3% バルガー山脈(7)

チリーン。チリーン。風鈴のように涼しげな音が、連続して鳴り出した。



「ノ...ノーア......アリュマ!!」



レルは強張った表情でそう言った。



『なんだ?』



背後!?俺は、その音の鳴る方をゆっくりと振り向いた。

バルガーディアスの死骸があった。なんの変化もない。苔むしている。

チリーン。また鳴った。その時、俺は見てしまった。地面に、まるでが落ちた瞬間を、その何かがその周囲に何枚も落ちている光景を...!!

チリーン...!!

チリーン...!!

チリーン...!!

ボトボトと落ちる。バルガーディアスの死骸から、朽ちていくように剥がれ落ちていく。



『俺が触ったから壊れた......のか?』



そう考えるしか無かった。魔物の反応も何もない。いや、何か......動いている??



『あれは......落ちた鱗??』



俺はモゾモゾと動くその近くへ、音も立てずに恐る恐る近づいていった。すると、答え合わせをするようにそれが現れる。



ピロッ!


【バルガーディアス 脅威度C】



それは、幼体のバルガーディアスだった。

ツチノコのようにずんぐりとした見た目で、鱗がそのまま胴体になっている。

一匹の大きさは腕のサイズででかい。

レルの松明の光を反射して、キラキラと煌めいていた。やっぱり硬そうだ。



「ノーア...ノーア...」



レルはそれを恐れていた。でも大丈夫だ、幼体のこいつらはさほど強くないらしい。



『ははは!あれを見ちまったら可愛いもんだ......脅威度もCか』



チリーン。チリーン。

そうしている間にもそれは生まれ続けていた。地面にはモゾモゾと大量の赤ちゃんが群がっている。

チリーン......最後の一枚が床に落ちた。分かっていたことだが中は空洞で、抜け殻と形容しても間違いは無かった。だけど、恐らく死骸が正解だろう。

これは予想だが、死に際に自身の体を巣にすることで肉体を幼体の栄養源に、大きな体を外敵対策として、この種族は生存戦略を立てているのだろう。

やっぱり賢いやつだ。賢い敵は厄介なんだよ。



【パンパカパーン!グロウディアスの隠れたスキル≪宝石の残骸≫を見抜きましたよぉ〜非常に厄介な相手ですねぇ〜】



そう思った瞬間、ファンファーレが鳴った。ほう?隠しスキルなんてもんがあるのか。



『とりあえずビンゴ!今のうちに一匹狩って、ステータスとスキルを確認するのもありありのありだ!』



そう思って近くに寄っていく。

体表は既に長い期間を得て硬化しているらしく、俺の針が通用するとも限らなかった。

適当に攻撃して、ポキっとかいって折れるのはあまりにもダサい。流石にあり得ない。

じゃぁ顎で噛み切る......?いける......?

既に硬さは成体レベルだろう。俺の生半可な攻撃は通用しない。

毒......?いや、口の中ですら硬いんだろ?

頭の中で戦略を立てる。しかし、俺の同胞が挑んで散ったデータを頼りにしても、勝てる未来が見えなかった。幼体なのに!?



「アリュマ!!ミュタ!ルェルト...!!ルールーゥッッ!!」



レルが険しい表情と声色でそういった。何か、焦っていた。

右目の端で何かが始まった。

モゾモゾと動いていたバルガーディアスの幼体たちは、徐々に統率を取っていく。

見覚えのある形状。

見覚えのある顔。

見覚えのある脅威。

モゾモゾと動いていた幼体たちはたちまち動きを固めると、その塊は俺を向いた。



ぴろっ!!


【バルガーディアス 脅威度 不明】



本能が叫ぶ......逃げろ!!



「ミュ...ミュタ......グロウディッ...!?」



ブゥゥゥゥゥゥ...!!前脚でレルを運ぶ!!

その魔物が暴れ出す前に、安全地帯へ避難させる!!

成体じゃない!アイツは、バルガーディアスは成体なんかじゃ無かった。それにもっと早く気づくべきだった。

こいつには......もう一つ進化先がある!!

