第2話

 「さっそくそんなことが……メロウ、おまえは大丈夫なのか?もし秘密がばれることになったら……」

メロウの兄のミオリは学園の校医をしている。学園の学生寮のそばにある校医のための独身寮にすんでいた。

メロウの五人いる兄たちの長男で三十歳、この学園の卒業生で二年前からこの学園の校医をしている。

「お兄さん、心配しないで。大丈夫だから。三人の求婚王子たち悪い人たちじゃなさそうだし、彼らの誘いを断って怒りをかい敵にまわられるよりいい」

「それはね……たしかにそれはそうだけど、でも、三人の求婚王子、彼らが本当のことを知ったらどうなるんだろう。いずれ彼らが関わってくるだろうとは思っていたけど、まさか仲間に誘うとは」

 メロウのためにお茶をいれながら、ミオリがため息をついた。

「社会見学同好会にはいることになった」

「仲間に誘うなら妥当なやり方だね、うちにはさまざまな部活や同好会があるから、自然なかたちで仲間に引き入れるには都合が良い。メロウただ僕は心配だよ。大丈夫かな?おまえは平気か?」

「うん、始まったね。彼らが卒業するまでの二年間うまくやらなきゃね。あとの、一年はどうにかなりそうだし」

「そのために僕はここにいるんだからね」」


 ミオリは悩んでいた、メロウのことが心配だった。他の兄弟たちからもメロウのことを頼むといわれ、責任を感じていた。

「お兄さんは心配性だね、お父さんにそっくり」とメロウが笑い、兄のたねにりんごの皮をむいていた。

「そう言うけどな、僕はずっと側にいられないぞ。何かあってもすぐにかけつけられないよ」

「何かあったらって言うけど、何か起きる前提で言ってるよね。何も起きないって」メロウがりんごを八等分に切り皿に盛った。

「メロウ三人の求婚王子たちは良い子たちだよ。でもね、忘れないでほしい一番に気をつけないといけないのは彼らだよ」

「それは分かっている。ねえ兄さん、あの人達思っていたのとちょっと違う。狼だと思っていたら、犬だったみたいな」

「いざとなったら牙をむく犬だよ、気をつけて」

 メロウがむいたりんごにたっぷりはちみつをかけて、ミオリが大きく口を開けて食べた。

「うん、ねえ兄さんりんごにはちみつかけるの?」

「かけるよ。最近こうして食べているんだ」

「甘いお兄さんに甘いはちみつを」リンゴをたべながら兄に甘えるメロウは、たっぷりはちみつをかけたりんごを兄の口にいれた。

「んぐ、うん甘い。やっぱりりんごにはちみつは合うね、メロウがむいたらりんごもおいしくなるんだな」

 笑いながら兄の顔についたはちみつをハンカチでふきながら、「りんごはだれがむいても同じだよ。りんごにはちみつかけるなんて前はしなかったでしょ?甘すぎるよ」とメロウが言った。

 そのとき、「メロウ来てる?」と言って部屋に入ってきた者がいた、メロウのすぐ上の兄ラナンだ。

「ラナン兄さん、院の寮に入ったんでしょう?近いからすぐ来れるね」

 メロウの姿を見て満面の笑顔をうかべて、側にかけ寄ってきたラナンが「イルド兄さんがいろいろ残していってくれたから、俺の物はメロウに残すことができた」

 兄弟がいた場合、兄が卒業した時すぐに弟が入学する場合はそのままその部屋を使えることになっていた。

「イルド兄さんが帰ってきて一か月は一緒に暮らしたよ。ラナン兄さん箱いっぱいにお菓子いれててくれてありがとう」

「メロウしばらく会わなかったうちにまたかわいくなったんじゃないか?」

「夏休みみにも冬休みにも会ったでしょう」うれしそうに兄に抱きついたメロウが言った。

「ラナンりんご食べる?」とミオリが言った。

「りんごにはちみつ、ギルディだな、かけてないのちょうだい」

 りんごをほうばりながらラナンが言った「メロウ三人の求婚王子のこと見た?」「ラナン聞いてくれよ、メロウがあの三人の求婚王子の社会見学同好会にはいったって。メロウはあの三人に呼び出されれたんだって」

「なんだって?本当かメロウ。あの三人の求婚王子たちの社会見学同好会にはいった?」

「怒らないでよラナン兄さん、断れなかったんだよ」

ラナンがメロウの腕をつかんだ。

「怒るさ当たり前だろう、かわいいおまえに何かあったらどうするんだ!」

「気をつけるよ絶対に秘密は守る。もしもばれたら約束どうりにするよ」

「兄さん頼むよメロウのこと、俺心配で留年しようかと思ったくらいなんだ」

「おまえが残ったらルオたち、うぐいす組継ぐことできなかっただろ?院でも口笛部はいるんだろ?」

「うん、今年のからすは俺とヌイとモルがやるから、前年のうぐいす組がやることになっているからね」

メロウの頭をなでながら、ラナンが「いよいよ明日だな、うまくやってくれよ」と

言った。

「うん、お父さんとお母さんは入学式来ないって。三人の求婚王子のいる所に近づきたくないんだって」

「ああそうだろうね、わかるよ」と言いながら、ミオリがメロウのりんごにはちみつをかけた。

「食べてみて、ギルディに食べさせられるから」


メロウが子供のころからよくみる夢、後ろ姿の女性が海を向いて立っている。

(あれは誰?)長い髪が風にゆれている。音がきこえる、口笛の音だ。決して振り向かないその人は、不思議ななつかしさを感じる後ろ姿だった。

めざめるといつの間にか忘れてしまう、おぼろげな夢だった。

メロウはこの夢をみるたび、(あっ、またあの夢だと思う。最近は夢をみる回数が増えた気がする、以前は一週間に一度くらいだったのに。二、三日に一回くらいになっている。口笛は『きっとかならず帰るから』という曲だ。

何処だろう?海をみおろす高台にその人は立っている。

靄のなかにうかびあがるその姿をよく見ようと、目をこらすけれどぼんやりとしか見えない。心地いい口笛の響きに聴き入っていると、心やすらいでいくような気持ちになった。


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