【記憶喪失のお姫様】1

 

「あっ! クソ! 請けようと思ってたクエストもう取られてる!」

「王女様が行方不明になったってよ。確かまだ十五とかだろ?心配だな」

「そういえば、ベニエに悪魔の巣があるって噂、あれ本当だったらしいぜ」


 エーデとパーティを組んだ次の日。

 俺達は、朝から賑わうギルドに来ていた。


「…………あれ、クエストってどうやって請けるんだ?」


「冒険者のくせにそんなことも知らないんですか。本当に頼りない男ですね」


 相変わらずエーデは俺に当たりが強い。


「いいですか、よく聞いていてください。あの掲示板に今請けられるクエストが載っています。目的のクエストを見つけたら受付の人に言って受注票をもらってください。受注票に書いたら受付の人に出して、受注完了です。あとはクエストが終わったら報告して報酬をもらうだけです。分かりましたか? まあわからなくても、もう説明しませんが」


 ちびっ子って言ったことまだ怒ってんのかな……。


 まあクエストの請け方は分かったしいいか。


 俺はエーデが言っていた掲示板を眺める。


「ソルワーム討伐……一匹につき5万オル……なあルミア、オルって金の単位だよな? 日本円でどのくらい?」


「知らないよ。あたしそこまで日本知らないし。それにこの世界の貨幣だってよく知らないよ。だって見てなかったんだもん」


 マジかこいつ、開き直ってやがる。

 ほんとにそれで神なのかよ。


「共通通貨の価値すらわからないのですか…………ニホンエンなんて聞いたこともない通貨……いったいあなた達はどんな辺境から来たのですか…………りんご一個が大体170オルから200オルくらい。これで分かりますか? 因みに今年は不作だそうで、どこの市場でも300オルくらいに上がっていますが」


 エーデが呆れた様に溜息をつきながら、オルについて説明してくれる。


 りんごが170オルから200オル……となると5万オルは5万円くらいか。

 都合良いな異世界。


 まあそれは置いておいて…………。


「命懸けてあのデカミミズ倒して5万…………安くね?」


「ただの害虫駆除ですから、妥当です。それよりこれはどうですか? 貧弱そうなあなたにピッタリじゃないですか」


 エーデが指差したクエストは…………


「ペルフィード伯爵邸の外周警備……ってこれバイト案内じゃねえか! 俺は冒険者なの! バイトじゃなくてクエスト探してんの! バカにすんな!」


 異世界来てまでバイトやる奴がいるか!


 それに俺は貧弱じゃない…………。

 いや、貧弱かも。

 昔、土木のバイトで足の骨折ったし……。


「ねえレイジくん、これどう?」


 そう言ってルミアが見せてきた依頼書には、見覚えのある木のモンスターが描かれていた。


「アルブルの討伐……一体につき10万オル……ん? 買取単価1万から5万オル。このモンスター、買取もしてくれるのか」


 そのモンスターは、前にルミアが捕まっていたあの触手の様な枝を持った木のモンスターだった。


「どう? あの枝は厄介だけど、レイジくんのステータスでもナイフで切れてたし、頑張れば倒せそうじゃない? 報酬も良いしさ」


 ルミアが顔を覗き込みながら言ってくる。


 いやしかし……。


「これの報酬が良いのって、あの森に生えてるからだろ? 簡単に倒せるかもしれないけど、あの森に入るのは危ないんじゃ……」


 依頼書と睨めっこしながら悩んでいると、エーデがちょんちょんと俺の背中をつつく。


「それなら私が魔獣避けの魔法薬を作って持っていきますよ」


「なにそれ、そんなことできんの?」


「まあ一応、博士に色々教えてもらっているので。そのくらいは」


 エーデが、ふんと鼻を鳴らしてドヤ顔をする。


 魔獣避けのポーション……それがあれば、高レベルの魔獣が出るらしいあの森でも大丈夫か。


「よし。これにしよう! とりあえず受注票もらってくるわ」


 エーデとルミアにそう告げ、受付の人から受注票を受け取り、アルブルの討伐クエストを書く。


「お姉さん、受注票書きました。お願いします」


 受注票を受付の人に差し出す。


「はい、確認いたしました。ヴォワザンの森は高レベルの魔獣が確認されていますから、気をつけてくださいね」


「はい! 行ってきます!」


 受付の人に挨拶をし、二人のところに戻る。


 モンスターとは何度か対峙しているが、こうやってクエストとして請けるのは初めてだ。

 緊張と共に、少しワクワクしている自分がいた。


 なにせ、今の俺は数日前とは違い、魔法が使えるのだ。

 ただの基礎魔法ではあるが、俺のは威力が並じゃない。


「ニヤケ顔気持ち悪いのでやめてください。気持ち悪いです。ルミアもそう思いますよね」

「うん、あたしもそう思う。気持ち悪いよ、レイジくん」


「お前ら……!」


 なんでいつの間にか仲良くなってんだこいつら…………。


 溜息を吐きながら、ギルドの扉を開ける。


 腰には念の為の貸し出しナイフを装備した。

 まずは初めてのクエストを無事に達成する。

 それが目標だ。


「よし、出発だ!」

「「おー」」

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神様、あんたのせいですよ。 間田こない @madaconai

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