第7話
入学式の翌日、放課後に新聞部の号外が中庭に貼り出され、百部限定で、配られた。メロウは朝からじろじろ見られているのが、窮屈で早々と会室に来ていた。
グオンとアラオルもしばらくして現れた。「メロウ、早いねもう来てたんだ」とグオンが言った
「ちょっと人の目からの逃れたかったんです、他に行く所ないんで……」
「そうだろう?僕らには人目を避ける場所が必要だよね」
「今日は早めに帰らせてください、兄たちとエミナおばさまの家を訪ねるんです」
アラオルとグオンが少し驚いたような顔をした「エミナ様、例の結婚式の宴のときのエミナ様?」
「はい、入学したことを報告に行きます。実は、入学祝をしてくれるんです」
「それは良かったね、楽しんでくるといいよ」とアラオルが優しく言った。
ドアが乱暴に開けられた。新聞を手にしたギルディだった。怒ったような表情だった。
「新聞部の号外がでたよ」三人が座っているテーブルの上に新聞を広げた。
昨日の口笛部の新入生勧誘の路上演奏会や三角ボール部の試合の記事に交じって、中央に大きく、『あの、幻の姫が三人の求婚王子の社会見学同好会に入ったって!』と書かれていた。「やってくれたな……メロウ、気にするな。」「ぼく、あいつ嫌い」
「メロウ、大丈夫かい?気持ちを強く持って」
新聞紙をじっと見たまま黙りこんだメロウの事を気にして三人が声をかけた。一番気をつけないといけないのは彼らだと兄のミオリは言ったが、今、メロウの一番の味方になってくれている。「ありがとうございます。仲間に心配かけるわけにはいきません。私は大丈夫です」
三人の求婚王子たちがほっとしたような顔をした。
「えらいぞメロウ、本音はそうでなくても俺たちのこと気づかってそんなふうに言えるなんて、泣けるな」「ぼくは去年の号外見て本当に泣いた」「ありがとう、メロウ。僕らは仲間なんだから『腹立つー』って言っていいんだよ」
メロウが思わず笑った。
その日の夕方、メロウは兄のミオリとラナンと一緒に叔母のエミナの家を訪ねた。国王の従弟のリューガ ウオールと十八年前に結婚し、今は夫と二人の息子と首都の閑静な住宅地に住んでいる。高台にある眺めのいい邸宅だ。
「メロウ良く来てくれてわね。会いたかったわ、入学おめでとう」と出迎えたエミナがメロウをぎゅっと抱きしめた。
「おばさま、ありがとうございます。入学のお祝いまでしていただけるなんて、うれしいです」
「まあ、かわいいメロウのためですもの。ねえあなた」
「もちろんだよ。メロウきれいになったね」
「ありがとうございます、おじ様。ウイートも高校性になったんですね。テルガも中学生ですか?……二人ともかっこよくなったね」
母の後ろに笑顔で立っている従弟たちを見て、メロウがうれしそうにわらい、近づいていった。
「メロウ、久しぶりに会ったらますますルリア様にそっくりになったね。びっくりしたよ。前からかわいかったけど」とウイートが言った。
「三人の求婚王子をみたよ。音楽堂によくいるよ。ルリア様の絵の前で話していたよ」とモルガが話し、メロウの顔をじっとみつめた。「僕は心配だよ、いよいよ始まるんだね」
「心配することなんかないんだよ、うまくやるからね」
エミナが「十八年も前のことで、メロウが今でもひどいめにあうなんて、私は責任を感じちやうわ。私の結婚の宴の時に起きたことが原因なんだもの」とため息をついた。
「おばさま、おばさまが責任を感じることはないんですよ。あの時はああするより他に方法がなかったんですから」とミオリが言った。
「でもね、男ばかり生まれるシーナ家に、三世代に一人くらいしか女の子は生まれないから、私は女一人だけで寂しかったの。兄のお嫁さんたちはいるけど。せっかく女の子がうまれたのに……こんなことに」エミナが悲しそうに言った。「一緒に洋服選んだり、かわいい髪かざり選んだり、お料理したりしたかったのに」
メロウが笑って「おばさま、いつかできますよ。楽しみにしていてください」と言った。「メロウはどんな格好していても誰よりもよりもきれいだよ」とモルガが言った。短い髪をして暗い色の服ばかり着ているメロウだった。
「ありがとう、モルガ」「ほんとのことだもん」
「ほら、メロウが困っているよ。エミナ食事にしよう」ウオールが言った。
夫の言葉に、エミナがうなずいて「そうね、食事にしましょう、お腹すいたでしょう。今日は良いお魚がてに入ったの。お刺身にして半分は煮魚にしたわ」魚好きのメロウとラナンは「うわーっ、お刺身」と目を輝かせた。
「よかったね、寮だとなかなか刺身は食べられないからね」とミオリが笑った。
「おばさま、これからいろいろお世話になると思いますがよろしくお願いします」
「もちろんよ、いつでも来て。自分の家だと思っていいのよ。ウイートもモルガも喜ぶわ」次々でてくるご馳走に「うわーおいしそう」と喜んでいるメロウを見て、「まだまだ大変な日が続きそうだけど、今日はよい気分転換になったなと兄二人は優しい目で妹を見ていた。今日号外が出た事を二人共知っていて、心を痛めていたのだ。
エミナは食事の最後に、焼き菓子とパイナップルのジュースを出し、息子たちに口笛を吹かせて歌った。
エミナも二十年前歌姫に選ばれて一年間の任期を務めたことがある。
その後も、歌姫を務めたことのある女性の団体で活動している。
歌い手の中には歌で人々を癒す歌声の持ち主もいて療養所などで歌っている者もいた。心を癒す歌声で、病と闘う人々の一助となっていた。
海岸や、山など、自然の中で小さな会が開かれ、口笛と歌を楽しむ人々がいた。
ルリアも癒しの歌声をもっていたという話しが残っている。
メロウはエミナの美しい歌声を聞いて、そっと目を閉じた。(歌いたい)胸にとじこめた思いだった。
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