26.【実績解除】準備万端? -十分な食糧の貯蓄がないまま冬季を迎える

「横暴! 横暴―!!」

「これだから領主ってやつは! 領民をなんだと思ってやがる!!」

「ふざけんなコラ! 事前に許可を取れー!!」


 あーあーあー、聞こえない聞こえない。

 私悪くないもんね。恨むなら、最初に『家を破壊しないこと』を条件に付けなかった自分たちを恨もうね。


 だいたい、遺体を埋葬したのだって私としては大温情だ。

 これがゲームだったら、問答無用で遺体ごと魔法の巻き添えにしているに決まっている。

 それなのに、こんなカツカツ状態で狩りを休んで、三日もかけてちゃんと墓標を作ってやったのだ。そうしないと闇討ちされかねない、というのもあるけれど、領民感情をちゃんと考慮した結果である。


 まあでも、遺体はなくなったので家爆破します、なんて言っても村人たちが納得するわけがない。

 事前に許可を取れと言うけれど、こんなん許可なんて取れるわけないだろうという話。彼らを説き伏せるには、有無を言わさぬ成果を出して、結果で認めさせるしかないのである。


 だから事前に説明を濁す必要があったんですね。

 納得させるには、これが一番早いと思います。


 なので私は、大いに胸を張って村人たちへと呼びかけた。


「なんとでも言いなさい! あなたたちにこれ以上の案がある!?」


 たしかに、彼らの家はなくなった。

 入植してから四年間、苦楽を共にしてきた家だ。憧れのマイホームであり、心よりくつろげる安寧の場所であり、無数の思い出が刻まれた地だ。

 惜しいだろう。悲しいだろう。失うなんて、考えられなかっただろう。


 しかし、それと引き換えに助かる可能性が生まれたのだ。

 もちろん、本当に生き残れるかどうかは、冬になってみなければわからない。食糧の都度調達なんて、要するにその日暮らし。もしも不慮の出来事があれば、まだまだ村壊滅の不安は残っている。


 だが、私が村に来た当初は、生き残るための『可能性』すら残っていなかった。

 初秋の段階で食糧調達の目途はなく、冬を前にしてすでに生存は絶望的。奇跡でも起きなければ、全滅は確定だろうという状態だったのである。


 それを、冬になるまで『わからない』という状況に引き上げた。目の前に迫った死の気配を遠ざけ、生死の判定を先延ばしにした。

 その重みをわからないわけではないだろう。


「食べるものがなければ生きていけない。冬の寒さをしのがなければ生きていけない! でも、家がなくても死にはしないのよ!!」


 しかもその家の代わりに、この屋敷を提供しようというのである。

 住み慣れた自分の家は失うかもしれないけれど、はっきり言って彼らの家よりこの屋敷の方が頑丈で立派。ついでに防寒性能も高いときた。

 さすがに村人三十九人を収納するには窮屈でも、雨風がしのげて寝る場所がある。飢え死にするのと、すし詰め状態で生活しつつも生き残れるのと、どちらがマシかという話だ。


 まさか、すし詰めになるくらいなら死んだ方がマシ、なんて言うまいね、村人諸君?


「………………」


 私の言葉に、村人たちはぐっと言葉を呑む。

 彼らの顔には不満が浮かぶ。家を失うことへの悲しみと戸惑いがありありと見える。食糧の都度調達という不安定さへの恐れがある。


 しかし、彼らの口から反対の声は出てこない。

 互いに顔を見合わせて、口をつぐんで押し黙るだけだ。


「納得してもらえたようでなによりだわ」


 ふふんと鼻を鳴らすと、私は口の端を持ち上げた。

 彼らの不安自体は、私もよくわかる。生死の判定を先延ばしにしたということは、つまりこの先まだまだ死の恐怖に怯え続けるということだ。

 これだけやっても、冬を生き残れないかもしれない。家も食糧もなにもかも失って、思い出の一つもないこんな場所で死ぬのかもしれない。

 彼らは死を恐れていないわけではない。むしろ死への不安が大きいからこそ、余計に変化が恐ろしいのだ。


 どうせ死ぬしかないのなら、せめて安らげる場所で――と願うのは、人の心理として当然のことだ。


 だからこそ、私は不敵に笑ってみせる。

 彼らへの共感も私自身の不安も表には出さず、自信たっぷりにこう言うのだ。


「安心しなさい。約束通り、この私が全員を生かして冬を越えさせてあげるわ!!」


 ドンと大きく胸を叩けば、村人たちはおずおずと、不安を呑み込むように小さく頷きを交わし合った。

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