5.冬の村を見て回ろう【採集編】(2)
外作業の男衆から話を聞き終えた後は、草原を駆け回る子供たちを捕まえて屋敷内へと向かう。
次なる目的は、屋敷内で草分別作業中の女衆だ。
ちなみに、これ以降の聞き込みはすべて屋敷内で事足りる。魔物を警戒して護衛を連れていたけれど、おかげさまで何事もなし。これで彼もお役御免――と行きたいところだけど、残念ながら引き続き付き合ってもらう。
なにせ、今回は視察兼社会科見学。予定外に子供たちが加わってしまったのだ。
子供の引率は多いに越したことがない。というかすでに、ヘレナ一人の手では子供たちを捕まえきれていないからね。
そういうことでメンバーそのまま、ぞろぞろと通用門をくぐって屋敷の中へ。
厨房の裏口から屋敷へ入り、今は無人の厨房を通り抜け、向かうはさらに隣の部屋。厨房直結の食堂である。
女衆の分別作業は、この食堂で行われている。
食堂が選ばれた理由は、厨房に隣接しているため食糧庫にも近く、通用門とのアクセスも良好。加えて作業をできるだけの十分なスペースがあり――。
なにより、大きな暖炉がある、というのが大きかった。
〇
食堂の扉を開けた途端、真っ先に感じたのは暖かい空気だった。
ひやりと冷たい厨房に立つ私の頬を、流れ出す熱が撫でていく。
食堂は定員二十名。中央には長テーブルが置かれ、左右には二十人分の揃いの椅子が並ぶ。加えて今は、村人たちが持ち込んだ自前の椅子がいくつか、テーブルに収まらず乱雑に置かれている。
見るともなしに目に入るのは、そのテーブルに向かいあって座りながら作業をする女衆。部屋の隅に敷かれた布と、その上に山と積まれた無数の草。
そして、部屋の中央で赤々と火の燃える暖炉だった。
火の傍で、女衆は作業を進めていく。
部屋の隅に積まれた草をいくらか抱えて長テーブルに広げ、一つ一つ丁寧に見比べながら草をより分ける。草原の草はほとんどが瘴気の毒を持ち、安心して食べられるとわかっているのは首狩り草のみ。他の草はどんな危険があるかわからないため、作業する女性たちの顔はみんな真剣だった。
特に今は、もう草も枯れかけの冬。
首狩り草の特徴であるウサギに似た白い花も、すでに枯れ落ちてしまっている。
首狩り草は一年草。冬には枯れ、春に新たに芽吹く植物だ。花以外の特徴も今ではすっかり衰えて、以前よりも見分けがつきにくくなっていた。
その中でも、わずかな葉の形や色味、茎の伸び方や互い違いの葉の伸び方を見比べて、慎重に他の草を取り除いていく。
取り除かれた不要な草は、再び部屋の隅へと積み上げられることになる。
これは作業が終わったあと、まとめて外へ廃棄される。燃やすと瘴気の混ざった煙が出て危険だし、堆肥にするにも瘴気が混ざる危険があるので、残念ながら今のところ使い道は見つかっていなかった。
一方、首狩り草と判断された草たちの行き場所は暖炉の前だ。
暖炉の前には乾燥用の物干し台がいくつか置かれ、束ねられた首狩り草が所狭しと吊るされる。
長期保存のためには乾燥が必須。今までは天日で行っていた乾燥も、しかしここ数日の悪天候では心許ない。
ならば、と選ばれたのが火を用いての乾燥だ。おかげで食堂の大きな暖炉は、ここ数日ずっと火が絶えることがない。
薪の方も心許なくはあるけれど、食糧に比べればまだ猶予があるし、節約の余地もある。
外で男たちがせっせと草を刈り、ここで女たちがわずかな草の違いを比べて選り分ける。この作業が、冬を乗り越えられるかどうかの生命線になるだろう。
暖炉の燃え盛る火がぱちりと爆ぜ、また一つ草の束が吊るされる。
開け放たれた扉から入り込む冷気に気付いたのか、作業をしていた女衆の一人が顔を上げた。
「――――ああ、来たね領主さん。それに子供たちも」
こちらに振り返り、そう声をかけてきたのはマーサである。
彼女は待ちかねたように椅子から腰を浮かすと、まだ扉の前に立つ私たちへと手招きをした。
「そんなところにいないで、中に入ってきな。話を聞きに来たんだろう? 今、首狩り草のお茶を用意してあげるよ」
…………。
生命線、さっそくお茶になっちゃったよ。
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