第14話

     この雨がやんだら

     この風がやんだら

     きっと必ず帰るから

     愛しい人よ  どうか泣かずに待っていて……

 夢の中でルリアが歌っていた。優しい声だった。心が安らいでいくような気がした。メロウは、入学したばかりで気を張り詰めていたのだ。守らなくてはいけない秘密をかかえて、負けないと肩肘張っていた。

ルリア様が私のために歌っている。優しく包み込んでくれるように。時を超えて。朝までぐっすり眠れた。

  

バナナが大好きなギルディが会室の前で、園芸部の畑の方を向いてバナナの木を見ていた。

 メロウが会室の近くに行くと、ギルディがにっこり笑って、「バナナの実ががそろそろいい感じなんだ」と言った。

「ギルディ先輩って、ほんとにバナナが大好きなんですね」

「バナナって癒しだよ、葉も実もかわいい。食べるとおいしい」上機嫌で語るギルディは子供みたいでかわいい。メロウは、そう思いながら、(会室に、まだバナナあったよね)と笑いそうになった。

「ほら、二人共、そんな所で喋っていないで、中に入っておいでよ、バナナなら、中にもあるし」とグオンが扉を開けて、二人を呼んだ。

 アラオルがバナナを食べながら、「早く、バナナをへらさないと、次のがくるぞ」と言った。

「私、昨日も二本食べたんですよ。今日は一本だけにしておきます」

「ホールで配ってきてよ」とグオン。

「そうだな、食堂のおばちゃんに頼んで夕飯に出してもらおうか」とギルディが笑った。「早く席について、次の社会見学の話し合い始めるよ」とアラオルが言った。

 四人が席に着くと「始めます」とギルディが叫んだ。一応、ギルディが会長だ。

「どうやって、選んだんですか?」「彼が自分がやると言ったんだ」メロウとグオンガひそひそ話した。

「先輩、去年はどんな所に行ったんですか?」とメロウが言った。

「音楽堂、エミナ様の結婚の宴のあった美香館、二龍池、ルリア様に、金色狐のレックさんの歌を教えたトーベンの住んでいた緑山。あと、市場とか、漁港とか、いろいろ」と、アラオルが思い出すように少し斜め上を見た。

「美香館に行ったんですか?」

「エミナさまの結婚式の時、君もいたはずだよ」とグオンがメロウに笑いかけた。「母のお腹の中ですよ」

「そうだね、僕らは、この学園で一年後に入ってくる君を待とうって決めた、あの場所が全ての始まりの場所だからね。僕らは今でも三人の求婚王子ってよばれているけど、実際は、君が生まれるまでの三か月だけなんだから。男の君が生まれて、三人の求婚王子と呼ばれる理由がなくなった。僕らは今を生きてるんだ。たとえ、周りが何と呼ぼうが、関係ないよ」とアラオルがメロウに優しく笑いかけた。

 「俺たちは、喧嘩したり、いがみあったりしないで、ちゃんと現実と向き合おうときめた。一年後に入学してくる、幻の姫と呼ばれている君と新しい関係をつくろう。そのために、社会見学同好会を作った。先輩、後輩として仲良くなろう、色々な所に行って、思い出をつくろう、俺たちは仲間だ。気持ちを納得させたいてのもあってな」

メロウは、ちくっと痛む胸をなだめつつ、「私は、顔がルリア様じゃないですか、あげくのはてに、三人の求婚王子の幻の姫って呼ばれていて、先輩たちと一緒にいたら余計に注目あびそうで、不安だったんですけど」と言った。

「それは、ぼくたちもそうだったよ、最初のうちはね。でも、それでも、いろいろな所に三人で行ったんだ。三人でいることが、普通なことになるようにね、ぼくたちも周りもそれに慣れていったんだ。仲間になると、心強いよ、ね、メロウ」

「仲間で、わいわい騒ぐと楽しいしな」

「一緒にいることが、普通になる。早くそうなればいいね」アラオルが言った。

「だけど、私は顔がルリア様だなんて……、自分で言う?」グオンが笑った。

「笑いごとじゃないですよ、私にとって、大問題なんですから」

「うん、確かに大問題だよね、顔って一番最初に目がいくところだもんね、その顔が、ルリア様だなんてね」グオンはくすくす笑いながら、「ごめんね、でも、メロウは、ぼくらにとっては、ルリア様とは違う人だよ。知り合ったからわかる、君の個性がある」

「メロウはルリア様にそっくりだよ。でもね、この顔は、僕らにとっては、メロウだよ。自分は顔、ルリア様だなんて言わないでよ」とアラオル。

「本当だぞ、俺らにとって、この顔はおまえそのものだ。これからは、音楽堂に行って、ルリア様の絵を見たら、ああ、メロウに似ていると思うだろう。どこかで、そっくりな写真を見たりしたら、メロウに似ているって思うよ」

「先輩たちってかわっている……おもしろい。ええ、そうですね。ありがとうございます」

「ばかだな、茶トラの猫が何匹かいたとして、そっくりだとしても、自分の家の猫ならわかるだろう?うちの子だって。メロウはメロウだよ、うちの子だ」とギルディが言った。

「うーん、論点がずれてる気がするが、ま、そんなとこだね」とアラオルが笑った。

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