第20話

 空は青く、白い雲が流れていくのをのんびり眺めながら、青い海に糸を垂らす。

まだ、誰の糸にも手ごたえを感じずにいた。

 小舟に乗るのは、後回しにして、先に釣りを楽しむことにした。

「それにしても、暑いね」と、グオン。

 日陰をつくってくれている大きなな傘の下でも暑さはかなりのものだ。太陽の下は、ぎらぎらの太陽に焼かれるような気がする。帽子は必需品だし、タオルを首にかけて、水筒から水を飲む。お互いの姿を見て、まるで、釣り好きのおじさんのようだと、笑いあった。ゆっくりと、時間がすぎていく。

「釣れないねー」とグオンがあくびをしながら、隣のメロウに、「昨日、あまり寝てないんだ、今日のことを楽しみにしすぎてね、寝れなくって」と言った。

「私はちゃんと寝ました、楽しいことをしながら、眠いなんて、いやじゃないですか」

「グオンはまだ、少年の心のままなんだ。遠足の前の日、鞄の中の荷物を出したり、入れたりして、なかなか寝ないんだ」とアラオルが笑った。

「俺なんて、一週間前から、あと、何日って数えたり、雨、降るんじゃないかなって、考えたり、今日晴れたから、踊っちゃったね」

「ギルディは、楽しそうだよね、いつも。待っているあいだもあれこれ考えて、楽し

んで、当日晴れたら、大騒ぎで喜べるんだ」

「僕は、何となく、頭の片隅においていて、あ、明日海行くんだったって、準備したんだ」

『もっと、楽しめよ、釣れても、釣れなくてもいいじゃないか」と、ギルディ。

「アラオル先輩は時間を有効につかいたいんですよね。時間を、最大限意味のあることにつかいたいって」とメロウが言った。

「そうでもないよ」とアラオルが言った。

メロウが、アラオルのメガネの奥の目を覗いて「絶対、はめはずさないですもんね」と笑った。

「君だって、はめはずさないだろう?」

「これまではね、でも、これからはわからないです。先輩たちといると、ときどき、ぐりんぐりんと、心をゆさぶられているようで、そのうち、はめ、はずすかも」とメロウがが笑った。「それも、楽しそうだ」とアラオルが微笑んだ。

「手ごたえあった!」とギルディが叫んだ。

最初の、一匹が釣れて、その後、皆の竿にも魚が食いついた。

小舟を青い海に浮かべて、少し沖まで出てみた。

櫂でゆっくり漕いでいく。四人で、仲良く海に、進み出た。

「メロウは泳げないんだ。絶対に海に入らせないでほしい」とミオリとラナンから念を押された。波打ち際でくるぶしまでしか濡らさないメロウを見て、ギルディは「絶対危険なことさせないんだな、そしてそれをちゃんと守っているんだな」と言った。「兄たちに守られているので、自然に、兄たちの言うこときいていたら大丈夫だって考えちゃって」

「ふーん、俺たちが、守ってやるよって言っても、手強い、兄ちゃんたちには、敵わないか」小舟に乗る前、そんな会話をしたのを、ギルディは不満に思っていたのだ。

 メロウはいつも囲いの中から出てこない、そんな気がしていた。最近は、大分打ち解けてきていると思っているのに、どこか、よそよそしい。

三人の求婚王子と幻の姫なんてどうでもいいって、取っ払えていると思っているのに、いつも、メロウは少し引いている、それが、気になって、ちょっかいかけてしまう三人だった。

メロウは、本当はどう思っているのだろうか。

「海きれい、今日は波静かですね暑いけど、たまには、こんな風に過ごすのもいいですね」「夕方には泳ぐかな、俺、イルカなみに泳げるぞ」

「そんなにかわいくないだろ」とグオン。「おっ、見せてやるぞ、潜るのも得意だ」

「せいぜい、メダカくらいじゃない」とアラオルが笑う。「先輩たちって仲良しですね」と、メロウが笑った。「まあな、グオンもアラオルもすぐ俺に絡んでくるだろう、愛情の裏返しだな」「ギルディは前向き過ぎるところが、うっとおしい」とグオン。

「わかる」とアラオルが笑った。

「ギルディ先輩が静かだと逆に心配になりませんか?」

「どうせ、お腹すいたとかじゃないの」とグオン。

「おまえらー」

 海の上でお喋りを楽しんでた四人だったが、風が少し強くなってきたので、岸に戻ることにした。海は油断できない。突風が吹いてメロウの帽子がとばされた。「あっ」と小さく叫んでで、メロウが体のバランスをくずして海に落ちた。バシャーンと水しぶきが上がった。

「メロウ」三人が同時に叫んだ。

ギルディが上着を脱ぎ、飛び込んだ。

 メロウは泳げない。おもわず、手足をばたつかせた。

(落ちた、どしよう)

