第26話動きだす時
新学期が始まり、いつもの日常が戻って来た。学園や寮も、賑やかさを取り戻し、メロウと三人の求婚王子たちは、同好会活動を楽しんでいた。
「次の同好会活動は、首都の市場はどうだろう?去年は三人で行ったけど、四人ではまだ、行ったことないから」とギルディが言った。
「いいですね。美味しいものがいっぱいあるし、活気があって、賑わっていて、楽しそう」
「去年行ったときは、ギルディがたくさん買い物してさ、八袋も買ったんだよ。ぼくは、二袋しか買わなかったから、三袋も持たされてさ、酷いんだから。でも、メロウが買い物したら、ぼくが喜んで、持ってあげるよ」
「ええっ、いいですよ、そんな」
「持ってもらえよ、グオンは意外と力持ちだよ、弓道が得意なんだよ」とギルディが言った。
「子供の頃から、ひととおり習うだろう、武道は。アラオルだってかなりの拳法の使い手だよ。ギルディは怪物並みに強いけど」グオンがふくれっ面で言った。ギルディが肩をすくめて、頭を振った。(どうやら、グオンは、美しくて、繊細な男にみられたいらしい)
「グオンは、泣き虫だけど、おしゃれで、髪が長くて、サラサラで……だけど、強いんだよ」アラオルが笑った。
「首都の市場って、三っの領から、色々集まってくるし、交流のある外国からの珍しいものや、美味しいものが売ってるから、見るだけでも楽しいんだ。味見させてもらったら、美味しいと、つい、買っちゃうし、買った魚を、二階の食堂で料理してもらうこともできるんだ、メロウ、きっと気に入るよ」アラオルがノートを開いて言った。
「お魚、良いですね、白身魚の塩煮食べたいです」
「夏休みに行った市場でも魚買っていたよね」グオンが頬杖をつきながら、「ぼくは唐揚げにしてもらおうかな」
「いいね、俺は刺身、いや、みそ煮もいいな」
「じゃ、市場で決まりでいいね」とアラオルが言った。
メロウと三人の求婚王子は、色々な所へ行く計画を立てた。
四人は口笛部の演奏会に行ったり、三角ボールの試合を見に行ったりした。
メロウの夢の中でルリアは美しい声で、歌った。
楽しい学園生活を謳歌していた。
学園長の所に城からの使いが来た。
ボナルド国から、ルリアの生誕百五十年の祝賀会の招待状が来たのだ。
ミオリに招待状が渡された。ミオリが社会見学同好会を訪ねてきた。
「メロウに招待状?どうしてですか?」アラオルが首を傾げた。メロウは南の領の領民だアラオルの父がが領主だ。
「うん、それがね、社会見学同会の活動で、音楽堂に行ったことがあったよね。その時の記事が新聞に載ったよね、その新聞を、ボナルド国に送った人がいたんだよ。それが、ボナルド国の新聞に載ってね、「「この、ルリア様の絵の前に立っている人は誰?ルリア様にそっくり』って話題になったらしいんだ。それで、ルリア様の、アロール国の子孫らしいってことで、この人を、祝賀会に呼ぼうってことになり、招待状が届いたってわけ」とミオリが言った。
「そんな……」メロウが絶句した。「行くなよ」とギルディが言った。
「断れないよ。そうですよね?シーナ先生」とアラオル。
「うん、お城に招待状が届いたんだ、正式な招待だ。よほどのことが無い限り、断るのは難しいな」
「よほどの事ね……」青い顔してグオンが言った。
「一度、メロウを連れて、家に帰ろうと思う。家族で話し合いたい」
「メロウは帰ってきますか?」
「おい」ギルディがグオンの手を掴んだ。「だって……」
「メロウ、話していい?いつか、君に言ったね、今が動き出す時だよ」とアラオルが優しく言った。
「はい」メロウが真剣な表情で、うなずいた。
「シーナ先生、僕らはメロウの秘密を知っています。」
「えっ?」ミオリの顔が真っ青になった。メロウが唇をかんだ。
ミオリが、メロウの顔を見た。メロウは青い顔をしていたが、真っ直ぐミオㇼの目を見た。
