第3話
年中花が咲いているこの国では、季節は夏と冬しかないといっても過言では無い。短い春と短い秋があるにはあるが。夏が暑くて長い分、寒さに弱い人が多い。冬でも蝶がとんでいるのだ。
雨もよく降る、ザーっと降ってすぐやむことが多い。四月になるともう暑い。
「昨日暑かったのに、今朝は寒い。十六度だって。メロウ、風邪ひくなよ」メロウの兄のミオリが寮の食堂に朝食を食べに来た。寮のすぐ側に住んでいるので、朝食も夕食もここで食べる。
「大丈夫、半袖まだだしてないから」
三人の求婚王子たちと朝食を食べていたメロウにミオリが声をかけた。(へえっ、もう一緒に行動しているのか?仲間に誘ったくらいだしな)ミオリは内心気が気じゃない、メロウが三人の求婚王子と一緒にいるのを見るのは、心がざわめく思いだ。
「メロウのことが心配でたまらないんですね、シーナ先生」グオンが笑って言った。「メロウは体が弱いんですよ」とミオリ。
「小食なんじゃないか?細すぎるよ」と焼き魚を食べながら、ギルディが言った。
「そうかな、ちようどいいんじゃない」焼き魚にたっぷりはちみつをかけたギルディを見ながらアラオルが言った。
「それって、おいしいんですか?」メロウが自分の皿を守ろうとした。 ギルディが
メロウの焼き魚にはちみつをかけようとしたのだ。「私はいいです、甘いの苦手で」
ギルディは、自分のぶんを少し取って、メロウの皿の端にのせた。
「まあそういわず、食べてみてよ。好奇心と遊び心はいつだって新しい道をひらくんだぞ」
「そんな大きな話なんですか?これを食べることが?」メロウが笑って一口食べた。「うーん、食べれるけどおいしくないです」
「食べなれてないだけだよ。二、三回くらい食べてみて判断して、きらいだって」
「ギルディはしつこいからね、嫌ならきっぱり言わないとね、シーナ先生みたいにりんごにはちみつかけて食べるようになるんだよ 」アラオルがグオンの焼き魚の小骨をとってあげながら、言った。「グオンはね三回も魚の骨が喉にささって、シーナ先生にとってもらったんだよ」
「そんなこと言わなくてもいいじゃないか、恥ずかしい」とグオンがふくれっ面をした。
三人の求婚王子たちと仲良く朝食を食べながらも、メロウは、食堂に集まっている学生たちが、自分たちのことを遠まきに見ていることに気づいていた。
「気にしないでいいからね。じき慣れるからね。ただ、最初の一、二か月くらいはね、僕らもぴりぴりしてたから、君に気にするなって言えないんだけどね、でも、僕らが先に来てこの学園に居場所をつくっておいたからね」
「居場所?」
「そう、社会見学同好会だよ」
「俺たちがいつでも力になるから、困ったことがあったらいうこと」ギルディがバナナをスプーンでつぶしながら言った。
「ありがとうございます」メロウは食堂の中を見渡して学生たちを見た。確かに人目を集めてしまうこの状況では人目を避けられる場所が必要かもしれない。
今、明らかに人々の関心の的になっつている自分たちを意識せずにいられない。四人が集まったんだ。三人の求婚王子と幻の姫がそろった。四人の人生に重要な影響をあたえたこの問題が、この学園で顔を合わせたことで、どんな展開がまっているのだろうか?
