第19話
うつむいた君の細いうなじ 髪を結った襟足は小麦色
夏の思い出は りんご飴 お祭りの夜の君の横顔
全てが 美しかったあの夜
僕はなぜ 君の手を離してしまったのか
たった一人の人だったのに
どうして 君は帰ってこなかったのか
僕は 待っていたかったのに……
ガラク先生が、ヒヨコ組のため書いてくれた歌詞を、紙に書き写したものを、ロンがひらひらさせながら、メロウに見せてくれた。
「もう、ロンが、恋の歌、恋の歌って言って、ガラク先生にお願いしたんだ」とシドが笑った。「ラナン先輩みたいに歌いたいんだ」とロンが熱く語った。「今、音楽のベン先生が曲つけてくれているんだ」とライが言った。「恋の歌か、カナリア組も三曲書いてもらったよ。こんど、音楽堂で歌うといいよ」とイオルが言った。
メロウも笑顔で「楽しみです」と言った。
夏の活動はどうしても海に行きがちになってしまう。島国で周りを海にかこまれているので、夏らしく、海に行こうと四人の意見が一致した。
「海の近くにうちの夏の家があるんだ。一泊二日の予定でいかないか?」とギルディが言った。ちょうど四部屋あるし、小さな舟もある」
「遊びに行く感じ?」とグオンが言った。
「海いいですね、でも、私は泳げないんです。子供の頃、体が弱くて、泳ぎを禁じられていて」とメロウが言った。
「泳がなくていいよ。舟に乗ったり、釣りしたり、波うち際で、足だけつけるだけでもいいよ」アラオルが優しく言った。
「釣りの道具、食べ物、折り畳み椅子や、タオルとかは、俺がが準備するから、なるべく身軽ですむように」「折り畳み椅子とかはいらないでしよ、いざとなったら、地べたに座ればいいよ」とグオン。
「兄さんたちとよく釣りに行きました。釣れなくても楽しいですよ」
まるで、遠足の計画を立てるように皆、うきうきしていた。
「海?一泊?、だめ!」とラナンが言った。
「もちろんだめだよ、分かっているだろうメロウ」とミオリが顔をしかめた。
「お願い、兄さん、気を付けるよ、行きたいんだ」メロウが食い下がった。
「一泊だなんて、僕らの目が届かない所で、なにかあったらどうするんだ。せめて、日帰りににしなさい」
「でも、三人とも楽しみにしてるんだ、行かせてあげたい」
「じゃあ、俺も行く」
「ラナン兄さん」
「三人のことは、信用しているよ、おまえの秘密をしらないんだしな、でも、俺が心配なんだよ」ラナンは子供の頃から、メロウの側で、ずっと見守ってきた。一番年が近く、メロウとは、一番長く時間を共にしてきたのだ。
「そうだよ、僕だって、心配で眠れないよ、帰ってくるまで」兄たちのなかで一番心配性のミオリは、長男ということもあり、責任感が人一番強いのだ。
「私は子供の頃から友達や、学校の行事で泊りでかけたことがないんだよ」
「俺たちがいろんなところに連れていっただろう?」
「兄弟と友達や仲間はちがうよ、今回を逃したら私にはもう、二度とないかもしれない」と目を伏せたメロウを見て、妹に甘い兄二人は心が動いた。メロウが粘り勝した。
「うちの料理人が昼と夜の料理を作ってくれて、明日の朝食の準備もしてくれているから、食べ物の心配はしなくていいぞ」と夏の家の鍵を開けながらギルディが言った。「それは、うれしい。いや、君の料理もおいしいよ、でも、君の家の料理はおいしいだろう、食べることが好きな君の家の料理人だから」とアラオル。
「部屋に荷物を置いたら、少し休憩して、海に行こう」ギルディが三人に部屋を案内してまわり、それぞれ、荷物を置くと、居間に移った。
長方形のテーブルに椅子が四脚並んでいた。「好きな所に座って。昼飯にはすこし早いから、軽く食べよう」
「ギルディ先輩、魚がつれたら、料理して、食べましょうよ。一品増えるでしょう、私は、魚さばけないので、ギルディ先輩お願いします。焼くのはまかせてください」
「おう、いいよ」
「メロウは魚が好きだよね、この前もミオリ先生の煮つけもらっていたもんね」グオンが笑った。「前に好きなものは何ってきいたとき、魚って言ってたもんな。意外と食いしん坊なんだよな、メロウは」メロウの頭に手を載せて髪の毛をくしゃくしゃにして、ギルディが笑った。
アラオルが、「ラナン先輩にこのお菓子、メロウが好きだからって、渡されたんだよ。これ、おいしいな」と、チョコ菓子の袋を差し出した。
「兄さんたち、お腹壊すなよって、薬持たせてくれて、海風は意外と冷たいから長袖持っていけとか、虫刺されの薬まで持たせたんですよ」メロウはアラオルから、チョコ菓子を受け取り1つ食べた。「蚊取り線香までもたせたんですよ」
「たった一泊なのにな」ギルディもチョコ菓子を貰って食べた。
「いいじゃないか、仲良くて」アラオルはいつも物静かで、優しいミオリと、少し怒りっぽいけど、面倒見のいい、ラナンはメロウにとっていい兄だろうけど、いろいろ息苦しいこともあるのかもね、と思った。
「今日は、思い切り楽しもうよ、ね」とグオンがチョコ菓子をかじりながら言った。食べ終わると、四人は騒がしく、海まで五分の道のりを歩いた。「小舟がすぐに使えるように、船着き場につないであるって使用人のジュルーンが言っていた」先頭を歩きながら、「ほら、船小屋が見えてきた中に釣りの道具も準備してあるよ」と言ったた。ギルディの指さす先に、木製の小屋があった。屋根は赤、壁は青だった。
メロウと、アラオルと、グオンはくすくす笑いながら、ギルディがペンキを塗っているのを想像した。舟は黄色かな?と思いながら、後をついて行った。
「じゃーん」とギルディが言い。船着き場につないでいる舟を見せた。なんと、桃色だった。それも、明るい桃色。「うわー」三人が絶句しているのを見て、ギルディがどうだと笑った。
「僕らをこれに乗せると」アラオルが笑いながら、ちらっとギルディを見た。明らかに最近塗ったばかりのものだ。「使用人のジュルーンに塗ってもらったんだ」
「どうせなら、家も塗ってもらえばよかったのに」とグオンが言った。
「家は、親族も使うからな」とギルディが笑った。
「船小屋も使うでしょう?」とメロウ
「これぐらいは、愛嬌ですむだろ」
「まさか、釣り竿は塗っていないよね」とアラオルが小屋の中をのぞいた。
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