「メロウ、落ち着け、暴れるな。仰向けに浮くんだ」メロウに近ずくと背後から体を掴まえた。(来てくれた)メロウは動くのを止めた。「大丈夫だ。大丈夫だから」とギルディがメロウの体を仰向けに浮かせた。

アラオルとグオンが小舟をこいで側に寄せた、「よし、大丈夫だ。助けるぞ」とギルディがメロウに言った。

「ギルディ、つかまれ」アラオルが櫂を差し出した。

ギルディが櫂をつかまえて、メロウにつかまえさせた。

アラオルが櫂を引っ張りグオンも手伝った。ギルディが後ろから押し上げた。小舟はグラグラ揺れたがなんとか、メロウを舟の上に引き上げることができた。

舟のへりに手を掛けて、ギルディが小舟に上がってきた。

 メロウは船の上でうずくまった。

海に落ちてすぐに助けられたので、ほとんど海水は飲んでいなかった。グオンが泣いていた。「メロウが死んだらどうしようと思った。良かった、助かって」メロウにタオルを渡し、ギルディにもにもタオルと、脱いだ上着を渡して、ありがとうと言った。

 メロウはタオルを顔に当てた。咳をした.

少し海水を吐き出した。ほとんど、海水は飲んでいなかったが、それでも、少しは飲みこんでいるので、鼻の奥や、喉の奥が痛かった。目も海水が沁み痛かった

「メロウ大丈夫?」とグオンが背中をなでた。「はい、ありがとうございます」(心配をかけてしまった、グオン先輩泣いている)メロウはこの時動揺していたので、注意を怠った。上体を起こした。ずぶ濡れになった服は、助けられた時に、抱き抱えられたり、引っぱり上げられたときに上着がズボンからでてしまっていたし、ボタンが二つ取れてしまっていた。胸に巻いた晒は水を吸って重くなり、ずれてしまっていた。シャツが肌にぴったり張り付いてしまって、体の線がはきりわかってしまった。

はっとしてっとして、メロウは体を手で隠してうずくまったが、三人は見てしまった。三人は戸惑ってお互いの顔を見た。

 グオンは手を口に当て目をきょろをきょろさせた。

ギルディが髪をくしゃくしゃにして、天を仰いだ。アラオルは、メロウが見れなくて、うつむき加減で、一点を見ていた。メロウは青い顔をして、動けないでいた。

 ギルディが、咳払いをして、「メロウ、聞いてもいいか?君は女性か?」と言った。メロウは、ぴくっと体を震わせた。

 グオンとアラオルがメロウを見た。メロウは顔を上げ、一瞬迷うような表情をしたが、その目に涙があふれた。

 三人の求婚王子たちはメロウが涙を流すのを見た。

「いいよ、何も言わなくていい、わかった、わかったから」とグオンが泣いた。

「今は、何も言わなくていいよ、メロウ」とアラオル。

「ごめん、辛い思いをさせたな」とギルディが拳をぐっと握りしめた。

 メロウはタオルを肩にかけた。座り直すと、涙を拭いて話し始めた。

「ごめんなさい、私は三人の求婚王子と幻の姫を終わらせるためにきたんです。十八年前の騒動の時、父は男の子が生まれると思っていたんです。うちは男ばかり生まれる家系だから、女の子はめったに生まれない。エミナ叔母様がいる、だから……、でも、女のの子が生まれてしまった、騒動を収めるために男の子が生まれたと言ってしまった……」

「そうか、そうなのか……」とギルディ。

「信じられない……そんなことって」グオンが涙を流した。

「メロウ君は本物の姫なんだね」

三人の求婚王子たちは思わぬ事態に、困惑して、どうしていいかわからず、おろおろしてしまった。メロウは涙をぬぐうと、「私は、学園に入学するだけで良かったんです。シーナ メロウという男が大学で三年間ををすごす、それだけで。三人の求婚王子と世間に、男の姿をみせるだけ、だから、なるべく、三人の求婚王子たちに関わらないようにするつもりでした。なのに、先輩たちの方から近寄ってきてしまった」

メロウが三人の顔を見て、「でも、拒否して、怒りを買い敵に回られるよりいい、守ってくれるって言うなら、守ってもらおうって……ごめんなさい」涙ががこぼれた。「でも、失敗した……兄さんたちの言うとおりにするべきだった、私は先輩たちといることが楽しくなってきて、一緒にいたいと思って、判断を間違えたんです。いつの間にか先輩たちの存在が、大切なものになっていた。ごめんなさい、知られてはいけなかったんです。知られなければ、何もなかったことにして全てうまく収めることができた。ずっと、先輩と後輩のままでいたかった」三人の求婚王子たちはだまって、話を聞いていた。

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