「秘密を知ったうえでメロウに提案しました、時が来るまで四人だけの秘密にしようと。いつか、この問題を僕たちの手にとりもどそうって」アラオルがミオリに言った。「メロウは秘密がばれた時、ぼくたちの前から消えようとしたんだ。家族と約束したからって」とグオンがメロウの青い顔を、心配そうに見た。
「シーナ先生僕たちの味方になってください」とアラオルが言った。
ミオリが目を見開いて、体をびくっと震わせた。
「僕たちは、メロウを取り合って争ったりしません。自分の親を説得して、シーナ家が心配するようなことは起きないように動きます。必ず、メロウを守ります。シーナ先生、僕たちの味方になってください。僕たちは、求婚の事は、メロウの意思を尊重します。ただ、僕たちの気持ちの問題として求婚したい、それだけなんです」
「おねがいします」ギルディとグオンもミオリに頼み込んだ。
「どうすればいいんだ?」青い顔をしたまま、ミオリが三人の求婚王子たちの顔をみた。
「僕たちはじぶんの親をこれから説得します。先生は、ご自分の兄弟を説得してほしいんです。それから、協力して、お父さんを、説得しましょう。家族の了解を得たうえで、僕たちは求婚したい。メロウは断ってもいいんです。僕たちはこの問題を僕らの手に取り戻したい。求婚は個人的な問題だ、自分の思いの及ばない所でどうこうされたくないんです」
「親たちの説得は大変だよ」とミオリがため息をついた。
「はい、必ず成功させます。それから、メロウに求婚します、メロウは、断ってもいいんです。僕らは、求婚王子として、姫がいるなら、求婚したい、ダメでも、どうしても、可能性に賭けたいんです。メロウ、その時は、良く、考えてね」アラオルが、メロウを優しく見た。「そして、メロウが女性だと公表します」その場にいた全員が息をのんだ。「公表する?」ミオリが顔をこわばらせた。
「はい、メロウが、ボナルド国に行くとしても、秘密にしたまま行くわけにはいきませんよね。、僕たちも、求婚王子と認知してもらわなければ嫌だということです。僕たちは、領主の息子です、公表しないと、婚約も結婚もできない。それに、メロウは歌いたいんです。歌姫になりたいんですよ、女性だと公表しないと、それもかなえることができないんです」「動き出す時が来たといったね」
「はい、十八年前、まだ、一歳だった三人の求婚王子と生まれたばかりのメロウを守るために、真実を隠した。でも、四人共成人している、今なら、公表しても、大丈夫だろうという事で、公表することにしたと話しましょう。メロウがボナルド国に行くなら、この騒ぎから、しばらく、逃がすことが出来る。帰ってくる頃には、少し落ち着いているでしょうから」
「そういうことか?僕は、メロウが幸せになってくれたら、それでいいんだ」ミオリは急な話の展開に、頭がぐるぐる回るような思いだった。「メロウ、公表するとなると、君が一番負担が大きい、それでもやってくれるかな?男として、生きてきたけど、実は女でしたと公表するわけだから、十八年前の騒ぎより大きなものになるかもしれない」
「はい、公表するなら、今しかない、ボナルド国から、ルリア様の生誕百五十年のお祝いの招待状が届いたこのタイミングが一番いい、そうでないと、もっと後になるか、機会を逃してしまうでしょうから」とメロウが、きっぱりと言った。
「ミオリ兄さんごめんなさい、家族みんなと約束したのに、こんなことになってしまって、でも私たちは仲間なんです。離れることが出来なかった。いつの間にか、一番近い存在になっていたごめんなさい」
「いいんだよ、守るべきはおまえだったのに、秘密を守ることに必死になっていた」
「ごめんなさい、私を守るために、お兄さんの人生を使わせてしまっていたのに。逆らうことになってしまって」
「おまえが前を向いて人生と対峙しようとしているなら、誰も邪魔できないよ」
