2% 序盤に出てくるヤバい奴(1)


俺を見下す巨体の魔物。名は闘鬼とうきバルカ。

第一印象はオーガだが、そうじゃない。

赤い瞳は俺を鋭く捉え、手に持った巨大な剣を構えている。



『おいおい......嘘だろ??まだ入って数分だぞ!?こんな雑魚に構うなよ......!!』



圧倒的な強者のオーラだが、こういうのは案外よくある。いわゆる序盤......チュートリアルで出てくる、やたらと強そうなボスだ。

正直な話、雑魚敵と戦わせて覚えさせるより、ボス戦一回挟んだ方がプレイヤーの経験値は入るからな。

だからといってこれは酷い!指南書も何もない状況で、いきなりボス戦はヤバいでしょ!?



『どうする......やっべ!!』



それは容赦なく左手の大剣を振り下ろす。

ダンッ..!!という鈍い音。そして、バキバキバキッッ!!という地鳴りと共に、床の石が大きくえぐれた。

その抉れた石の鋭い破片が飛び散ると、それらは俺に狙いを定めた!

一つ!二つ!!三つ!!!四つ!!!!

拳サイズの破片が迫り来る!!



『おっ!ほっ!!あっぶ!あっぶね!!コ、コイツ...本当にチュートリアルのボスなんだよなぁ!?』



蜘蛛特有の機敏性を活かしてピョンピョンと跳ぶように回避する!

流れた破片は床に、壁に当たると、粉となって弾け飛んだ。もしも俺に当たれば、間違いなく粉々に吹き飛ぶ威力だな。怖。



『岩があんな音を立てて割れるか?普通』



幸いにも今入っている魔物の器、スタルタス種の体は機敏だ!

それでもジリジリと追い詰められて壁。万事休すと思われたが、なんとか壁を蹴って逃げようと足掻く!!



『おぉっ!?壁......歩けるのか!?』



しかし!予想を裏切ってこの器は壁に張り付いた。どうやら、壁に貼り付ける何気に強いスキルを持っているらしい!続く展開にステータスを確認する余裕すらないが、これは使える!!

続く連撃を上手く交わしていく!!

壁を蹴る!壁を蹴る!

床の時と同じように、垂直に移動して回避する。普通なら壁から脚を離した時点で自由落下するだろう。だがこの肉体は蜘蛛!尻から出した糸を活かせば、まるで命綱のように落ちることなく機敏な移動が出来るのだ!!

バキ!!バキバキ...!!

奴はオモチャで遊ぶように適当に辺りを攻撃する。

一応俺を狙うが、なんか適当だな。



『それで?ダメージ入んのか?コイツ......』



フェイントを一応入れながら、何か策はないか考える。正直、この手のボスの攻略はパターンが決まっている。


1 外的ダメージソースがある。

2 弱点がある。

3 ジリ貧。

4 死に覚え。

5 負けイベ。


少しでもダメージが通るなら3番のジリ貧で大体の敵は勝てる!ああ、そうさ!!

奴は俺を狙った一撃をかます。痛恨の一撃だ。

それは俺が落下するのを見越したような狙い。つまり着地狩り!!

普通の雑魚モンスターならここでペチャンコになって終わりだが、俺は少し違う。

ダンッ!!パラパラ......その攻撃は容赦のないその激しい音と共に、綺麗に石を砕いた。

奴がニヤっと笑った。それは、俺を潰したことに確信を持ったからではない。



『俺は...フロートスタルタスなんだよ!!』



俺は宙に浮いていた!いや正確には歩いていた!!そして、その剣の上を走る!走る!走っている!!

浮ける!浮ける!浮けるぞ!!浮けた!!いや、歩くんだ!!ジャンプじゃない!

種は簡単だった。糸だ。俺は、透明な細い糸を足場に、二段ジャンプの要領で浮いていた。そういうことだったのか!!



『この空を漂う軽い糸が!フロートスタルタスの武器なんだ!!』



今、目の前で剣を振り切った奴の目と、俺の八つの目が合わさっている!!

中央のXの視界をひっきりなしに動かす!

