第29話ギルディと父
夢の中で、狐のぬいぐるみを、抱いて歌っていたルリアが、「メロウ貴方は、歌えるわ。歌ってね、自分のことを第一に考えてね。新しい風が吹くわ。心配ないからね」とメロウに手を差し伸べた。
「ルリア様、私は怖いんです。新しく踏み出すことが、怖い。私にできるでしょうか?先輩たちが私の為に、動いてくれている。ミオリ兄さんもラナン兄さんも私の為に違う道を選んでくれた。私は強がっているだけで、本当は弱いんです。ボナルド国にいくなんて……、歌姫を目指すことも、私にできるでしょうか?」
ルリアが優しく微笑んだ。「あなたはだれ?メロウ、強くて、優しくて、意地っ張りの私の大切な人……今まで何があっても頑張って来た。皆。あなたの事が、大好きよ。もっと、自信をもって。」「ルリア様一つ聞いてもいいですか?どうして私の夢にあらわれたんですか?」メロウはずっと気になっていたことを聞いてみた。
「私が、幽霊として貴方の前に現れたら、貴方は怖いでしょう?」
「幽霊?」「そうよ、怖いでしょ?夢なら、ああ、夢か、ですまされるもの」ルリアが明るく笑い、「ボナルド国には私の子孫がいるわ、あなたに通じるものがあるわ。だから、大丈夫なの。私を愛してくれる人がいる。あなたも私を、愛してくれているわよね。私もあなたが大好きよ」
メロウの頬が涙で濡れた。ルリアは、百三十年前に描かれたご先祖様の絵の幽霊として、メロウの前に現れることもできたのだろうか?それをしなかったのは、ルリアの優しさか?メロウは楽しそうに歌うルリアの美しい歌声に、聞きいっていた。
朝早く、三人の求婚王子たちが、それぞれの家に帰るためにでかける準備をしていた。朝食を食べた後、メロウと兄二人が見送った。
「ぼくは、狐のぬいぐるみを持っていくよ、君と離れて寂しいからね」とグオンが胸に狐のぬいぐるみを抱いていた。
アラオルとギルディも鞄を開いて、ぬいぐるみが入っているのを見せた。
メロウは、思わず、泣きそうになったが、ぐっとこらえた。兄二人は、笑いそうになるのをこらえた。(おお、青春だな。かわいい)
「そんなことが……信じられない」ギルディから話 を聞いた父のギランドが大きな声を出した。
「信じられないと思いますが、本当の事なんです」とギルディが言った。
中部の領主のギランドの館は、小高い丘の上にあった。周りを石垣で囲まれた、石と木で造られた大きな家で、広い前庭と家の後ろ庭は、植物が好きなギルディの好みが反映されたもので、バナナや、パパイヤの木が植えてあり、クロトンや、赤い花も植えてあった。父が帰るまで、庭仕事をして過ごした。
まだまだ、暑い日が続く。 雑草を取ったり,枯葉を取り払ったりして、汗をかいた。こうしていると、気が紛れる、父は、どういう反応をするだろうか。メロウの父を許してくれるだろうか?アラオルとグオンはどうしているだろうか?上手くやってくれるといいのだが。
父は、メロウが女性だと知っだたら、何ていうだろうか?これから、俺たちがやろうとしている事を理解してくれるだろうか?問題は山積みで、大変だけど、俺たちはやりとげなければいけない。俺たちの姫のために。明日、大学に戻った時、メロウに胸張って会えるように、頑張るんだ。ギルディは決意を新たにして、石の椅子に置いた狐のぬいぐるみを見た。「会いたいな」
父が帰ってきて家族で食事をした。優しい母と、ギルディによく似た妹と母親似のかわいい顔立ちの年の離れた弟。父はギルディが帰って来たので機嫌がよかった。ギルディと妹は父親似だ。
食後、ギルディが父のギランドに言った、「少し話しませんか?お茶を飲みながら」客間に、お茶と焼き菓子や果物を出してもらって、父と向かいあったギルデイは、お茶を一口飲むとこれまでのいきさつを話した。
「それでは、メロウは十八年間男として、生きてきたが、本当は女性だったってことなんだな?」「そうです」ギランドが、頭に手を当て「うわーっ」と言った。
