第12話

 ガラク先生の授業が始まった。歴史の教師だ。

「僕はね、一年生の二回目の授業でこの話をすることにしているんだ。僕の子供のころの話だ。人に歴史ありってね。僕くらいの年になるとね、人生いろいろな事があるんだ、この話を聞いて、少しでも、君たちの参考になればってね。」

 僕がまだ、小学三年生のときのことだ、僕にはナオちゃんアキちゃんという友達がいた、仲良しで、いつも一緒に遊んでいたんだ。でもね、どんなに小さい関係にでも力関係っていうのはあるんだ。ぼくは、おとなしめな、人と争うのが嫌いな子供だったから、他の人から見たら三人の中で僕は二人にいじめられているように見えたんだろうね。二人は、明るい、元気いっぱいな子だったから。ある日、放課後、僕らは中庭に呼び出され、三人真ん中に立たされて、周りをクラスの子たちに囲まれた全員では無かったかもしれないけど、大勢いたんだ。

ナオ君アキ君どうしてレオ君のこといじめるの?」クラスのリーダー格の子が言った。「いじめてないよ」ナオちゃんとアキちゃんは言った。

「いじめてるじゃないか、レオ君の帽子をとって二人で投げあって、追いかけてくるレオ君をからかったり、ボール遊び中ボールぶつけたり、皆、あ、また、やってるって見てたんだよ」そして、僕に言った「レオ君も悪いんだよ、二人の言うこと何でも聞くから、だから、いじめられるんだ。君、人間?人形?ロボット?自分てものがないの」と。

 僕は、おとなしくて、誰かとけんかなんてしたこともない子だった。そのとき、周りが暗くなったような気がした。僕は基本、のほほんとした子だったんだよ。その時、僕の世界は暗くなり、僕は自分の殻にとじこもるようになり、その後のことはあまり憶えていない。僕はそれから人と口をきかなくなり、休み時間になると、廊下に出て、中庭を歩きまわり、ずつと歩きまわって、行き止まりになったら、方向転換して、違う方向に向かって歩いて行った。誰とも話したくないし、何も見たくなかったから。授業の始まる時間に間に合うようにもどった。雨の日はひたすら本を読んでいた。ずいぶん時間がたち、ある日、先生の言っている事を聞きのがしてね、隣の子に「今、先生何持ってくるように言ってた?」と聞いたら、驚いた顔で、「レオ君が、おはようとさよなら以外の言葉話すの初めて聞いた」と言われたんだ。

(ああ、そうだったかもしれない、あれから、長い時が流れたんだ)と僕は思った。僕は、六年生になっていた。三年生の教室に行ってみた。

(小さいな、こんな、小さい子が言ったことで僕は、何もできないでいたのか。もう、いいんじゃないか、僕は体も大きくなって、あの頃の僕じゃないのに)そう思えた。僕は僕の殻からでることにした。苦しい三年間だった。

 僕が苦しくても頑張って学校に通ったのは、母のためさ。僕の母は孤児でね、母が子供の頃はやり病で両親を亡くした。孤児院にいれられたんだけどね、同じ境遇の子たちがたくさんいたんだ。よその家にもらわれたんだけど、その家の人はただ、家の事をさせるために、母をもらったから、学校にも通わせてもらえず、友達とも遊ばせてもらえなかった。僕は母からその話を聞かされていたから、学校に行きたくないと言えなかった、友達と遊べないんだと言えなかった。僕は、学校の六時間だけがまんしたら、家族のもとに帰れるけど、母は二十四時間誰にも思いやってもらえなくて、それでも、耐えて生きたんだ。

 母が僕が楽しく学校に通っていると思っているなら、そう、思っていてほしかった。自分が出来なかったことを、子供にはさせてあげれていると思っているなら、そう、思っていてほしかった。

そして、本当にそうなることをめざしたんだ。あの、六年生の時から。

 僕は思う、人はその弱さを責められることがある、強さだけが正しいわけじゃない。人は誰でもその人の精一杯でいきているんだ。

 僕は中学生の時に演劇部に入った。その時はすぐやめてしまったけど、好きなことをみつけたんだ。高校生になったときに、三年間演劇部に夢中になった。顧問の先生にであった。僕の理想の人だ。僕を主役に選んでくれてね、一生にいちどだけ主役をやった。僕のお守りなんだよ、たった一度のことでも。僕は、予選会の脚本を書くようになった。先生は僕が三年生になったとき、ほかの学校に移ったけど、あるとき先生が、脚本を書いて、賞をとったことを新聞で読んで知った、ああ、先生、頑張っているんだとうれしくなった。僕も頑張らないとと思った。

僕が演劇部の脚本を書いている事をしっていた生徒会長に「今度、文芸誌をつくるんだけど、書いてみないといわれた。「え、ぼくでいいの?」書いたよ、まさか、脚本を載せるわけにいかないからね、短編小説をね.ペンネームをつかった。カナエだ。

 なぜ、この話をするのかと言うとね、僕はあの、小学生の頃にもどりたくない。子供はいやだ。子供は一番頼りない存在だ。何の力もない、周りの助けがないとなにもできない。知恵も経験もたりなくて、役に立つ知識もない。困ったことになった時、自分の力で解決することができない、大人に相談することができないときどうすればいいんだ?僕も母も子供のころ苦しんだんだよ。君たちにお願いがあるんだ。僕は貧しくて、力もなく、優秀でもなく、生きていくだけで精一杯だった。なにかをするには、知恵や、組織や、お金がいる、この学園は、裕福な家庭の子のはいる学校だ、皆が卒業して、社会人になったとき、弱い立場の人や貧しい人達や子供たちの事を考えてほしい。なにか、助けてあげられるなら、手助けしてあげてほしい。

 子供から、大人になっていく過程のどこかで、人生につまづくときがあるけど、子供の頃のつまづきは大きいよ。僕は好きなものをみつけられて、なんとか、やりなおすことができた。ずっとあのままだったらと思うと。とゾッとする。

好きなものをみつけられたら、人生は少し前むきになれる。楽しくなる。いつか、過ぎさって、思い出になるけど、胸のなかでいつも励ましてくれる。

僕は仕事にすることはできなかったけど、でも一生好きだと思う。

 僕は、この学園で演劇部の顧問をしている。興味があったらいつでもおいで、月末の最後の金曜日、一般の人も練習に参加できるようにしてるんだ。大声出すだけでも楽しいぞ。役になって、自分と違う人に人になるのはおもしろいぞ。誰でもあてはまるわけではないけど、試してみるだけでもいいと思う。


 ガラクの授業が終わった。教室を出ていく姿を見ながらながら、ボルが言った。「口笛部の歌詞も、ガラク先生が書いているのがたくさんあるんだよ、『僕は歌う』とか、『夜になるのを待って』とかも、曲は音楽のベン先生がかいているんだって」

 メロウは図書館の裏で話したことを思い出していた。



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