アクア・パッツァの学園日記

3リットルのペンネ

第1話 FIRST CONTACT

「何歳までサンタクロースを信じていたか」


僕は小学三年生の頃まではサンタクロースはいると思っていたが、人によっては最初から信じていなかったという人もいれば、大人になるまで信じていたという人もいるだろう。


けれど人間いつしか遅かれ早かれサンタクロースなど居ないと気づいていくのだ。


例えば実際に世界中の子供たちに一晩でプレゼントを配るとなれば、サンタクロースは音速を超えて移動しなければならない、だとか


複数人で配ろうにも、一万人のサンタクロースが要る、だとか。


つまりサンタクロースは完全なるフィクションで、この世に存在するわけがない……だとか。


果たしてほんとうにそうだろうか?


それまで無いと言われていたものが実際には存在した、そんなケースはごまんとある、例えばシーラカンスやカモノハシ。


そしてその発見により人類史に多大なる影響を与えた『魔法』


『魔法』そう呼ばれるものが御伽噺おとぎはなしや伝説のものでなくなって久しい。


300年と少し前、魔法使い達がイギリス当局によって発見され、人間に刻まれた魔法の発現方法が発表され、それは瞬く間に世界中へと広がり、やがて常識となった。


強力な魔法はれっきとした力である、特に強力な魔法は銃器やミサイル兵器、更には核兵器に至るまでを圧倒するほどだった。


そして魔法は学問の面でも注目されることとなった。


魔法の専門高校、その中でも随一の規模と入学難度を誇る国立東京魔法大学附属魔法高等学校。


通称東京魔法高校。


そしてこの物語は僕、矢柄奏がこの高校に入学したところから始まる。


「行ってきます。」


玄関扉を開けて振り向かずにつぶやく。


しかし返ってくる声は無い、それどころか返す人間もこの部屋にはいない。


ドアを開けた瞬間に撃ち下ろすような雨粒が全身に当たる、しかし奏はそんなことは気にせず鍵をかけ、階段をおりる。


アスファルトには雨水がなみなみと溜まり、大量の雨粒が起こす波紋が覆う水面ははまるで嵐の海の様だった。


そうして10分ほど歩いた、大雨を感じさせないほどの余裕があった。


しかし、そんな余裕はすぐに崩れ去ることとなる。


奏宅から魔法校まで川をひとつ挟んでおり、当然橋を渡る必要があるのだが。


その橋には真っ茶色の泥水がジャバジャバと絶え間なく、襲いかかっており、冠水なんてものでは無かった。


そしてその橋の手前には〔昨日の大雨のため通行禁止〕


の看板と共に警察なのか警備員なのか、水色の制服を着た職員が、道を塞いでいる。


奏はたまらず話しかける


「あの、僕ここ通らないと学校行けないんですけど……」


「え?あー魔法校の生徒さん?残念だけど今、見ての通り通れないんだよね、下流の方は行けるらしいから、頑張って。」


奏は話を聞き終わって、礼を言うやいなや矢のように飛び出し、川沿いに転がるように走り出した。


十分程走り続けてようやく橋に着いた、水位はかなり上がっているが川幅が広いので問題は無さそうだ。


奏はスマホを確認し十分間に合う時間であることを確認し、ホッとした表情で足早に橋を渡る。


雨足は勢いを保ったまま奏の身体を打ち付ける、しかしそれをものともせず、奏は悠々と歩く、橋を渡って路地に入った辺りで違和感を感じ始める。


だがここを迂回すればもう間に合わない、きっと気のせいだ。

そう思って路地を突き進んだ。


しかしその期待はまもなく裏切られることとなる、

まず目に飛び込んできたのは泥、

不自然なまでに辺りに散らばった泥、

記録的な大雨になろうという天気なのに泥


奏は覚悟を決め、不自然な泥でぬかるんだ地面を踏んで恐る恐る奥へと進んだ。


路地を進むほどにへばりつく泥の量はまるで奏を拒絶するように増えていった。


延々と続くと思えたコンクリートで出来たビルの壁に挟まれた路地に終わりが見える。


路地を抜けたその瞬間、人が飛んできた。

奏をよりも遥かにガタイのいい男が、

まるでボールでも投げるような速度で、

奏はその男に駆け寄る、男は機動隊のような格好で

頭にはフルフェイスのヘルメットを被っているので顔は分からない。


「だ、大丈夫ですか!?」


「よか…………援軍が……」


「ち、違います!僕援軍じゃないです!」


しかしどうやら男は奏の言葉が聞こえていないようだ。


「たの……む……あの…………ケースだけ…は…………」


そこまで聞いて奏は危険を感じ、咄嗟に飛び退く。

その瞬間鼻先を掠めるように泥の弾丸が空を切る。


「ほう、少しはやるようだな。」


声の主は左手にアタッシュケースを持ち、右手には既に新たな泥の弾丸を生成していた。


(やるしかない)


奏はもう一度覚悟を決めた。

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