3% バルガー山脈(1)
ゴロロロロロロロロ。あれからまた随分と奥まできた。
マップでいえば西の方角、左に進んだわけだ。かなり進んだはずだがまだ奥が見えない。結構とかそういうレベルでなく、このダンジョンは広くて長かった。
『コレ、最初のダンジョンなんだぜ??最高かよ!!』
その道中、ちょこちょこ敵と遭遇しては戦うか逃げるかでやり過ごし、なんだかんだでHPは残り13Pになった。それでも8Pしか減らないのは、やっぱりコイツの耐久お化けのおかげだろう。
序盤のボスラッシュもそうだが、序盤に出すなよこんな耐久お化け!!
『それともあれか?これでも雑魚レベルの防御力ってことか??』
だとしたら悍ましいが、中盤あたりで登場する魔物だと思っておこう。
耐久性とそこそこの攻撃力を持った、カメみたいな魔物とか、鎧系の魔物とかの部類だ。
思い出すのは詰みかねない洞窟。
納期だからってゲームバランス投げたらダメでしょ......懐かしい時代だ。
今出したら間違いなくクソゲー認定される。
『それで消えた名作がどれだけあったか...!!』
素晴らしい設定のゲームをゴミに変える錬金術師め!再構築してやるよ!その社是!!
ブラック企業は人柱求めて人体錬成でもして持ってかれろ、資金と人材!
どこぞのアトリエみたいにDLCで回収しやがれ!!
『だからって本体価格と同じか、それ以上はやり過ぎだけどな〜』
ゴロロロロロロロロ。そんなことを呟きながらマップ埋めすること数時間が経った。
辺りの景色は特に変わらずと言ったところだ。高速道路かな?
複雑に入り組んだ通路はスポンジのようで、立体迷路のように俺の行手を阻む。
右に行ったかと思えば左に出て、下に向かったつもりが上に登っている。
今は上層と中層のなんか......狭間だ。
ゴロゴロ彷徨いながらも、順調にマップは埋まっていた。すると、突然マップ上に妙な空間が現れた。細長い、大きな空洞だ。
『なんだこれ......大空洞的な?』
大広間のようなフロア。あるいは新たな名前のついたステージ?このダンジョンの中でもランドマークのような場所?
そんなことを考察しながら勢いを落とさずに進んだ。その瞬間だった......ぽんっ!!
『......ん?ぽん??』
突然、周囲の壁が消えた。前方、左右、上下まで、全方位が暗黒に包まれている。
何も見えない...!!
敵??いや違う、地形的な問題だ。
その一瞬の疑問が確信に変わるのに、ほとんど考える時間は必要なかった。
『......って!!マジかよっ!!』
妙な無重力感と自由落下!!細長く縦に伸びたこの空間が意味することは...一つ!!
『渓谷かよぉぉぉぉぉぉぉ...!!』
どこぞのサンドボックスゲームみたいに、いきなり渓谷からの落下死パターンが脳裏に浮かんだ。
※俺は落下死した You Are Dead!
しかしその点は大丈夫だろう。どうやら虫系の魔物は高い所から落ちても平気という共通のスキル、いわば特性を獲得していた。
問題はそこじゃない。
渓谷は当然、パックリと断面が見えていた。
その一瞬だけでも見える、穴あきのチーズのような断面には、明らかに強そうな魔物たちの影が蠢いている!!
ぴろッ!!
【グランムーシュ 脅威度 S】
ピロ!
【グレートスタルタス 脅威度A】
ぴろ〜!
【ナイトスタルタス 脅威度S】
うん、ヤバい!!
あっちから、レベルの壁を感じるね?
明らかに脅威度増してるよね?
ヤバいよねぇぇ!?これぇ!!
シュッ...ブチュッ!!右から嫌な音と感触に襲われた。ダンゴムシの鎧の動きが鈍くなる。
『......あっ!!』
距離があるから油断した...!!
少し大きめのスタルタスが放った糸に当たってしまった。このままだと引き寄せられる......!!
ど、どうする!?そうだ!糸を切れば......!!