「ごめんなさい、今まで、隠しとうすことで、まるくおさまるなら、それでいいと思っていました。でも、先輩たちが言ってくれたんです、君の人生はどうなるって」メロウが三人の求婚王子たちを見た。「選ぶか、選ばないかに関わらず三人の求婚王子たちに、求婚させてあげたいんです、だって、彼らは求婚王子なんですから」
嬉しくて、三人の求婚王子たちが、声を上げた。「メロウ」
「口約束とはいえ、父は約束しちゃったし、隠しとうすことが出来たのならまだしも私は失敗しちゃった。先輩たちは一言も責めなかった酷いことをしたのに」メロウが恥ずかしくなって、言い訳をした。
ミオリが複雑な思いでため息をついた「お前は、困難な道を行こうとしている、それでも行くんだな。僕は、すべてが終わったら、どこか静かに暮らせる場所で優しい男と結婚させてやりたいと思っていたんだ」
「シーナ先生、この際そんなことはすぐに忘れてください。怖いな、三人の求婚王子ひそかに終わらされていたってことでしょ?うわっ、嫌だ」とグオンがわめいた。
「よくあることだよ、そういうことって。ずっと、後になって知らされるんだ、お前のためにしたことだって、でも、もう時間がたちすぎていて、どうにもならないんだ」と、アラオルが言った。
「メロウは、俺たちにとって、かわいい後輩だ。それは、何があっても変わらない。でも、それと、求婚は別のものだ、メロウが求婚させてくれる、俺たちにとって、どんなにうれしい事か」
『僕たちは、十八年、求婚王子と呼ばれてきました。思春期になって、強く、メロウの事を意識しました。求婚王子だけでは求婚は成立しない、相手がいる。無いものねだりだと、わかってはいたけど、僕らが恋の相手を考える時に、あの子が女の子だったらよかったのにと、つい考えてしまって、恋らしい恋もできない。大学でメロウにあって、メロウと知り合って、先輩と後輩という関係になって、気持ちを納得させ、僕らなりの決着をつけたかったんです」アラオルが淡々と話した。
「メロウ」「なんですか?」「ぼくらに求婚させてくれるの?「あの日、約束しましたよね、いつか、ぼくらに求婚させてほしい、約束してくれたら、いつまでも待つよって」とメロウ。
「だって、僕らは、一度だって自分たちの口から、自分たちの言葉で、求婚したことないんだよ、なのに、求婚王子って言われ続けてさ、自分で求婚したいんだ」
「わかっていますよ」「ありがとう」グオンが照れて、横向いて、涙をぬぐった。
ミオリは黙って話を聞いていた。(この若者たちになんて言ったらいい?僕ら家族がしてきたことは、彼らにとって、酷い事だったのだ、わかっていた。だから、隠しとうそうとした、なのに、四人が会って一年もたたないうちにこんなことになってしまった)「分かったよ、僕は君たちになんて言ったらいい?僕は君たちに酷い事をしていると知っていたよ。でも、君たちが知らなければ、このまま隠しとうして、何事もなく終わらせることが出来ると、思うしかなかった。三人の求婚王子がかわいい花嫁を見つけて、結婚してくれたら終わる。それまでの我慢だって」辛そうな顔をしたミオリを、四人が見ていた。
「ミオリ先生もつらかったんですね」
「大変だぞ、僕は十八前のことを憶えているからね、僕は十二歳だった、たった一人のかわいい妹、僕ら家族の手で守ると決めたのに、づっと守ってきたのに、いつの間にか、他の手に変わっていたとは、それも、三人の求婚王子の手とは……」ミオリが寂しそうに笑った。
アラオルがミオリに小さな声で言った。「僕が選ばれなくても気にしないでくださいね。この求婚と、シーナ家と領主である父と僕との関係は別のものです。そこは約束します」
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