5.冬の村を見て回ろう【採集編】(4)
ふーむと思いつつ、採集班の女衆と別れて、今度は厨房地下の食糧庫へ向かう。
入り口は、厨房裏口すぐ傍にある階段だ。大荷物を運び入れる必要があるため、造りは立派で幅広い。三人くらいは横並びで歩けるほどだ。
そんな階段を手燭を掲げて下りていくと、地下の空間に行き当たる。
天井付近に採光窓が一つだけ取り付けられた、ひんやりとした空気の満ちる部屋。ここが食糧庫だ――というわけではなく、まだ前室だ。
ここからさらに、奥へとつながる扉がある。
扉は二つ。
一つは目当ての食糧庫であり、もう一つはなんとワインの貯蔵庫である。
…………ワインの貯蔵庫である。
前領主、ここで一体どんな夢の生活を送るつもりだったのか。
ちなみに、中は当然空っぽだ。夢の名残であるワイン樽や酒瓶を置くつもりだっただろう棚だけが、なんとも虚しく転がっているだけである。
――本当、現実が見えていないわね……。
誰もが見捨てた不毛の地で、よくもまあワイン片手に豪遊生活なんて夢を見られたものである。そんな簡単に開拓が進むような土地なら、もうとっくに国主導で都市の一つも築かれているだろうに。
現実の方は、ワイン貯蔵庫どころか食糧庫の方もスカスカだ。
開けるまでもないけど扉を開けて中を覗けば、あるのは真っ暗な空間に浮かび上がる空っぽの棚と空き箱だけだ。
そのくせ、部屋自体はやたら広い。二十人用の食堂の、約半分くらいの大きさはあるだろう。こちらは採光窓もなく、あるのは部屋の壁際に据えられた燭台と、天井付近に空いたいくつかの空気孔のみ。光が入らないこともあって、前室よりも遥かに冷たさが身に染みる。
「殿下、お体が冷えますよ。ちゃんと上着を羽織られてください」
ヘレナがそう言って、せっかく脱いだもこもこの外套をまたしても掛けてくる。
屋内なのに、外套を着ないといけない寒さ。まあ食糧保存の冷暗所としては優秀なのだろうけれど、それにしたって寒すぎる。先ほどまで寒空の下で駆けまわっていた子供たちでさえも、寒さに負けて前室から覗き込むだけだ。
もちろん私だって、こんなところでのんびりするつもりなんてない。中を軽く確認したらすぐ出るつもりだ。
わざわざ袖を通して着るほどのこともないし、別に少しくらいなら我慢できるし、だいたいこの外套、重くてあまり着たくないんだよね。その分防寒性能は高いけどさあ。
……という私の不満を見透かしたように、ヘレナが暗闇でため息をついた。
「これくらい我慢してください。真冬だったら凍ってしまっていますよ」
まだ真冬じゃないしー。平気ですぅー!
………………………ぶえっくしょい!!
ダメだ、出よ出よ! 人間には危険な寒さだ!
というか、ここまで寒いと植物にも危険だわ。下手したら外気温よりも下がりかねない。しばらく使わないからと食糧庫に保管していた作物の種子類も出しておかなきゃ。
そんなこんなで、護衛とヘレナに手伝わせて種子をサルベージ。
前室に置かれている棚の方へと保管場所を移動する。
ついでだから、この機に種の方も確認する。凍って使い物にならなくなっていたら困るからね。
布袋を開けて中身チェック。うん、見た感じ凍結まではしていないようだ。
これらの作物の種子類は、小麦や種芋と違ってそのままでは食べられないものたちだ。
ニンジン、ピーマン、カブ、カボチャ。ベリーなどの果実類に、ミントやバジルなどのハーブ類。その他もろもろ。どれもセントルム王国では王道の作物である。
もっとも、私の目ではどれがどれだか見分けはつかない。カボチャの種くらいはわかるけど、細かい粒々類は全部同じに見えてくる。
名札の一つもあればいいけど、村人たちは字が読めないので、つけてもあんまり意味がない。まあ、彼らは種子を見ればちゃんとどれがどれだかわかるから、必要ないと言えばないのだけども。
とにもかくにも、棚の一つを占有して種置き場に。
数はピンとこないけど、袋でどのくらいあるのかもメモしておく。
さらに、前室を見回して他に置かれているものもチェック。
食糧庫、と言ったものの、実際は使用頻度が多いものは前室に置きっぱなしだ。袋詰めされた首狩り草に、同じく袋に詰まった夏芋の粉。塩、少量のスパイス、さらに少量の脂とチーズ。いざというときには食用にせざるを得ない、小麦粉やトウモロコシ、種芋などもここにある。
これらを全部数えて数値を記入。日割りでどのくらい使うのか等の計算はあとにして、このあたりで食糧庫は終わりとしよう。
またしても子供たちを回収し、軽く休憩を挟んでから向かうのは、家事・子守り組の元だ。
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