キリ...!キリ......!!
側面に付いた糸を、なんとか噛み切ろうとするが、かってぇ!!強度異常だろ?針金?鉄線?蜘蛛の糸かよ!?本当に!!
ここで俺が察することは一つ。というか、ある程度ゲーム馴れしていれば分かることだった。
『あーコレ、ダメなヤツだ......!!』
ビュッ...!!掠め取る勢いで、ダンゴムシの体は案の定ナイトスタルタスとやらに引き寄せられた。
バリ...バリバリ...!!殻付きだろうとお構いなしに食い始める。その煎餅みたいな音だけが、暗闇に響き渡った。
『うわっ!あのダンゴムシがお菓子みたいに食われてる〜こわっ!』
その顎は相当に強く、恐らくは毒もフロートスタルタスとは比べ物にならないレベルだろう。間違いなく。あれも相手にしていい敵じゃない
なんでこんなに落ち着いて観察してるかって?いや、当然フロートスタルタスの器に引きこもってますけど?
ピロッ!!
【収納】...運べる物が増える
つまりはそういうことだ。俺はずっとフロートたんを、ダンゴムシの中で温めて来たってことですわ!あのムカデの頭と交換でね!
『あぁ、結局コイツに戻るのかよ!いや、でも助かった!!』
とりあえず......あの対岸のエリアは危険だ!
渡ろうと思えば行けるが、恐らくはマップのレベルが違う!!ザトウヌシの時みたいな恐怖の再臨はゴメンだね!
絶対あのナイトスタルタス倒したら、その上の進化前が来るんだろ?それにあの先にもどうせ......
【バルガー山脈 西部】
......とか、
【バルガー山脈 渓谷】
みたいなマップが広がってるんだろ?
キョロキョロと辺りを見渡してみる。
マップ的にここは恐らく中層。上層のマッピングは見た感じ黒塗りもなく、終わってると思うけどファンファーレは鳴らず...気まぐれか?
見逃しがあったかは後で確認しようか。
『フロートに逃げたのはいいが、ピンチに変わりはないよなぁ〜』
このフロートスタルタス、元々ボロボロだったのもあってもうそんなにHPがなかった。
残りHPは1P...!!いわゆるオワタ式だ。
『なんかフラフラするな』
体力がないからか意識も覚束ない。急いで新しい器を見つけよう...!!
『どうせなら新しい魔物がいいなぁ〜!』
慣れた手つきで糸を操り着地すると、そのまま中層を進んでいく。この糸があるかないかで、結構探索の自由度が変わるんだ。
ひろ〜い。中層は上層と比べて開けた空間が多く、通路よりもメインは空洞だった。
本当に大きな、水路のような空洞だ。
所々に柱のように岩が並び、その光景は圧巻の一言だった。
チョロチョロと水が流れている。どこから来ているのかは不明だが、初期リスにあった泉からは相当離れているから地下水だろう。
試しに一口飲んでみる。
『美味いなぁ!!』
まぁ、美味いだけだ。特にステータスに変化はなかった。
周囲は暗いが、定期的にぼんやりと光るキノコのような植物や、小さい蛍のような魔物?虫?環境生物?のおかげで事なきを得ている。
それでも人の目にはほとんど何も見えない程度にこの場所は暗い。実際問題、フロートスタルタスから出ると何も見えなかった。
アルマの視界は限りなく人に近いみたいだが、環境に左右される問題もあってか、この場所では役に立たなかった。
周辺に警戒しながら先を進む。当然、天井を這って進んでいる。
マップも再び黒一色に覆われてしまい、安全地帯も魔物のフロアの把握もさっぱりだ。
『さっきまでの勢いはどこに行ったんだ??』
思わずそう言いたくなるほどの引け腰探索だった。
ピロッ!!
