第5話

学生達の拍手と笑い声のなかヒヨコ組が走り去っていった。

「ほらぼくらも行こう、図書館」とグオンが言った。

 図書館の前にはすでに学生達が四十人ほど集まっていた。

 カナリア組のナル、キオ、イオルもいた。オレンジ色の衣装を着ていた。カナリア組の三人は口笛部の中でも、容姿のいい者がそろっていたので、校外で活動する時は一番人気があった。歌い手を得意とするイオルは大きな目と形のいいぷっくりした唇の優し顔立ちの青年で、口笛もかなりうまかった。

 時間となり、始まりの合図の口笛が二回吹き鳴らされた。

「口笛部、カナリヤ組のナルです。三年生です。口笛担当です。口笛が好きで朝から晩まで練習しています」少し伸びた前髪を七・三に分けたナルは海で泳ぐことも好きだったので、よく日に焼けていた。

「歌い手が得意なイオルです。僕は口笛部の中で一番高い声がだせるんです。それがちょっと自慢です。今までこの学園で一番の美形だったけど、『俺の兄弟のメロウが入学したら、お前二番だな』と言われましたラナン先輩に。メロウ見てる?一番の座はゆづってあげるよ。入学おめでとう。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」

メロウはいきなり名前を呼ばれたので、驚いたが、(まったく、ラナン兄さんったら)と苦笑いした。

カナリア組最後の一人キオが人のよさそうな笑顔で、「カナリア組のキオです。僕は口笛を担当することがおおいけど、歌も歌います。口笛部は口笛は吹けるけど、歌は苦手な人は口笛担当を選べるんだよ。口笛部だから歌担当の人も口笛は吹けないといけないけどね。練習すれば誰でも吹けるようになるからね。大丈夫。それでは、始めます、『夜になるのを待って』」

ナルが口笛を吹き始めた。イオルが歌い始めた。


       夜になるのをまって

 夜になるのをまって 出かけようか

 きっと星がきれいだろう

 草の上に寝転んで 星をみあげよう

 君はいつも笑ってばかり

 僕はいつも喋ってばかり

 一つ 二つ 星が流れた

 あれが君で これが僕で

 空の上でおいかけっこをしているんだ

 ほら また君は笑う

 うん 僕は満足だよ

 ここは まるで二人きりの世界

 二人で 星の名前を言い合って 空に指をさす

 ああ 満天の星 夜がふけていく……

二番まで歌い終わると、カナリア組は頭をさげ、新入生募集の口上を述べると「次は二時五十分からウグイス組が、運動場で演奏します。皆で行きましょう」とキオが言った。口笛部のヒヨコ組、ヒヨドリ組、ツグミ組、文鳥組などの三人組が集まっていた。「君たちはもう終わったの?それなら、運動場に急ごう。ウグイス組の演奏にまにあわせないと」とナルが言った。

「ナル先輩、イオル先輩、キオ先輩かっこよかったです。すごかった」とほかの組の三人から口々に言われてカナリア組の三人はうれしそうに笑った。

少し離れた所にいるメロウをみつけたイオルは人込みをかきわけて近寄り、「メロウ来てくれたんだね、ありがとう。ギルディ君も、グオン君もアラオル君もありがとう」と言った。

「口笛も歌も素敵でした。私のこと兄が言っていんですか?恥ずかしいです」

「かわいがっているからね、良く、君の話をしていたよ。ほんとにルリア様の絵にそっくりだね、すぐわかったよ」オレンジ色の衣装が良く似合うイオルがにっこり微笑んだ。

「さあ、運動場に行きましょうウグイス組が歌います」口笛部の部員たちが走り出した。

 皆でにぎやかに運動場に移動した。

 運動場へと続く道の植え込みに赤い花やクロトンや、月桃などが植えてある。大きなガジュマルの木が木陰をつくってくれていたバナナの木が植えてある、ギルディが下からのぞきこんで実がなってないか確認した。「俺のバナナは実がなってるぞ。熟れたら食べさせてやるよ」と言った。