ヴェスパニアナイツを容易く蹴散らしたアイツは、ただの幼体の集まりでしかなかったんだ!!



『レルが恐れていたのはこれか...!!』



レルを少し小高い崖の上に避難させた。

ここなら、アイツも容易く狙うことはできない。それに、万が一襲われても、近くにはその先の空間につながる通路が広がっている。

俺はどこに繋がっているかは不明だが、きっとレルはそれを知っているはずだ。



「アリュマ...?ノーアッ!ルェルト!ルェル......」



現地民のレルがいうには、俺に勝率はないらしい。必死に岩陰から俺を呼び戻すコボルトの子供の姿があった。その声もすぐに届かなくなる。

あまりの不意打ち。流石に驚く。



『動かないオブジェクトじゃねぇのかよ!!ちゃんと動くじゃん!驚かせやがって!!』



ヴィィィィィィィ...!!

全力で飛ぶ。全速力で動く。そうしないと奴に動きが捕捉される。

既にバルガーディアスの塊は俺を捕食しようと、口をかっぽり開けていた。

奴の口の中は、なんてことなく空っぽだった。



『通りで俺たち自慢の毒針が折れるわけだ!だって体表も口腔も同じ、バルガーディアスなんだからな!!』



口の中に入れば、たちまちそれ構成する無数の奴らに貪られて終わりだろう。その残骸を全員に配分することで成り立っていると考えられる。

こいつを倒すには、無数のこいつらを倒す必要があった。本当にどうしろっていうんだ??不利種族ぞ??



『一体一体潰していくしかねぇ...!!正気かよ!?嘘だろ!?えぇ!?』



拮抗する俺の思考。勝てるヴィジョンが何度想像しても見えない。

個体の口には流石にダメージが入るはずだ。しかし、当然そんな弱点をぽっかりと開ける、ゲームの間抜けなボスほど甘くはないのがこの世界。

例えるなら貝!貝だ!!僅かな隙間も、こいつらはがっちりとガードしてやがる!!水管くらい出してくれよ!!



『何か弱点はないのか?何か......ないのか?』



牽制する双方。俺は遠方から奴の様子を伺い、相手も同じように様子を見ていた。

奴ら、まだ完全にその状態に馴染んでいないらしい。動きに統率がなく、生まれたばかりの子鹿のようにヨタヨタと左右に動いている。

奴らは奴らで移動する練習をしているようだな。



『隙があるとすればそれか?』



つまり、ゲームでいう二回に一回行動のような状態にいる。

敵のSPDが一時的に半減してる感じだが、ATKは当然のように高く、防御面も同様にヤバヤバのツヨツヨ!!

先制攻撃を仕掛けたいが、ワンパンされることを考えると勇気が出ない...!!



『.........ああ!やっぱ焦ったい!!戦いながら考える!!』



ヴィィィィィィィ!!羽音を高らかに鳴らして背後から近寄る。

奴が首を重たく引っ張ると俺に視線を合わせた。

何百という数のバルガーディアスに捕捉されるその感覚に、ゾクゾクと鳥肌のような感覚が止まらない。



『ぬ...!!』



先制は敵のターン。

奴は全体を激しく捻ると、その勢いのまま俺にテールアタックを繰り出した!!

ヴィィィィィィィ!!俺はその勢いを流すように、尾が迫る方向同じに旋回する。

ビュンッ!!という激しい音と共に、尾の先端が俺に迫りくる!!

チリ......尾の端が俺の羽の端をかすめたが、逃げ切ることに成功した。

俺のターンだ。敵の懐に入り込む!!

ここまでの時間は僅か数秒。加速していく世界で、俺はギリギリの攻防を繰り広げていた。



『見えた......捻れた時にできるその隙間...!!』



とぐろ巻くような奴の格好。

人間の皮膚でも同じことだが、当然腕が曲がった内側の皮膚は弛み、外は突っ張るもの!

はははは!!そう、奴の体には余裕がない!!張り詰めて、僅かに隙間の空いたその接合部に毒針を...!!



