王子が卒業するまでの二年だけ距離を取って絶対に接点を持たないようにして……あとは卒業を待つだけで、それなのに、なにやってんだ」と怒った。

「メロウ、メロウは、三人の求婚王子たちの求婚を受けるのか?俺には分らない、分かれないよ。ミオリ兄さんの話を聞いても全く分からない」と三男のマイナが言った。マイナは漁業組合の職員で、シーナの家の持っている船の、雇われ船長のナムド親子と一緒に漁にもよくでている。兄弟の中で一番行動的で、顔も性格も五男のラナンによく似ていた。

「ごめん、マイナ兄、俺が近くにいたのに、こんなことに……でも、メロウの為に、これが一番いい方法なんだ」とラナン。

「どうしたんだ、ラナン、僕が院を卒業して、この六か月でなにがあった?」イルドが不思議そうに言った。

「三人の求婚王子たちはとても良い奴なんだ」

「はあ?いい奴ってなんだ。そんなこと問題じゃない。俺たちの計画が狂うことがあってはいけないんだ。俺たちが今まで頑張ってきた、それをいまさら頓挫させるわけにはいかないんだ」とマイナが怒鳴った。兄弟たちの言い合いが続き、険悪な雰囲気になった。 

 張り詰めるよう空気の中、ミオリがため息をついた。上手くいかなかった時のために彼らに来てもらってよかった。ミオリは、席を立ち、ドアを開け、斜め向かいの部屋のドアを叩いた。

メロウとラナンが顔を見合わせ目で合図をした。

 ドアが開いて三人の求婚王子たちが姿を現した。

兄弟たちが話し合いをしている居間に入って来た。

「あっ」と兄三人が驚きの声をあげた。

「アラオル様、ギルディ様にグオン様」えっ、どういうこととソル、マイナ、イルドが訳が分からなくて動揺した。

「僕たちが頼んだんです。ソルさん、マイナさん、イルドさん、僕たちを正式な求婚王子にしてほしいんです」とアラオルが言った。三人は空いている椅子に腰かけた。

ソルの顔が真っ青になった。

「アラオル様……私たちは、貴方がたに会って、三人の求婚王子の事を話すなんて、そんなこと……私たちがしてきたことを考えたら、とてもできない、どんな顔して貴方たちの前に立ばいいのです?かメロウの事が分かってしまった今、シーナ家の者はどうしていいか、途方に暮れて何も考えられない」苦しそうに顔をそむけた。

 「僕たちは、自分の父親と話し合い、分かってもらいました。メロウを守ろうとして貴方たちがしてきたことを、僕たち三人も父も理解して、納得しました。非難なんてしません。今では、メロウは僕たち三人の大切な人です。愛おしく思っています。

メロウの幸せを第一に考えます。メロウは求婚してもいいと言ってくれました。

お願いです、僕らのこと分かってください」

 アラオルの真摯な態度に兄弟たちは心を動かされた。ソルが戸惑いながら、「これでは拒否できない。僕ら兄弟には、彼らに悪い事をしているという引け目がある。ミオリ兄さんもそうだったんですね?」

「ああ、そうだ。彼らの熱意に動かされた」

「メロウ、メロウはいいのかそれで?」マイナが絞り出すような声で言った。

「マイナ兄さん、いつも私に言ってくれましたよね、『おまえは普通の子だ、なにも他の人と変わらない。ただ、状況が少し特殊なだけで、だから、顔を真っ直ぐ上げて生きろ。弱気になったらだめだ』と私はそう心がけてきました、いつも」

「メロウは強いよ。三人の求婚王子と対等にやり取りできるほど。それでいて、ちゃんと後輩としての立ち位置は守れていた。ぼくらは、仲間としてメロウが好きだった。メロウは強いです、ぼくらの側でいつでも真っ直ぐに前を向いていた。

メロウはぼくらの気持ちを分かってくれた、この痛み、もう、おさえきれないんだ。気持ちが走り出したから。なんでもする、ぼくが選ばれなくてもいい、三人のうちの誰かが幸せにしてくれるなら、ぼくの本望です。だから、ぼくらの気持ちをわかってください、ぼくらの味方になってください」話しながら、涙をぼろぼろこぼした、グオンは差し出されたメロウのハンカチを受け取った。

