第16話

    

  その優しさは嘘でできている

  それでもいいよ 今きみがいてくれる

  それは真実だから


  この夢は 儚い砂糖菓子

  それでもいいわ これは私だけの思いだから


  恋は恋 夢は夢 幻でも 思い込みでもかまわない

  時に現実は厳しいものだから

  ぬくもりを背中合わせに二人でいよう

  いつか ほんものの愛になるまで


 ルリアは今日も歌ってくれた、メロウは、ルリアの美しい声にあこがれていた。私もいつか彼女のように歌いたい。メロウは秘密を守るため、目立つことは避けて生きてきた。学園生活もひっそりおくるはずだった。三人の求婚王子たちがメロウを、放っていてくれなかった。ルリアにそっくりなこの顔も人目をひいてしまう。運命の意地悪。これでは、目立たないでいられない。そう思ってしまうメロウだった。


 「つぎの社会見学活動は、ルリア様に『金色狐のレックさん』の歌を教えたトーベンの住んでいた緑山にしようと思うんだけど、どうかな?」とギルディが言った。

「緑山って、トーベンが住んでいた所だけど、小さな古い家があるだけで、特になにかがあるわけではないよ。それでも、山の麓にはお土産屋があり、狐のぬいぐるみが売っていたりするけどね」とアラオルがノートを広げて言った。

「トーベンがルリア様とジェルディン王子の恋の結び人になったってことで、恋人同士で来る人や、恋人がほしい人が訪れるんだって」グオンがノートに狐の絵を描きながら言った。メロウがノートをのぞきこんで、「うわー、かわいい」と言った。

「この国には、狐も猿も狸もいませんよね、熊もいないし、狐のぬいぐるみほしいです」

「俺が買ってやるよ」

「ぼくが買ってあげる」

「僕は皆に買ってあげよう」アラオルが言ったので、「どうして、皆に?」とギルディが不思議そうに言った。

「みんなで、おそろいにしよう」

「男四人で?」とギルディ。

「うわっ、気持ち悪い」とグオンが顔をしかめた。

「いいじゃないですか、出かけた先で記念に何か買う。皆やっていますよ」とメロウが言ったので、

「そうか?」

「そうする?」とグオン。

「だから、買ってあげるって」

「先輩たちって、おもしろいですね」と、メロウが笑った。


 自転車で四人ででかけるのは、三回目だ。梅雨の間は傘をさして近くの、室内の見学ばかりだったので、四人とも、楽しんだ。前回は、傘をさして、美香館に行った。美香館には美しい庭がある。雨にぬれた木々も素敵だけど、今度は晴れた日にまた来たいねと話し合った。

 山裾の土産店が二件並んでいる場所の隣の空き地に、自転車を止めた。

「先に買っちゃう?」とギルディが、お土産店をちらっと見て、言った。

 四、五人の客が店先にいた。子供たちが、「金色狐のレックさん」を歌っていた。

「メロウ、大きいのと小さいのどっちがいい?」とグオンが聞いた。

「小さいのでいいです。枕の上に飾ります」

「俺は大きいのがいいな。帰りは自転車のかごにぽんと入れておけばいいよ」

 アラオルが店頭に飾ってあるぬいぐるみを手に取って見ていた。「これがいいな、中くらいのもの、手のひらより少し大きいサイズ、鞄の中に入れても邪魔にならないくらいの」「そうですね、それくらいなら」とメロウも手に取ってみた。おそろいの狐のぬいぐるみを買うことになった。

 約束どうり、アラオルがお金を払った。四人は、それぞれ好きなものを手に入れた。

 坂道をだらだら歩き、目についたものについて話しながら山を登って行った。

 月桃やくわずいもが生えている山道を歩いていると、ハチや蝶がとんでくる。グオンがハチや蝶を避けながら「ギルディはハチが好きだろうけどさ、ぼくは虫が苦手だよ」「夏には虫取っただろう、セミとか、クワガタとか」「セミとかクワガタはいいけど、ハチは刺すし、蝶はかわいいからいいけど、蛾は色や形が無理。蜘蛛なんてもっと嫌い」とグオン。

「ナライ先輩のゴキブリ嫌いほどじゃないでしょう?あのぎゃーはすごいですからね」「ナライ先輩のギャーに関して皆が黙認しているのは、ナライ先輩が面倒見の良い、優しい人で、三角ボール部では一番の実力者だからだよ、たった一つの弱点だからね、完璧じゃないほうが、親しみやすいじゃないか?」とアラオルが笑って言った。

「山道で怖いと言ったら、蛇だろ」とギルディがハンカチで汗をふいた。

「ギルディ先輩は、草むらでもかまわず、入っちゃうから、特に気を付けてくださいね」メロウが心配そうにいったので、ギルディは笑って、肩にかけていた鞄から、飴を取り出して、渡した。

「ほら、トーベンの家が見えてきたよ」先頭を歩いていた、グオンが言った。木造の小さな古い家がぐるりと石作りの塀に囲まれていた。「今はもう、誰もすんでいないけど、緑山は自然公園に指定されているんだ。だから、地域の人や、お土産店の人達が、綺麗にしてくれているんだよ」とアラオルが言った。庭には赤い花やガジュマルの木、へゴも植えられていた。月桃や、虎の尾など、なじみ深い植物が多く植えられていた。

 トーベンは植物学者で、台風で非難したこの島国が気に入って、この山に住んでいたのだ。メロウたちは、家の中を見渡しながら、百三十年前に思いをめぐらしていた。ルリアに『金色狐のレックさん』の歌を教えたトーベンは、通訳をして、ルリアとジェルディンの中をとりもってくれた。トーベンはジェルディンと彼の花嫁になるために、ルリアが海を渡った時、一緒に帰ったのだ。

「狐がいないこの国で狐のぬいぐるみが愛されているのは彼のおかげだね」とグオンが、買ったばかりのぬいぐるみを見ていた。「僕らが求婚王子ってよばれているのはジェルディン王子がいたからなんだよ。台風で壊れた船の修理に一月くらいかかり、その間、毎日赤い花を持ってルリア様に会いに来たって。音楽堂で歌の練習しているルリア様を見ていたんだよ」と、ノートを開いてアラオルが言った。

「いいなぼくもそんな恋がしてみたいな」グオンがつぶやいた。

「おやつの時間にしようぜ」とギルディが言った。「この縁側に座ろう」鞄の中から、包みをいくつも取り出した。水筒やコップなども次々にだしていき、ミカンのジュースをくばり、「今日のおやつは、魚の切り身をから揚げにしたものを、こまかく、ほぐして、ご飯に混ぜたおにぎりと、食堂のおばちゃん手作りのラッキョウの漬物と俺の手作りのラッキョウの漬物の食べ比べ」

「ギルディ先輩、おなかすいているので、なんでも美味しく食べられます」

「おっ、たくさんあるから、食べて食べて」

「ギルディ、食堂のおばちゃんみたいになっているよ、食べて、食べて」とグオンが笑った。


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