第4話

 メロウは入学式を終え、クラスが貼り出してある掲示版で、クラスを確認して、一組の教室に向かった。この学園は、クラス制をとっている。

 朝からまとわりつくような学生達の視線に少し気がふさいだ。(いけない

、いけない、こんなことでくじけちゃだめだ。私は、やりとげなくてはいけないんだ)メロウは平静を装い、しっかり顔を上げ前を見据えた。

 同じクラスの三十名の学生は、出席番号順に座っていた。

「ねえ君は、シーナ メロウさんでしょう?」と隣の学生が声をかけてきた。

「そうです、よろしくお願いします」

「僕は、タタン家のバナ、よろしくね。仲良くしてね、ああ、よかった知った人がいて」バナが胸をおさえながら言った。

「知った人?」メロウは初めて見る顔をじっとみつめた。

「うん、三人の求婚王子の幻の姫の、シーナ メロウさんでしょう?子供の頃から話を聞いていたからね、親近感わいちゃって、噂どうりルリア様の絵にそっくりだね」メロウは少しひきったような笑顔をうかべた(知っていないのと同じでは……)

「どこの領ですか?」

「中部、ギルディ様とおなじ領、あっ、ここでは先輩呼びでいいんだよね」

「私は南部です」

「アラオル先輩と同じ領だよね。良い所だよね」

「そうです」メロウは(よく喋る人だな)と思いながら、悪い人ではなさそうだから仲良くしておくかと考えた。遠巻きにじろじろ見られるよりよっぽどいい。「君がここでの友達一号だね、よろしく」と言った。

メロウが親しげな口調になったので、バナは嬉しくなって「よろしく!」と笑った。



 クラスでの顔合わせや担任からの諸連絡等も済み、メロウは校内を歩いていた。今日はこれから、部活動や同好会の新入生勧誘の催しがあるらしい。

「やあ、三人の求婚王子の姫君じゃないか?噂どうりの美人だな」メロウに声をかけてきた者達ががいた。シャツのぼたんを二つほどはずし、学年で色分けされているリボンもしていないちょっと悪そうな学生たちの集団で、皆にやにや笑っている。

「シーナ家のメロウです、よろしくおねがいします」とメロウが頭を下げた。

「ちょっと顔が良いだけで渡っていけるほど、世の中甘くないぞ」とリーダー格の青年が意地悪く言ったガントだ。

「第一印象って顔大事じゃないですか?美しいほうがいいですよね」とメロウがしれっと言った。

「俺たちにけんかうってる?」「生意気」青年達がざわついた。

「入学式の日に喧嘩したい人なんていませんよ。そう聞こえたのなら謝ります」メロウが頭を下げた。

「むかつく奴だな」とガントがいきりたった。

「おい、ここらへんでやめとけよ、ガント。うちの新入会員なんだ、その子」メロウを探して歩いていた三人の求婚王子たちだった。

「ギルディ君、三人そろって姫のお迎えか?」ガントがむかついた。「社会見学同好会に入った?やることが早いな幻の姫のくせに、早速ご機嫌とりか?」ガントがメロウを見て冷たく言った。

「俺たちが誘ったんだ。悪いな、連れて行くよ」

ギルディがメロウの腕を掴んで、「さあ行くよ」と歩きだした。

「今日は部員勧誘でいろいろ声がかかるよ、どこも良い新入生を入れたいからね」とアラオルが言った。

「メロウ、君ってもしかして負けずぎらいな性格?」グオンが笑った。

「ガントみたいな奴は無視しとけばいいんだ。相手にするな、怪我するぞ」とギルディが言った。

「はい、わかっています」「わかっているけど、むかつく、わかるよ」グオンがくすくす笑った。

「三人の求婚王子と幻の姫、また始まるな。メロウが加わってさらに注目を浴びる、メロウ大変だと思うけど頑張れよ」ギルディの励ましにメロウはうなずきながら、「どうして私の事を気にかけてくれるんですか?」