運動場へ向かう学生達の半分は三角ボール部の試合を見るために集まってきた人達だ。三時三十分から、三角ボール部の新入生勧誘のための試合があるのだ。

メロウ達も口笛部の演奏が終わったらそのまま残り、試合を見ようと思っていた。

「ほら、両方の見学者を集められた。ウグイス組は良い場所でできるね」とイオルが言った。「始まるよ」

 運動場の真ん中にウグイス組が立っていた。ぐるりと囲むように見学者が集まった。緑色の衣装を着ている、三人はほぼ同じ身長、ほぼ同じ体形で、そっくり同じ髪型をしていた。ぱっと見、三つ子といわれるほどにていた。よく見るとそれぞれ違う顔をしているのだけど。ルオ、ラオル、ジオンだ。

 ルオが合図の口笛を吹き鳴らした。

「口笛部ウグイス組のルオです。口笛部の部長です。新入生の入部、大歓迎です。ちょっと厳しいときもあるけど、優しい先輩が丁寧に教えてくれるので、大丈夫です。ヒヨコ組もはじめはすごくへたでしたけど、今では後輩に教えてあげたくてうずうずしています。安心して入ってきてください」ルオが真ん中分けの髪をかきわけて笑った。「ラオルです、歌い手担当です、副部長です。横のジオンも副部長です。僕はカナリア組のイオルほど高い声はだせないけど、高い声から低い声まで音域が広いから、カナリア組とくんで歌うと無敵です」

「ジオンです、僕は口笛は部内で四番目くらいに上手いけど、歌は七番目くらいかな、両方できるからウグイス組に入れました。運が良かったです。今日の曲は、僕は歌うです」

 三人がうなずきあいながら曲を始めた。


    僕は歌う

 僕は歌う 時には愛を

 僕は歌う 時には夢を

 僕は歌う 時には昨日の小さなけんかを

 ああ 友よ ごめんね

 僕は 素直になれなくて

 君の手を振り払ってしまった

 君なんかいらないと言ってしまった

 君は 少し怒った顔で

 おまえが 俺の手をはなしても 俺が おまえの手を離さない

 と言ったね

 

 明日もこの道を一緒に帰ろう

 夕焼けの空を 二人で見よう

 いつか離れる日が来るかもしれない

 でも 今は考えるのはやめよう

 時が流れて 今が思い出にかわっても

 二人で歩いた この道を忘れない

 さあ 駆けていこう


 僕は歌う 時には愛を

 僕は歌う 時には夢を

 僕は歌う 時には 今日の小さな秘密を

 ああ 友よ ありがとう

 君は気持ちを隠すのがへたで

 夢やぶれた僕のかわりに泣いてくれた

 僕の手を握り悲しんでくれた

 僕は 君の涙につられたふりして 泣いたんだ

 涙は海のにおいがした


口笛部の部員達がここから一緒に加わった、それぞれが立っていた場所で

ある者は口笛を吹き、ある者は歌った。笑顔で。


 明日も この道を一緒に帰ろう

 夕焼けの空を 二人で見よう

 いつか離れる日が来るかもしれない

 でも 今は考えるのはやめよう

 時が流れて 今が思い出にかわっても

 二人で歩いた この道を忘れない

 さあ 駆けていこう

 僕は歌う 僕は歌う 僕は歌う


メロウはすぐ上の兄のラナンを思った、去年のウグイス組。

(お兄さんのウグイス組も見たかったな)

ウグイス組は歌い終わると、丁寧に頭をさげた。

「ありがとうございます。放課後、第二音楽室で待っています。口笛部は三人で組むことが多いです。チームには鳥の名前がついています

鳥は自分の体だけで音を奏でますよね、口笛部もそうです。僕はウグイス組です。皆さんも自分の好きな名前をつけて、口笛部で活動してみませんか?待っています」部長のルオが笑顔で言った。

口笛部の部員が口笛を吹きならした。


 

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