第六話(最終話)

人生の半分以上の私の誕生日は、母の命日でもあった。


365分の1の確率だとするならば、約400人に一人は同じ境遇の人がいるんだろうと思う。


自分の誕生日が母の命日になったことに理不尽に感じた時期もあった。


でもいつからか、”大事な日”が二つ重なった、私にとっての”特別な日”になっていた。


母を恨んだこともあったけど、母からのプレゼントだったのではなかろうか、と今では思えるようになっていた。


「お母さん。」


誕生日の夜は、いつも、寝る前に母と会話をする。


あの頃の私と同じくらいの娘ができて、

あの頃の母と同じくらいの年齢になった今でも、

まだ、「お母さん」と口にすると、一瞬であの頃の私に戻る、母に甘えたくなる。


人生の終盤に差し掛かってもまだなお、あなたに甘えられたら、と思う。


この歳で、お母さん、なんて恥ずかしいけど。


「お母さん。」


いくつになっても、あなたに甘えたい娘のままです。




叶わないと知りつつ願う願いは、きっと愛しい人へのメッセージ。


伝えられる人がいるうちに、どれだけ伝えられるかが、きっと私の生きた証となってゆくのだろう。




空に向かってふぅーっと、私は大きく息を吐き出した。





Fin.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

On my Birthday ~母と娘~ 風光 @huukougensou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