「君はもしかしたら、入学してこないんじゃないかって思っていた。病気だとか理由をつけて。君が入学前どれほど不安だったかわかるよ。でも、君は来てくれた。だから、俺たちが君を守るよ。君の後ろに俺たちがいると皆に分からせてやる。世間の皆にも。だからこの学園で君らしく生きてほしい」

「僕らは、三人とも一年前の経験で学んだ。僕らは先輩としてアドバイスしてあげることができる」


 口笛部の演奏の合図の口笛がピー、ピーと大きく二回鳴り響いた。

「ああ、始まったね口笛部の新入生募集のための路上演奏。ロン、ライ、シドの三人組、ヒヨコ組だ。一番上手い組がウグイス組、一番新人ぽい組がヒヨコを継ぐんだよ」

口笛部の演奏開始の合図の口笛を聞いて、後ろを振り返りかえったアラオルがメロウの肩をつかまえて後ろを向かせた。

 口笛部のヒヨコ三人組、ロン、ライ、シドの三人は新入生の時口笛部で出会い、三人共陽気で、元気いっぱいだったので、口笛の練習を学園のあっちこっちでしながら、笑いあっていたので、そのうるささとかわいさからヒヨコ組に選ばれた。ヒヨコ組、ウグイス組は口笛部の定番の組である。

 中庭の中央に黄色い衣装を着たヒヨコ組が立っていた。

人が集まるのを待つ間に挨拶を述べた。

「僕たち、口笛部ヒヨコ組です」新入生と在校生が集まってくる。

「こんにちわ、ヒヨコ組で一番口笛がうまいロンです。金色ぎつねのレックさんなら、ソロでいけます」

「三人のなかで一番美青年のライです。ここ重要です。僕が一番ってことはあとのふたりは……見てのとうりです」

「三人のなかで一番歌のうまいシドです、三人で活動する時は僕が歌うことが多いです。歌います、僕の甘えん坊の小鳥!」

ロンが口笛を吹き始めた。シドが歌い始めた。

 僕の甘えん坊の小鳥 僕の甘えん坊の小鳥 こっち向いて

 僕の甘えん坊の小鳥 獏の甘えん坊の小鳥 こっちおいで

 僕の甘えん坊の小鳥 僕の甘えん坊の小鳥 さあ歌って

 僕の甘えん坊の小鳥 僕の甘えん坊の小鳥 ほら食べて

 僕の甘えん坊の小鳥 僕の甘えん坊の小鳥 ああいかないで!

 

 この曲は口笛部の練習曲だ。ヒヨコ組の三人はよくこの曲を練習していたので、演奏する曲を決めるとき、迷わずこの曲を選んだ。

指をならす、体を揺らす、三人で短いこの曲を二回演奏した。

ライは、口笛で効果音をいれたり、歌ではもったりして曲を盛り上げた。


 「ヒヨコ組かわいい衣装でですね、楽しそう」メロウは三人の求婚王子たちと見学している学生たちに交じってみていた。

「私のすぐ上の兄は去年のウグイス組だったんですよ」

「ああ、そうだったね、ラナン先輩だね」

「ルリア様だって口笛での歌い手だったんだから、メロウだって口笛吹けるでしょう?」アラオルが聞いた。

「はい、私は口笛は吹けますが歌は下手なので人前では歌いません。口笛部にも入るつもりはなかったので」

「ああ良かった、口笛部にはいりたかったと言われたらどうしようかと思った」とほっとしたようにグオンがいった。

 ヒヨコ組の周りに新入生が集まり楽しそうに見ていた。シドは歌い終わると、

「見てくださってありがとうございます。口笛部では新入生の入部を大歓迎します。第二音楽室で放課後活動しています。この後、二時三十分より、図書館の前でカナリヤ組が演奏します。二時五十分よりウグイス組が運動場で演奏します。ご覧になってください。」そう言うとヒヨコ組は頭下げ、「ありがとうございました」と言って

「図書館に向かいます」と言って走り去っていった。

 

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