『ぶち込む...!!』



しかし、それは安直な考えだったとすぐに思い知らされる。

パキッ......目の前で、その隙間は詰めるように埋まった。そして、その乾いた音と共に、尖った針の先端が宙を舞っていた。

俺は......何をやってる?そう思うほどの悪手だった。いや、正確には奴が一枚上手だったと称えるべきだろう。



『しまっ......!!逃げろ逃げろ逃げろ!!』



ヴィィィィ!!俺は反射的にその場を離れる。

緊急離脱!!追撃を免れる。

敵は何事もなかったかのように体勢を戻すと、俺に向かって進み始めた。

バランスはいまだに安定せず、グラグラと、ズルズルと迫ってくる。



『カチカチ!なるほど......隙間はあってないようなものか』



俺は先端の折れた針を収納すると、そう呟くように顎を鳴らした。もう、これは役に立たない。

アイツらは全体の意思決定と、個々の意思決定の二つで動いていた。

隙間があるなら?それを個々が埋めるように動けばいいということだ。それに、これが悪手だといった理由は他にもある。

仮にあの隙間を突いたとしても、恐らく奴はノーダメージだ。

あの空っぽの器じゃ毒は回らない。

頼みの切れ味も奴らの肉質には勝てない。その全身がもれなく硬い、舐め腐った肉質だ。



『確実にハンターに嫌われるタイプの敵だな!現に俺がもう嫌!!さて...?どうすんの?俺!!』



顎を鳴らす。鳴らす。鳴らす。

考えても策は思いつかない。その顎も、恐らくは頼りにならない。先端が欠けるだけだと思う。

あの硬いバルガーペンドピードの殻や、その辺の岩すらをも軽々と噛み切るほどの大顎。

それを上回る奴の捕食者としての余裕は、俺の戦意を削ぐには十分だった。

いっそ逃げる......?いや、こいつは俺を捕食するか、巣を特定するために必要以上に追ってくるだろうな。壁越しで発見する嗅覚を持ってやがるほどだ!!



『まさにヴェスパニアキラー!!』



俺を殺すことに特化した能力を持ってる!絶対にこいつは持ってる!!

だからどうせ逃げたところで追いかけ回される。それこそ、蛇はしつこいっていうしな?

それを利用して誘導する方法もあるが、正直攻略したい!!この場で倒したい!!

この圧倒的に不利な状況!初見!条件で!!

こいつを、俺は、攻略したい......!!

諦めたら多分、ずっとそれが気になって先に進めなくなる。

俺も中々にしつこいんだよ...!!



