6.冬の村を見て回ろう【家事・子守り編】

 とまあ、このあたりでそろそろ子供たちも飽き始めてきた。

 トビーなんかは駄々をこねだし、八歳児である少女アンの表情も渋くなってきている。

 ついてくる足取りも次第次第に重くなり、今や『これは本当に面白いのか?』という態度を全身で示すようになっていた。


 だがしかし、だからと言って「じゃあ解散」とはいかない。

 面白くないことは事前に説明済み。社会科見学というものは、飽きたからと言って途中終了できるものではないのだ。なによりそんなことをしては、見学させていただく社会のみなさんに失礼である。


 それじゃ、ここらで引率の先生の出番と行きましょう。

 こうなると思ったから護衛を連れてきているのだ。


 そんなこんなで強制連行。

 嫌がるトビーを護衛の肩に担がせ、ぐずるアンの手をヘレナに引かせ、向かうは家事・子守り組の作業する談話室だ。

 先頭を進むのは、なんとなく余った私とケイティである。

 談話室は二階。玄関ホールから階段に上がる間、私は黙々とついてくるケイティをちらりと見やった。


 ケイティは、つい先日誕生日を迎えたばかりの十一歳。子供たちの中ではお姉さんで、村ではそろそろ大人扱いをさせるころ。

 そのこともあってか、彼女は他の子供たちに比べてかなり聞き分けが良いらしい。ほとんどわがままも言わず、控えめで良い子だというのが、村の人々の評価だった。


 ちなみに彼女も、やはり両親を亡くしている。現在は亡き両親と親しかったという村人の一人に、養子として引き取られているという。


 社会科見学に向かう姿勢は真面目で、今もはしゃいでいる様子は見られない。

 一方で、特別なにかに関心を寄せている風でもない。村人たちの会話もそこそこ聞き、なぜかときおり、私に熱のある視線を向けている――と。


 そして現在も熱視線。

 視線の先は私の顔――ではなく、…………手に持っているメモ帳、かな?

 うーむ?




 むむ、と唸りつつも、気付けば談話室の前だ。

 とりあえず優先すべきは視察を終わらせること。ケイティのことは置いておいて、まずは話を聞きに部屋の中へ。


「あら、あら、いらっしゃい!」


 と出迎えたのは、家事・子守り組である三人の女衆だ。

 今はどうやら、談話室で針仕事の最中らしい。彼女たちは暖炉際の椅子に腰掛け、忙しなく針を動かしているところだった。

 彼女たちの傍には、小さな揺りかごが一つ。中には村で最年少である二歳の男の子が、温かそうに包まれてぐっすりと眠っていた。




 さて、家事・子守り組と一口に言っても、彼女たちのやることは多い。

 まだ仕事を手伝えない、幼い子供のお守りが一つ。家事として、今やっているような針仕事が一つ。それから村の人々に開放した部屋の掃除。村人たちのベッドを整え、シーツを取り換え、汚れた服の回収。

 それらを地下にある洗濯室に持って行って洗濯。同じく地下には、洗濯物を乾かすための巨大暖炉部屋、もとい乾燥室があるけれど、こちらは薪の節約のために使用停止中。代わりに濡れた服を地上に持って上がり、外気の当たる場所に広げて干す。

 それから水差しの水を取り替え、ごみを捨て、散らかった部屋の片づけ。最近では大急ぎで作られる魔物の毛皮外套の仕上げ作業も加わった。


 これをたった三人。

 食糧収集を優先して、偏った配置にしている自覚はあるけれど、さすがに少々無理をさせてしまっていたようだ。

 近況を聞く私に、彼女たちは疲れたように息を吐く。


「お掃除なんかはヘレナさんにも手伝ってもらっているんだけど、どうしても行き届かなくて……」

「針仕事も繕い物と外套の仕上げで手いっぱいでね。もう少し余裕があれば、子供たちに新しい服の一つも仕立ててやれるんだけど……」

「この天気だと洗濯物も乾かないし……乾燥室を使えればいいんだけど、今は薪も節約しているでしょう?」


 うううううむ、多大なる人手不足に薪不足。

 しかも、命にかかわらないから後回し、とも言い難い内容だ。


 清掃は衛生に直結するし、外套は外での作業効率に関わってくる。

 洗濯物も衛生面に関わってくるうえ、そもそも村人は服の替えが少なく、下手をすると冬物二着を着回しなんてこともある。

 そんな中で服が乾かないと、夏物を着る羽目に――とはさすがにならず、村人同士で服の貸し借りをして事なきを得ているらしいけれど、まあ気持ち的には落ち着かない。


 家事・子守り組の女衆も、長らくの少人数体制で鬱憤がたまっている感じ。

 私としても、他を優先して対応を後回しにし続けてきた責任がある。そろそろ、どうにか彼女たちの負担を減らす方策を考えなければならないだろう。

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