視界は悪いが、その代わりに視野は広い!

動いているなら攻撃の予測は出来るんだよ!!

コイツは、そんな俺の知恵を見て笑っていた。まるで、それを楽しむかのように。

そして、そのままの勢いで更に空を蹴ると、奴の首を目掛けて噛み付く!!攻撃動作後の隙をつけ!!



『おら喰らっとけ!!ガブッ!』



ゲームの効果音としてはジュシュッ!というような感じだろう。

ダメージが数字で表示される。現実に目に見える形で、それが敵の頭上に浮かんだ!!

くにゃくにゃした頼りない文字だ。

しかし、俺の今の目ではそれはよく見えず、モザイクがかかったように分からない..!!

必死に読み解こうとするが、敵に接近して噛みついている為に、色を識別できる中央の目は使えない!

諦め次にいこうとした途端、脳内にそのイメージが浮かび上がった。



≪...−1...≫



ダメージが入った!?このクソ雑魚でも頑張れば削ることが可能だというのか!?

毒?毒か!?俺は毒蜘蛛なのか!?毒の固定ダメージなのか!?

詳細はステータスを確認しないと分からないが、それなら試す価値はある!!

もしも、もしもここでこんなレアな器が、最強に限りなく近い武器が手に入るのなら!もはやこのダンジョン?においては、怖いものなしだろ!!

そう思って次の攻撃を仕掛けようとする。その時だった。



≪...+100...≫



奴の頭上にその数字が浮かび上がった。明確に浮かび上がったそれを、今度は色付きで確認する。

どういうことだ!?回...復......した?

若干のパニックに襲われながらも冷静に分析すると、急いでその場を離れた。

首元についた傷跡も綺麗に消え、何事もなかったかのように奴は不気味に笑っている。

そうなれば、それが意味することは一つしかないだろぉっ!ボスにつけたらおしまいのスキル......そう!!



『【自然回復オートリジェネ】...!!』



はい〜!出ました〜!!やっちゃった〜!!

なんでゲーム運営がこんなクソスキルをつけるのか?ソレはこういうことだよ!!

俺みたいな脳筋や攻略勢が、序盤で運営が愛した


“我々が考えたサイキョーのボス!”


ってやつをゴリ押しで討伐させないためだよ!!そうだろ!!

オープンワールドなら炎上するぞ?いや、むしろ逆に楽しみになるか!燃えるのはソシャゲだな。ただただ遅延の害悪行為だ。

クソ......クソスキルのせいで勝ち目が消えた!やっぱりそうか!これ、チュートリアルねぇわ!!

絶対文句いってやる!あのSE担当にもな!!

奴はニヤついたまま何もしてこない。

それどころか、それまでの殺気だった空気も消え、今は静かな空間そのものだった。



『なんだ?何を...!?』



奴はゆっくりと俺に背を向けた。



『......尻尾?』



そして、ズンッ!ズンッ!と重低音を踏み鳴らすと、闘鬼バルカは奥のエリアへ帰っていった。

そして、辿り着いた先で奴は再び剣を突き刺すと、ミシミシといいながら腰を掛けるはボロボロの石の椅子。いや、玉座だ。

遠くから奴はどこかを指して、何かを示す。



『なんだ......?石の扉?』



俺はその先を見る。ちょうど振り返った先、目の前にそれはあった。両開きの扉だ。それは傷だらけの大きな一枚岩で出来ている。

出てけって?いやどうやって開けろと?

そう思っていると、ミシ...という音がした。そして、その直後にガゴゴゴゴ...と、それらしく重々しい音を立て、左右に開いていった。



『いや、どういう仕組み??』



どうやら、奴は奴なりに俺を認めたらしい。

なんだろう、案外いい奴なのかもしれないな!多分、気のせいだと思うけど。

罠を警戒して慎重に移動する。すんなりと通れた。



『え?終わり??』



ガゴゴゴゴ......また、あの重い音を立てて扉が閉まる。戻ることは出来ず、どうやら修羅場を潜り抜けたらしい。



『終わりか!......はぁ〜、そういうタイプのボスだったか〜』



6 そもそも倒す必要がない

7 時間耐久かターン耐久性

8 試練タイプ、HPの何%か削れば勝ち!


今回はそのいずれかのパターンだろう。流石にあれを序盤で倒すのは......無理!チートスキル持ちの野郎だし!

一気にそれまでの緊張感から解放される。

バクバクと、アドレナリンかドーパミンのような滾りたぎりを久しく感じていた。

素晴らしい!この感覚は何年ぶりだ?こうだったな、あの頃は、毎日あいつらと......あいつら?

ゲームを一緒に遊んでいた昔の友人の名前が出てこない。まぁ、よくある現象だ。



『よし!とりあえずマップを確認しよう!』



安全確認が最優先だ。敵の目の前で回復薬を飲む奴がどこにいる?まぁ、気持ちは分かるけどな?

徐々に展開される平面図。どうやらここは北部の山?山脈?の中のようだ。

広い空間に細い道、入り組んだ複雑な地形が、二次元しか扱えない俺を困惑させる。

特に自然物は高低差激しいから困るよな。

せめて等高線でもあれば良いが、ない。



『ちゃんとした地図を探索して手に入れろってことか?』



恐らくそういうことだろう。人里に出ればそれも手に入る可能性は高い。

とりあえず索敵は完了。どうやらここは安全地帯らしい。特に魔物の気配も影もない。

ふぅー、よし!せっかくセーブ地点みたいに安全な場所に出たんだ。とりあえずこのフロートスタルタスとやらの能力を見てやろうじゃないか!!

俺は例のあの画面を想像する。初めての魔物のステータス画面に俺は心を踊らせた。



ぴろッ!



【フロートスタルタス ランクF】


≪ステータス≫


HP 15/15

MP 20/21

ATK 10

DFE 2

MDF 8

SPD 100


≪固有スキル アルマ≫


【憑依】...アルマのスキル。肉体を器とする。

【不死】...アルマのスキル。物理的干渉と死を無効にする。


≪固有スキル スタルタス≫


【毒牙】...攻撃に毒の効果を与える。

【変質糸】...形質の異なる糸をMPを消費して操る。

【属性糸】...属性が付与された糸をMPを消費して操る。

壁歩かべあるき】...僅かな時間壁が歩ける。


≪ユニークスキル 攻略者≫


【オートマップ (攻略者)】...一度歩いた場所を自動で記録する。

【ターゲットフォーカスLv.Ⅰ (攻略者)】...ロックオンした獲物を一定範囲追尾する。


≪ユニークスキル フローター≫


【浮遊糸】... MPを消費し、僅かな時間空中を漂う特殊な糸を生成する。

【根性】...HPを消費し、スキルの限界値を僅かな時間超えることが出来る。



ざっと出てきた情報はコレだ。

≪毒牙≫とか≪壁歩≫は分かるが、≪変質糸≫と≪属性糸≫はまだちょっとよくわからない。

そして自力で解明した宙を舞うスキル、≪浮遊糸≫もちゃんと健在だった。MPなんて概念もちゃんとあるんだな。管理大変そ〜。

その他にも、≪魔物図鑑≫が僅かに埋まったらしい。



ぴろっ!!



≪魔物図鑑≫


スタルタス種 ランク不明〜???


??? 脅威度???


劣等スモールスタルタス ランク不明

L劣等スタルタス ランク不明

 Lスモールスタルタス ランクF


スモールスタルタス ランクF


???系統 脅威度???〜???

L??? 脅威度???

 L??? 脅威度???

  L??? 脅威度???

   L??? 脅威度???

    L??? 脅威度???

     L??? 脅威度???


???系統

 L??? 脅威度???

  L??? 脅威度???

   L??? 脅威度???

    L??? 脅威度???

     L??? 脅威度???


???系統

 L??? 脅威度???

  L??? 脅威度???

   L??? 脅威度???

    L??? 脅威度???


水蜘蛛系統

Lフロートスタルタス ランクF〜E

 L??? 脅威度???

  L??? 脅威度???


??? 脅威度???



名前の横に“脅威度“とかかれた欄がある。

しかし、今入っているフロートスタルタスとその上の進化前の系統...?の欄は”ランク“表記だ。もしかしたら、遭遇したら脅威度が埋まって、器をゲットしたらランク表示になるってことか...?

え?俺、全国図鑑のコンプを目指すの?マジ!?

思わずそう思ったが、どうやら上位種にさえ入れば、その上位種の進化前の、下位種の情報も一緒に記録されるみたいだから案外楽かもな。

その分敵の強さが段違いだろうから、結局はそこそこのランクの魔物で挑むくらいはしないと負けるんだろうけど!はははは!!



『俺の入ったコイツはFランクか〜』



図鑑を見るに、手に入れたフロートスタルタスは最高でEランクまでの個体がいるらしい。だが、厳選している余裕はない。するにしても、まずはストーリーのクリアからだろう。

体感としてもこのステータスでは6Vとはいえないな。

スピードも、どうやらこの種族としては対して速くないのだと思う。だってFランクだもん。

あるいはそこだけに特化しちゃった感じ??

だとするなら、さっきのバルカとかいう奴はどのランクなんだろうか?



【パンパカパーン!】


『うぉ!?』



また!いきなりのファンファーレか!!

俺は声を出して情けなくも身構えてしまった。

暗いダンジョンの中で、いきなりそんな明るいコールをされても......ビビる!!

口調は彼女に似ていたが、声質が全然違っていた。彼女は......あれ?変だな、名前が思い出せない。それどころか、顔も思い出せない。

それまでの記憶に、ブレインフォズのようなモヤがかかる。思い出せずにヤキモキしている俺に構うことなく、ファンファーレは続く。



【魔物図鑑の進捗度が始まりましたよぉ!まだまだ1%未満ですねぇ〜!この調子ですよぉ〜!】



度々セリフが変わるのは開発のこだわりか?

もしかして、本当に全部の進捗にボイスが入ってるなんて言わないよな??

だとしたら......とんでもないんじゃないか?

それとも、案外中身がスカスカだったりしてな。この世界のダンジョン、でかいだけで何もない説。



『いや、それはないか』



≪魔物図鑑≫は今わかっているだけで、スタルタス種以外にもざっと20種類以上は項目がある。派生を含めずに20種類以上だ!!

これ、派生も含めたら......数エグくね?



魔物図鑑をもう一度開いて確認する。

やっぱりそうだ、異常な数の


【??? 脅威度???】


なるほど...進捗度1%未満というのは伊達じゃない。そして、今さら気づいたことがもう1つ。



『フロートスタルタス進化上限すくねぇ!!』



あと2つ!?単純計算したら次がEかDで、最終ランクがCとかじゃねぇか!不憫すぎる...そりゃ、序盤に配置される訳だ...!!

何より恐ろしいのは、コイツでさえ劣等スモールスタルタスからすれば、かなりの上位存在になるということ。

“測定不能”や“不明”の項目が必要になる理由がわかる。

今だにこのランク付けの基準が分からないが、“不明”は恐らくランクじゃ収まらない基準値以下と以上を示す値だろう。

アルマのランクの測定不能は、そもそも死ぬこともないから基準外という理由で納得できる。

幽霊は人間社会でカウントされないのと同じだ。



『なるほどな〜、一番下はスライムじゃないのか』



普通、序盤はスライムが相場だと思うが...まぁいいや!恐らく環境によるものだろう!!このダンジョンの外で最弱をになっている筈だ!!

あるいは本当に強い魔物として扱われているかもしれない。実際、アイツらって物理攻撃を無効化したり、油断すると窒息させられたりで、結構強い設定だったしな。

ステータスの確認を終えると、改めて周囲の状況を確認する。敵はいない。

袋小路のこの空間。脳内マップを確認すると、一つだけ通路があった。

俺は、誘導されるようにそこへ引き寄せられる。

辺りは暗く、水と謎の植物で繁茂していた。その謎の植物が宿した、野球ボールサイズの実?...のようなものが、静かに光る胞子を放出し、幻想的な光景が俺を包んだ。

水の滴る音と共に、更に奥へと目指して歩く。

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