【この神、人任せにつき】8


「嫌ですよ! こんな男の居るパーティなんて!」


 メルトルが突然、助手のエーデを俺のパーティに入れてほしいと言い出した。

 どうやら前々から、エーデのパーティメンバーを探していたらしい。

 しかしエーデ自身にその気は無く、どうしようかと考えていたようだ。


 そこに俺が現れた。

 俺のリベラシオを見て、メルトルは研究者として成長を観察したいと。

 しかしメルトルには他の研究もあるため、冒険について行くことはできない。


 だからその代わりに、助手であるエーデに行ってほしいと。


「そもそも、どうしてメルトルさんはエーデちゃんを入れてくれるパーティを探してたの? エーデちゃんにその気がないなら、無理にパーティに入れようとしなくてもいいんじゃない?」


 ルミアが小首を傾げながら言う。


 確かにメルトルの話では、俺の成長観察に関係なく以前からパーティに入れようとしていたようだ。

 助手ならわざわざ冒険に出さず、側に置いておくものじゃないのか。


「いやね、エーデには経験を積んで欲しいんだ。冒険において、仲間というものがどれほど大事なものか。エーデは何れ、冒険に出たいと言っていだたろう? それには経験、そして仲間との成長が必要だ」


 メルトルが仲間について語っているが、その間ずっとエーデは俺を睨んでいる。

 初対面でこんなに警戒されることも中々ないだろう。


「博士が私をパーティに入れたい理由は分かりました。でも、こんな弱そうな男のパーティじゃなくても良いじゃないですか。一緒に冒険するなら、もっと強そうなイケメンがいいです」


 ほんとに失礼だなこいつ!


「確かに俺はイケメンじゃないかもしれない! けどな、あのクレーターを見ろ! あれがどうしてできたと思う?」


 俺が含みを持たせて言うと、エーデが更に不満げな顔をする。


「知りませんよそんなの。どうせ博士がまたアホな実験でやらかしたとかじゃないんですか」


 心底どうでも良さそうに吐き捨てる。


「いやこれが違うんだよエーデ! あの穴はこのレイジ君が作ったんだ! なんと驚き、ただの基礎魔法でね」


 メルトルがドヤ顔でさっき起きたことを話す。


 …………なんでこの人がドヤ顔してんだ。


「どうだ、ちびっ子。確かにイケメンじゃないことは認めるさ。でも、弱そうって言うのは、誤解じゃないか?」


 アニメだったら今、俺からキラキラエフェクトが出たはずだ。


 と、なぜかエーデが下を向いてプルプルと震えている。


「…………? お、おーい? どうした…………? そ、そんなにイケメンじゃないとダメか…………?」


 恐る恐る聞くと、エーデが小さく口を開く。


「………………す」

「え?」

「殺す! 私のことをちびっ子呼ばわりしたこの不埒極まるこの男を今すぐ殺します!」


 エーデの周りに、パチパチと火花が飛び始める。


 あれ、もしかしてこれやばいやつ?


「焼け焦げて死ね! 『ランフェ──』!」

「ストーーーーップ!」


 慌てたメルトルが、エーデを取り押さえる。


 焼け焦げて死ねって…………怖……………。


「ごめんねレイジ君。エーデは背が伸びないのを気にしてるんだ。出来ればあまり触れないであげてほしい」


「あーーー‼︎ 博士まで! 私ちっちゃくないですから! これから成長期ですから‼︎」


 ジタバタと暴れるエーデをメルトルが宥めていると、ルミアが肩をトントンと叩いてくる。


「どうした?」

「あたし、パーティ組むの結構アリだと思うんだよね。さっきあの子が使おうとしてた魔法、多分強いやつだよ。多分」

「いや、俺だって別に反対してないぞ? ただあの子が嫌がってるだけで……」


 そう。俺自身もパーティを組むのに反対はない。

 いくら俺に勇者の力があるからって、一人じゃ怖いし。


 それに、さっきの魔法についても同意見だ。

 魔法経験のない俺でもわかる。

 あの肌がピリピリや焼けるような感覚。

 メルトルが止めなかったら、今頃本当に焼け焦げて死んでいたのだろう。


「さっきからちびっ子だのあの子だの、失礼極まりない人たちですね‼︎ 私にはエーデと言う立派な名前があります! 呼ぶ時はちゃんと名前で呼んでください!」


 メルトルの制止を振り解いたエーデが、近づきながら言ってくる。


「なあエーデ、そんなに嫌かい? 性格の合わない人とパーティを組むことで、色々な刺激や発見があるはずだ。エーデ、これは君のためにもなるはずなんだけど」


 メルトルが尚も説得するが、エーデはメルトルの方を見ず、俺を見つめてくる。

 しかしそれは、先程までのような威圧的な視線ではなく、見定めるような目で。


「…………分かりました。博士がそこまで言うんだったら、行きましょう。ただし、あなたがピンチになっても私は助けません。あなたは、私がピンチの時は必ず助けてください。それが条件です」


 ……………………。


「なんで俺がパーティに入ってくれって言ってるみたいになってんだ?」

「レイジくん。せっかく話が纏まりそうなんだから、水を差す様なこと言わないの」


 これは話が纏まりそうなのか?

 俺達は、メルトルからパーティに入れてやってくれって、お願いされてる立場なはずなんだけど…………。


 まあ仕方ない。

 俺突っかかれば、話が平行線になりそうだし。

 それに、うるうるした目で見つめてくるメルトルが気になってしょうがない。


 さっきまでの考えを腹に納め、一つ溜息をついてみせる。


「分かった分かった。…………分かりましたからメルトルさん、渋いイケメン顔で目をうるうるさせて見つめない出ください。気持ち悪いです!」

「本当ですか! いやあ、よかったねエーデ! やっと仲間が見つかって!」


 メルトルは嬉しそうにエーデに抱きつくが、当の本人は膨れ顔をしている。


 思ってたのとは随分違うが、まあそれは置いておいて。

 初めてのパーティ結成ってやつだ。


「……これから、よろしくお願いします……」


 メルトルに抱きつかれたままのエーデが、小さな声で言う。


「こちらこそ。よろしくな、エーデ」

「よろしくね、エーデちゃん!」


 俺とルミアが返事をすると、エーデはふいっと目を逸らす。


 ちょっと性格キツイけど、ツンデレって思っておこう。


 これでいよいよ明日から、冒険の始まりだ!

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