「なんてことだ」
「許してあげてほしいんです」ギルディが真剣な顔で父を見た。
「許す?なにを?どうして」
「メロウの父親をです。真実を隠してきたことをです」
「ああ、あの時は、凄い騒ぎだったからな。男の子が生まれた事で騒ぎも収まっていったが、そうか、女の子だったか……メロウの父親は気の弱いところがある人だ。妹が、国王の従弟と結婚するしな。玉の輿だって騒がれたし、三人の領主から、女の子が生まれたら、息子の嫁に欲しいと言われて、困惑したんだろうな。可哀そうな事をしたな」ギランドは、腕組みをして、考え込むようすで、「悪い事をしたなと、ずっと思っていたんだ、酒が入っていたとはいえ、あんなを場所で、あんなこと、言わなきゃよかったって。許してほしいのはこっちのほうだ」
ギルディは、それを聞いて、何とかなりそうだと考えた。
「俺たちそれぞれの父親に真実を話して、許してもらい、メロウの父親の心配を一つづつ、取り除いてから、話を進めていくつもりです。アラオルは口の上手い奴だから大丈夫だろうけど、グオンはどうかな、ちょっと心配です」とギルディが父の顔をじっとみつめた。
お茶を飲みながら,ギルディの話をきいていたギランドが、テーブルを指でトントン「叩きながら、「それで、おまえたちはメロウのこと、どうするんだ?」
「メロウの父親に分かってもらって、メロウに求婚します。俺たちはメロウをめぐってて争ったりしない。メロウの気持ちを尊重します、その事も、お父さんにわかって欲しいんです。メロウは好きな人と結婚する、無理に縁談を進めたりしない、家と家のしがらみとか、この際関係ない、俺たちにとって、大切な人なんです。幸せになってほしい、俺たちの仲間なんです。メロウは俺たちに求婚させてくれると言ってくれたんですよ」黙って話を聞いていた、ギランドは思わぬ話の展開に持って生まれたやんちゃな気質が頭をもたげた。
「メロウが求婚させてくれる?そうか、凄いな、へえー、アラオルとグオンが相手ならこちらに分がなくもないな、ギルディは強いし、性格もいいし、面白いし……そうか、結婚式は美香館がいいかな……」などと言い、一人でもりあがってきたので、
「お父さん、俺たちはこれから、慎重に事を運ばなければいけないんです。三人の領主に分かってもらい、後、メロウの兄弟たちに話を付けないといけないんです。それから、メロウの父親に何も、心配することは無いから、安心してメロウに求婚させてはしいと話を持っていかなくてはいけない。それから、メロウに求婚します。メロウが、誰を選ぶかなんて、メロウの気持ち次第ですよ。」ギルディは困った人だと内心思いながら、言った。
「お前は選ばれそうか?」
「わかりませんよ、まだ、なにもかも始まったばかりです、俺が結婚したくても、メロウがしたくないなら、それは、しかたのないことです。だから、どうか、求婚の事は見守るだけにしてください。ただ、お父さんたちに協力を頼みたいことがいくつかあるんです。それはお願いしたい」
ギルディの真剣な眼差しにギランドは心を打たれた。
「わかった。お前がそこまで言うなら、喜んで協力するよ。アグナルとオルドの説得が上手くいかなかったら、俺が話してやってもいい。あいつらは良い奴らだけどわが子可愛さにごねるかもしれない」
「俺たちはメロウに好きな人を選んでもらいたいんです」
ギルディは父親に話せたことで、安心したのか、テーブルの上に置かれたバナナを三本たいらげた。
父のギランドはそんな息子を見て笑った。まだまだ、子供っぽいところの多いこの子が、自分で嫁とりしようとしているのかと思ったら、おかしくもあり、心配でもあった。
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