第31話アラオルと父

 アラオルはメロウの事を父と話すために、この週末家に帰った。

南の領は漁業が盛んだ。アラオルの家は海が見渡せる高台にある。天気のいい日には、窓を大きく開け放ち、本を読みながら、時折、顔を上げ、海を眺める。そうやって過ごすのが、アラオルは好きだった。水平線に船が見える。大漁だといいな、アラオルは本棚から、好きな本を一冊取り、椅子に腰かけて海の方に目を向けた。机の上に置いた鞄の中に狐のぬいぐるみが入っている。そっと手を伸ばし、鞄にふれた。メロウに会いたいな。


 夕食は、二歳年下の双子の弟と四歳下の妹と両親と全員揃い、賑やかに食卓を囲んだ。「アラオル兄さんが帰ってくるたびに、首都の美味しいお菓子を買ってきてくれるから、嬉しい」と妹のルンナが言った。

「これ、おいしい」「うん、うまい」弟のツイトとジハラが食事のあと、お菓子を食べている。

 

 アラオルは、父のアグナルを話したいとがあるので、と図書室に誘った。

 二人でコーヒーを飲んだ。「お父さん、メロウが、ボナルド国からルリア様の生誕百五十年の祝賀会に招待されているんです。お城からの連絡がきたんです」

「そうなのか?まあ、ルリア様はメロウのご先祖様にあたる人だからな。ボナルド国にいくんだな」アグナルが機嫌よく言った。

「はい、一つ問題がありまして、お父さん落ち着いて聞いてくださいね。十八年前の騒ぎを憶えていますか?」

「ああ良く覚えているよ、あの時は大変だったからね」アラオルが大きく息をを吐いた。アグナルがアラオルの顔をちらっと見た。

「お父さん、メロウは女性です」「えっ」アグナルが飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。「今、何て言った?」

「メロウは女性です」アラオルがまっすぐな視線を父親に向けた。「十八年前に生まれたのは、女の子だったんです」

「嘘をついていたのか?」呆然とした顔でアグナルがつぶやいた。

「そうですね。でも、あの騒ぎの中女の子が生まれたと怖くて言えなかったんですよ。シーナ家は南の領民です」

アグナルが信じられないと、頭を抱えた。

「求婚王子の中に僕がいた。自分の領の領主を優先したい、でも、言い出したのは、ギルディの父親だったから。三つの領の領主の諍いの種になりたくない、何より、メロウを守りたい。苦しんだ結果、男の子が生まれたことにしようとした」

「あの、フロウトが嘘をついていたのか、十八年も」アグナルが辛そうな顔をした。

「とばっちりをくったのが、メロウです。可哀そうに。ギルディもグオンも子供の頃メロウの姿を一目見たくて、うちの領まできたことがあるそうです。ぼくは、子供のころ、『あれがメロウだ』と、誰かに教えられたけど、意識しすぎて、関わる事をしなかった。嫌いなわけないのに,むしろ、気になってしかたなかったのに」

 アグナルはフロウトの嘘について、腹を立てていたが、アラオルの様子から、メロウの事が好きなんだなとわかったので、ため息をつくことしかできなかった。なにしろ、フロウトが嘘をつく原因になった三人の内の一人だ。だが、他の二人とは違う、フロウトは、うちの領民だ。

「せめて、私だけにでも、本当のことを打ち明けてくれていたならな」

「親子で、メロウを守って来たんですよ。両親と兄五人で」

「お父さん、メロウの父親を許してあげてください、メロウの兄たちのことも。隠しとうすことで、全てを丸く収めようとしたんです。自分たちやメロウの幸せを犠牲にして。メロウは、僕たちに秘密がばれた時姿を隠そうとしたんです」

アラオルが父に、真剣な顔で言った。「僕らが、僕らの姫を手放せるはずがない。僕らは求婚する姫がいない、求婚王子だった。僕らのせつなさは三人だけが分かる気持ちだった。僕らの姫がいたんだ、手放せるわけがない。仲間になった今ならなおさらです。お父さん、メロウのお父さんを許してあげてください」

 アグナルは拳を握りしめて、歯が折れそうなほど、歯を食いしばった。フロウトに対する怒りの気持ちと、アラオルに対する愛情との気持ちに揺さぶられるような思いだった。アラオルは、そんな父を見て、唇をかんだ。

「お父さん僕は、メロウをあきらめようとしたことがあるんです。僕が三人の求婚王子を降りたら、同じ領の領民として、メロウの父親はいろいろな物思いからぬけだせるのではと、思ったんです。しがらみから解き放たれるこができるだろうと、でもあきらめられなかった。僕は我儘ですか?選ばれなくてもいいんですメロウの求婚王子でいたい。戦わずして諦めるなんていやです。でも、お父さんが、メロウの父親をどうしても許せないなら、潔く身を引きます。そしたら、僕は実質的に求婚王子じゃなくなる。メロウも選ぶ苦しさが減るでしょう。南の領主の事を気にしなくて良くなる」

「アラオル……お前はあまり、自分の感情を表に出さない子だ。だけど、一度言い出したら聞かない子だ。わかった」(そんな可哀そうなことが出来るか)アグナルは実はアラオルが強情な事を知っている。

 アラオルがぱっと顔を輝かせた、「ありがとうございます、お父さん。これで、明日、明るい気持ちで大学に帰れます。」(メロウに胸はって会える)

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