第11話

  振り向いたルリアがにっこり笑って、メロウに手を差し出したところで、目が覚めた。(あの人はルリア様だった。え、どういうこと?)今日、はじめてルリアの絵を見た。あの絵は音楽堂に百三十年前から飾られている。驚いて飛び起きてすっかり眠気が覚めたメロウは、そのまま、しばらく起きていた。二時間ほどして、眠りにおちたが、もう、ルリアの夢はみなかった。

 メロウは、その日一日、ルリアのことを考えてすごした。どうして、ルリアはメロウの夢に現れたのか?メロウはどうしてこんなにも、ルリアに似てしまったのか?百五十年前に生まれたルリアだけど、絵が残っているのだ。それも、伝説の歌姫と呼ばれ、首都に住んでいる人で、この絵を見たことが無い人はいないと言われている人に。(ずっと昔の人だけど、血縁者なんだから、似ていても不思議じゃないけど)

 夜になり、今夜もルリアの夢を見るだろうかと、考えていたメロウは、ホールの窓辺で空を見上げている、グオンに声をかけた。「グオン先輩、何を見ているんですか?」

「月を見ていたんだ。綺麗だよね、三日月が好きなんだ」

「きれいです」「月は、地球からこんなふうに見えているなんて知らないんだろうな」「どんなふうに見えても、月は月です。いつも凛として、そこにある。素敵です。私もそうありたいです」

 メロウは、目を輝かせて月を見ているグオンは、本当の王子様のようだと思った。端正な顔立にさらさらの黒髪が良く似合う。時々、言動が、おかしいことはあるが、黙って、佇んでいるだけなら、一番王子様感あるなって、メロウは思った

「君は月みたいだよ。夜空で一番目立つでしょう、月って」側にいるメロウのほうを向いてグオンが微笑んだ。

「地球に一番近いからでしょう」

「近くにあるっていうことが大事なことなんだよ。程よい距離感ていうのかな、あこがれるのに、ちょうど良い距離なんだと思う」

「三日月が好きなんですか?満月よりも」

「うん、儚い感じがあるけれど、しっかり自己主張している。満ちていくかんじもいいけど、あの、細さ。形の美しさって……見えない部分、隠れている部分を思う美しさもあると思う」

 メロウは自分の思いを熱く語る、グオンの横顔を見ていた。「グオン先輩、見え方と見せ方は違いますよね?見た人の気持ちが見え方に反映されるのなら、ルリア様の絵にそっくりな私は、私の本質を知らないはずに人々にどう見えるのでしょうか?そのことを、私はどう考えたらいいのでしょうか?」

 メロウの真面目な問いかけに、グオンは少し考えこんで、「それは、メロウ、さっき君が、月について語ったように、月は地球からどう見えようが、いつも、凛としてそこにあるって、私もそうありたいって。君も、誰からどうみえようと君は君だ。いつも、凛としてそこにいる、素敵だよ」

 メロウが照れて、下を向いてくすっと笑った(そうだった、グオン先輩は感性の人だった)


 その夜の夢にもルリアはでてきた、どこかの舞台の上で、ルリアは歌っていた。美しい声だった。優しい澄んだ歌声、それでいて、どこか力強さをかんじられる歌声だった。『きっと必ず帰るから』ルリアの持ち歌の一つだ。船乗りの青年が台風の中、避難するために港をに目指しているときに、恋人を思って歌った歌だ。

 小さな島国で、海に関係している仕事をしている人の多いこの国は。台風の通り道と言われているほど、台風に襲われることが多い。荒れた海ほど恐ろしいものはない。何度経験しても、その怖さはかわらない。愛しい人に、もう一度会うために、きっと必ず帰るからと、きっと必ず……帰れないかもしれないという不安を打ち消すかのように恋人との愛の思い出を心のお守りにして、心を奮い立たせる。

必ず帰るから、泣かずに待っていて……と。

 ルリアはこの歌が一番好きだった。夢の中で、心を込めて歌っていた。

(ルリア様の歌声って、素晴らしい)メロウは聴き入っていた。(この人がルリア様?)確かにメロウによく似ていたが、内側から溢れる輝きと女らしさがあった。

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