4% コボルトキングダムの伝説(2)
「アリュマ...?だめっ!もどって!だめ......」
声が届かなくなった。
アリュマも大きいけど、グロウディアスはそれ以上に大きな魔物だった。
遠くで戦っている。苦戦していた。
ぼくは、何もできずにただ眺めることしか出来ない。
「針が......!!」
ぼくの攻撃がアリュマに全くダメージを与えなかった状況が、再び目の前で起こっていた。
どうしよう......どうしよう!!
ぼくは焦った。
考えていた。
辺りを見渡した。
右を見た。左を見た。
何も、何も使えるものはなかった......諦めちゃだめだ!!
下を見た。だめ。
上......これだ!!
「アリュマ!!上っ!!上だよっ!!」
ぼくは天井に生えていた尖った石を指差した。
アリュマはそれを理解した様子で飛んでいくと、その大きな口でそれを噛み砕き始めた。
グロウディアスがぼくの元に向かってくる。
「ア......アリュマ.........!!」
徐々にその魔物の姿が大きくなる。
目の前に来た。それは大きく口を開けた。今にも飛びかかる勢いだった。
怖いけど、ぼくは、アルマを信じる。
「アリュマ......やっちゃえ!!」
大きな空っぽの口がぼくの目に飛び込んできた。ぼくは目を閉じなかった。
ダァンッ!!そんな大きな音が目の前で鳴った。その音は、大きな岩の槍がグロウディアスに直撃する瞬間だった!!
グロウディアスが落ちていく!!
やった!やったんだ!!
「アリュマァ!」
ぼくは上を向いてそう叫んだ!思わず!
黒く煌めく鎧の魔物はぼくをみて頷いていた。
ぼくは崖の下を覗く。まだ、グロウディアスは動いている。
もう一度だ!大丈夫......きっとうまくいくよ!!
「アリュマ!早く!早く来て!!」
ぼくがそう呼ぶと、アリュマはぼくを掴んで空を飛んだ!!
「うわぁ...!!すごい、すごいよ!!」
帰ったらルルファに自慢しよう。ぼく、空を飛んだんだ!!
また安全な高台に降ろされた。天井を見上げると、いっぱい岩の槍が生えていた。
「アリュマ?」
様子が変だった。
「ねぇ...?だいじょうぶ?」
ぼくがそう声をかける。アリュマがぼくを見つめ返した。もしかして、心配してくれてるのかな?
「アリュマ!ぼくは...だいじょうぶ!やろう!!」
ぼくがそういうと、アリュマはブゥゥゥと羽音を立てて上に飛んでいった。
確かに怖かった。心細かった。
二人とも死んじゃうかもしれない。
みんなが食べられちゃうかもしれない。
怖いはずなのに、それなのに、心が躍って仕方がなかった...!!
バゴッ!!ぼくに近づくグロウディアスの目の前に大きな岩が落ちた。
失敗...?じゃない!!ぼくはアリュマが何をしようとしているのかが分かった。
ドゴッ!!岩の槍が降り注ぐ。
「すごい、すごいよ...!!」
ぼくの視界には、逃げ場を失ったグロウディアスが、そこから逃げ出そうと足掻いていた。
そして!!ドンッ!ドンドンッッ!!その重い音がグロウディアスを潰した!
パラパラ......その響きだけがこの空洞に残る。
やっつけた...?やっつけた!やっつけた!!
「アリュマ!すごい!すごいすごいよ!!」
そう喜んだのも束の間だった。
激しい閃光がぼくの視界を奪った。
「キィィィィィィァァァァァァァ...!!」
恐ろしい音が前から聞こえる。
何も見えない...!!
どうなったの?
どうなっているの?
「だ...だめだ......ア...アア...アリュマ.........?」
アリュマの姿も見えない。
脚が震える。指が震える。体が、声が震える。全身が恐ろしいその何かから逃げ出そうと警告していた。
無理だ。勝てない。そんな絶望感に襲われる。
「アリュマ?......!!」
ようやく目の前が見えて来た。その光景は、あまりに残酷だった。
グロウディアスは、何もなかったように生きていた。そして、口から......魔法?
それはアリュマを追っていた。アリュマもそれを上手く避けるけど、それ以上近づけないみたいだった。
天井の岩は全て落とされていた。段差が全て埋まって、ほとんど平らな空間になっている。
ぼくは焦っていた。だって!今にも眩しい光がアリュマを覆ってしまいそうだから!!
「グ、グルードおじさんに伝えなきゃ!!」
ぼくの震える体は意外にも動いた。
通って来た道を戻って、塞がった岩の隙間を通って戻って来た。その光景は平穏そのもので、岩の壁の先でどんな戦いが起こっているのかもみんなは知らない様子だった。
ぼくは走った。
「あ!レル〜!!」
目の前にルルファが歩いていた。丁度いい!!