『それに......恐らくイベントが分岐しそうだしな?俺が逃げたらレルが食われるとか勘弁だぞ??』



あり得なくはない。そっとレルを確認する。

大丈夫。岩陰に隠れてこっちを覗く小さな顔が見えている。

点在する柱を利用して奴との距離を作る。地面に流れている水のお陰で、割と逃げ切ることができた。

ジリ貧だ。攻めることもできず、ただただ追われ続けている。

羽の付け根が熱い。MPは消費していないはずだが、疲労感のような重さが俺を襲った。

ブゥゥゥゥゥゥ......速度が落ちる。

奴が迫ってきた。トップから落ちる俺とは逆に、敵は徐々に動きに慣れを感じ始めていた。

いまだに段差にもつれるが、それでも、その隙すら埋まり始めていた。



「アリュマ!!ルファッ!!ルーファ!!」


『ルファ...!?海賊王......じゃないな!?ルファってなんだ......上!?』



レルが突然天井を指さすとそういった。

俺は初めて聞く単語に困惑するが、レルの指がその方向を示していた。

天井を見ると、そこには鍾乳石のような石の柱が無数に連なっている。



『これを使うのか...!!』



俺はレルの方を見ると、首を縦に振って合図する。

ブゥゥゥ...!!なんとか上昇すると、天井に生えた石柱の元に辿り着いた。



「ア......アリュマ.........!!」


『くそ、ターゲットが変わったか!?』



ズルズルと這いずるバルガーディアスは、届かない距離に飛んだ俺から、声を出したコボルトの子供にターゲットを変更した。

......腹が減った。それが、バルガーディアスの統一した意思だった。

食べられるならなんでもいい、獲物、獲物を捕食することが、今行う最善の行為。

あれなら、逃げられない。

あれなら、反撃しない。

その後で、あの逃げた奴を、探せばいい。

レルは声を出さずにそれを見ていた。

今、彼の視点には二つの光景が見えている。

その一つは、勢いよく目の前まで迫った大きな宝石の魔物の姿。

もう一つは、蛇の頭上で待ち構える大きな煌めく魔物の姿。

最悪自分は食べられる。だけど、僕はその話を信じていた。コボルトの一族に伝わる御伽話を。僕とルルファと、僅かな人だけが今も信じる、その伝説を...!!



「アリュマ......ルェルッ!!」



レルがそう叫ぶと同時にバルガーディアスが大きく口を開けて襲いかかった!!



≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫



その次にレルが見たものは、大きく口を開けていたグロウディアスが、大きな鋭い岩に押しつぶされる姿だった。

そのまま崖の下に落とされたバルガーディアスは、ズンッ!という激しい音と共に、散り散りとなる!!

残された巨大な岩の槍は、地面に深々と突き刺さっていた。容易に人、数百人が踊れるステージが誕生した瞬間だった。



「アリュマァ!」


『ああ!上手くいったな!!』



下の方から嬉しそうに俺を呼ぶ声が聞こえた。

俺は顎を鳴らすだけだが、アイコンタクトと小さなジェスチャーでそう会話した。

レルが引き寄せ、そこを俺がタイミングよく合わせた石の大槍で穿つ!!

正直、落ちるタイムラグが予想できなくてヒヤヒヤしたが、上手くいってよかった。

確かにダメージが1000と出た。しかも、複数。

飛び散った奴らはモゾモゾと戻っていく。そこを追撃で岩の槍をお見舞いしたい所だが、あいにく在庫が切れている。また、別のポイントに行かなければない!

レルを囮にするのは......正直危険すぎる。



「アリュマ!ルェル!ルェル!!」



俺がそう思っていると、下の方から呼ぶ声がする。当の本人はそんなことお構いなしの様子だった。

ヴィィィィ!!岩にしがみついて僅かに休息を得た俺は再び全速力で向かうと、再び二本の中の脚でがっちりとレルを掴んだ。



「オー...!!ラータ、ラータ!!」



柱を避けて滑らかな動きで次の地点を探す。

レルは興奮した様子でその空の旅を楽しんでいた。

まったく、たくましいもんだ。

その間にもバルガーディアスはモゾモゾと集まろうと動く。

追撃したいが、どう足掻いても奴らに弱点はない!弱点露出系のスキルがあるなら、是非とも!今すぐに欲しい所だな。

俺は再びレルを崖の上に移動させる。その上にはびっしりと大きな石の柱が天井に生えていた。



『変だな、少し個体の動きが遅い?気のせいか?』


「アリュマ?」



俺は奴を見てそう感じる。いまだに塊として動くことなく、モゾモゾと蠢いていた。

数匹だけ倒したのか?その可能性が高い。

いくつかの個体は動くことなく、そのままようだった。

シダ植物のように連なっている。



『そうか......一部が欠けても塊が機能するようになってるのか』


「ルア...?ディトゥールァ?」


『ん?ああ、大丈夫...大丈夫だ』



それをじっと見つめる俺を心配するようにレルが見ていた。覗き込んだ大きな青い瞳が、俺の複眼を満たした。

ズズズズッ!!奥の方で再び奴が動き出す音が響く。地響きが轟き、徐々に距離が詰まっていった。



「アリュマ!ア...ディトゥルァ!ルェル!!」


『わかった!頼んだ!!』



それを見た俺たちは、再び同じように動く。

俺はレルに向いて首を振ると、再び天井を目指して飛び立った。

今度は一度じゃない。そこまでの直線上で一気に勝負を仕掛ける!!