「ごめん、メロウ、ぼくは泣かずに話すことが出来ないんだな、かっこ悪いな」ハンカチで涙をふいた。

「グオン様、貴方が選ばれなくてもいいっていうのは本当ですか?」マイナが言った。

「選んでもらえたらうれしいです。でも、ぼくら三人は、メロウに幸せになってほしいていう気持ちのほうが大きい。メロウが女性だと知る前に僕らは仲間としての絆ができあがっていたから」マイナに涙目を向けながら「でも、三人の求婚王子としてのぼくらにとってはメロウは姫なんです、ややこしいけど、そうなんです」

 メロウが兄たちに向き直った「私が失敗した、そのことが、一番の番狂わせだった。だから、私が悪い。でも、すべてが、上手く言ったとしても、私の心には痛みが残ったでしょう。全てが終わって、学園を去り、第二の人生を生きることになっても、私は苦しみを抱いて生きてくことになるでしょう。

私は三人が大好きです。一緒に過ごした時間が宝物でした。何が正しいのか私には、分かりません。感情でうごいたらダメですか?私も彼らと同じ気持ちです。わかってください」

「メロウ、僕らは、おまえが幸せになるのを望んでいるんだよ。おまえを苦しめたくはない。これではまるで、おまえの敵みたいじゃないか」とイルドが悲しそうに言った。

「イルド、もういい、もういいんだ。この子たちの好きにさせてあげよう。この十八年も振り回されてきた四人だ、僕は近くで見ていて、この子たちの仲のの良さを実感したよ。長年メロウを見守ってきたけど、このへんが潮時だろう。状況が変わったんだ、結末も変わってくるさ」とミオリ。

「メロウ、どうして秘密がばれたんだ?まさか、おまえが?」マイナが疑いの目をメロウに向けた。

兄たちの視線がメロウに集まった。。メロウがためらうように、視線を下に向けた。

「メロウ」マイナが厳しい視線を向けている。

「う、海に落ちたんです。四人で海にいった時。小舟に乗っていて……ギルディ先輩が海に飛び込んで助けてくれたんです。アラオル先輩とグオン先輩は舟に引き上げてくれて」

「海に?」ミオリもラナンもその話は聞いていなかったので驚いた。

「はい、助けてもらったんですけど、服がびしょびしょで、胸に巻いていたさらしはずれちゃうし、シャツが素肌に張り付いて体の線がわかっちゃったんです、女だと分かっちゃった……」メロウが涙を隠すために下を向いて顔を横に向けた。

 兄たちは驚愕のあまり、言葉を失った。

「僕たちは見るつもりでは……」三人の求婚王子たちがうろたえた。

 マイナがメロウを抱きしめた「ごめん、辛い思いをしたな。おまえが死ななくて良かった。泳げないんだもんな」兄全員が泣いてしまったので、三人の求婚王子はいたたまれない気持ちになった。

 メロウが涙をぽろぽろ流し、「兄さん、ごめんなさい」と言った。

「分かった。お父さんを説得しよう。メロウ、心配するな兄ちゃんにまかせておけ」マイナがメロウの頭を優しくなでた。マイナが顔を上げ、「誰が反対しても俺はメロウの味方だ」と大声で言った。

 ミオリがフーっと息を吐き、「メロウを助けて、くれてありがとう、僕らの妹を助けてくれて本当にありがとう」と涙声で言った。

「ギルディはイルカのように泳げるんだ」とグオンがもらい泣きした。



 エミナが夫と一緒に図書室で待っていた。

 ミオリが、なんとか皆に分かってもらいました、と報告した。

「良かったわ、皆仲良しなんだもの、わかってくれて嬉しいわ。あとは、お兄さんを説得するだけね、大変だけど。私にも手伝わせて、来週うちで食事会をひらきましょう。まかせておいて」「ありがとうございます」

「いいのよ、かわいい、メロウのためですもの、ねえ、あなた」「ああ、おまえの好きにするとにするといいよ」エミナの隣で夫のウオールが微笑んでいた。


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