メロウは三人の求婚王子たちに目をやり、意外にも優しくしてくれて仲間になろうと言ってくれた彼らに少し安堵した。さあ、入学式だ。
「去年の入学式でも会ったが、今年も来るとは」ギルディの父親中部の領主のギランドが言った。
「考えることは同じってことだな」北部の領主、グオンの父のオルドが言った。
「メロウの姿が見たかったって言えばいいだろう」とアラオルの父アグナル、メロウの住んでいる南部の領主だ。アグナルが笑って、二人の顔を見た。
園長室の隣の応接室で、入学式がはじまるまでの時間を待ちながら、一年ぶりの再会を喜んでいた三人はこの学園の卒業生だった。「息子たちとメロウがこの学園にいるのが見られるんだ、当然来るだろう」お茶を一口飲みながらギランドが言った。
「あれから、十八年か……長かったな。まさかこんなことになるとはな」オルドがふーっとため息をついた。
「まったくだ、新聞記者のナグがあの場にいたのが、致命的だった。あの記事で全国に、あの内輪だけの話のつもりだった求婚話が一気に広まった」アグナルは、領民の一人、メロウをひどいめにあわせてしまったと気にしていた。
「三人の求婚王子……可哀そうなことをしたな。メロウにいたっては、まだ生まれてさえいなかったのに」とオルドが言った。「俺たちって一生おさわがせ王子からぬけだせないな」とギランドが言った。当時まだ領主の息子という立場だった。
「ここにくると思い出すな、いろいろとお騒がせな事をやったけど、楽しかったな」オルドが部屋の中を見渡して、感慨ぶかそうに言った。
「ああ、楽しかった。もし、一度だけ過去に戻れるなら、迷わずあの頃に戻るよ」
「いや、僕たちが戻るべきは、あの結婚の夜の宴だ、あの時何事もなく、宴を楽しんでいたら、こんなことになっていなかっただろうに」とアグナルが言った。
「あの子たちも求婚王子なんて呼ばれることもなかったろうに」
アイキ学園長のランドンは白髪の短髪が良く似合う好人物で、学生のあいだでも人気があった。学園長からの入学式の挨拶は程よい長さのものだった。
「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。この学園の前身であるユウアイ学園をつくった、口笛王とよばれていたユウイ王の時代、この国の三つの領は仲が悪く、諍いが多い時代がありました、まだ、皇太子だったユウイ王は三人の忠臣と視察旅をしているときに、口笛で音を奏で歌うことを人々に教え歩いた。この方法なら楽器を持っていなくいなくても誰でも音楽を楽しむことが出来る。皆で集い歌い親睦を深めることができる、三つの領民が一緒に同じ曲を歌い、心を一つにすることができる。そう信じたのです。わが国は小さな国です、人が宝です。三つの領から若者集め一緒に学ばせる、知識や技術もどの領も同じように広めらるし、卒業しても各地に友人や知人がいる。共に良い国をつくっていける……皆さんこれがわが学園の方針です。大学は三年制で、大学院はほかの大学からもはいってきます、男女共学となっています。ぜひ、院にも進んでほしい、楽しい学園生活を送ってください」
入学式直後、早速新聞部のダインが、メロウに声をかけてきた。
「新聞部のダインです。入学式の特集を組むので、新入生に話を聞かせてもらっています。お願いできますか?」
優しげな雰囲気の青年がにっこり笑った。
「一年生のシーナ メロウです。」
「一年生の皆さんにきているんですが、この学園でやりたいことがありますか?」
「私は兄たちからいろいろこの学園の事を聞かされているので、楽しい学園生活をおくれたらいいなと思っています」
「そうなるといいですね、今年一番注目を集めているメロウさん、この学園で楽しめそうですか?」
メロウは目を伏せて少し笑って見せた。「もちろんです。もう、同好会も決めたんですよ、社会見学同好会ですよ」顔を上げて、はっきりとそう言ったメロウは、爽やかな一年生に見えた。
「社会見学同好会ですか?えっ、あの領主の息子三人組の社会見学同好会?」
「はい、楽しみです」
「それはすごいですね。四人一緒にいるのが見られるんですね」
すごい話を聞いたと、ダインが興奮ぎみに言った。
「私たちは何も気にしていません。三人の求婚王子と幻の姫の話なんて、なんでもないんです。私なんて姫でさえないし、現に私は同好会に誘われて入りました。仲良くしていけると思います。」メロウは、少し意地っ張りなところがある。今もどきどきしていたのに、こんなことを言ってしまう。
「僕は、四人と一緒に学園生活をおくれることを楽しみにしています。早速記事にさせていただきます。学園生活楽しんでくださいね」ダインがにこり笑って去っていった。(特ダネだー)
ダインがメロウに話しかけるのを見た、三人求婚王子たちが人ごみにまぎれて、近くに来ていた。グオンが笑って言った「あの子いいね」
「攻めていたね、おもしろいや」ギルディが拳を口に当てわらった。
「僕たち、うまくいけそうだ」アラオルはメロウの後ろ姿に目をやり、(気の強そうな子だ)と思った。
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