【その神、人任せにつき】7


 「『リベラシオ』!」


 メルトルが呪文らしきものを唱えた途端、目の前に小さめのソルワームが弾け飛ぶ。


 「きゃっ‼︎ わぷっ‼︎」


 ソルワームが爆裂四散したことにより、その破片が辺りに飛び散った。


 俺とメルトルは被らなかったが、なんと運の悪い神だろう。

 かなり大きめの、内臓の破片らしき物が、俺の後ろに隠れて顔だけ覗かせていたルミアの顔に直撃した。


 「うっ、うぐっ、うわあああああああああああああ‼︎」


 物凄い悪臭を放ちながら神様が泣き叫ぶ。

 思わず鼻を摘み後ずさる。


 「ちょっと! そんな顔で後ずさらないでよお! あたしが臭いんじゃなくて、このモンスターの体液が臭いだけだから! うっ、オエッ」


「はっはっはっ! 凄いだろう! 今のが基礎魔法のリベラシオ。全ての魔法の基礎となる、無属性の純粋な魔力爆発! 単純に魔力を放出し爆発させているだけではあるが、このリベラシオの魔力放出ほど効率のいい魔法は中々ない。この魔法に代わる基礎魔法を誰も開発できないのが何よりの証拠さ! いやあ素晴らしいよね! 最初に生み出された魔法が、最強の基礎魔法だなんて! いやあロマンだなあ」


 急にテンションが上がったメルトルが、吐きながら泣き叫ぶルミアを無視して説明を始める。


 このテンションの上がり方、ハンドルを握ると性格が変わる親父みたいだ。

 ルミアが言っていた通り、研究者というか魔法オタクに見える。


 「ねえ‼︎ あたしを無視しないでもらえるかな⁉︎ あなたのせいでこんなになっちゃったんですけど! 臭いんですけど! 物凄くクッサいんですけど‼︎」


 「ああ、すまない。でも魔法を教えるなら、実戦が一番いいからね」


 ローブから取り出した布切れを、ルミアに渡しながら謝るメルトル。


 「だからって別に体内で爆発させなくてもいいんじゃないかなあ⁉︎」


 「何を言ってるんだ君は。体内で爆発させた方が、派手でカッコいいじゃないか!」


 「なに言ってるんだはこっちの方だよ! 魔法を教えるだけなんだからカッコよさなんていらないよ!」


 くだらないことで言い争っているルミアとメルトルを尻目に、俺はさっきの魔法を放つ時のメルトルを思い出す。


 リベラシオ。純粋な魔力爆発。

 そう言われても、生まれてこの方魔法なんて使ったことない俺にはよくわからない。

 まあこういう時は、見様見真似でやってみるのが一番か。

 その方が主人公らしいし。

 ドロゴンバールの主人公がためため波を始めて打った時もそんな感じだったはずだ。


 「確かこう、片手を構えて……『リベラシオ』!」


 呪文を唱えたと同時、構えた手の10mほど先にある木の少し上で、大爆発が起こった。


 爆風で飛ばされそうになりながらも、身を屈めなんとかやり過ごす。

 やがて風が止むと、木が生えていたはずの場所には、ぽっかりと大穴が空いていた。


 「今のはなんですかああああああ!」


 目を見開いて肩を揺さぶってくるメルトルは、大穴を指差しながら俺の顔と交互に見る。


 「い、いや、さっきのメルトルさんのやつを真似したら、こうなりました……」


 それを聞いて、メルトルはさらに驚く。


 あれ、もしかしてこれ、アレか?

 チート能力持ちの勇者のお決まりセリフが言えるやつか?


 「あのー、もしかして俺、なんかやっちゃい──」


「凄いですよレイジさん‼︎ 見ただけですぐ出来るなんて……! しかもあの威力! あなたからは不思議な魔力を感じていましたが、まさかここまで……。それに確かまだ魔法は初めてでしたね? となると更なる威力の上昇も期待できるわけですか……」


 俺の決めセリフを遮って、メルトルが思案に耽る。


 ……決めセリフくらい言わせてほしい。


 とは思いつつ、これだけ褒められているのだ。

 俺の勇者伝説の始まりに相応しいと言えば相応しい。


 そんなことを考えている俺に「あたしの力だけどね」とルミアが茶々を入れてくるが気にしない。


 「おーい博士ー! 博士ー!」


 俺が調子づいて、ふふんと鼻を鳴らしていると、小柄な少女が此方に向かって走ってくる。


 やがてメルトルがその少女に気づくと。


 「おお、エーデ! 良い所に!」


  エーデと呼ばれたその少女は、丸眼鏡の奥でルミアをじっと見つめている。

 いや、見つめると言うより睨んでいる気が……。


 「博士、家にいないと思ったら……こんな所で女連れて何やってるんですか」


 「ああ、今は彼に魔法を教えていたんだ」


 メルトルがエーデに説明すると、エーデは俺に気づいていなかったのか、驚いたように見てくる。


 「ん、ああ、すみません。影が薄くて気づきませんでした。もしかして姿を見えなくする魔法でも使っていたんですか? それなら凄い腕前ですね。全く気づきませんでしたよ」


 「え、いや、まだ基礎魔法? しか教わってないけど……」


 「そうですか。じゃあただ影が薄いんですね」


 ……なんだこの子。


 初対面で随分な言い草じゃないか。


 「それより博士、この女は誰ですか。随分と綺麗な方じゃないですか。もしかして私が留守にしてる間に女作ってたんですか」


 エーデがルミアを指差しながらメルトルに詰め寄る。


 「違うよ⁉︎ あたしはメルトルさんとは今日初めて会ったし、どちらかと言うとこの子の保護者みたいなものだから!」


 ルミアの言葉に、ふーんと目を細めるエーデ。


 ……いや保護者ってなんだよ。


 「ま、まあそんな感じで……そうだ、自己紹介がまだだったな。俺はレイジ。んでそこのはルミア。俺たちは昨日この街に来て、魔法を教えてくれる人を探してたら、メルトルさんが声をかけてくれたんだ。あ、あとどっちかって言うと保護者は俺だ」


 エーデは俺とルミアを交互に見る。


 「変わった服で変わった名前の幸薄男に、神様と同じ名前の美人……博士、この人たち怪しいです。埋めましょう」


 なんて失礼で物騒な!

 ほんとになんなんだこの子は。


 「エーデ、あまり彼に失礼なことを言うんじゃない。なにせ彼はこれから君と旅をする大事な仲間になるんだからね」


 その言葉に、一瞬時が止まったように静まり返る。


 「「「えっ?」」」

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