「ルルファ!おじいちゃんに伝えて!!グロウディアスが出た!!出たんだよ!!」
「え!?ね、ねえ!!待って!!どういうこと??」
「アリュマが戦ってるんだ!!あの抜け殻が動いたんだよ!!」
「え...?え?本当におじいちゃんにいっちゃっていいの??」
「うん!!ルルファにしか任せられないんだ!鱗の魔物だよ!アリュマは黒い空飛ぶ魔物だ!!ぼくはグルードおじさんに伝えてくる!」
「わ、分かった!!」
ルルファは真剣な表情になってそう返事をした。そして、ひゅんひゅんと軽い足取りで走っていった。
「ルル!そっちじゃなくてこっちだよ!!」
「え?そ、そうだった〜!!」
大丈夫かなぁ?ルルファはすぐに迷子になるからなぁ......なんて思いながら、ぼくも走る!走る!走る!!
流石に息が上がってきた。
「ん?レルか?どうした?まさか上の板を外してくれなんて言わないな?」
「はぁ......グロウディアスが出た!!」
「そうかそうか!ははは!それは恐ろしいな。でも大丈夫だぞ?現れても守護者さまが守ってくれるからな!ははは!」
グルードおじさんは陽気に、髭を摩りながらそういった。
「鱗の魔物...!鱗がいっぱい集まったんだ!!」
「...!?」
ぼくがそういうと、グルードおじさんの穏やかな表情が急に険しくなった。
「グルードさん、長老が......レルか?しっし!今は忙しいんだ」
この門を守る防人、リンドだ。少し意地悪でぼくは苦手だけど、そんなこと言ってられない!!
「リンド!グロウディアスが出たんだ!!」
「おまっ......また入ったのか!?たくっ、あの辺りはもう魔物が出るからもう入るなって......」
「リンド、要件はなんだったんだ?」
グルードおじさんが聞く。
「あ、ああ!長老が緊急の要件で呼んでいたって話っす」
「そうか......レル、グロウディアスはどうなってる?」
「アリュマが戦ってる!今も戦ってるよ!!」
「アルマ...どんな見た目だ?」
「そんな御伽話なんか......」
「リンド、命令だ、今は静かにしていろ」
「え、ええ、はい」
「黒い空を飛ぶ魔物だよ!体がキラキラしてる!!ほら!おじさんが僕たちを怖がらせるときにいう奴だよ!!」
ぼくがそういうと、グルードおじさんが険しい表情で一言呟いた。
「ヴェスパニアナイツ......?」
そして、どこかへ急いだ様子で向かっていく。その先は兵士が待機する部屋だった。
「リンド!ロンドを西の門から連れてこい!武器を持ってここに集まれ!!
「りょ、了解っす!!」
「レル!戦場はあの場所で合ってるのか?」
「うん!」
「くそっ!!北の門が通れないことには......」
「グルード!!た、大変だ!!あの轟音は岩壁を砕く音だ!!奥の通路!!奥の通路に妙な横穴が出来てやがるぞ!!レルが正しいかもしれ......レル?どうかしたのか?」
東門の奥からダリルおじさんが走って来た。グルードおじさんに次ぐ強い人で、話が面白い少し小太りなおじさんだ。
東門を進むと、ぼくがアリュマとあった通路に出る。
あの横穴が見つかったんだ!!
「次から次へと忙しいな!!その奥はどうなってる?」
「わからん!段差のある空間に繋がっていたが、それ以上奥に入るのは危険だぞ!魔物が何やらバッチバチに争ってやがる!!」
「それだよ!!それがグロウディアスとアリュマだよ!!」
「お、おいレル!グルードの前でそれをいうと怒られちまうぞ!?」
ダリルおじさんがグルードおじさんの顔色を見る。しかし、そこには怒りはなく、なぜか確信めいた焦りの表情があった。
「ダリル、レルの話を信じよう」
「なんだ!?急に......いいのか?」
「ああ、イタズラで終わるならそれでいい」
「おし!来た!!完全装備だな!」
「ああ、当然だ」
ダリルおじさんがドテドテと走っていく。グルードおじさんが急いで周囲の兵士たちに何かを伝言していた。
「グルード!グルードはおるかな?」
背後からまた新しい声が聞こえて来た。その声はぼくもルルファも聞き覚えのある声だった。
「レル!おじいちゃん呼んできた!!」
「ルルファ!」
良かった。迷子にならなくて。
そこには急いでここに来た二人の姿があった。
ルルファのおじいちゃんの長い髭があちらこちらに乱れていた。
「長老!今から真偽を確認しに、兵を集めているところです」
「真偽の確認は無駄ですな!敵が光を纏ったグロウディアスならば、もう一刻の猶予も許されない状態!!武器に魔力を宿す準備を進めるのが最適解ですな!」
「光を纏った......レル、どうだ?」
「眩しかった!光の魔法を使ってたよ!!」
「それは追い詰めたという証拠......ですな。そうなれば残る手段は一つ!グロウディアスの放つ魔法、それを暴走させて討つ方法が一番の方法ですな!」
「宿した武器を......」
グルードおじさんが考える。
「口の中へ投げるのですな!」
ルルファのおじいちゃんが答える。
すると、左の方からリンドと、もう一人が大きな弓を担いで現れた。
リンドの双子の弟、ロンドだ。この双子は苦手。
「グ、グルードさん?正気ですか?あんな御伽話......ちょ、長老まで!?」
「ばか!ロンド!俺と同じこと言うなって!!」
奥から無数の兵士と武装したダリルおじさんが登場する!
「グルード!ひよっこ達もわしも!いつでも行けるぞ!!」
「......揃ったか!作戦は一つだ!魔力を武器に付与できるものは奴の口狙え!!ヴェスパニアナイツは味方、守護者アルマだ。間違っても狙うな!!」
ドンッ......壁を揺らすほどの音が鳴る。
その音と小さな揺れを、全員が感じ取った。
「これは......まずいですな!!急がなければ、間に合わなくなりますな!!」
ドンッ...!!ドンッ!!足元が揺れる。
「ま、まじかよ......本当に、グロウディアスが出たのか?」
「お、落ち着けよロンド、冷静を欠くなって」
リンドとロンドの双子がお互いにその現実を感じ取り、戦慄した。
彼らだけじゃない。まさか、まさか自分が生きている時にそれが起ころうとは、ここにいる誰しもが覚悟していなかったことだった。
いまだに未知の脅威に対して恐怖心のない兵士も多かった。
「レル、危険だが案内を頼めるか?」
グルードが言った。
「うん!早く行こう!!」
「はは!頼もしいな。よし、作戦を開始する!!」
「レ〜ル〜!」
後ろでルルファがぼくを呼んだ。ぼくは小さく手を上げた。ぼくを追いかけようと走る手を、ルルファのおじいちゃんが止めた。
何かを伝えようとしていたけど、ぼくには聞こえなかった。
やがてその姿も見えなくなった。
全員が急いでいた。
無数の松明の明かりがぼくの行先すらも照らした。
あの時とは違う。今は、今はみんなもいる!!
「グルード!この先だ!この先から音がする!!」
「だろうな......いつ揺れるか分からん!慎重に登れ!!」
ダリルおじさんの掛け声。そしてグルードおじさんの号令と共に全員その高い段差を登り、越えていく。
「キィィィィィィィィィィィィ」
「グルード!!まずいぞ!!全員、魔力を込めて槍を構えろ!!」
ザッ!!揃った音と共に並ぶ刃先。
ぼくたちが上がりきった先には、今まさに魔法を放とうとするグロウディアスと、ボロボロになった羽で飛ぶ魔物がいた。
その動きにあの時の勢いはなく、ふらふらと飛ぶのが精一杯のようだった。
「リンド!行けるか!?」
「行けるっす!!」
「ロンド!」
「ええ!」
リンドとロンドが弓を構える。
青白い光が二人が構える矢を包みこむ。
二人の目に青い光が宿った。暗闇を晴らす魔法だ。
「魔力を付与するだけで十分なんっすよね?」
「ああ!狙いは奴の魔法陣の破壊、魔力の暴発だ!!いけるか?」
「......余裕っす」
グロウディアスの魔法が完成するその直前!!ビュンッ!!と放たれた一筋の矢。
その矢はアルマの横を抜け、見事に口の中の魔法陣を貫いた。
「くそ!ダメっす!!口が空いたままだとダメージが......」
「問題ない......見てみろ」
「!!」
全員がその最期を見ていた。
さっきまで飛ぶのも必死だったヴェスパニアはあり得ない速度で急降下すると、その勢いのまま一気に上昇する!!
「キィァァァ......!?」
グロウディアスの鳴き声はそれによりキャンセルされた。
自身の体を使い、見事に口を閉ざすことに成功していた!!そして!!
この暗闇を覆う強く、青い光が敵の口から溢れると、それは力無く倒れた。
我々は、勝利した。正確には、アルマとレルの勝利だろう。
「確認!!」
グルードの掛け声で、一斉にグロウディアス元に向かう兵士たち。
ハンドサインで知らされたのは、討伐成功の証だった。
「アルゥマ!!だいじょうぶ?」
ブゥゥゥン...ぼくがそういうと、フラフラしながらもこっちまで飛んできてくれた。
「レル、彼が......そのアルマなのか...?」
「そうだよ!ね?嘘じゃなかったでしょ!驚いた〜?」
「あ、あぁ、驚いた」
「アルゥマ!みんな!ぼくの仲間だよ!!こっちはグルードおじさん!」
アルマは不思議そうな顔で僕たちを見ていた。
グルードおじさんも少し警戒していたけど、首を傾けてながら両前脚広げる姿を見て、それが自分知っている魔物じゃないって分かったみたいだった。
「ついて来てくれアルマ......君に感謝したい」
グルードおじさんはアリュマをぼくたちの国に案内するみたいだ。
ルルファやみんながどんな反応するのか、今から楽しみでしかたがないよ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます