第28話シーッの海でおぼれそう
シーッの海でおぼれそう
月の光に照らされて 今夜二人は熱帯魚になる
海を深く潜っていく サンゴの影で見つめ合い
ひらひらのひれで優雅に踊る
さあ、新天地を求めて 旅立とうか
遠く 遠く もっと遠く
二人ならもっと遠くの海へいける
青に染まり月に照らされ 恋の深海をめざすのもいいな
美しい君は しなやかな 熱帯魚
今夜の月だけが僕らを見ているよ
ラナンが歌っていた。今夜は、学生会主催の月見の会だ。去年のウグイス組が特別に呼ばれて、歌った。
月の歌ならこの歌だろうとナライが言ったからだ。
ナライは強面の大男だが、ごきぶりぎらいは有名だけど、もう一つ、とびっきりのロマンチストだった。
実家の庭に恋人にあげるためのばらを育てているのだ。
まだ見ぬ恋人のためにだ。直接ラナンに歌ってほしいと頼みにいったのだ。
この歌はラナンのためにガラクが歌詞を書いたものだった。
「いいよ」と気さくにラナンが言った。
「俺はこの歌が一番好きなんだ」ナライが隣のリオンに言った。
満月に照らされて、ラナンが歌っていた。メロウと三人の求婚王子も、今夜のラナンは五割増しでかっこいい、と思っていた、「いつもと同一人物と思えないほど、ラナンにいさんはかっこいい」いつもはがははと笑い、あまり、おしゃれにも気を使わないのに、歌うとなると人が変わるのだ。
学生達は、それぞれ、好きな飲み物を飲んだり、焼き菓子を食べたりして楽しんでいた。
歌い終わったラナンたちは口笛部の後輩に囲まれ、たくさんの拍手と後輩たちの差し出した食べ物にご機嫌で笑っていた。
「明日、俺たち、家に帰って、父に話してくるよ、メロウ心配しないで待っていてくれ」とギルディが言った。
「頑張ってくるからね、祈ってて」とグオン。
「大丈夫、うまくやるから」とアラオルが笑った。
賑やかに騒ぐ学生達を横目に、三人の求婚王子とメロウは、これからの事を話しあった。昨日の作戦会議どうり、上手くやらねば。
「うちの父は。気が弱い。説得するにしても、三人の領主にメロウが女性だという事を隠してきたことを怒っていないこと、三人の求婚王子がメロウを争って揉めないこと、それを保証してあげないとね。メロウは一人しかいないんだ。父はそれが怖かったんだよ、かわいいメロウを取り合って争うことになったら、メロウも三人の求婚王子とその家族も不幸になってしまう、それがね。」とミオリが言った。
三人の求婚王子たちは、真剣な顔で兄の話をきいているメロウの横顔を見ていた。
自分たちの姫を悲しませるわけにはいかない、必ずうまくやり遂げるのだ、そう、堅く心に誓った。
「一つづつ、心配なことを取り除いて、安心させてから話をすすめていかなくては。公表するにしても世間の反応とか、批判とか怖がる人だから、なかなか、うんといわないと思うんだ。なにしろ、十八年前のことがあるからね。メロウが大変な目に合うと思っている。何より、メロウを大切にしているからね」
「そこは、発表する時は、三人の求婚王子と父、メロウと兄弟たちそろってやりましょう。ボナルド国からの迎えの船が四週間後に着きます。今回の招待は公表した後の騒ぎからメロウを一時的に避難させるのによい機会だと思います」とアラオルが言った
「メロウが帰ってくる保証がどこにあるの?舟の事故とか、病気になるとか、むこうで恋をして帰ってこないとか、心配だらけじやないか」とグオンが喚いた。
「一度離れた方が良いんだよ。人の言葉の方が破壊力があるんだから。メロウを海の向こうに行かせよう」アラオルがグオンの背中をトントン叩いてなだめた。
「そうだね、ヒヨコ君たちもカナリア組も行くんだよ」とミオリが言った。
「俺も行くよ、兄弟を代表してね。大丈夫」とラナンが優しくメロウをみた。
「ラナン兄さんが一緒なら、心強いです」
「俺も行きたいな」とギルディが言ったので、「ギルディ!」とグオンとアラオルが大声をだした。
「そういうわけにいかないから、悩んでいるんじゃないか」とグオン。
「わかってるよ、ちょっと言ってみただけさ、心の声だよ。俺たちは残って、人々の噂の的にならなくてはね、成り行きを見守らなくてはね。大丈夫だよ、メロウ、まかせとけ、帰って来る頃は落ち着いているよ」
「見て満月焼き菓子だ。やった。」と配られた袋の中を確認して、ヒヨコ組のシドが言った。「うわ、俺は、三日月だ」とライ。「僕は半月」ロンが笑った。
「僕の、半分あげるよ」とシドが焼き菓子を半分に割った
相変わらず、ヒヨコ組は仲良しだなと思いながらグオンが、、袋をあけてみた。「うわ、満月だ」今宵の月のようなまるい焼き菓子。
(満月に照らされたメロウは女神のようだ)と思いながら、月をながめるメロウを見ていた。形のいい耳、美しい顎から首すじのライン。手に持った三日月の焼き菓子。「俺のと交換してやるよ」とギルディがデリカシーの無い事を言う。
(メロウには、三日月が似合うのに)とグオンが思いながら、焼き菓子を食べた。
si-
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