この直線の左右には大きな柱と滝の音、更には高低差のある段差が広がっていた。

比較的緩やかな段差はこの直線しかない。敵の行動を制限できる都合のいい直線も、ここしかない!!

つまりチャンスは一度きり。

俺は手前から順に岩の柱の元を齧る。ゴリゴリと、歯医者で歯を削るような、激しい不快な音が絶え間なく体表に響いた。

ある程度齧ったら次に向かう。

次、次、次!!

ズズズズ......奴が来た。迫り来た。

敵は俺の羽音に気づかず、俺の真下を通り過ぎようとしていた。その先にはやはりレル。

レルはいっそ隠れることをやめ、目立つように立っていた。



『今!!』



俺は岩の柱の根本を噛み砕いた!!

バゴッ!!音を立てて岩の槍が勢いよく落ちる。しかし、ダメージの表記は出ない。脳内にも浮かばない。

敵は、それを学んだかのように回避していた。それが落ちる場所を特定し、その箇所だけ避けるように個体、全体が共に移動していた。

バキッ!!地面にそれが落ちる。砕けることなく、それは再び刺さっていた。



『まだまだまだぁぁ!!』



ヴィィィィィィィ!!と激しく羽音を立てて次のポイントへ向かう!まだ絶望する時間じゃない。そんな暇なんてない!!

敵はレルを目掛けて進んでいた。よほど空腹なんだろうな?俺の邪魔をなんとも思っていない様子だ。

バゴッ!!敵がレルの目の前に迫る...前に!!俺はその先の槍を落とした!!

ドンッ!!という、重い音と砂埃が舞う。

ダメージは......ゼロ。

バルガーディアスは目の前に落ちた岩の壁を見ていた。その邪魔な壁を乗り越えようと上を仰いだ瞬間、視界に入ったのは......ヴェスパニアナイツが岩を噛み砕く瞬間だった。



『これでもう、逃げ場はない...!!』



バゴォッッ!!バゴッ!!ボゴッ!!

俺は次々に岩を砕いていく。

頭。胴体。尾。

三本の大きな槍は、バルガーディアスの僅かに残された逃げ場を無くすような勢いで迫った!!

右には柱!!左にも柱!!

柱には隙間があるが、それを乗りこえる時間は、とうに残されていない!!

いや!最初からそれを許さない戦略なんだよ!!

ドッ!頭から潰されたバルガーディアスは地に伏し、続く胴体と尾の追撃を許すほかなかった。

統率が崩れる余裕もない。

ドッ!!ドッ!!中途半端に散った個体たちは、踏み潰される蟻のように惨めに散っていった。



≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫

≪...-1000...≫



無数に表示される≪-1000≫の文字は、幾重にも重なり、まるでカンストしたような桁と錯覚させた。

もはや、どれがどれなのかの区別もつかず、どれくらいが生き残ったのかも不明だった。

......何かが蠢く音はない。気配もしない。



『勝った...のか?はは、なんとかなるもんだな?はははは!!』


「アリュマ!ラータ!ラータラータ!!」


『ああ、なんとかなったな』



俺は両手で勝利を喜ぶレルの元に飛んでいく。

ブゥゥゥゥ......ブゥン...!!

俺の羽音の中に不気味な響きが混じる。



『背後...?聞き間違いじゃ...ない!?』



バチュッ!!その音と共に背後で閃光が走った!!

レルはその閃光に目が眩んでいる。

一瞬にして暗闇を照らしたその光の正体は光線...!?

天井を穿ち、貫き、そして大きく崩したその光線の正体、それは......魔法!!



『レル!!隠れろ!!』



大声でそう叫ぶがその声は届かない。

ガラガラと音を立てて崩れ落ちる天井の岩の槍。それらは周囲に突き刺さり、やがて大きな一つのステージへと変貌遂げた。

水がせき止められる。

隙間から流れる流水が、龍の鳴き声のようにごうごうと鳴き出した。

砂埃が去ったあと、そのステージにそれはいた。



ピロッ!!


【グロウディアス 脅威度 不明】



それは淡く、白く光った一匹の神々しい大蛇だった。

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