【カースハベルタス ランクC】
【バルガーペンドピード ランクD】
このように、ダンゴムシの時は威勢よく無視できた魔物も、今となっては強い敵だ。
満身創痍のこの体ではまともに逃げることも叶わず、餌食になって終わり。
それを避けるために、今ではコソコソ天井やら壁やら岩の柱に張り付いては、敵の動向を窺う小さい虫になってしまった。
『しょ、しょうがないだろ......!!』
仮にこの器を無くせば、いつ次の器が転がってくるか分からない。
ダンゴムシのような事態は滅多に起こらないし、下手に挑んでもこんなHPじゃまともに相手にできない。
当然、パワープレイだって不可能だ。
空腹にならないってことは、それだけ肉体の維持や修復はしないよってことだろう。そもそも成長しないからどっちも一緒か。
あくまでも、元々いた宿主のアルマが抜けた器でしかない。
ピロッ!!
【スタルタス 脅威度C】
【スタルタス 脅威度C】
【スタルタス 脅威度C】
【スタルタス 脅威度C】
【スタルタス 脅威度C】
『いってるそばから、次はスタルタスの群れかよ......こえ〜!!』
地上には無数の魔物がワラワラと群れをなして歩き回っている。常にシンボルエンカウントしてもおかしくない割合で敵が配置されていた。
せめてレベルが上がればまだ楽だっただろう。
せめて!せめてスキルのレベルだけでも!!
『まぁ......無理なんだけどねぇ!』
一応、アルマのスキルレベル、少なくとも熟練度とやらは上がっているっぽい。というのも、マッピングをしていた時のことだ。
【パンパカパーン!オートマップの熟練度が上がりましたよぉ!】
って、SE担当がなんか喜んでいた。
肝心の特典は何も言及していなかったが、確かに以前より広範囲で黒塗り状態のマップが読み込まれるようになった。
つまりは前よりも広い範囲を塗りつぶすことができるようになった...と思うのだが、その効果が実感できるレベルじゃない。
バルガー山脈、その最上層のマップを埋めた時もお褒めの言葉を貰ったが、報酬はその時もなかった。褒められただけだ。なんなん?
『まぁ、褒められたら......嬉しいよなぁ?』
実績みたいなもんか?まぁいいや。
この世界にきたばかりだからか、何かある毎に、それも急に、結構な頻度で、
【パンパカパーン!】
って、ファンファーレを鳴らして来る。
やはり序盤は開発の気合も入っているだけに演出が細かいんだよな。そんで、どんどんイベントややることが無くなって、自由時間が増えていくと!!
『最後は暇になるんだよなぁ』
雑談?独り言?をしているうちに、今度はまた少し広めの場所へ出た。
ピロ!
【コボルトキングダム跡地】
コボルトキングダム?
表示されたマップ名にはそう書かれていた。
コボルト、恐らくだが亜人種のコボルトだろう。
魔物としては割と、ゴブリンと並んでポピュラーな部類になるが、果たしてこの世界のコボルトは、どんな見た目でどんな特性があるのか。
『......近くにいるのか?』
そう思って辺りを探索するも何もない、何もいない。
跡地という割には本当に跡形もなく、支えの柱と崩れた大きな泥の塊が点々としている程度。あとは僅かにザトウムシの子供がウロウロしているだけだった。
『今の状態だとアイツらも強敵なんだよな〜』
なるべくステルスしてそこを抜けていく。
ザル警備であることを祈ろう。
因みに柱は人口物ではなく、自然物だ。その柱から柱へと、糸を使ってビヨーンビヨーンと移っていく。
噴出するのではなく、風の流れを利用して反対につければ、動作時の音を抑えることも可能だ!
『風の流れ......』
これが出口から来る風なら良かった。しかし残念ながら、これはさっきの渓谷から来る流れだろう。
俺はその空気の流れを利用してなんとか跡地を抜けた!!すごい!!
もしかしたら現役のコボルトキングダムがどこかにあるのかも知れないな。下手な詮索は今はしないけど!
『とりあえず新しい器が欲しいし、それに......』
いずれはマップをローラーして埋めるつもりだった。もしもコボルトキングダムとやらがバルガー山脈にあるのなら、確実にぶち抜けるからなんの問題もない!!
今は今だ。この最悪な状況を乗り越えることを考えよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます