2.村人と交流してみよう(1)

 まあまあまあまあ。なってしまったからには仕方ない。

 私が望んだわけではないけど、まったくもって不幸なことではあるけれど、隣領へつながる唯一の橋が落ちてしまったとあってはどうしようもない。

 私たちはこの極限の領地に閉じ込められ、少なくとも冬を越すまでは、領外に頼るすべもない。


 いやまいった。困った困った。実に口惜しいことである。

 実際、ゲーム的には交易が使えないのがけっこう厳しい。このジャンルは資源が命。マップ内の資源だけに頼っていてはいずれ破綻が見えてくるので、港のような外部との流通経路はできるだけ早めに確保しておきたいものなのだ。


 しかし、できないものはできないのである。

 ならばいつまでも嘆いているよりも、ここからどうするかを考えるのが賢明な判断というものではないだろうか?


 というわけで、賢明な私はサクッと切り替え、村へと赴くことにした。




 その結果。


「で、ん、か~~~~~~~~~~~~~!」


 領主の屋敷から、再びところ変わって今度は村の中心部。

 ざわめく村人たちに囲まれて、サクッと同行させられたヘレナが私を恨めしそうに睨みつけた。


「この状況で村に出るなんて、どういう神経しているんですか! マーカス様が橋を落としたばっかりですよ!? 村中ピリピリしている真っただ中ですよ!? 聞き込みなんてしていられる状況じゃないんですよ!!??」


 いやだって、本当に時間が惜しいのよ。

 王都はまだまだ秋が続くけど、こちらの冬は到来が早い。冬支度をするにも、あとどれほど猶予があるのかわからないのだ。

 そんな状態で、村が落ち着くのを待っている余裕はない。そんなことをしていたら、そのまま冬に突入してゲームオーバーだ。


 私は高難易度ゲームは好きだけど、クリアさせる気のないゲームは好きではない。ハードモードも縛りプレイも、自分ができると思うギリギリを攻めるから楽しいのだ。

 そしてなにより、舐めプが一番面白くない。今この場でコントローラーを渡されたなら、その先はただ最善手を尽くすのみ。高難易度を選んでおきながら舐めプでゲームオーバーなんてダサすぎて死にたくなるし、この状況では実際死ぬ。


 なので私は自分の哲学に沿って、最善手を取ったまで。

 そもそも序盤の状況が悪すぎて、多少なりとも強引な手を使わないと状況改善できそうにないのだから仕方ない。村からの信頼度は最底辺でも、ここは行動を起こすべきところだと判断した。


 その行動とはつまり、①情報収集、②交流を深めて信頼度向上、③領主としての指揮権の獲得、の三つを目的としたものなわけだけど。


「この、クソガキが…………!!」


 わけだけど。

 強引な手はやっぱり強引なので、成功率が低いのが悩ましいところ。


「黙って聞いていれば偉そうに! ガキが大人のやることに口を出すんじゃねえ!!」

「もう我慢ならねえ! まとめて叩き出してやる!!」

「こっちは生きるか死ぬかだ! てめえも魔物のエサになりやがれ!!」


 まだ日も高いお昼過ぎ。気持ちが良いくらいの上天気の空の下、私たちを取り囲むのは殺気立った村人たちだ。

 各々の手には鍬や鋤。顔には青筋を立て、今にも噛みつきそうに私を睨む。


 うーん、不思議。まだ普通に聞き込みをしていた段階だったはずなのだけど。村の指揮権うんぬんはさておき、普通に交流を深めようとしていたつもりだったんだけど。

 やっぱり、一獲千金を狙って危険な開拓生活に飛び込んだ人々だけあって、血の気が多いってことなのかな?


 と首を傾げる私に、ヘレナはやっぱり恨みがましい目でこう言った。


「殿下が人の神経を逆撫でしすぎなんですよお……」


 そんなつもりはないんだけどなあ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る